遥かなる空の彼方で。
『てぁっ!』『………………!』
鬼太郎と鳴女が刃を交える。一刀毎に朱色と紫色が混じり合った美しい花火が上がり、稲妻のような爆音が轟く。大剣と双剣という、男の子なら誰もが手に汗握る戦いが、白昼堂々、成層圏よりもずっと高い天界で繰り広げられる。オゾンより上でも問題なかった。
『はぁっ!』
何度目かの剣戟を終えた所で、鬼太郎が蹴りを放つ。リモコン下駄で加速させた、ヘビー級のミドルキックだ。
しかし、鳴女はそれを肘で防ぎ、もう片方の柳葉刀で鬼太郎の足を切り裂いた。
『がっ、ぐっ、げっ……うぐぁっ!』
さらに、肘を梃子にして鬼太郎のバランスを崩し、無理矢理人中を晒させた所へ妖気を纏った破壊拳を三連打、もう一つオマケに裏拳で顎を跳ね上げ、最後は宙返りからの踵落としでフィニッシュ。溶けた鉄ですっかり塗り固められた襖だった残骸の上へ叩き落し、自らもそこへ着地した。
『ふぅ……!』『………………』
そして、お互いに切っ先を向け、改めて対峙する。雲の下は、まだ見えない。
『ハッ!』『………………!』
先制攻撃を仕掛けたのは鬼太郎。髪の毛を針ではなく小さな槍として纏め上げた、十二発の貫通弾である。素早い鳴女には体軸ズラしで躱されたが、その隙を突いて一気に接近、破竹の勢いで斬り掛かる。
『………………ッ!』
袈裟斬りを躱し損ねた鳴女の脇腹が裂けた。赤黒い血が噴き出し、千切れた内臓が零れ落ちる。
『はぁあああっ……うぐぁっ!?』
だが、これはチャンスと見て襲い掛かる鬼太郎を、鳴女はサマーソルトキックで迎撃、逆に決戦のバトルフィールドから追放した。
しかし、鬼太郎も大人しく退場する気は無く、近くに飛来していた残骸にオカリナロープを巻き付け、まるでスパイダー○ンのような空中ブランコ振りで帰還。鳴女の眼球に重い膝蹴りを食らわせた。
さらに、鳴女が「目がぁ!」と怯んでいる間に、大剣を輪刀に変形させ、フラフープの如く華麗に振り回し、右乳房を切り落として、左大腿部を二枚に卸した後、体内電気を放出して落雷級のダメージを与えた。
だが、鳴女は恐ろしい速度で自己再生し、妖気を体内で爆発させ、鋭い切れ味を持った衝撃波として放ち、鬼太郎をズタズタにした。
――――――べんっ!
そして、琵琶の爆音波で自らを超高速で吹っ飛ばすという、とんでもないやり方で斬り掛かる。それも一発や二発ではない。
べん! べん! べん! べん! べん! べんべんべんべんべんべんべんべんべんべんべんべんべんべん、べべん!
まるで鼓を打つようなノリで、四方八方から一気に20コンボを繰り出したベン!
『ぐっ……!』
鬼太郎は再生に集中する事で何とか耐えていたが、このままでは反撃出来ないまま、嬲り殺しにされてしまう。何だかんだで地上も近い。
――――――べん!
(……今だ!)
そこで、鬼太郎は防ぐのも耐えるのも諦め、
『てやぁっ!』『……がっ!?』
タイミングを見計らって自分の腹に大剣を突っ込み、背後から飛んで来た鳴女の脳天を串刺しにした。
さらに、自らの傷口に連射式の指鉄砲を撃ち込む事で、胃液と光弾の雨あられを食らわせる。これには流石の鳴女も動きを止めざるを得ず、鬼太郎は体勢を立て直した。
『『ドワォッ!?』』
ちょうど、その時に鉄板襖が着地。全てを切断する物騒な回転板となって滑走し始める。何十もの車や建物が犠牲となり、それ以上の人数がミンチとなった。
『はぁあああっ!』『………………!』
それでも鬼太郎と鳴女は戦い続ける。相手の息の根を止める、その時まで。
『うぁっ!?』『ぬぉっ!?』
と、徐々に失速していた鉄板襖が桜田門に引っ掛かり、投げ出された二人は二重橋の対岸へそれぞれ着地した。
『『おおおおおおおおおっ!』』
そして、すぐさま起き上り、最後の一閃を同時に放つ。一瞬の静寂。
『ぐっ……!』
膝を折ったのは鬼太郎だった。右腕以外全てを切り飛ばされたので、崩れ落ちたと言う方が正しい。
『うぐぉ……ぉ……っ!』
しかし、鳴女の方も胴体を上下に両断されており、こちらもグチャリと零れ落ちた。
さらに、完全に克服し切っていなかったのか、傷口が陽光焼けを起こし始めている。致命傷だったのは、鳴女の方だった。
《鳴女さん!》『………………』
だが、全身が気化してしまう前に、上野方面から突っ走って来たチャラトミヴェノムが彼女を優しく包み込み、そのまま何処かへと跳び去って行った。何の用事でそっちに行ってたのかは不明だけど、よく間に合ったね。
『……仕留めそこなったか』
悔しそうに歯を食いしばる鬼太郎。
しかし、チャラトミの助太刀が無ければ、確実に鳴女は死んでいた。それだけ強くなれたのだと、今はそう思うしかないだろう。
「『鬼太郎!』」『鬼太郎ど~ん!』
そして、粗方の事が片付いた猫娘たちが一反木綿に乗って駆け付け、1ミリも動けない鬼太郎を回収。
こうして、偶然に偶然が重なって始まってしまった宿命の戦いは、“痛み分け”という形で決着した。
◆落ちながら戦ってる
数ある空中戦の中でも、飛べない奴らによる熱いバトル。高所から叩き付けられるという恐怖も何のその、自分が死ぬ前に相手を殺してやると言わんばかりの激しい戦いが約束されている、素晴らしい展開である。大抵は問題なく着地するか、叩き付けられても生きているパターンが多いが、気にしてはいけない。
ちなみに、初めてこの言葉を呟いたのは、ある意味伝説的なアニメ「MUSASHI-GUN道-」が主人公の子分、ニンジャ太郎。気持ちは良く分かるが、驚いている場合か。あのじいさんは今まさに落ちてるんだよ!