さて、煉獄さん擬きから必須バッチと要らん技マシンを貰い、次なる町へ旅立とうとした時、ちょっとした問題が起こった。
『ギギャアアアアォヴ!』
何と、進化したハウボルが暴走したのである。
アマレとの決戦後、ハウボルが進化して「ボルデビサス」になったのだが、祝福のつもりなのか、アデルがクラトンを抱えて近付いてきたのが良くなかった。この時まで彼女も忘れていたようだけれど、ハウボルとクラトンの祖先はかつて大陸の覇権を賭けて血で血を洗う生存競争を繰り広げていたらしく、その時の記憶が遺伝子に刻み込まれているとの事で、進化直後という色々と不安定な時に両者を傍に置いておくと、暴走する場合があるんだとか。流石は古代ティアーザ語で「疾風の通り魔」という意味を持つ名前の持ち主だ。
だから、そういう大切な事は早く思い出して、早急に伝えろと……本当にこの女は。
『ギギギ……ギァアアアヴォッ!』
『おいおいおいおい……』
しかも、あろう事か私を標的にしやがった。
おい、こんな幼気な少女をポケモンと同列で扱うなよ。槐の邪神といい、こいつといい、どうして虫けらは私を殺そうとしてくるのか理解に苦しむ。
まぁ、だからと言って、大人しく蹂躙されるつもりは無いがね。
『フン!』『ギギャヴォッ!?』
私は斬り掛かって来るボルデビサスの鎌を流すように受け止め、勢いを利用する形で引っくり返し、そのまま地面へ叩き付けた。何時も通り、女子の嗜みって奴よ。
『――――――逆らうな。OK?』『ギ……』
さらに、“次やったらマジで殺すぞ”という威圧を込めて睨み付けてやれば、ボルデビサスはすっかり大人しくなった。進化の暴走を乗り越えたのだろう。私に対する畏怖の念によって。
そうそう、ペットは主従関係をしっかりと教えてやらないとね。絆だけでは乗り越えられない問題など、幾らでもあるのだから。
「あ、ぅ……あ……」
今の
本来ならこういう時にこそ彼のピクシーリングが輝くのだが、生憎とボブは動けなかった。過去のトラウマが蘇り、彼の腰を抜かしてしまったに違いない。
これ、思った以上に致命的な問題じゃないか?
「ウム、見事な腕前だ! よもや、キミのような少女が、ボルデビサスを手懐けてしまうとはな!」
すると、その事態を黙って見ていたアマレが、相変わらずの煩い声で賞賛してきた。
『いや、見てないで手を貸せよ』
「そこの少年が襲われた時にはそうしただろうが、ボルデビサスが向かって行ったのはキミたちだ! 詰まる所、それは飼い犬に噛み付かれたような物! 彼らの命を預かっている以上、きちんと管理するのはキミたちの役目だ! まぁ、流石に本当に殺されそうな時は止めたがね! 生憎とその必要が無さそうだったから、見守らせて貰った!」
『その根拠は?』
「勘だ!」
『わーお』
清々しいまでの無責任な発言だった。
だが、生き物を飼うとは、そういう事である。彼らの命を手中に収めているのだから、適切な管理が出来なければ、相応のしっぺ返しが来る。実に当たり前の事で、それ故に何も言えなかった。呆れ半分、というのもあるが。
と、そんな感じで、ちょっとしたトラブルはあったが、アデルもトゥハーデジムに挑戦し見事にクリアして、この町には本当に何の用もなくなった。
だから、私たちは祝勝会も兼ねて豪勢な夕食を取り、格安ビジネスホテルに泊まって疲れを癒してから、次の町を目指す事にした。とりあえず、ビフテキの材料が何なのかは気にしないでおく。
その間、ボブはビックリするぐらい静かだった。晒してしまった醜態を恥ずかしく思っているのかもしれない。
しかし、翌朝にまたしても事件が起こる。
「アナタ、人として生きる価値がありませんよ」
「う、うるさい! お前に何が分かるんだよ!」
目覚めの時を迎えたら、何故かボブの姿が無くて、早朝の空気でも吸いに行ったのかな、と思っていたらこれだよ。
何だか知らんが、顔の半分だけを仮面で隠した、道化師風の男を前に、ボブが再び腰を抜かしている。何処までも情けない奴だな、お前は。
そもそも、この男は誰なのだろう。こんな朝っぱらからピエロを演じている時点で真面じゃないが、もしかしてペニーワ○ズの親類か?
