『おい、そこの幼女』
「いや、幼女って言わないで下さい。好きでこうなってる訳じゃないですから」
『あ~ん?』
こいつは何を言ってるんだぁ?
『……お前のせいじゃないのか?』
「違いますよ。確かに私はサキュバスの血も入ってますが、自分の夢をコントロール出来る程に濃くは無いんですよ」
『“自分の夢”?』
「はい。おそらくですが、ここは私の夢の中です。この身体は、たぶん酒に溺れていた時に喚いていた言葉が原因かと……」
『お前、酔ってる時の事を覚えてるタイプか。なら、あんなに飲まなきゃいいのに』
カミーラとヴォルフガングも、かなり心配してたぞ。滅茶苦茶ドン引きもしてたけど。
「――――――面目次第もございません。嬉しくって、つい……」
『………………』
ああ、こいつの中ではアニエスを救う目途が立ったと思ってるのか。実際は、まだ十三階段を数えながら上ってる状態なんだけどね。何時気付くかなぁ~?
それはそれとして、
『状況を整理しようか。今、私はお前の見ている夢の中に居て、その設定に従った姿になっている。ただし、お前の夢とは言っても初期設定以外は弄れない、半ば閉じ込められているような状態だと』
「はい。私が自意識を持ったのは鳴女殿より少し前ですが、会うまでに色々と確かめてみたものの、身体能力が超人レベルというだけで、魔法の類は一切使えなくなっています」
『つまり、お互いに雑魚って事か……』
一応、身体能力は凄まじいようだが、あくまで“人間にしては”だろうし、何より妖術や魔術の類が一切使えなくなっているのが痛い。無限城に引き籠れないじゃないか。
いや、と言うかさ、
『そもそも、この夢はどういう舞台なんだ?』
今の所は普通の家からスタートしているが、ゲーム内容によっては地獄が始まるからな。バイオハザードとかだったら、さっそく詰んじゃいそうな気がする。
「えっと、ですねぇ……」
すると、アデルが言い難い……というより恥ずかしそうに、告白した。
「――――――「ポケットモンスター
地獄どころか、夢と冒険の世界だった。いい歳した魔女が何を夢見とんねん。
いや、つーかさぁ、アデルさんや、
『そんなタイトル聞いた事無いけど?』
「はい。前にベア子様と話が盛り上がった時に考えた、謂わば「二次創作ゲーム」なんですよ」
『………………』
お前、本当はただのオタクだろ。上司の趣味に合わせたとか言ってたけど、実際は自分の趣向も多分に含んでるだろ、絶対に。そうでなきゃ、こんな凝った作りにならんわ。
と言うか、待てよ。二次創作と言えど、ここがポケモンの世界だとしたら、殿堂入りしないと、夢から覚めないのでは?
うーわー、これからこいつと一緒にジム巡りして、悪の組織をぶっ倒してからリーグ戦に挑まなきゃならんの?
クソ程に面倒臭いんですけど……。
『……フゥ、まぁいいや。とにかく、ここが何地方で、どういう設定なのか教えてくれ』
「は、はい。実を言うと、私も若干うろ覚えなので、あまり期待しないで欲しいのですが――――――」
その後、私たちは今知り得る情報を擦り合わせた。
ここはオーストラリアを90度回転させた三日月型の大陸「ティアーザ地方」であり、オセアニア神話とクトゥルフ神話が入り混じった、不気味で陰気な闇の深い社会が成り立っている場所らしい。普通に嫌だな、その設定。夜に窓の外を見たら死んだりしない?
ジムは従来通り8個で、四天王とチャンピオンをぶっ倒す流れは同じ。悪の組織は「スマイル団」と「ネオ・ボランティア」の2つがあるそうな。
パッケージはクレセリアとダークライの進化形が飾り、他の伝説ポケモンはオセアニア系とクトゥルフ系で大別され、結構いるんだとか。既存のポケモンもそこそこ出て来るらしく、主にカントー&ジョウトやアローラのポケモンが多いらしい。リージョンフォームも存在し、それらは「ティアーザのすがた」と表現される。
ちなみに、主人公の少女は私で、ライバルポジションはアデルである。
選択肢が無かったから仕方ないとは言え、こんな姦しい面子で良いのか?
