鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 鳴女さんVS鬼太郎、二戦目開始!


宿命の戦い①

『………………』

 

 鳴女が左から指刃を振るう。鬼太郎はそれを受け払い、鳴女の右からの突きを首振りで躱し、左から袈裟に切り付けて反撃。

 だが、鳴女も上体を逸らして避け、右脚で蹴りを放つ。鬼太郎はちゃんちゃんこの部分で受け弾いて、次なる左右からの連続斬りも光刃捌きで跳ね返し、膝蹴りを鳴女の腹に入れて動きを止め、頭で顎を突き上げ、間を取った所でミドルキックを左から見舞って更に引き離し、最後にドロップキックを放って完全に突き放した。

 

 ――――――べべん!

 

 追撃を許すまいと鳴女が鬼太郎の足元に襖を召喚。

 

『フゥン!』

 

 しかし、開かれる前に鬼太郎が右手の指先から電撃を放ち、雁字搦めにして無理矢理押さえつける。これは体内電気の威力を上げ放電させた物であり、妖気を多分に含んでいる為、疑似的に霊毛ちゃんちゃんこでの拘束を再現している状態である。こうなると襖は開閉不可能で、一時的に鬼太郎の支配下にすら置かれる。

 

『ハァッ!』

 

 さらに、鬼太郎は電撃をさながらマジックハンドの如く操り、襖を目の前に浮かび上げると、妖気の波導を衝撃波としてぶつける事で、フリスビーのように発射した。

 

『………………!』

 

 だが、鳴女は少し驚きはしたものの、すぐさま切り替え、口から火砕流の炎を吐き出して襖を爆砕し、更には目から微小化酸素粒子光線を鬼太郎へプレゼントする。この間、約一秒。普通は避けるどころか反応すら出来ないが、鬼太郎は“嫌な予感”を覚えて咄嗟に行動、見事に躱した。

 しかし、鳴女の攻撃は続いている。視線を合わせるように、目からビームで鬼太郎を追撃する。進攻先のあらゆる物体が分子破壊されて溶けて行き――――――、

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ほぼ同時刻、都内某所。

 

「総理! 今回発覚した密会について、何か一言!」「総理、ちゃんと答えて下さい!」「国民が見て、聞いてるんですよ!? 国の代表として、言うべき事があるんじゃあないですかぁ!?」「前回の政権奪取事件についても詳しくお願いします!」「総理!」「総理!」「総理!」「大統領……あ、間違えた、総理!」

 

 スーツにネクタイを締めた偉そうな男たちと歩く、ちょっとお年を召した一人の女性が記者に囲まれ、質問攻めにあっていた。

 彼女の名は大空(おおぞら) つばめ。現在の内閣総理大臣だ。

 だが、今の支持率はかなり悪い。はっきり言って崖っぷちである。原因は多々あるが、やはり刑部狸率いる八百八狸による日本政権の乗っ取り事件だろう。あれは本当に痛かった。何せ妖怪とは言え、狸に負けたのだから。

 そして、今回発覚してしまった政府与党幹部との密会事件。議論の内容は「妖怪との今後について」という至って真面目な物だったのだが、幾ら摩訶不思議な存在に関する事とは言え、裏でコソコソとやってしまったのがマズかった。公平性という意味で、野党や野次馬に突かれるのも仕方無い。

 仕方は無いが……、

 

(……もう疲れたわ。アイドルを目指していた、あの頃に戻りたい)

 

 ハイエナのような報道陣の喧騒に晒される中、つばめは現実を逃避し始めていた。

 彼女は“美空 ひばりの再来”とも謳われた天才歌手、大空(おおぞら) ひばりの一人娘だ。プライド高く自分にも厳しく接する母親を恨めしく思っていなかったと言えば嘘になるが、同時に大舞台でスポットライトに照らされ多くのファンから喝采を浴びる彼女の事を、つばめは誇りに思っていた。

 しかし、ひばりは突如現れた凶暴な妖怪「水神」の最初の犠牲者として、自分の目の前で溶かされてしまい、妻を失ったショックでやさぐれてしまった父親の暴力に晒されるようになる。