「あ、こいつ、「スマイル団」の幹部だ……」
だが、アデルがポツリと漏らした言葉により、全てを理解する。
「スマイル団」とは、このティアーザ地方における悪の組織の片割れであり、NGO染みたネオ・ボランティアに対して数十人程度の小規模な集団で、表向きはサーカス団として活動している。
しかし、その実態は少数精鋭の戦闘集団であり……殺人鬼の集まりである。
スマイル団に所属するのは、ポケモンが親代わりだった、ポケモンしか信用出来ない、“ポケモン至上主義”の人間たちだ。αなアクア団を突き詰めたのような連中だと思えばいい。
しかも、“実はポケモンを独り占めしたいだけだった”プラズマ団みたないな似非慈善団体ではなく、ポケモンを傷付ける者は容赦なく殺害してしまう、マジもんのキチ○イ共である。
だが、誰彼構わず殺戮するようなトリガーハッピーでもなく、奴らが“処刑”するのは救いようのない人間だけであり、“ポケモンとちょっと喧嘩した”だの“ポケモンに怪我をさせてしまった”程度で手を上げる事は無い。特に子供に対しては寛容で、悪い事をしたら叱るくらいには良識のある大人なのだ。言うなれば、“ポケモン世界の仕置人”みたいなものである。
つまり、ボブは
『おい、そこのペニーワ○ズ』
「おや、おはようお嬢ちゃん。ワタクシはジェフリル・マーダーです。以後お見知りおきを……」
ミルウォーキーの殺人鬼みたいな名前してやがんな。
『そんな事はどうでもいい。そいつをどうするつもりだ?』
「おやまぁ、アナタのお友達でしたか。それでは、最期のお別れをどうぞ」「ひっ……」
うーわー、話が通じなさそう。友達にお別れしろとか言うか、普通?
『……じゃ!』「じゃ!?」
まぁいいや、迷惑を掛けるような連れを生かしておく理由は無いしな。それ言っちゃうと、こいつ以上に捨て置かなくちゃならん奴が居るが……。
「な、鳴女さん、それはちょっと……」
『えー、助けなきゃ駄目ー?』
「駄目というか、イベントが進まないのですが……」
メタな理由だなぁ。
『とりあえず、理由を聞いても良い?』
「それはご本人にどうぞ。これで最後ですからね」
『………………』
悪い大人だ。周りの大人たちもね。何をしたのか知らんが、子供が殺されそうになっているのに知らんぷりとか。いい歳して。
ここまであからさまだと、逆に
『お前、何をしたんだ?』
「ボクは悪い事なんてしてない……!」
しかし、ボブはこの調子である。仕方ないわねー。
『行け、ボルデビサス』『ギガァアアアヴォッ!』
「な、何をする気だよ!?」
『悪いかどうかは関係ない。何をしたか言え。さもないと、ピエロの前に私が処分してやる』「ええぇ……」
「そ、そんな……!」
だけど、今のお前はそれくらいしないと喋らないだろ。意固地になったクソガキは、恐怖を味わわせてやるのが一番だ。私は親でもなければ友達でもないんでね。遠慮なく脅させてもらう。
「な、何なんだよ……ただ、ゴミ捨て場で喧嘩してたポケモン同士を、“本気”にさせただけじゃないか! 害獣と害鳥を、誰の手も汚さずに“処分”しようとしたただけなのに、どうしてボクがこんな目にぃ……!」
『いや、普通に動物虐待だろ』
ようするに、お互いに死ぬまで殺し合わせたって事だろうが。そりゃあ温厚なスマイル団も怒るわ。バリバリ逆鱗に触れてるもん。
『よし、じゃあね!』「だから助けなきゃ駄目ですって!」
えー、もういいじゃん、死んでも。
「お話は終わりましたか? では、離れて下さい。血で汚れますので」
ほら、ジェフリルさんもこう言ってるし。
「そこまでだッ!」
だが、そこへ水を差す――――――というより火を投げ入れる、暑苦しい女が。ジムリーダーのアマレの登場である。挑戦者を試すだけでなく、町の治安を守るのも仕事だから、来るのは当然だが。
「ウム、危ない所だった! 運悪く月の物が来ていたせいで遅くなってしまった! 怖い思いをさせて済まない!」「うぅぅ……うぁああああっ!」
そして、とんでもない事をサラッとカミングアウトしながら、ボブを抱き締めて保護。……何か私からも守ってない?