『ちなみに、クリアするのにどれくらい掛かるんだ? 配信に間に合わないと困るんだが』
「配信に命懸けてますね」
『当然だろう。つーか、お前ん所の幹部以上の奴はほぼ全員登録者なんだから、お前こそもう少し焦った方が良いぞ』
私のチャンネルはバックベアードとヴォルフガングが、零余子にはヴィクターが、丸子にはベア子が、チャラトミには何故か目玉おやじが、それぞれ登録しているので、現状何処にも属していないのは
「た、確かにィ! ベア子様やヴォルフガングに怒られるぅ!」
イヤンイヤンと首を振る幼女アデル。可愛いなぁ、こいつ。肉体に精神が引っ張られてるんじゃないか?
「いや、でも、現実とは時間の流れが違うので、おそらく一夜の夢で済むかと……」
『そうか。なら、何時までもこんな所に居ないで、さっさと御三家貰いに行こうぜ』
「そうですね! そうしましょう! レッツだゴーです!」
『可愛い奴だなぁ……』
そういう事になった。
さーて、何が貰えるのかな~っと。
……で、ポケモン博士の居る研究所にやって来たのだが、
「ようこそぉ♪ 我がアマリリス
「『すいません、間違えました、帰ります』」
「あ~ん、待ってぇ~♪」
全力で踵を返したくなった。何だ、この変態は。
「君たち、ポケモン貰いに来たんでしょ~? ほら、こっちに取りにおいでぇ♪ 図鑑もあげるよぉ~♪」
どうしよう、本当に気持ち悪いんですけど。見た目はパープルのロングヘア―が奇麗な絶世の美女なのに。
しかし、ポケモンを貰わない事には話が進まないので、渋々かつ嫌々に近付いて行く。
「ようやく来てくれたねぇ♪ それじゃあ、この中から好きなのを選んでねぇ♪」
『ゑ……?』
だが、アマリリスなる博士が差し出したのは、ゴミのような小さな3つの化石。モンスターボールではなかった。
『おい、アデル。これはどういう事なんだ?』
「えっと、ティアーザの御三家は、外来生物のせいで一度絶滅してるから、化石から復活させる必要があるんですよ。ティアーザ地方にはそういうポケモンが結構います」
『設定が黒過ぎるだろ……』
何で最初から倫理観を問うような展開になるんだよ。
『ま、まぁいいや。それじゃあ、私は「ハウボル」を選ぶかな』
私は考えるのを止めて、御三家のくさタイプ「ハウボル」を選択した。尻尾がタンポポの葉によく似たユウレイヒレアシナナフシみたいな姿をしており、タイプはいわ/くさの複合らしい。
『いわタイプが複合してるとは珍しいな』
「ティアーザ地方は熱帯や乾燥地帯が多いから、いわ・ほのお・くさタイプのポケモンが多くて、技も充実してるんですよ。後はどくタイプがかなり強化されてますね。逆にこおりタイプは極僅かで、はがねとフェアリーへの風当たりが若干強いです」
『ふーん……』
ほのおタイプはともかく、不遇ないわ・くさ・どくが大幅強化されるのは素直に嬉しいな。私、どくタイプが好きだからねぇ。
「ちなみに、貴女はどうするぅ~?」
「あ、じゃあ私は「ウルフル」でお願いします」
アデルはほのおの「ウルフル」を選ぶようだ。尻尾が燃え上がった、フクロオオカミの幼獣を思わせる容姿で、いわ/ほのおの複合タイプである。素早さ高そう。
「よーし、それじゃあ、復活させちゃうよ~ん♪」
私たちが選び終わると、アマリリス博士は超獣製造機みたいなマシンに化石を放り込み、メモリをセットした。
さらに、怪しげな音を立てながら機械がピカペカと動き、やがて「チン!」とポケモンたちが復活した。何かコンビニの冷凍食品をレンジ掛けしたみたいだな……。
『ボルボルゥ~♪』『ウルフゥッ♪』
「『おおぉ……』」
