鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 地球上で最も繁栄している生物は昆虫でアル。


アデルとカミーラの鳴女式最終選別試験①

 諸君、初めましての人は初めまして、既知の方は改めまして。

 私の名はアデル・フォン・アスワング。ベアード軍の最高司令官を務めている。生まれはフィリピン、育ちはドイツとアメリカ、今はベアード様のお膝下と、我ながら数奇な人生を辿っているな。

 そして、私は今、日本の何処とも分からぬ「奈落村」という僻地に来ている。連れて来た鳴女曰く“地図に無い村”だそうだ。都市伝説とかで良くある系統の話である。

 だが、ここには幽霊の類ではなく、妖怪が居るという。それも鳴女が手を加えたであろう、化け物たちが。

 そんな魑魅魍魎の跋扈する廃村を抜け、寂れた神社から三枚の札を持って来るというのが、今回鳴女から提示された条件だ。

 言うまでもなく、彼女を“こちら側”へ引き込む為の条件である。彼女はこのゲームをクリア出来たら、我々に協力してくれると約束してくれた。道中の活躍にもよる、とも言っていたが。

 ようするに、こちらの実力を示して分からせて(・・・・・)みろ、という事だ。非常に分かり易い。

 

 とても分かり易く、こちらを舐めている。

 

 この廃村に棲み付いている妖怪は、鳴女が敢て食べずに捕獲し、放し飼いにしている者ばかり。番犬どころか家畜以下の存在である。

 その程度なら何とか出来るよね、という挑発が透けて見える。

 しかし、だからこそやる気も出る。ここまで煽られて黙っているようでは、ベアード軍失格だ。

 ……それに、私には“丸子の確保”という重大な任務がある。こんなお遊びで躓く訳にはいかない。鳴女は外部協力者になり得るかもしれないが、あくまで最後は対立する敵同士なのである。

 

『へぇ、貴女使い魔じゃ最古残なの。だからそんなに流暢に喋れるのね』

《そうだッチャ。現存する使い魔は約千体だけど、同期と呼べる一桁台の兄妹はもういないッチャ。一番近い数字でも35番だし……皆、動画撮りの最中に殉職したッチャよ》

『戦場カメラマンみたいな人生を送ってるわね、貴女たち』

 

 だと言うのに、何を仲良くお喋るしているんだ、こいつらは。意気投合してるんじゃないよ。

 

「カミーラ……」

『あっ……す、すみません! ついつい話し込んでしまいました』

「いや、あのねぇ……」

『で、でも、妙な親近感というか、赤の他人のような気がしないんですよ! 何と言うかこう、ベアード様と楽しくお喋り出来ている喜びと言うか……』

 

 必死に言い訳をしているカミーラ。心身共に成長しているが、根本的には初めて出会ったあの頃から何ら変わりないようだ。三つ子の魂百までって言うからな。

 

「………………」

 

 だが、確かに言われて見ると、ベアード様に似ているような気も……ちっちゃいベアード様に角と手足が生えたような姿をしているし。仲良くする?

 ――――――いやいやいや、言ってる場合か。私はお話じゃなくて、お札を剥がしに来たんだよ!

 

「……集落に着いたな」

 

 そうこうしている内に、奈落村の集落跡に到達した。どの家も荒れ果て、蔦が巻いている。私だったら絶対に住みたくないが、逃避行中はこんな物でも有難いと思ったものである。

 しかし、ここに棲み付いているのは人間でも動物でもなく、もっとずっと恐ろしい妖怪だ。鳴女の性格的にロクな奴が居ないだろうから、気を引き締めて行かないと。

 

『……しかし、アデル様。売り言葉に買い言葉で来てしまいましたが、本当に苦戦を強いられるような展開になるでしょうか? 高が極東の島国にいる木端妖怪ですよ?』

 

 と、ゲーム自体には乗り気ではなかったカミーラが、不満を漏らす。

 まぁ、言わんとしている事は分かる。正直、私もこんな辺鄙な場所に閉じ込められている野良妖怪に遅れを取るとは思っていない。

 

「油断は大敵よ、カミーラ。獅子は兎を狩る時も全力で挑む。……それに、見せ付けるには丁度良い」

 

 良質なカメラマンも随伴している事だし、ね?

 

《二人共、あんまり舐めて掛からない方がいいッチャよ? 蟲妖怪は想像の百倍くらいは怖いッチャ》

 

 だが、使い魔のメダマッチャは慎重に忠告して来た。鳴女サイドだから、という理由だけではなさそうである。

 

『どういう事、メダちゃん?』

「メダちゃんって……」

『ああっ、す、すいません!』

 

 頼むよ、おい。

 

《そうねぇ、あたしとカミュちゃんの仲だし、少しだけあたしの経験談を聞かせてあげるッチャ!》

 

 あんたもかい。何なんだお前ら。

 しかし、古残の戦場カメラマンの体験談というのは為になる。文字通りの生き証人だからな。そこに国籍など関係ない。是非とも聞かせて貰おう。

 

《あたしが初めて接触した蟲系の妖怪は「槐の邪神」。伝承では通行人から金品を巻き上げる小物な奴だッチャ》

『「ただのチンピラじゃん」』

 

 何だ、その拭い様の無い小物臭さは。「邪神」の名は飾りなのか。

 

《ところがどっこい、その小物に、鳴女様は一度殺され掛けてるッチャよ》

『「ゑ?」』

 

 だが、メダマッチャから返って来た言葉は、想像を絶する物だった。

 あの鳴女が……鬼太郎とも互角に張り合ったという鳴女が、殺され掛けただと?

