《ゾンビじゃないッチャ。そいつらは「死人憑き」に寄生された動く死体だッチャ》
さらに、空中へ退避したメダマッチャより注釈が入る。浮遊していた時点で分かっていた事だが、飛べるのか。
というか、動く死体ならゾンビではないのか?
……あと、動く死体の容姿が、どいつもこいつも零余子とよく似ているのは何故なのか。このゾンビ(ゾンビとは言っていない)って、もしかして――――――。
《もちろん、素材は零余子だッチャ!》
『配下の扱いに落差が有り過ぎない?』
本当にね。チャラトミや丸子は丁重に扱ってるのに……。
いや、それよりも今は目の前のビンゾー共だ。誰に似てようが、実はゾンビじゃなかろうが、襲って来ると言うのなら、迎え撃つまで!
……でも、直に触るのは嫌だから、魔法剣で!
「ハァッ!」
私は一瞬でゾンゾンの群れを駆け抜け、擦れ違い様に全員を切り捨てた。動く死体に後れを取る程、鈍間じゃないのよ。
《あっ、そいつらに接近戦は……あーあ、やっちゃった》
しかし、それは間違いだったらしい。メダマッチャがやっちゃったー、という顔をしている。
「えっ、それはどういう……ぷぱぁっ!?」
一体何の事だと思ったら、直ぐに答えが分かった。
「蛆だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
何と切り掛かったゾビンの中から、大量の蛆が降り掛かって来たのである。
そう、こいつらの中身は骨以外の全てが蛆の塊だったのだ!
《死人憑きは死体に寄生する蠅の妖怪だッチャ。孵化と同時に幼虫のまま無性生殖して、肉を余す事無く食い尽くしてから、数珠繋ぎになって筋肉を代行して動き出すんだッチャよ》
『気持ち悪過ぎない!? 日本妖怪ってそんなのばっかりなの!? ……というか、アデル様ぁ! い、今、お傍に……い、いいい、行きたくないけど……参りまぁあああぁす!』
「本音が漏れてるぞぉおおおおおおお!」
いや、でも、マジでお願い、助けてカミーラぁっ!
『「はぁ……はぁ……」』
《だから油断するなって言ったッチャ。蟲妖怪はこういう初見殺しな要素が結構あるから、慎重に行かないと駄目だッチャよ》
『「ハイ、以後気を付けます……」』
その後、物凄く嫌そうな顔のカミーラに蛆を払ってもらい、どうにか一息付けたが、当然ながらメダマッチャから駄目出しを喰らった。言い訳の仕様が全くない。これには画面の向こうにいる鳴女もニッコリだろう。
クソッ、私はベアード軍の最高司令官なんだぞ……様々な艱難辛苦を乗り越え、軍の実質的なトップに立ったんだぞ……っ!
そんな私が、こんな無様な姿を衆目に晒すなどぉ……おのれ……謀ったな鳴女ぇえええっ!
《ちなみに、鳴女様からは『ノーコメントで』って言伝られたッチャ》
「おのれ鳴き女ぇえええええええっ!」
『お、落ち着いて下さい、アデル様!』
※しばらくお待ちください。
「済まない、カミーラ……幻滅したか?」
『い、いいえ、そんな事は……役得です』
「……何て?」
『アデル様は何時だってアタシの憧れの上司です!』
嘘吐けぇ。
だが、これで脅威は去った。ビンビンゾンビーはもういない。後はゴールを目指して進むのみ。
そう、私はやれば出来る子なんだ……ひ、ひとりでできるもん……ね、舞ちゃん!?
《ボサッとしてる場合じゃないッチャよ。ほーら、おかわりが来たッチャ》
『「ヴェ!?」』
ま、まさか、またサンゲリアが!?