しかし、実際に動いている姿を見ると、やっぱり感動するし普通に可愛い。そのジト目が良いんよ、ハウボルちゃ~ん♪
「……あら、今回の化石は当たりみたいね。2匹とも隠れ特性持ちよ」
『え、そうなの?』
その上、この2匹は隠れ特性であるらしい。調べてみると、ハウボルが「てきおうりょく」で、ウルフルは「もらいび」だった。良い特性じゃないか。
「化石系のポケモンは、1/2の確率で隠れ特性で復活する設定なんですよ」
『いわタイプを優遇し過ぎじゃね?』
「好みの問題です」
『お前のせいかよ』
まぁ、強いから良いか。
『……ちなみにだけど、アマリリス博士。残りの1匹はどうするんだ?』
「うん? 捨てるよ? 裏庭辺りにね♪」
『普通に言いやがったな! だったらくれよ!』「私も欲しいです!」
「なら、庭先でバトルして決めなさいな。勝った方にあげるわよん♪」
「『やってやらぁ!』」
こうして、私たちは恒例のライバル戦をする事となった。いそいそと外に出て、決戦のバトルフィールドにて対峙する。
『行け、ハウボル!』『ボルッ!』
「頑張って、ウルフル!」『ウルフゥ!』
そして、お互いにボールからそれぞれの御三家ポケモンを出した。
レベルは双方共に5で、ロクな技を覚えていない(ハウボルは「たいあたり」「まるくなる」「このは」、ウルフルは「たいあたり」「すなかけ」「ひのこ」)。ここはガンガン行こうぜ、だ!
「ウルフル、「すなかけ」!」『ウルッ!』
『あ、姑息な真似を!』『ボルゥ……ッ!』
素早さは向こうが上か。
つーか、図鑑で調べたら、ハウボルの素早さ種族値が10しかなかったわ。その分、かなり硬いみたいだけど、砂掛けで運ゲーに持って行かれると辛い物があるぞ。
「畳み掛けろ! 「ひのこ」!」『ウルルゥッ!』
さらに、火の粉で火傷を負わせてきた。タイプの関係上、等倍ダメージしか通らないが、攻撃力半減はヤバいって。
「よし、もう一度「ひのこ」で止めよ!」『ウルファァッ!』
『ぐわばぁっ!』『ボルゥン!』
クッソー、普通に惨敗したわ。素早いいわタイプってだけで面倒なのに、ああも搦め手を使われると勝ち目が無い。せめて、真面ないわ技がないと、ウルフルの弱点が突けないんだよねー。
というか、やっぱりお前オタクだろ。このバトルの上手さは確実にポケモンをやり込んでいる。
「決まりねぇ。「クラトン」はアデルに贈呈しまーす♪」
「やったー!」『ちぇ~』
バトルに勝ったアデルに、みずタイプ御三家のクラトンが贈られる。ゼニガメとスッポンモドキを融合させたような、若干情けない目付きをした、いわ/みずタイプのポケモンである。
「それじゃあ、夢と冒険の旅に行ってらっしゃいな♪」
「『おーっ!』」
そんなこんなで、私たちの旅は始まった。目指すはここから西に進んだ先にある、ミンディアル州の「トゥハーデシティ」。
ちょっと出鼻を挫かれた気もするが、どうせ夢物語だし、サクサクと進めましょー。
◆ポケットモンスター L&D
ベア子とアデルの趣味が多分に反映された二次創作ゲーム。あくまで同人作品だが、バックアップが充実し過ぎている為、クオリティは無駄に高い。
陰謀渦巻く暗黒大陸「ティアーザ地方」が舞台であり、政府が倫理観を問われるような政策を打っていたり、勃発する犯罪のレベルが冗談じゃなかったり、ジムリーダーや四天王たちの秘められた過去が闇黒世界だったりと、真面に発売したら色々と問題がある作品となっている。オーストラリアがモチーフになっている為か、いわ・ほのお・くさ・どくタイプが強化されている。
ちなみに、「C(カオス)」というマイナーチェンジ版まで考えているらしい。ガチガチである。