鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 本日にて試験終了(早)!


アデルとカミーラの鳴女式最終選別試験④

 ――――――と、その時。

 

『お前さんたちの探している札ってのは、この三枚かい? 山奥の廃神社に納めておいたんだがなぁ……』

『「………………!」』

 

 何処からともなく、青髪の退魔師が現れた。その手には、「天邪鬼」と「ラクシャサ」が描かれた物、白紙の物、計三枚のお札が。

 こ、こいつは、まさか……!?

 

「え、えっと……どちら様でしょうか?」『………………』

 

 一先ず、知らない振りをする。カミーラにも動かないよう指文字を送った。

 

『俺かい? 俺は蒼坊主。流離いの退魔師さ』

『「………………」』

 

 やはりそうか。過去の記録に度々出て来た、鬼太郎の義兄にして戦いの指南役、蒼坊主。まさか、こんな所で、こんなにも消耗した状態で出くわすなんて……!

 

『見た所、アンタらは西洋の妖怪みたいだが、「奈落の谷」で一体何してやがった?』

「「奈落の谷」?」

 

 え、何それ知らないんだけど?

 

『……知らずに来たのか? 呆れた奴らだな。いいかい? 「奈落の谷」ってのは、地獄の亀裂(・・・・・)だ。あってはならない、奈落の綻び。だから(・・・)こうして幾らでも(・・・・・・・・)再生する(・・・・)

「なっ……!?」

 

 蒼坊主が呟いた瞬間、荒野と化した筈の奈落村が、元の姿を取り戻した。菖蒲の花が咲き乱れるのはもちろんの事、塵芥となった廃屋までもがテープの逆再生の如く復活する。この世の物とは思えない、異様な光景だった。

 なるほど、確かに“地獄の綻び”だ。奈落村を含む、この巨大な谷間の全てが次空の裂け目なのか。

 

『そんで、ここは「奈落の谷」の最南端。かつて“盗賊村”とも呼ばれた集落の成れの果てさ。ここには人間どころか、現世の妖怪すら近付かねぇ。そんな場所で、おたくら一体何してたんだい?』

「………………ッ!」

 

 どうしよう、史上最大の肝試しをしてたなんて、口が裂けても言えない……!

 

『――――――まぁ、事情はどうあれ、感謝はしてるさ。「奈落の谷(ここ)」は妖気が乱れ易いし、何より鬼太郎の面倒を見ていた最中とは言え、あんな化け物が息を潜めていたなんて、思いもしなかったぜ。本物の蠅声為邪神なんざ、妖怪図書館の資料でしか見た事ねぇよ、まったく……』

 

 ただ、鳴女が飼っていた蠅声為邪神とその一族の存在は、蒼坊主にとっても想定外だったらしく、何とも言い難い表情を浮かべていた。何か、ウチの協力者(予定)がスイマセン……。

 つーか、ここ鬼太郎の修行場だったのかよぉっ!?

 おのれ、マジで謀ったなぁ、鳴き女ぇえええっ!

 

『だからこそ、問いたい。太古の邪神をも打ち倒す西洋妖怪の二人組が、こんな所で札を探して、一体どうするつもりだったんだい? ……道に迷って間に合わなかった身で手前勝手だとは思うが、場合によっちゃあ生かして帰す訳にはいかねぇなぁ?』

「うぐっ……!」『アデル様、お下がりを……!』

 

 マ、マズい、こんな方向音痴に捕捉されてしまうとは……ッ!

 カミーラも大分草臥れてるし、本格的にヤバいのではないか!?

 

 ――――――べべん!