「おやおや、ジムリーダーのアマレ様ではありませんか。何時も治安維持に尽力して頂き、ありがとうございます。お陰様で、周期的にこの町でサーカスを開けていますよ」
しかし、アマレがやって来たのにも関わらず、ジェフリルは全く焦る様子がなく、それどころか日頃から交流があるかのような発言をした。町の人々もそれが当たり前のように受け入れている。“普段はサーカス団として活動している”という話は本当みたいだな。
「ほほぅ、ならば何故その子を殺めようとする?」
だが、流石に今回の件は看過出来ないのか、アマレが顔を顰めて睨み付ける。
「それはもちろん、この子が罪を犯したからですよ。その腕輪の力でポケモン同士を無理矢理戦わせ、どちらも殺そうとした。前々からネオ・ボランティアの遣り口は気に入りませんでしたが、人の為に活動しているのだと我慢していました。しかし、流石にこんな事があっては、堪忍袋の緒も切れますよ」
「で、でも、ボクは……」
「おや、文句がお有りなので? なら、自分がその立場になって、殺されてから言えば良いじゃないですか。出来るものならね」
「………………」
むろん、ジェフリルは聞き入れない。ボブが弱々しく抗議するが、どう考えても彼の方が正論を言っているので、すぐに押し黙った。そういうとこやぞ。
「それは違うぞ!」
すると、アマレが希望野郎みたいな事を言い出した。
「何ですか? まさか、子供だから赦せと? それは些か都合が良過ぎるのでは?」
「そんな事はない! 子供が道を誤らないよう導き、間違ったら叱ってやる! それが
「……まるで大人に更生の余地はないとでも言いたげですね」
「どう取られようと構わん! 少なくとも、今この場では、オレは彼の味方だ!」
さらに、リピートボールを構え、戦意を示す。やる気満々のようだ。そうかいそうかい。
『なら、私はお前の敵だな』「「ゑ?」」
「おやおや、これはこれは」「………………!」
そっとジェフリルの隣に立った私を見て、子供2人と元子供が絶句する。そんなに驚く事かね?
「失礼ですが、彼はアナタのお友達だったのでは?」
『いいや、ただのお荷物だ。この機会にはっきり
正直ね、ライドポケモンを自力で用意出来るようになった時点で、そいつはもう用済みなのよ。
「ちょっ……鳴女さん、話がややこしくなるから止めて下さい!」
『だが断る』
「それを断る! ……こうなったら仕方ありませんね。煉獄さん!」「いや、アマレだが?」「あの人でなしを、私と一緒に
『このロリコン共がぁ! テメェらこそ
「ボム、今の内に逃げて下さい! 確か、町の西に鉄道があった筈です!」「……ボブだけど分かった!」
そして、ボブをアデルが逃がし、私たちは対峙する。余計な事を。
それはともかく、L&D初のダブルバトルの始まりだぁ!
「『今すぐ死になさい!』」
「「いい加減にしろぉ!」」
――――――ジムリーダーのアマレと、ライバルのアデルが勝負を仕掛けて来たッ!
「行け、ジュダーム!」『ジュダジュダマダームジュラジュラムダァ!』
先ずはアマレがティアーザルージュラの進化形、ジュダームを繰り出す。色合いは変わっていないが、頭身が8くらいに上がり、顔がアストラル世界の住人になっている。可愛いっちゃ可愛いけど、踊り子というより宇宙人みたいになっちゃったなぁ。
「頼みますよ、ズガドーン!」『ボボボーボボーボボォーン!』
そして、お前は準伝説を持ち出すなよジェフリル。幾ら幹部だからって、UBはないやろ。それも色違いって。
だが、味方としては頼もしい。是非とも自分ごと敵を吹っ飛ばしてもらおう。
「鳴女さん、先に目覚めないで下さいね! ウルファング!」『ウルファアアアッ!』
アデルが繰り出したのは、ウルフルの進化形である「ウルファング」。無事に成熟した姿というか、スラっとカッコ良くなった。ヘルガーと同じレベルで地獄に居そう。フクロオオカミはやっぱり良いなぁ。
しかし、敵に回すと厄介な相手だ。種族値が少々特殊寄りになったルガルガン(真昼の姿)と言った感じで、非常に素早い上に覚える技も優秀と、攻めに関しては文句の付けようがない。その分、防御は手薄だが、殺られる前に殺っちゃうスタイルだから、大した問題ではないだろう。