 

「俄かには信じ難いな」

《本当の事だッチャ。気持ちは分かるけどね》

『というか、主人の黒歴史をバラしちゃって良いの?』

《あの人は基本オープンだから気にしてないッチャよ》

 

 何それ、器が広過ぎませんかね?

 ……話を戻そうか。

 

「それで、何がどうしてそんな事に?」

《槐の邪神は、年月を重ね鋼鉄の鎧を持つようになったカブトムシだッチャ。昔は小銭を巻き上げて食っていたみたいだけど、今の世の中は良質な合金だらけだッチャ》

『だから、物凄く硬くなったと?』

《個体差は大きいけど、少なくとも10トントラックが衝突したらトラックの方が大破するぐらいのスペックは皆持ってるッチャ》

『「それはヤバくない!?」』

《しかも、何故か口から火砕流みたいな火を噴く上に、短距離なら素早く飛び回れるッチャよ》

『「もうロボットじゃん」』

《だから言ってるッチャ、油断するなって》

 

 うん、日本の生態系舐めてたわ。よくよく考えれば、オオスズメバチとか居るような環境だもんな。そりゃあ魔窟になるに決まっている。

 

《次に遭遇したのは「火間虫入道」ッチャね》

「何だ、そのニートみたいな妖怪は」

《まさにその通りだッチャ。火間虫入道は、穀潰しが生まれ変わった妖怪と言われているッチャよ》

『ニート・オブ・ニートじゃないの』

 

 選ばれしニートって、救いがなさ過ぎるだろ。

 

《だけど、こいつも馬鹿には出来ないッチャ。火間虫入道は元々、中国の「蜚虫(ヒムシ)」って妖怪が適応拡散した種族なんだけど……その正体は、真社会性のゴキブリだッチャ》

『「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」』

 

 別の意味で怖過ぎるぅ!

 

《伝承ではあくまで“生まれ変わり”だけど、実際は見捨てられて野垂れ死んだ穀潰しの死体を食って姿をコピーしてるんだッチャよ》

『「その情報はいらない!」』

 

 ちょっと想像しちゃったじゃないの!

 ウェッ、吐きそう……。

 

《しかも、最初こそちっぽけなゴキブリだけど、数を増やすと群体生物として行動するようになって、砕いても砕いても死なない上に、口から何でも溶かす粒子光線とか吐くようになるッチャ。あと飛ぶし》

 

 デスト○イアかな?

 芹沢博士に怒られるぞ。

 

《他にも「常元虫」や「絡新婦」、「疱瘡神」……色々な現場に立ち会ったッチャねぇ》

『「害虫退治の専門家じゃん」』

 

 下手すると、鬼道衆や鬼太郎より妖怪退治をしているのでは?

 良いのか、それで。

 

《……と、さっそくお出ましだッチャ!》

 

 すると、メダマッチャが退避の態勢を取った。流石に駄弁り過ぎたか。

 

『「………………!」』

 

 私たちも戦闘態勢に入ったのだが、

 

『アアァァ……』『オォォォ……』『ヴァァァ!』

『「何でゾンビ!?」』

 

 廃屋の中から這い出て来たのは、まさかのゾンビの群れだった。何故にWhy(フォワイ)!?




◆アデル・フォン・アスワング

 アニメ第6期に登場した、西洋妖怪軍団の最高幹部。種族としては魔女だが、バリバリの魔女っ子なアニエス(妹)と違って、甲冑と軍服で身を固めた、サーチ・アンド・デストロイしそうな見た目をしている。実際、潜在魔力こそアニエスに劣るものの、最高幹部の地位に相応しい実力を持っている。
 表向きはバックベアードに忠誠を誓い、ブリガドーン計画に必要なアルカナの指輪を持ち逃げしたアニエスにも厳しく当たっているが、本心は自らを犠牲にしてでも妹を生かそうとする、不器用な人物である。ツンデレって奴か。
 今作では本編では不明だったミドルネームやラストネームを勝手に設定。フィリピン生まれのドイツ育ちで、今はアメリカ妖怪の傘下に居るという、よく分からない生い立ちを得た。大分スパルタかつサバイバルな人生を送って来たようで、カミーラもその過程で救出した。
 ちなみに、「アスワング」とは英国圏でいう「ヴァンパイア」に相当する。

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