鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 個人的に地獄童子の親は分家筋か王の従者だったんじゃないかと思ってマス。


奈落の底から

 深い深い闇の底。

 

『ハァ……ハァ……』『しっかりしろ、もう少しだ!』

 

 「奈落の谷」の最北端にポッカリと開いた、地獄へと通じる秘密の抜け道を、ゆっくりゆっくり一歩ずつ、肩を組んで上る者が二人。幽霊族の末裔、鬼太郎と地獄童子である。

 否、訂正しよう。肩を貸しているのが地獄童子であって、鬼太郎は息も絶え絶えに肩を借りている状態だ。

 つまり、立って歩くことすら儘ならない死に体の鬼太郎を、地獄童子が肩で支えているのである。

 まぁ、無理もあるまい。修行は今日で六日目。一日置き程度の休憩を挟んではいるが、殆ど焼け石に水だ。修行を終える度に力は着実に上がっているものの、それ以上に疲労の方が大きい。

 何せ左半面が完全に白骨化し、髪の毛は全て白く染まり、身体の至る所が干からびているのだから。

 むしろ、これでよく生きていられるものだと、鳴女なら呆れる事だろう。それ程までに、鬼太郎の魂は摩耗していた。

 

(……次に一戦交えたら、その時が最期かもな)

 

 その事を鬼太郎は正確かつ冷徹に判断していた。次しかない、それっきりだと。

 だが、やらねばならない。大逆の四将が何者かに逃がされ、来訪者の復活が間近となっている。弱音を吐いている暇など無いのである。

 

『もう一度だけ聞くぞ。……お前は本当に、それで良いのか?』

 

 ふと、地獄童子が尋ねる。今自分が肩を貸している鬼太郎の身体が、悲壮で重い覚悟に反比例するかの如く、あまりにも軽過ぎたせいだろう。

 それに、彼には仲間がいる。たくさんの友人や家族が、今も鬼太郎の身を案じ、悲痛な想いで待っている。

 その人たちに対して、こう言っては何だが、今の彼はかなり不誠実だ。自分の命を顧みず、心と魂を擦り減らし、一時の肉体的な頂点を得ようと足掻いている。こんな奴を心配する身になったら、遅かれ早かれ絶対にノイローゼになる。

 事実、約二名程その傾向が見られている。鬼太郎が修行の真実を告げてから、パッタリと行方が知れなくなった、真奈と猫娘がそうである。目撃者によると、真奈は実家の奥から奇妙な本を引っ張り出し、猫娘は怪しげな老婆と落ち合っていたらしい。一体何をするつもりなのかは不明だが、誰にも相談せずに姿を晦ました事を鑑みるに、真っ当な事ではないだろう。

 後には退かず、誰にも媚びず、自らを省みない、この三人はどうなってしまうのか。サポートに徹している地獄童子からしても、気が気ではなかった。

 

『ああ。今更、後悔しても遅いし、する気も無い。……僕は僕の選んだ道を行く。猫娘やまなだってそうさ』

『……知ってたのか。話した覚えはないんだがな』

『地獄耳なんでね』

『そうか……』

 

 しかし、鬼太郎はブレない。命を削った代わりに、かつての矜持を取り戻した彼に、迷いなど一欠けらも無かった。

 最早、自分から言えることは何もない。仮に声を掛けるとしたら、それは真奈や猫娘になるだろう。

 地獄童子はそう判断し、それ以上は何も言わなかった。

 

『だけど、これだけは言っとくぜ。……お前、絶対に地獄行きだぞ』

 

 最後にそう皮肉って。

 

『無事に行けたら、それ以上の幸いは無いね』

 

 まぁ、倍返しされた訳だが。

 

(本当に気に食わない奴だよ、お前は……)

 

 そんな鬼太郎だからこそ、地獄童子は手を貸し、肩を貸しているのだ。

 

(何処までも分家筋だな、俺は)

 

 王の行く道を、逸れる事の無いよう脇から支える。両親がそうだったように、自分もまた鬼太郎の歩む道を並んで歩いている。

 その事実が、何処までも地獄童子を虚しくさせた。出来れば、切磋琢磨し合うだけのライバルで在りたかったと。それなら、ここまで虚ろな気分になる事も無かったろうに……。

 

『さぁ、着いたぞ』『ああ』

 

 そんなこんなで、二人は奈落の穴を抜け出したのだが、

 

『………………』

 

 そこには、重々しい表情の蒼坊主が立って待っていた。

 

『……どうしたんだい、蒼兄さん?』

 

 様子がおかしい。何時もの飄々とした態度は微塵も見受けられず、それどころか何かに怯え、震えているように見える。この無茶苦茶な修行をねずみ男経由で持ち掛けた時も、ここまで動揺する事なんて無かったのに。

 

『ついさっきの事だ。……「奈落村」で、鳴女に出くわした』

『『………………!』』

 

 だが、蒼坊主が口にした言葉に、逆に鬼太郎たちの方が狼狽してしまった。何故、鳴女がそんな所に?