『じゃあ、お前はここで永遠に眠っとけ! ボルデビサス!』『ギギャアアヴォッ!』
最後はご存知、私の下僕ボルデビサス。こいつ、改めて見ると凄い形してるよね。新しく鎌状の前足が発生しただけでなく、全体的に鋭角となり、目に至っては最近の仮面ラ○ダーっぽい複眼に変化している。背中には彗星怪獣を思わせる翅が生え、葉っぱみたいだった尻尾はDホイール(遊星号)のように太く逞しく変じている。
何というか、宇宙群獣ばりに様々な昆虫のパーツが合体した、合成獣染みたポケモンだ。あと、蠅声為邪神にシルエットが似ている。制作時期から言って、アデルはまだ知らなった筈だが、偶然とは恐ろしいものである。
……凄い、私だけ仲間外れじゃん。皆みんな、ほのおタイプ入っているのに、くさなんだけどw。
だが、ここでアズレーンとか出しても足を引っ張るだけだし、その他の面子はまだ進化してない上に弱点ばっかりだから、そもそも戦いにならない。ここは素直に
繰り出せる数は、全員で合わせるというルール上(※絶対厳守で罰則金有り)、お互いに1匹ずつ。両方倒れた側が負けるダブルバトル、いよいよ開始だ。
「ジュダーム、「れんごく」!」『ジュダムダァッ!』
『守れ、ボルデビサス!』『ギギャァアヴォッ!』
一番手はジュダームの煉獄。進化してから素早さに磨きが掛かり、攻撃と特攻も上がっている。耐久は脆いってレベルじゃないけどね。
しかし、等倍でダメージが通るボルデビサスを狙う事は分かっていたので、何とか守り切った。
つーか、マジで煉獄撃ってくるの止めろ。
「ウルファング、「パワージェム」!」『ウルファッ!』
次に動いたのはウルファング。ズガドーンにダメージを与えようとパワージェムを放っていく。
「甘いですね。「きあいのタスキ」で耐えるのです!」
だが、ズガドーンは気合のタスキを持っていたらしく、瀕死の一歩手前で耐えた。それはつまり、ビックリヘッドを一発撃てるという事だ。
「ズガドーン、「ビックリヘッド」です!」『ボンバァアアアアアァマンッ!』
「「ドワォ!?」」『ウルファッ!』『ジュダァ~ン!』
このドカンと一発で耐久が紙同然のジュダームが沈み、紙が羊毛フェルトになった程度のウルファングも瀕死状態になる。
もちろん、ボルデビサスは守るを使っていたので無傷である。つまり、私たちの勝ちだ。
「ウム、流石はスマイル団の幹部! 油断した訳ではないが、上手い事持って行かれてしまった!」「うぬぬぬぬ……ぱぉーん!」
ハッハッハッハッ、負け犬たちが何か吠えているよ。
しかし、危なかったのも事実。ビックリヘッドは自爆技だから、ボルデビサスが倒れた状態でズガドーンが弾けてしまうと、自動的に私たちの負けとなってしまう。
だから、煉獄が飛んで来た時はマジでビビった。ホント、あれを当てて来るなよ……。
「だがしかし、ボブ少年は逃げ果せた! 目的は達成した!」
「いやいやいや、それもまた甘い考えですよ、くふふふ……」
それでも、ボブをジェフリルから引き離す事に成功したのは事実であり、自信満々に語るアマレだったが、それをジェフリルが鼻で嗤う。
「実を言うと、ワタクシは今日、とある人と待ち合わせをしていましてね」
「……まさか」
スマイル団の幹部であるジェフリルと二人きりで落ち合う――――――わざわざそんな真似をするのは、同じ幹部クラスか、もしくは……。
「ええ、今頃ボブくんは駅で鉢合わせていると思いますよ……我らが敬愛する団長とね」
◆ヨルウィ
・ティアーザ図鑑№010
・分類:やむいもポケモン
・タイプ:むし/くさ
・性別:あり
・特性:だっぴ/さいせいりょく(隠れ特性)
・種族値
HP:55
こうげき:25
ぼうぎょ:65
とくこう:25
とくぼう:70
すばやさ:21
・図鑑説明
木の枝や根に擬態しながら、森で静かに暮らすポケモン。殻は硬いが中身は栄養満点で大変美味であり、ポケモンだけでなく人間からも狙われている。進化の時はより硬くなるが、更に美味しくなるので余計に狙われる。その為、進化するまで生き残れる個体は非常に少ない。また、時間帯によって3種類のポケモンに分岐進化するという、面白い特徴がある。