鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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家族が増えるよ、やったね鳴女さん!


零余子チャンカワイイヤッター!

 私の名は零余子(むかご)。元は下弦の肆だった鬼だ。

 しかし、お気に入りだった下弦の伍である累が討伐され、その八つ当たりとして下弦の鬼を解体する、という意味不明な結論に達した無惨様によって殺されてしまった。酷い話である。ちょっと鬼狩りの柱から全力で逃げようと思ってただけじゃん。心の狭い奴め。

 だが、絶望の淵で死に至り、地獄に堕ちるのを待つばかりだった筈の私は、何故か転生した。遥か未来(・・・・)前世の記憶を持った(・・・・・・・・・)人間の赤子として(・・・・・・・・)

 私は歓喜した。言葉にならない産声を上げてはしゃぎまくった。

 不老不死の鬼では無くなったものの、日の下を歩け、美味しい物を食べられる。家庭は温かで、周囲も優しい人ばかり。何よりあの腐れ外道の陰に怯える必要がない。

 まるで、今までの不幸な人生を取り戻すかのような、幸せな今世だった。

 その後、私は何不自由なくスクスクと育ち、幸福な毎日を過ごして来た。

 しかし、同時に不安もあった。あまりにも幸せ過ぎて、その内とんでもない不幸が来るんじゃないか、と。

 そして、その懸念は現実となる。

 私が十四歳の誕生日を迎えたその日に、大型トラックに撥ね飛ばされた。

 否、そんな生易しい物じゃない。車体の下に引きずり込まれ、アスファルトとタイヤに削られて、見るも無残な生ごみと化した。

 だが、私は死ななかった。挽肉になったその場で、逆再生のように元通りとなったのだ。

 むろん、交差点のど真ん中でそんな事をやらかしたので、多数の人間にスクショされ、あっという間に拡散されてしまった。

 私は混乱し、絶望した。人間に生まれ変わった筈なのに、今度こそ幸せな人生を歩めると思ったのに、どうして。

 その後は最悪の一言だった。

 あれだけ優しかった両親や周りの人々は掌を返すように化け物と蔑み、追い立てた。

 しかも、無修正で動画を上げられたせいで、何処へ行っても顔バレしてしまい、一所に収まる事さえ出来なかった。

 もう、この世に私の居場所は無いのである。これなら地獄に堕ちた方がマシだ。

 だから、私は偶々通り掛かった公園の池に身投げした。盗み聞きした話によると、この池には人を丸呑みにする程の化け物がいると言う。そんな怪物がいるなら、楽に殺してくれるだろう。

 私は涙と渇いた笑みを浮かべながら、池に飛び込んだ。

 案の定、すぐに化け物に見付かり、一口で食べられ、私の二度目の人生は終わりを迎えた――――――筈だった。

 だが、私はまたしても死ねなかった。消化され、吸収されたにも関わらず、私の意思は滅ぶ事なく、逆に怪物の脳髄を乗っ取り、一体化した。顔も懐かしの下弦の鬼時代に戻り、池の底に潜みながら獲物が来るのを待つ日々が始まった。

 嗚呼、何て事だ。せっかく人間として生まれ変わったのに、その結末がこれか。現世だと思っていたこの世界は、実は地獄だったのかもしれない。誰か助けて。

 しかし、仄暗い水の底で己の不幸を嘆きながら過ごして来た私に、更なる不幸が襲い掛かる。

 今日も今日とてチャラい男が晩御飯かと思い、水底から奇襲を仕掛けたら、ある筈の無い無限城に引き込まれ、いる訳が無い鳴女と出遭ってしまったのである。

 だが、身体を切り刻まれ、化け物から分離されたおかげで人の姿を取り戻す事は出来た。

 ついでに、知る前に死んだのに何で鳴女の事を知っていたのかも思い出した。殺される間際に、無惨様の細胞から記憶の一部が流れ込んで来たのだ。意図的か偶然かは不明だが、正直いい迷惑である。

 しかし、復活したのは良いけど、どうしよう。最早真面な社会生活は望めないし、何より目の前のこいつが見逃してくれるとは思えない。チャラ男を部下にしてまで待ち構えていたのだから。

 

『久し振りだな、下弦の肆。……名前は零余子、だったか? 人間として生まれ変わっているとは思わなかったが、一先ずの生還おめでとう。一体何がどうしてそうなったのか、詳しく話してもらおうか?』

 

 とか考えて一人絶望していたら、鳴女にアイアンクローで捕まってしまった。

 ぎゃおおおおおん、痛い痛い痛い痛い、止めて止めてぇえええええええええ!

 

「鳴女さん、とりあえず引き上げません? あんまり道草食ってると夜が明けちゃいますよ?」

『それもそうだな。今日はもう帰るとしよう。貴様にも来てもらうぞ、零余子』

 

 そんな感じで、私は鳴女の自宅(?)にお持ち帰りされた。

 つーか、この人こんなに高圧的だったけ?

 まるで無惨様みたいなんですけどぉ~っ!

 

『おい、今失礼な事を考えなかったか?』

「い、いいえ! 考えてません、考えてません! 滅相もございませんんんんっ!」

『そうか。ならば良い』

 

 ……ここで「私の言葉を否定するのか」とか言って殺さないだけ、まだマシ、なのだろうか?

 いや、違う。この人、たぶん無惨様とは別ベクトルでヤバい奴だ!

 だって、養豚所の豚を見るような目で見下して来てるもん。人間とか鬼とか関係なく、自分以外はどうでも良いって顔だぁ!

 うわぁああああっ、助けて、そこのチャラい人ぉ~!

 

「フッ……!」

 

 サムズアップしてんじゃねぇ!

 というか、何を勝手に人の裸を見てるんだ、この野郎!

 嗚呼、やっぱり私は世界で一番不幸な美少女だぁ~ん!




◆零余子

 下弦の肆を務めていた女鬼。下弦の伍「累」が討伐されて不機嫌極まる無惨に呼び出され、どんな血鬼術を使うのかすら分からない内に物語から退場した。その際のやり取りと絶望顔は必見。少なからず何処ぞの十一人衆が一人を思い出した人もいる筈。あっちと違って食われて死んだけど。
 常日頃から「その辺の人間や鬼狩りの一般隊士は殺すし食べるけど、柱とは戦わずに全力で逃げたい」という、謂わば「楽な仕事でお茶を濁して、美味しい所だけは頂く」事ばかり考えていた模様。思考回路がサイコロステーキ先輩と一緒である。
 むろん、上昇意識の無い者に厳しい無惨が許す筈もなく、見苦しく言い訳しようとする彼女を「私に意見するのか」と一蹴して、血の絨毯にした。南無三宝。零余子は自分が誰の部下なのかもっとよく考えるべきだっただろう。
 余談だが、このパワハラ会議に呼び出された者の殆どが「口先と小手先だけは器用な役立たず」ばっかりだったので、無惨の気持ちも分からんでもない。少しは響凱を見習え。

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