鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 誰と再会するんでしょウネー?


鳴女さん、再会する

「――――――ごめんなさい」

 

 湯治を終え、無限城で零余子印の苺ミルク(意味深)を飲んでいたら、突然その本体に土下座された。本当に三つ指付いて這いつくばるのが良く似合う女である。

 というか、急にどうした。

 

「この子たちについてなんだけど……これには深い理由がありまして……」

 

 そう言って、スススと差し出された小人が二人。シックスとモノと言うらしい。何でも「リトルナイトメア」というホラーゲームの主人公たちで、またしても見てしまった悪夢から拾ってきたとか。

 いやいやいや、捨て犬拾ってきたみたいなノリで小人を出すなよ。困ったちゃんだな君は。今更だけど。

 

『……ちゃんと餌はやるんだよ』

 

 とりあえず、最低限度の指示は出した。飼い主の責任だからね。

 

「そりゃあ、もちろん」

 

 すると、任せておけと言わんばかりに、零余子がニタリと笑った。何がそんなに楽しいんだか。シックスがビクッと震えた気がしたが、見なかった事にしよう。あと、ノームに苺ミルク飲ませる時に頬を染めてたのは何でだ。恋でもしたの?

 まぁ、良いさ。無限城(ここ)には風呂もトイレも洗濯機も冷蔵冷凍庫もあるし、生活には事欠かない。それこそ藤花と遊ばせとけ。ちっちゃい物クラブみたいな感じで。

 

「それで、今日はどうするの?」

 

 ふと、零余子が尋ねてくる。抱き枕にするか否かの確認だろう。最近は半々の割合だからな。

 

『今日はいい』

「またイチャコラかよ……」

『イチャコラなんて初々しい真似するかよ。もっとこう、ニュルニュルのウネウネでジュポジュポにヌルヌルな――――――』

「何その生々しい擬音!? 聞きたくないんですけど!」

 

 顔を薬缶より赤くして逃げる零余子。乙女か。

 何だよー、自分から下世話な事を聞いてきた癖にー。へーん、混ぜてやらないよーだ。

 さーてとぉ♪

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 そんなこんなで、ねっとりとした眠りに着いた私だったが、

 

『随分と元気そうだな、鳴女』

 

 何故か夢の中で無惨様と再会した。前々から変わった人だとは思っていたが、まさか私の夢枕に立つとは、中々にいい趣味をしている。寝付いた時からそうだから今も全裸なんだが、男として思う所はないのかねぇ?

 ま、挨拶くらいはしようか。

 

『お久しぶりです、無惨様』

『……別に敬語は必要ないだろう。今は私の部下ではないようだし、何よりその恰好じゃ締まりがなかろう』

 

 そんな事を言われましても。好きで立ち裸ってる訳じゃないし、基本的に寝ている私は全裸待機なんだよ。

 

『一応は恩義がありますので』

 

 そう、彼には鬼にして貰った恩がある。最後に頭をパッカーンしてくれた事は今でもムカつくが、それはそれだ。半永久的な命と人を確実に殺す為の力を貰った事に比べれば、些細なものである。

 

『ならば、丁度良い。恩義を感じているなら、その肉体をよこせ。今すぐにだ』

 

 ただ、こうやってすぐに調子に乗るのが玉に瑕だ。

 

『出来るものなら』

 

 やってみろ、とは敢えて言わなかった。必要が無いからな。

 

『――――――フン。ならば、後付けでも構わん。肉体を用意しろ。この際、年齢は問わん。今のお前なら(・・・・・・)出来るだろう(・・・・・・)?』

 

 それが分かっているのか、無惨様は私を()め付けた。セクハラやぞー。

 

『まぁ、別にそれで良いなら、全く問題ありませんが……』

 

 今まではおやつ代わりに食ってきたが、そろそろ残すべきか?

 

『ですが、何故急にそんな話を?』

 

 そもそも、この人はどの世界線の無惨様なんだろう?

 この世界じゃ無惨様の「む」の字も無いし、かと言って私の知る「無惨様の鬼」が全くいないかというと、そうでもない。チャラトミwiki曰く、大正時代に似たような輩がいて、何処かで聞き覚えのある剣豪っぽいのが退治したそうな。

 その鬼が無惨様じゃないとしたら、そいつは誰で、どうして存在しない無惨様が私の夢枕に立っている?

