鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 一方その頃、丸子たち居残り組ハ……。


宿命の戦い②

『鬼太郎……』

 

 アッという間に何処かへ行ってしまった鬼太郎に想いを馳せる猫娘。

 彼は本当に凄い。この短期間で、あの鳴女と互角に戦える程にパワーアップした。自分はまだ一つ(・・・・・・・)しか妖術を獲得(・・・・・・・)していない(・・・・・)というのに(・・・・・)

 いや、今は止そう。嫉妬している場合ではない。鳴女という最大の脅威が離れただけで、状況は全く良くなっていないのだから。

 

『ヴォルァアアッ!』『きゃあああっ!』

 

 というか、更に悪化した。丸子の攻撃がヴィクターに通じなくなり、捕まってしまったのである。

 たぶん、耐え忍んでいる間に丸子の手の内を調べ尽くし、再生に乗じて己の身体を改造していたのだろう。実際、背丈や体格が二回りくらい大きくなっている。身長差が三倍もあれば、そりゃあ勝てない。

 ちなみに、捕獲方法はまさかの鯖折り。痛そう。

 

『……子供相手に、何やってんのよ、アンタは!』『グォオオオオッ!?』

 

 と、見かねた猫娘が、新技をお見舞いした。

 

『ヌゥゥ……火を噴くとは、味な真似を!』

『これでも猫又の血が半分入ってるからね』

 

 そう、この火炎放射こそが、猫娘の新しい妖術。

 亜種に火車や五徳猫がいるように、猫又を含む化け猫は火を操る事が出来る。油などの燃料を体内に溜め込み、静電気を利用して着火、息に乗せて放射するのだ。形式としては、弱火のガスバーナーである。

 むろん、威力は鳴女の足元にも及ばない。気体の方が高温にし易いが、纏わり付く事が出来ない分、熱伝導率は液体よりも悪いのだ。

 だが、この技は猫娘の努力が結実したもの。半妖という大きなハンデを背負いつつも、鬼太郎に追いつき肩を並べていたいという、彼女の健気な願いが叶ったのである。

 もちろん、付け焼刃も同然の妖術では大したダメージにはならず、精々怯ませる事しか出来ないが、丸子は解放された。

 

『ありがとうなのじゃ!』

『……良いのよ』

 

 ここで「どうして助けた?」とか言い出さない辺り、丸子は素直な子だ。デートの時から思っていたが、やっぱり毒気が抜かれる。

 

『フン! それがどうしたというのだ! 二対一になろうと、結果は変わらん!』

 

 しかし、頭数を増やして勝てる相手かと言うとそうでもない。個々の戦闘能力では、猫娘と丸子に勝ち目は無いだろう。

 

『『それはどうかな?』』

 

 だが、二人は不敵に笑い返した。

 猫娘も丸子も、日本妖怪だからこそ分かっている。この組み合わせは、単純な足し算ではないという事を。

 

『舐めるなぁあああっ!』

 

 ヴィクターが巨体に見合わぬ瞬発力で殴り掛かって来る。

 

『シャアアアア!』

『……ズワォッ!?』

 

 しかし、“何故か”途中で躓いてしまい、そこに上手く猫娘が滑り込んで、炎のパンチをカウンターとしてヒットさせた。“運良く”体勢的に力が抜けている部分へ、クリティカルに。

 さらに、“偶然にも”寸断され漏電していた配線の上にヴィクターが倒れたので、猫娘はすかさず燃料を吹き掛け、彼を火達磨にした。

 

『こ、これは……!』

『気付いたみたいじゃのう』

『でも、もう遅い!』

 

 そして、対策を講じられる前に、丸子と二人で上空へ投げ飛ばした。

 そこでも“不幸”がヴィクターを襲う。“突発的に”発生した火災旋風によって高速で回転しながら巻き上げられ、ベア子と六部の間に“運悪く”入ってしまい、両者の妖気弾と光線に挟み撃ちされ、大ダメージを受ける。

 さらに、弱って元に戻ったタイミングでランドのベーカリーコーナーへ落下、舞い上がった多量の小麦粉に引火し、粉塵爆発を起こした。まさに“踏んだり蹴ったり”である。

 

『……誰かと組んだ座敷童子に、真正面から挑むのが間違いなのよ』

 

 そんな可哀想な目に遭ったヴィクターに、猫娘が吐き捨てる。

 そう、座敷童子は家の外では大幅に戦力がダウンしてしまうが、コンビを組んだ場合は例外だ。“限定的な空間の運命率を操作する”という条件を、誰かに委託する事で外界でも発揮出来るのである。

 頭数の関係上、六部と別々に戦わなければならなかった為、真価を発揮出来ずにいたが、猫娘が手を貸してくれた事で発動条件を満たせた。こうなると“物語の主人公”でも無ければ、良いようにあしらわれてしまう。

 これで一先ずヴィクターとの対戦は終わった――――――のだが、それはもう一方の戦いには火に油だった。

 

『ヴィクター……!』

 

 ヴィクターが負けた事、その一端を自分が担ってしまった事に、ベア子の堪忍袋の緒が切れる。

 

『アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ、アリーヴェテルチィィィッ!』

『ぐわぁっ!』

 

 激おこぷんぷん丸となったベア子は、反射されるのもお構いなしで(というか妖気のオーラで全て防いだ)、とんでもない量の妖気弾をグミ撃ちし、遂に六部に致命的なダメージを与えた。