 

『そういう訳にはいかんなぁ、蒼坊主さん』

 

 まさに絶体絶命というその時に、鳴女が襖を開いて現れた。配下のチャラトミ(ヴェノム)や零余子(痣者)を引き連れて。……藤花たちは居ないようだ、良かった。

 

『……お前さん、鳴女か』

 

 出現と同時に放たれた、怪電波のような妖気を感じ取ったのか、蒼坊主が冷や汗を垂らしながら、錫杖を構えた。

 

『ほぅ、自己紹介の必要は無いようだな。大方、鬼太郎から話でも聞いてたって所か』

 

 だが、鳴女は気にも留めない。まるで、蠅でも見るかのような冷やかさである。

 

『鬼太郎からは瀕死に追い込んだって聞いてるが?』

『そんなもん、湯治したら全快したよ。むしろ、前よりもっと身体が軽いくらいさ。いやー、素晴らしい効能だわ』《また入りに行きます?》『……いや、今度は海に行きたいな。サンオイルでも塗ってくれ』《喜んで♪》

「あんたら、真面目にやれよ……」

 

 さらに、このふざけっぷりだ。内容が完全に世間話である。

 ……そう言えば、ベア子様とヴィクターが丸子たちと交戦した時、鬼太郎に胴を一刀両断されて殺され掛けたんだっけな。

 話を聞く分には、おそらく魂まで傷を付けられた筈なんだけど、例えその温泉がエリクサーだったとしても、湯治だけで回復するのはおかしくないかな!?

 あと、せめて蒼坊主を会話に混ぜてあげて。物凄く真剣な分だけ、可哀想になってくるから。

 というか、逃げて蒼坊主、これ絶対に勝ち目無いから!

 

『フーム、それにしても、まさか鬼太郎とバッティングしちまうとはな。便利だから使って来たけど、やり過ぎた感もあるし、そろそろ別の実験場でも探すかぁ……』

 

 おい、“新しい部屋でも探すかぁ”みたいなノリで、地獄を量産しようとするな。普通に迷惑だろ。

 

『俺がそれを許すとでも思ってんのかい?』

『お前の許可なんぞ必要ない。そして、アデルたち(こいつら)も渡さない。この二人には充分に楽しませて貰ったからな。札は勝手に取られてたようだし、合格としてやろう』

『「………………!」』

 

 しかし、ここでこの混沌過ぎる場に暁光が。

 

「鳴女殿、それはもしや……!?」

『ああ。正式にバックベアードと会談してやろう。細かい事はそれからだな』

「………………ッ!」『やりましたね、アデル様!』

 

 ――――――やった!

 まだ話し合いの段階だが、こちらのテーブルに着いてくれる気になったか!

 明らかに無様を通り越した醜態を面白がったってのが丸分かりで滅茶苦茶腹立つけど、それはそれ、これはこれだ!

 ……ならば、最早この場に用はない。

 

「それでは、日程の調整に入りましょうか」

『そうだな。立ち話も何だし、この場は退散しよう』

 

 そういう事になった。

 

『くっ……!』

 

 黙って見ているしかない、蒼坊主を尻目に。流石に戦力差は覆せないわよねぇ?

 ともかく、やってやったぞ。このまま上手く話しを持って行けば、アニエスは……!

 

「アニエス……」『………………』

 

 そう、私たちの戦いは、これからだッ!




◆奈落の谷

 かつて閻魔大王がヤトノカミを封印した時に出来た戦いの余波であり、千年以上経った今でも残る爪痕である。ここでは地獄から漏れ出る瘴気により妖気が乱れまくっており、基本的に何が潜んでいても、直接五感で確かめない限り発見する事は出来ない。また、妖気と瘴気が混じった結果なのか、永遠に枯れる事の無い菖蒲が咲き乱れ、どんなに焼かれても元の風景に戻ってしまう。
 奈落村はその最南端に位置し、在りし日は「盗品で富を得た蛇神信仰の村」だったのだが、朝廷により討伐される寸前に腹癒せとして復活させたヤトノカミによって諸共滅びた。ポツポツと並ぶ廃屋は数少ない当時の名残だ。
 ちなみに、鬼太郎が修行していたのは最北端で、奈落村からは大分距離があった為、アデルたちが暴れるまで、鳴女が夏休みの宿題をしている事は、物理的に気付きようが無かった。それどころじゃなかっただろうしね。
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