 

『……私はもうすぐ(・・・・・)解放される(・・・・・)その時に受け皿(・・・・・・・)となる器が必要なのだ(・・・・・・・・・・)

『ようするに今は魂だけで、しかも封印されているような状態だから、解放された時に備えて肉体が欲しいと?』

『その認識で相違ない』

 

 フーン、封じられてたのか。どうりで影も形も無いと思ったよ。

 とは言え、名前すら出て来ないのは流石に不自然な気がする。この人は色々と空回りする人だから、動けば絶対に目を付けられる筈なんだよなぁ……。

 

『おい、貴様。今かなり失礼な事を考えていただろ?』

『あれ? もう読心術は使えない筈では?』

『何年行動を共にしたと思っている。お前が上の空で何を考えているのかなど、手に取るように分かるわ』

『凄いなアンタ』

 

 正直、意外と言うか、他人の事を考える度量があったんですね。

 

『それで、今は何処に居るんです?』

 

 封じられているというのなら、その場所が必ず存在する筈である。

 

『……地上ではない』

 

 え、まさか宇宙とか言わないよね?

 

『地下だ。それも深い深いマグマの中にな……』

『貴方は何時から怪獣王に転職なさったので?』

『今も昔も私は「鬼の始祖」だ、馬鹿者めが!』

 

 いや、だってマグマの中もチャラ☆ヘッチャラなんて、怪獣王か伝説のスーパーサ○ヤ人くらいしか知らないもん。

 

『では、何故そんな所に? 温泉じゃないんですよ?』

『それくらい分かるわ。……とある者の肉体と共に沈んでいる』

『誰ですか、それは?』

『この世界では「来訪者」と呼ばれている存在だ』

 

 あー、例の大正時代に出たっていう「鬼の王」ね。何だってそんな奴と抱き合わせでマグマに浸かってんのよ。ホモなの?

 

『――――――そいつは、私の全てを受け継ぐ者だった。しかし、暴走の果てに世界一つを滅ぼしてしまった。支配すべき世界を焼き尽くすなど、愚かの極みだ。こんな事なら、託すのではなかった……』

 

 実に悔しそうに語る無惨様。ようするに人選ミスって事?

 と言うかさ、

 

『……聞きそびれましたけど、力を託して魂だけになっているという事は、やっぱり討滅されたんですね?』

『やっぱりとは何だ、やっぱりとは。……まぁ、その通りだ。だからこそ、才能溢れる奴に、力を託してやったというのに……』

『そんなに凄かったんですか?』

『数十秒で太陽を克服し、数分で私の全盛期を凌駕した上に、次々と新たな血鬼術を生み出した』

『化け物じゃないですか』

 

 何そのチーター。異世界転生した勇者だってもう少し自重するぞ。私だってまだ克服し切ってないのにズルいー。

 でも、そりゃ確かに勿体無いよなぁ。それだけ才能があるんだから、ちゃんと世界を牛耳れば良かったのに。化け物なだけに馬鹿者だったのかな?

 

『まぁ、最後に見た風柱の姿は滑稽で抱腹絶倒したがな。肉親や仲間どころか、自分以外誰一人いなくなったんだからな。クククク……』

『えー、何それ、私も見たい。録画とかしてなかったんですか、無惨様。インスタ映えしそう』

『お前は俗世に染まり易い奴だな、本当に! 鬼の口から「インスタ映え」なんて聞くとは思わなかったぞ!』

『そう言う無惨様だって結構ミーハーだったじゃないですか』

『「多趣味」と言え「多趣味」と。信長だって南蛮渡来の品を好んでたんだから良いだろうが』

 

 つーか、あんた信長とはズッ友だっただろうがよ。御茶会とか乙女チックな事しやがって、ミーハー共め。

 

『フゥ……やはり、力だけでは駄目だな』

 

 と、喋り疲れたのか、無惨様が一度深呼吸してから、真面目なトーンで言った。

 

『そういう意味では、やはりお前に託すべきだったか』

『いやぁ、私などでは無惨様のような自滅芸はとても』

『ぶっ殺すぞ貴様。いいから、真面目に聞け!』

 

