((何か普通にデートしてる……))
バッタリ出会った二人の妖怪をストーキングしていた真名と猫娘だったが、あまりに普通のお付き合いっぷりに毒気を抜かれてしまった。食べている物やファッションは別として、口出しすべき所は何も無い。むしろ野暮であろう。あの鳴女の仲間とは思えない信じ難い光景だが、目の前の現実が全てだ。
『六部は何時もそれを持ち歩いているのかえ?』
『当然じゃ。誰とも知らん奴が使った物に腰掛ける趣味はない』
『相変わらずの潔癖症じゃのう』
……消毒液とポケットティッシュを常に持ち歩き、事ある毎にせっせと消毒するのは置いておくとして。
「どうしましょう、ねこ姉さん?」
『うーん、どうしたら良いかな?』
「私たちも普通にデートします?」
『君は一体何を言ってるのかな?』
普通は同性同士でデートはしない。人はそれを百合と言う。良いぞもっとやれ。
しかし、本当にどうしたものか。向こうが何かしない限り、こちらからは手出し出来ない。そんな事をしたら、自分たちが悪役である。
(いや、そもそも事を起こすのを期待しちゃダメでしょ、アタシ)
というか、後を付け回している時点で充分にアウトなので、猫娘は張り込みを止める事にした。何が哀しくて、仲の良いカップルを女二人でストーキングしなければならないのか。人の恋路は、好きにさせたらええやん。
『……もう止めにしましょう。虚しくなってくるし』
「えーっ、あの二人が今日何処まで行っちゃうのか、見ないんですか!?」
『野次馬根性丸出しね。馬に蹴られたくなかったら止めなさい』
「ちぇ~。なら、あの二人の事を忘れられるくらい、目一杯遊びましょう!」
『はいはい、分かった分かった』
今時女子の真名は多少ごねたものの、最後は渋々了承した。他人の恋より、自分の愛(?)を優先したようだ。
――――――だが、そうは問屋が卸さないのが宿命であり、真名クォリティーである。
「おや~?」
踵を返して己のデートを再開しようとした真名の視界に、不思議な二人組が映る。
『いや~、割と面白かったねぇ、「スマグラーズ・ラン」』
一人は継ぎ接ぎの肌に頭の螺子が特徴的な、マッドサイエンティスト風の少年。身長は真名と然程変わらない程度しかなく、年頃も同じくらいだと思われる。
『そうね。個人的には「TIEファイター」の方にも乗ってみたかったけど』
もう一人は薄紫色の髪をツインテールにした、赤い瞳の可愛らしい女の子。身長は鬼太郎と同じで、彼とは逆に右目側を髪で隠している。胸はあまりない。何故か耳が悪魔のように尖っている。
服装としては、ゴスロリ風の裾がギザギザしたワンピースを着こなし、パーティーに使うレースの手袋を嵌め、withガーターベルトなソックスとヒールを履いている。何れも闇のような漆黒だ。
一応、二人揃って人型だが、遠目からでも分かる。こいつら人間じゃない。おそらく、両方共に妖怪である。
『ベア子ちゃんは相変わらず帝国派だねぇ。結構ブラックだと思うんだけど、あの組織』
『それ言ったら、レジスタンスの方がノワールブラックシュバルツだと思うけどねぇ?』
『いや、黒すぎでしょ。気持ちは分かるけどね。名誉しか貰えないし、割とよく死ぬし』
『そう言うヴィクターは何処が良いのよ?』
『惑星カミーノでずっと研究をしていたい』
『凄く分かり易いマッドサイエンティスト』
『それ程でもある!』
『それでこそよね♪』
名前は男の子がヴィクターで、女の子がベア子というらしい。
こっちもこっちでデート中らしく、今はミレニアム・ファルコンに乗って来た帰り道のようだ。次は舞台裏の映像でも観に行くのだろう。滅茶苦茶満喫してますね。
『どうしたの、まな?』
「いや、あの、あれ……」
『うん?』
と、ここで猫娘も二人の存在に気付く。
『『おっ?』』
『『あっ!』』
さらに、食事を済ませ、席を立った丸子と六部もバッタリ遭遇。ヴィクターとベア子も反応を見せる。
今ここに、三組のカップルが一堂に会した。一つだけ百合色だけど。
((今すぐ立ち去りたい……!))
たぶん、この中では一番の最弱組である猫娘と真名は早々に逃げ出したくなった。
しかし、そうは行かないのが世の中の常。
『アンタたち、猫娘と犬山 まな、よね?』
「「な、何故バレた!?」」
『お父様とヴィクターから聞いてた』
しっかりとベア子に素性がバレていた。猫娘に限らず、鬼太郎ファミリーは有名処だから仕方ない。
『そして、そっちは鳴女の所の座敷童子だね!』
『初対面の筈じゃが、何で知っとるんじゃ~?』
『動画で見た。スパチャもした』
『ご視聴ありがとうございます』
ついでに丸子の素性も筒抜けになっていた。鳴女一家は売れっ子ウーチューバーだからしゃーない。
((このまま何事もなく解散してくんないかなー))
猫娘と真名は空を見上げながら、心の中でボソリと呟いた。
いやー、無理ですねぇ。
◆ベア子
西洋妖怪の総大将「バックベアード」の一人娘……という設定の二次創作キャラ。世界中のロリコンどもを撲滅する為に活動しているらしい。
今作の彼女はヴィクター・フランケンシュタインと健全(?)にお付き合い中。割と親日家で、ロリコン以外の日本文化を受け入れている。愛称をベア子にしているのもその証。
ちなみに、今作におけるベア子のフルネームは「ベアトリス=バックアップ・コアソウルズ」。製造番号は「Bb-8」。