『グヴォオオッ!』『カァルヴァッ!』『キィイイ!』
「あ、普通のモンスターだ」『何か逆に安心しますね』
しかし、廃村の奥にある森から現れたのは、まさしく魑魅魍魎と称すべき化け物たち。牛鬼、濡れ女、太歳、唐獅子、馬頭鬼など、様々な他の妖怪の姿を取っているが、所詮はコケ脅し。気配で分かる。こいつらは死人憑きが化けた偽物である。
そうと分かれば、
『「汚物は消毒だぁ!」』
『ヴギャアアアアアア!』
私たちは魔法攻撃で魑魅魍魎の群れを焼き尽くした。例え中身が蛆のままだったとしても、破れる前に燃やしてしまえば良かろうなのだぁ!
『「ヤッタァーッ!」』
嗚呼、こんなに嬉しい事は無い。私たちは、勝った!
《その考えは流石に甘いッチャよ》
『「エ、エスパー!?」』
《いや、今のお前らを見たら誰でも分かるッチャ……》
すると、メダマッチャに物凄く呆れられた。何でだよぉ、ちゃんと敵倒したじゃんよぉっ!
《蠅は完全変態する昆虫だッチャ。死人憑きの成虫は内骨格を持っているから、厳密には昆虫じゃないけど、成長過程は昆虫の蠅と殆ど同じだッチャよ》
「え……?」『それはどういう――――――』
《動く死体は「幼虫」、さっきの怪物は「蛹」。なら、その先もあって然るべきじゃないかッチャ?》
『「それってつまり……」』
ここからが本番って事?
―――――――ブゥウウウゥゥンッ!
森の奥から、無数の羽音が聞こえる。蜂や蜻蛉の類ではない。……蠅だ。
『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』『キャハハハハ!』
『「うわぁ……」』
そして、現れる――――――蠅の翅が生えた零余子の大群。
なるほど、成虫になると“自分の内骨格”を持つ、という事か。衝撃の展開が続き過ぎて、もはや驚きもしないわ。ドン引きはするけど。
……多過ぎだろう、幾ら何でも。一体、何零余子が犠牲になったんだ?
まぁいい、今楽にしてやる!
《馬鹿、下がるッチャ!》
その時、メダマッチャが声を上げた。
『「………………っ!」』
ほぼ反射的に飛び退くと、さっきまで立っていた場所が陥没した。倒壊寸前だった廃屋が完全にバラバラとなり、渦潮のようになった地面に呑み込まれていく。
『クヴォォオオオオン!』
さらに、その渦中から土砂を間欠泉の如く噴き上げながら、とんでもない怪物が現れた。
シラミバエを土台に、ツェツェバエやチョウバエにキノコバエなどの蠅類を雑多に組み合わせた、化け物としか言えない異形。体高だけで40メートルを超し、全長は100メートル以上もある巨体。胸部に備えられた零余子顔の卵たちが、どうしようもなく精神を抉る。
まさに、蠅の邪神とでも言うべき姿だ。蠅の王は知っているが、まさか邪神までいるとは思わなった。世界は広いね、日本は狭いけど。
――――――って、考えとる場合かぁっ!
『「何コレェエエエ!?」』
《これが死人憑き――――――引いては魍魎の成長し切った姿……彼らの女王たる存在、「
『クヴヴヴ……キャァアアアアアアアアアアアアッ!』
そして、「奈落村」の女王――――――「蠅声為邪神」が雄叫びを上げた。
◆『分類及び種族名称:宇宙大怪獣=
◆『弱点:不明』
◆死人憑き
文字通り人の死体に取り憑く正体不明の存在。動いていても身体は腐っており、とんでもない臭いや汁に蛆を振り撒く傍迷惑な奴で、その癖に食べ物やお酒を遺族に請求してくる最強のニート。念仏やお祓いも全く通じないので、退治するには完全に死んでしまうまで閉じ込めておくしかない。
鬼太郎のアニメでは「魍魎」が取り憑いた結果の存在として登場。最初は憑いた身体で動き回るだけだが、その内に仲間を呼び寄せ、近隣の住民にまで取り憑いて行き、最終的に村や町ごと呑み込んでしまう。
今作での正体は、死体に食い込んだ蛆その物。無性生殖で瞬く間に死体の筋肉や内臓を食い尽くし、自分たちがその代役を務めて動き出す。やがて魑魅魍魎な蛹の形態を経て、人間に近い成虫となる。