鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 ※若干グロい描写がありマス。ご注意くだサイ。


鳴女さん、抱き枕を得る

 こんばんは、諸君。音川 鳴女だ。

 チャラトミの謎知識と検索能力により、無事に髪魚なる妖怪を食す事が出来た。結構美味かったぞ、あれ。やっぱり人間を食ってる魚は違うな。

 ……正直、食えるかどうかは五分五分だったし、何よりチャラトミの情報は正しいのか怪しかったのだが、その両方が上手く行った。キチンと力も上がっているし、本当にビックリである。ただのチャラ男だと思っていたけど、何者なんだろう、あいつは?

 というか、あんな馬鹿デカい怪魚が近隣の公園に潜んでいた事を、誰も何も思わないのだろうか。都会の人間は本当に無関心だなぁ。誤魔化すのが楽だから別に良いけど。

 それよりも、今は零余子だ。まさか私以外の鬼が、人間として転生しているとは思わなかった。

 さらに、取って食っても死なず、常に再生し続ける不死身の存在。どういう理屈でそうなったのかは知らないが、これ程便利な物は無いだろう。

 

「あぁあああああっ! 痛い痛い、止めてぇえええええっ!」

『煩い奴だな。どうせ生えて来るんだろう? それに、何処までやったらアウトなのか、そもそもどういう体質なのか、知っておいた方がお前の為でもある』

「だからって食べないでくださーい!」

『嫌だね、食べちゃうよ~』

「フレンズになれない~!」

 

 とりあえず、無限城に閉じ込めて、解体ショーに勤しんでみる。

 こいつ、本当に死なないな。切っても潰しても、何なら焼いてみても、壊れた傍から再生していく。下手すると再生力だけなら無惨様を超えてるんじゃなかろうか。こんな有様でも肉体的には人間なので、藤の花も通じないし。

 だが、身体は人間なので、鬼のような力は無い。チャラトミをパンチ一発でぶっ飛ばす程度の腕力はあるようだが、それでも私には遠く及ばない。単に死なないだけの一般人である。

 一応、その凄まじい再生力を活かして、相手を細胞的に乗っ取る事も可能なようだが、それは弱い相手だけであり、私には全く通用しなかった。本体とも言える脳髄を吸収しなければ問題ないだけなのかもしれないが、どちらにしろ脅威にはなり得ないだろう。所詮は元下弦の肆か。

 しかし、その絶妙な弱さのおかげで、私には多数のメリットがある。

 まず、いざという時の非常食が確保出来た事。

 

『お前、今日から私の抱き枕な』

「えっ、何で!?」

『あと、私の目が届く範囲で四肢を再生させるの禁止な。布団が狭くなるし』

「理不尽んんんっ!」

 

 そして、安眠用の抱き枕が手に入った事だ。私、昔から何かを抱いてないと眠れないのよねー。

 その点、こいつの身体は良い。肌はモチモチすべすべで、人間としての温かみがある。何か良い匂いもするし、これ程に抱いていて気持ち良くなれる枕もそうそう無いだろう。

 という事で、今日からお前は達磨女(全裸)だ。再生力は致命傷でない限り調整が利くようなので、必要時以外はずっとこのままでいてもらおう。

 嗚呼、何て充実した生活なんだろうか。自分だけの部屋があり、最高の抱き枕が手に入り、力を上げる方法も分かった。ここまで順調だと逆に心配になって来るが、今は考えないでおく。

 そんな事よりも、音楽活動についてである。生活基盤がある程度出来上がったのだから、そろそろ奏者として名を売り始めたい所。

 その為にも、まずは勉強だな。ネットの傾向から言って、ただ弾き語りするだけでは目立たないだろうし、自分なりの演出を考える必要がある。流行りを追い掛けてるだけじゃ、二番煎じだからな。

 そうと決まれば、動画を見よう。アニメや実写、MADなど、ジャンルを問わず、片っ端から視聴する。

 

「………………」

 

 零余子を抱き枕にしながら、ね。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 やぁ、皆。チャラトミさんだよー。

 今日はとてもお目出たい日だ。家族が増えたよ、やったね鳴女さん!

 ……と、冗談はこれくらいにして。

 鳴女さんに命じられるまま、髪魚を一本釣りした訳だが、何とその死骸から女の子が再生したのである。名前は薬師寺(やくしじ) 零余子(むかご)というらしい。鳴女さんの知り合いみたいだから、どうせ偽名だろうけど。

 だが、肉体的には人間であるらしく、単に再生力が異常なだけなんだとか。その時点で人間辞めてるとか言ってはいけない。確か何かの小説で似たような名前と能力を持ってる奴がいた気がするが、偶然だろうか。

 ――――――で、その意思を持った癌細胞みたいな零余子ちゃんだが、今は鳴女さんの抱き枕になっている。四肢の無い、生まれたままの姿で。

 どうしよう、凄く煽情的なんですけど。鳴女さんも寝る時は裸族になるらしく、異形の女性と身体が欠損した女子が裸で抱き合うとか、物凄く趣味を選ぶ構図となっている。

 ……鳴女さんには零余子ちゃんを「使っていいよ」と言われているが、視線で人を殺しそうな勢いで睨まれるので、止めておく。それに筆を下ろすなら、鳴女さんが良いしね。

 とりあえず、ご馳走様です。正直、見てるだけで抜けます。うっ……ふぅ……。

 

「………………!」

 

 「死ね、この変態がぁ!」という目で見られたような気がするけど、そんなの知らんなぁ。

 何か言いたいなら口に出しなよ。無理だろうけどね。ガタガタ震えるだけでも鳴女さん怒るし、喚き散らしたら死ぬのは零余子の方だ。殺しても死ねないから、終わりもない。

 いやー、実に素晴らしいおかずですわ。これからもよろしくねぇ、零余子ちゃん♪




◆鬼(鬼滅の刃)

 無惨を頂点とした血で血を繋ぐ、真社会性昆虫のような生態の怪物。現世で疫病を齎す「瘟鬼」や地獄で呵責を行う「鬼人」たちとは全くの別系統であり、“血を媒介に増殖する”“殆ど不死身だが日光に弱い”“始祖が滅べば眷属が諸共滅ぶ”など、西洋の吸血鬼を思わせる特徴が多々見られる。その生命力と感染力は凄まじく、妖怪としてのニッチをまるごと奪ってしまう程。唯一無二の獲物が「人間」。他の物は摂取出来ない。
 その正体は、薬学により生まれた人間の突然変異にして新種。ある意味、病気と言ってもいいだろう。
 ちなみに、鬼は瞬きも睡眠も必要ないが、今作の鳴女はきちんと昼間に目を瞑って寝ている。これは「休息」と言うより「進化」の為で、睡眠中に物凄い速さで自分を作り変えている。

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