 はいはい、分かりましたよ。久々にお話しするのにつれないなぁ。

 

『――――――「来訪者」の復活が迫っている。奴はお前の想像を遥かに絶する化け物だ。何せ、あの忌々しい日の呼吸でさえ掠り傷一つ付けられず、バラバラにしてマグマに沈めた今も、噴火に乗じて舞い戻ろうとしているのだからな』

『もう生物じゃないでしょ、そいつ』

『それはそうだろう。奴は「鬼の王」であり「鬼神」なのだ。生半な力など、振るう事すら許されない。だから――――――』

 

 だから、その時に備えて強くなれ。鬼舞辻の血統を継ぐのはお前だ。

 無惨様は激励とも押し付けとも付かない、臭い台詞を吐いて消えた。

 

『託されても困るんだけどなー』

 

 正直、血統には全然興味ないし。

 だが、無惨様を超える鬼となるのは転生当初からの目標だし、近い未来に訪れるであろう災厄を知り得たのは大きい。事前に準備出来るだけでも、大分違うからね。

 そういう意味では、会えて良かったですよ、無惨様。

 

『とりあえず、もう一発頑張るかー』

 

 私はそう決意して、夢から覚めた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ――――――ピンポーン。

 

 しかし、そんな崇高な決起を遮る、インターフォンの音が。誰だ、こんな真昼間に。

 

『今は仕込み中でーす。後にして下さーい』

「ほぅ、勤勉ではないですか。素晴らしい」

 

 適当に返事をしたら、何か盛大に勘違いされた。これバレたら絶対お互いに恥ずかしい奴だよ!

 

『……仕方ないわねぇ。どちら様~?』

 

 誤魔化す意味も兼ねて、私は(もちろん服を着て)玄関の扉を開けた。そこに居たのは、

 

「初めまして、鳴女さん。私はベアード軍の最高司令官「アデル・フォン・アスワング」。こっちはベアード軍三幹部の一人「カミーラ」」『よろしくお願い致しますわ』「……本日は、是非とも交渉したい事が有って参りました。少々お時間を割いては頂けないでしょうか?」

 

 何かスゲェ偉そうな西洋妖怪たちだった。なぁにこれぇ?




◆鬼舞辻 無惨

 「鬼滅の刃」のラスボスにして、全ての「鬼」の始祖。
 平安貴族という勝ち組出身だったものの、生まれた時から死にそうな虚弱体質であり、二十歳までは生きられないと言われていたが、ある日出会ったかかりつけ医の調合した薬が彼の運命を変えた。強靭で朽ちる事のない肉体を手に入れた代償に日の下を歩けぬ人食い鬼となってしまい、今日まで太陽を克服する為に様々な努力を重ねて来た。まるでカー○様である。
 西洋の吸血鬼の如く、血を与えた人間を鬼(というか眷属)に変える力が有り、全ての鬼は無惨と共に在り、彼が死ねば諸共滅ぶ運命にある。
 また、始祖というだけあって戦闘能力も凄まじく、珠世の齎した毒薬で弱体化してもなお、殆どの鬼殺隊士は手も足も出なかった。掠り傷が致命傷って、それは卑怯でしょ。
 特に再生力に関しては異常の一言で、“斬った傍からくっ付くから切断出来ない”“肉片からでも元通りになれる”“治るのを良い事に身体中のあらゆる臓器を武器にする”など、意味不明な業を次々と披露した。もしかしたら、弱体化さえしなければ「輝彩滑刀」とか「血管針」とかも使えたのかもしれない。
 しかし、やはり弱体化した影響は大きく、最期は鬼殺隊の異常なまでの執念に根負けする形で消滅した――――――かに思えたが、最後の最期に己の血肉を主人公に全て与えて「鬼の王」に変貌させるという、スーパー悪足掻きを敢行、鬼殺隊士どころか読者すら唖然とさせた。なぁにこれぇ?
 とは言え、元より誰も信じず信頼もされていない彼が、鬼殺隊の絆を断ち切れる筈も無く、炭治郎が人間へ戻るのと同時に、無間地獄の底へ消えていった。
 しかし、この世界――――――否、“前の世界”では……。

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