 

『うぐっ……!』『くぅっ……!』

 

 これには座敷童子の運命操作も追い付かず、二人も纏めてダウン。西洋妖怪の大統領が一人娘というアイデンティティーは主人公に匹敵するくらいに強かったらしい。

 

『よくも丸子を……許さんぞぉっ!』

 

 だが、丸子まで傷付けてしまったのが仇となり、怒りが瀕死の六部を奮い立たせた。周囲に発生した光と熱を全て集め、最高の破壊力を溜め込んでいく。

 

『――――――無駄な事を。今楽にしてあげる』

 

 しかし、それがどうしたと言わんばかりに、ベア子も妖気を全開にする。溢れ出ていたオーラが凝縮され、彼女の掌に収まった。

 

『はぁあああああっ!』『フン!』

 

 そして、L字に組んで放たれた六部の破壊光線と、投げ捨てるように撃ち出されたベア子の妖気弾が激突した。

 

『………………!』

 

 その瞬間、ベア子の妖気弾が一気に膨張し、黒い太陽となった。その形はまさしくバックベアード。六部のビームをドンドン呑み込み、押し込んでいく。

 

『六部!』

 

 だが、押し込まれる前に目を覚ました丸子が六部に抱き着き、己の運気を注ぎ込む。

 

『……くぁあああああっ!』

 

 さらに、ズタボロの身体に無理を押して立ち上がった猫娘も加わり、妖気を譲渡した事で光線の威力が飛躍的に上昇。逆にベア子の黒い太陽を押し返し始めた。

 

『フフフ……キャハハハハハハハハハハ!』

 

 しかし、ベア子が狂笑しながら駄目押しの妖気弾を次々と追加。黒い太陽を更に膨張させ、潰しに掛かって来た。どうにか拮抗はしているが、このままでは六部たちが押し負けるだろう。その暁には、ここが更地になるに違いない。

 

「ね、ねこ姉さん……ど、どうしよう!? 何とかしなくちゃ!」

 

 そんなランド最後の日と言わんばかりの光景を前に、真名は何か手は無いかと、焦っていた。

 だが、運が良いだけの一般人である真名に出来る事が有る筈もない。己の無力に絶望し、打ちひしがれる。

 

「――――――ええぇい、ままよ!」

 

 ……何て事は無く、もうどうしたら良いか分からなくなった真名は、考える事を止めて走り出した。こういう時は、無心で動くに限る。

 そうすれば、運命が味方してくれる事を、真名は経験的に分かっていた。

 だから、

 

①威勢よく走ったはいいものの、コードに引っ掛かって派手に転ぶ。

②その衝撃で接続先の物が取れて吹っ飛び、閉鎖され今はもう動ない筈のゴーカートを直撃し、暴走させる。

③誰にも止められないゴーカートが、今までの憂さを晴らすようにスペースマウンテンの会場へ突入。

④自爆して装置を無理矢理に起動させ、スペースマウンテンのコースターを暴走特急へ変貌させる。

⑤戦いの余波でレールの一部が壊れていたので、コースターは勢いのまま弾丸の如くコースアウト。

⑥妖気弾を追加しようとしていたベア子に直撃、一時的に動きを止める。

 

 という事が起こっても不思議ではない。そんな馬鹿なー。

 

『今よ!』

 

 こういう時にやらかす子だと信じていた猫娘が、六部と丸子に合図を送る。

 

『『『ハァアアアアアアアアッ!』』』

 

 そして、全身全霊全妖力を掛けた、最後の一押しを発揮。追加の妖気を得られず、少しずつ相殺されていた黒い太陽が砕け散った。

 

『なっ……うぁあああああっ!?』

 

 完全に隙を突かれたベア子は、それでも何とか妖気弾を数発撃って反撃するも、今更その程度で止まるような勢いではない。

 

『……ベ、ベア子ちゃん!』『ヴィクター!?』

 

 ギリギリで気絶から覚醒したヴィクターが割り込み盾になるも、無駄無駄無駄である。

 

『『ぐがぁああああああああああああああ!』』

 

 咄嗟に張った二人分の妖気バリアも一瞬で叩き割られ、ベア子とヴィクターは光の奔流に呑み込まれた。

 

『……おのれ、日本妖怪がぁあああああっ!』

 

 世界が元の明るさを取り戻した時、そこに西洋妖怪たちの姿は無かった。

 

『はぁ……た、助かったぁ……』

 

 それを確認した猫娘が腰を抜かすと、他の皆もへたり込み、ランドは一先ず静かになった。

 

 後は、鬼太郎と鳴女の宿命の対決が残るのみ……。




◆偶然力

 真名が持つ不思議な力。まさに“運任せ”といった感じの曖昧な発動条件こそ難点だが、一度でも許してしまうと座敷童子もビックリなピタ○ラスイッチが起動し、直接・間接を問わず敵を全力で殺しに掛かる。真名が直接手を下す訳ではないのがミソ。
 はっきり言って完全な不意打ちであり、殺気もクソも無いので防ぐのはまず不可能。というか、運命を操作して“絶対に防げない形”で相手を死に追いやる。仮に躱したとしても、それは次なるトドメのお膳立てでしかない。
 最初の犠牲者は「のびあがり」。文字通り「真名が空き瓶を踏んだだけなのに」自身の弱点が露呈してしまい、鬼太郎に跡形も無くぶっ殺された。

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