べつのひ!
「あの、鳴女殿?」『………………』
アデルが何とも微妙な顔をしている。同伴したカミーラもそんな感じである。無理もない。
「何故、急にこんな山の中に?」
突然、人里離れた山中に連れて来られたのだから。
「というか、ここは何処ですか?」
『ここは「奈落村」。地図に無い廃村さ』
そう、ここは釣りの名所……ではなく、地図に無い村だ。菖蒲の花が一年中咲いている、不思議な谷底にポツンと存在している廃村である。辛うじて形を残している荒ら屋が数軒だけ立つ寂しい場所で、人の気配はまるでない。ほぼ全てが自然へと回帰している。
「はぁ……それで、我々にここで何をさせようと?」
まぁ、当然そうなるわな。
『――――――“選別試験”だ』
「“選別試験”?」
『ああ。お前は最高司令官なんだろう? ならば、それが譲り受けるに値する立場なのか、試してみたくてな』
「ようするに、私たちの実力を見せて欲しいと?」
『有体に言えばそうなる』
実を言うと、私はアデルの返事を保留にした。“試したい事がある”と。それがこの選別試験だ。
だって、そうだろう?
私は弱い奴と取引する気は無いし……何より、
『お前たちには、この奈落村で三日三晩過ごしてもらう』
『こ、こんな場所で、ですか?』
如何にも潔癖症っぽいカミーラが、とても嫌そうに尋ねてくる。
イカンよ、時には泥を啜る覚悟を持たなきゃ。人生、小綺麗に済む事なんて早々無いんだからさ。吸血鬼だろう、お前は。
「別に良いじゃないっスか。前にアンタが住んでた場所と大差ないでしょうよ、キーエフ・キュリアンさん」
『なっ……何故その名前を……!?』
しかし、チャラトミが入れてきた横槍に驚いて、それどころでは無くなったようである。
『えっ、誰それ?』
「その人の本名ですよ」
『そーなのかー』
私もビックリしたわ。何処の誰情報なんだよ、それは。当たってるみたいだし。
ま、まぁ、いいや。それより話を進めよう。
『お前さん、サバイバルの経験は?』
「修行の一環で崖から突き落とされた事なら」
『スパルタ人か』
流石にそれはスパルタ過ぎる。
たぶん、こいつのフォンは実力で勝ち取った名前だな。実に良い。
『なら、問題は無いな。ここで三日三晩、自給自足で生き残れ。その結果次第で、お前の提案を受け入れるかを考えよう』
「その程度でよろしいので?」
『……油断は大敵だぞ、アデル・フォン・アスワング』
気分はゆるキャンのアデルに、一言物申しておく。
『何でわざわざこんな所に連れて来たと思う?』
「……つまり“何かが居る”という事ですね?」
『そういう事だ。菖蒲は魔除けの植物。一部の妖怪……特に蟲系統の怪異が苦手としている。……言いたい事、分かるよな?』
「ええ、とても」
つまりはそういう事だ。ここには“食べ残しておいた妖怪”を放し飼いにしている。餌もしっかり用意した。今頃は立派な“縄張り”を形成している事だろう。一種の“実験場”であり“牧場”でもある。そんな場所だ。
アデルとカミーラは、今からその最中へ飛び込む。どうなるかは、想像に難くない。
「ようするに、
『そうだ。この廃村に巣食う妖怪共を蹴散らし、生き残れ。なぁに、優しい私は“ゴール”を用意してある。村を抜けた先にある、廃れた神社の鳥居を潜れ。そこに三枚のお札があるから、失くさずに私の下へ持って来い。そうすれば、一日でだってクリアと見做そう』
「何だか肝試しみたいですね」
『否定はしない。私の旧い
本来の期間は七日間でゴールなど無く、妖怪ではなく鬼が出て来るのだが、そこまで再現する必要はないだろう。一週間も待つなんて、暇でしょうがないし。
『まぁ、尻尾を巻いて逃げ出したくなる時もあるだろう。道に迷うのも可愛そうだ。その時の為に、この「メダマッチャくん」を付けてやろう』
さらに、親切極まりない私は、使い魔の一匹をナビゲーターとして付ける事にした。名前は「メダマッチャ」。こっちに来てから四番目に生まれた個体で、今では最古残の一匹である。あの鬼太郎との空中戦からも生還した強者だ(他の参加した50匹の使い魔たちは戦いの余波で全滅した)。これ程頼りになるナビゲーターは居まい。録画に命を懸けてるからな。
《よろしくダッチャ!》
しかも、こいつ喋るぞぉ!
「語尾に色々問題があるような気がするのですが……」
『……お前、本当にベアード軍の最高司令官なのか?』
実はただのオタクだったりしない?
「上司が好きなもので」
『ああ、ベア子か……』
上司の趣味趣向に付き合うとは、君も律儀だねぇ。
『と、とにかく、そういう感じだ。……私に捕まるような妖怪に、まさか遅れは取らないよなぁ、最高司令官殿?』
「……その喧嘩、買いますよ」
おうおう、中々気概があるじゃないか。ますます気に入ったわ。だからこそ、まずは実力で示してくれ。そうすれば、見え透いた嘘は許してやる。
「――――――言いたい事は分かりました。確かに、口だけでは信用出来ませんよね。ましてや、自分より遥かに劣るような輩と、対等に話すなど言語道断だと」
『そういうこった』
「……では、最後に一つだけ」
『うん?』
すると、さっきとは打って変わって、心の底から疑問符が浮かんでいる表情で、アデルが聞いてきた。
「何故、菖蒲が苦手な筈の藤花氏を? 今にも死にそうなんですが?」
『いやー、苦しむかなぁって……』
「……では、行ってきます。付いて来い、カミーラ」『了解ですわ、アデル様』
アデルは聞かなかった事にしたらしい。悪霊どころか、魑魅魍魎の跋扈する廃村に突入して行きましたよ。
それじゃあ、鳴女さん式“最終選別”、はっじまるよ~♪
◆最終選別
「鬼殺隊」の入隊試験の事。
藤の花が一年中咲き乱れる「藤襲山」で七日間もサバイバルするのだが、問題はそこに仕掛けられた罠で、トラバサミとかクレイモアとかそんなレベルではなく、何と(一応は雑魚の)鬼がいっぱいいる。しかも、管理不行届きのせいで異能の鬼が一匹いる。産屋敷ちゃんと仕事しろ。文字通り、落第=死である。
ちなみに、鬼を沢山倒せばそれでいいという訳ではなく、“どんな方法でも良いから七日間生き延びる”のが条件なので、死んだらまるで意味がない。生き意地汚い鬼共を相手にする以上、自分の身も守れないような奴では務まらない、という事だろう。それがトラウマになっている奴もいるのだが、それは良いのか?
鳴女式はもっと簡単で、明確なゴールと合格条件が有り、それさえ満たせば三日も待つ必要はない。
……ただし、待っているのは、彼女が魔改造を施したガチの生物兵器(=妖怪)だが。