 さらに、その父親も後に妖怪に殺されてしまい、とうとう天涯孤独の身になってしまった。

 その後は父親の友人である元総理大臣に引き取られ、政治についての手解きを受けつつも、“母親のようになりたい”という想いから、周囲の揶揄や反対を押し切ってアイドルを目指すようになる。

 だが、才能こそあったものの、ある意味政治より厳しい芸能業界で勝ち残る事が出来ず、養父との約束である「アイドルでも政治でも日本一を目指す」という誓いを果たす為、泣く泣く夢を諦め、政治の世界に足を踏み入れる。

 そうして長年努力を重ね、ようやく念願叶って総理大臣にまで上り詰めたというのに、

 

(この有様か。本当に、無様な物ね……)

 

 結構年が行っているつばめだが、更に老け込んでしまったような気さえする。それ程までに、彼女は人生に疲れ果てていたのである。

 

「あっ……」

 

 そうやって上の空になっていたのがいけなかったのか、それとも思わず流した涙のせいか、左目のコンタクトレンズが落ちてしまった。

 そして、慌てて腰を屈め、何とか見付けて立ち上がった時、

 

「……え?」

 

 報道陣も、役に立たない取り巻きの議員も、皆纏めて上半身を失くしていた。

 

「え、え、え……!?」

 

 周囲を見渡してみれば、幾つものビルや通行人の背丈が短くなっており、例外なくドロドロに溶けていた。まるで、水神に消化されてしまった、母ひばりのように。

 スマフォで状況を確認してみれば、あのランドを起点として亀戸駅から東京駅が扇状に壊滅してしまっているとの事。ついでに、夕方から開かれる議会の為に集まっていた政府関係者が軒並みお釈迦になったらしい。

 

「えっと……つばめちゃん、大勝利?」

 

 まるで意味が分からないので、とりあえずガッツポーズを取ってみる、つばめなのであった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 そして、視点は某ランドへ戻り、宿命の戦いへ。

 

『ハッ!』『………………ッ!』

 

 やりたい放題に溶かしまくっている鳴女の顎と目を、鬼太郎のリモコン下駄が跳ね上げて、ビームを中断させた。

 さらに、光刃の一方を引っ込め、逆側へ妖力を一転集中させる事で、光る大剣を形成。回復したばかりの鳴女に猛然と襲い掛かった。

 

『チッ……!』

 

 鳴女もそれに応じる形で指剣を収納、手そのものを大型の柳葉刀へ変換し、応戦。鬼太郎が放った地面スレスレからの振り上げをシフトウェイトで躱し、物凄い速さで斬撃を放つ。

 だが、鬼太郎は大剣を器用に動かして、鳴女の反撃を全て防ぎ切り、上段から叩き付けるように振り下ろした。鳴女は柳葉刀をクロスさせて、どうにか受け止める。

 

 ――――――べべん!

 

 そして、鍔迫り合いになった瞬間を狙って、再度襖を足元に召喚。自分諸共、無限城の夢幻回廊へ落とした。

 しかし、その程度で止まる鬼太郎でも、好き勝手にさせる鳴女でもない。互いに周囲の壁や柱を操り、四方八方から襲わせ、隙を突いて相手を殺そうと躍起になる。刃の襖や槍の手摺、畳の手裏剣が飛び交い、鬼太郎の薙ぎが、鳴女の回転斬りが、蹴りが、拳が、電撃が、ビームが、光弾が、火砕流が、あらゆる物を破壊しながら、二人を深い深い奈落の闇と送り出す。

 さらに、闇へ突入する事しばらく、突如として眩い閃光が鬼太郎と鳴女を包み、

 

『『………………!』』

 

 無数の残骸と共に、二人は雲より高い上空へ投げ出された。




◆大空 つばめ

 アニメ「墓場鬼太郎」で水神に溶かされちゃった歌手。モデルはむろん美空ひばりで、漫画では“大空 ひばり”だったが、流石に一文字違いはヤバかったのか、名前がつばめに変更された。だから何だって話だが。
 本作では「大空 ひばりの一人娘にして6期の女性総理役」として登場。6期では妖怪に振り回されているのに誰も味方をしてくれない可哀想な彼女だが、こっちの世界では幼少期のトラウマまで背負わされてしまった。挫折に挫折を重ねながらも遂に頂点へ登り詰めたというのに、あまりにあんまりである。

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