 

『前に封印した、天邪鬼とラクシャサの札があったろう? 暫くここを離れられないし、とりあえず地脈の影響が強い「奈落神社」に奉納してたんだが、妙な胸騒ぎがしてな。様子を見に行こうとしたら、案の定ヤバい事が起きていた』

『一体何が……?』

『――――――「奈落村」に、いつの間にか「死人憑き」が根付いていやがったんだ』

『なっ……!?』

 

 そんな馬鹿な。死人憑きは文字通り死体に取り憑く妖怪。滅んで久しい「奈落村」に、依り代となる死体は無い筈である。

 

『まさか!?』

『そう、鳴女が秘かに持ち込んでいたんだ。餌も含めてな。奴さんは“自由研究”が好きらしい』

『自由研究って……』

 

 軽いノリで厄介なモノを持ち込むな、と言いたくなる。餌は十中八九、零余子とかいう化け物染みた人間だろう。再生力を思うがままに操れると言うし、間違いあるまい。

 しかし、話はそれで終わりではないようだ。

 

『――――――で、その持ち込まれた死人憑きの1体が、成長と進化を重ねて、蠅声為邪神になってやがった』

『『ブフッ!?』』

 

 これには地獄童子共々吹き出した。草が生えるとはこの事である。

 

『しかも、第一発見者は、何故だか迷い込んでいた西洋妖怪の二人組だ。俺が駆け付けた時には蠅声為邪神を倒していたから、消耗の事を考えても、かなりの手練れだな。おそらくはバックベアードの所のお偉いさんだろう。奴らは実力主義の集まりだからな』

 

 その上、限りなく嬉しくない情報が追加される。何がどうしてそうなった。

 

『奴らは……バックベアードと鳴女は、何某かの盟約を結ぶつもりだ。二人組が「奈落村」に来ていたのは、その為の“実力テスト”らしい。詳しい事は分からんがな』

 

 そして、この結末だ。ふざけた話である。全く以て笑えない。

 

『……済まねぇな、鬼太郎、地獄童子。何も出来ずに、突っ立っててよ』

 

 だが、蒼坊主は苦笑いを浮かべていた。笑わないとやっていられない、という感じだ。

 

『そんな事無いよ、蒼兄さん』『そうだぜ。多勢に無勢だったんだろう?』

『いいや、それでもだ。“あの妖気”を感じたなら、命を懸けてでも挑むべきだった。……だが、俺は動けなかった。情けない事に、足が竦んじまったんだよ。鳴女の放つ(・・・・・)妖気の質に(・・・・・)

『えっ、それはどういう意味だい、蒼兄さん?』『んんっ、何じゃそりゃ!?』

『――――――丁度良いから、話してやるよ。あの日……皆が皆、“世界最後の日”と呼ぶあの時に、俺が何を見たのかを……』

 

 さらに、苦々しく語り出す。己が見た、本当の最期という物を……。




◆地獄童子

 原作版鬼太郎の番外編「最新版」及びアニメ第3期に登場した、生者より生き生きした亡者にして、地獄の用心棒。現世では嫌われ者、地獄ではあぶれ者として大暴れした結果、何か気に入られて雇用されたらしい。
 何処ぞのマスターが如くマフラーを自在に操り、何故か髪の毛針を使用出来るなど、出自には謎が多いが、そんな事はどうでもいいくらいに目立っている。お前は本当に原作にいないオリキャラなのかと言いたい。
 「最新版」の最期は「にせ鬼太郎」染みた呆気ない物だったが、“幽霊族のもう一つの末裔”である可能性が示唆されているので、普通に復活するかもしれない。アニメ版では生存し地獄に残っているが、後に肉体を乗っ取られたりする(たぶん元に戻れた)。何れにしろ、ロクな目に遭っていない。
 今作では鬼太郎たちの王族に対する分家筋の末裔として登場。性格はとある事情で幾分か落ち着いている。
 彼の両親は謂わば王族の近衛騎士のような物であり、目玉おやじがまだ現役だった頃は何だかんだと共闘する事も多かったが、世界最後の日に戦死した。その結果、地獄童子は自動的に天涯孤独となり、荒んだ人生を歩む事になる。
 その後はアニメの流れで宿敵と書いて友と読むような関係になり、最新版の如く一度死に掛けたが生き残り、その代わりに――――――。
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