鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

70 / 116
 幽霊電車は鬼太郎の中でも2番目に好きな話。


幽霊電車、地獄行き

 電車が揺れる。

 

「………………」

 

 視界が揺らぐ。

 これから一体どうすれば良いのだろう。

 何処へ向かえばいいのか、何時になればゴールなのか。最早、何一つ分からない。

 

「……閑散としているな」

 

 普段なら結構埋まっている事が多いのだが、今日に限って座席の客は疎らで、スカスカである。ボブを含めても7人しかいない。

 今はあまり話し掛けられたくないから別に構わないが、流石にここまで人がいないと不気味に感じてしまう。

 

(……というか、ここの電車、こんなに古めかしかったっけ?)

 

 そもそも、内装からして気味が悪かった。床が腐り掛けた木の板で、壁は金属だがそこかしこが錆び付いており、座席や吊革も硬く薄汚れ、何なら空気そのものが湿って淀んでいる。

 

(そう言えば、誰も話すどころか動きさえしていない……)

 

 誰も彼も皆一様に俯き、微動だにしていない。まるで死体のようだ。

 

「………………!」

 

 それに、今さっき気付いたが、外の景色がおかしい。まだ昼の筈なのに薄暗く、空は真っ赤に染まっている。森は消え、闇のように黒く荒れ果てた大地が何処までも続き、所々に捩じくれた岩々が立っている。

 

 ――――――フッ!

 

「何だ……!?」

 

 今、窓の外を何かが横切った。かなり大きく、その上素早い。少なくとも人間ではないだろう。

 

 ――――――スッ!

 

 今度は後部座席をナニカが通り過ぎる。

 さらに、すぐ脇を、真上を、足元を……速過ぎる何者かが動き回っている。

 

『グルルルル……』「………………ッ!」

 

 気が付けば、目の前に凶悪な顔が。青黒い闇を懲り固め、犬の形を成した、恐ろしい魔獣。

 しかし、次の瞬間には消えている。

 

「……えっ!?」

 

 その上、乗客までも居なくなってしまった。何時の間にか照明も落ち、外の赤みが混じった赤黒い闇に支配された薄気味悪い車両の中に、ボブだけが1人。

 誰もいない。何かはいる。光は無い。闇は腐る程ある。希望は見えない。絶望は今目の前にある。聞こえる。自分の息遣いと、ナニカが蠢く音が。狙っている。ボブの命を。

 

『グルァアアアッ!』

「うわぁあああっ!?」

 

 そして、鋭角の一際濃い闇の中から、さっきの魔犬が現れ、乱杭歯の並ぶ裂けた口で食らい付いて来た。

 

「………………!?」

 

 気が付くと、ボブは普通に座っていた。乗客もいるし、あの魔犬はいない。外の景色は相変わらずだが……ともかく、助かった……のだろうか?

 分からないが、

 

「あれ……服が……!?」

 

 何故か装備を外され、部屋着姿になっていた。半袖半ズボンという短パン小僧な格好に、思わずモジモジしてしまう。普通に恥ずかしい。

 いや、そんな事を言っている場合ではなかった。事態が何一つ進展していないのに、ソワソワしていてどうする。それより、ここからどうやって脱出するかを考えるべきだろう。

 このまま進み続けたらヤバい、そんな気がする。直感がそう告げている。

 しかし、どうしたら良いのかは、さっぱり分からなかった。

 

「こんにちは!」

 

 と、乗客の一人に話し掛けられた。ボブよりも更に幼い女の子。所謂メルヘン少女である。笑顔が眩しく、可愛らしい。思わず誘拐したくなる。

 

「え、あ、うん……こんにちは」

 

 とりあえず、挨拶を返すボブ。外は真っ赤だけど。

 

「わたし、おねえちゃんのことしってるよ!」

「えっ、どうして?」

「だって、まえにたすけてくれたでしょ? サイホーンにおそわれそうになったときに」

「ああ……」

 

 そう言えば、そんな事があったような気もする。流石に何時頃だったかは覚えていないが。ボブが救った人間は数多い。正直なところ、詳しく覚えてはいなかった。

 

「ありがとうね」

 

 だが、褒められて悪い気はしない。それもこんなに可愛い子から目一杯感謝されるとなれば、尚更の事。

 

「あ、ぼくもたすけてもらったことあるよ!」「ああ、キミはあの時の……」「おお、おお、あんときゃ本当に助かったわ」「ありがとう」「サンキューな!」

 

 さらに、他にも老若男女問わず、次々と感謝の言葉を述べて来る乗客たち。車内は何時の間にか大感謝祭だった。

 

(何だ、やっぱりボクのやって来た事は、正しかったんじゃないか……)

 

 温かい言葉に囲まれ、すっかり絆されるボブ。

 しかし、よく考えて欲しい。どうしてこんなに都合良くお礼を言ってくる乗客がいるのかと。それ以前に、何時からこんなに人間が居たのかと。

 そう、少しでも考えれば分かる事。

 

 ――――――これが、悪意ある誰かの演出でしかない、という事に。

 

 もちろん、絶望はすぐさまやって来た。

 

「……でもさぁ、オレのヒトカゲ、そいつのせいで死んじまったんだよ」

 

 温かな人々の間を縫って、悪意ある言葉がボブへ投げつけられる。同い年くらいの、短パン小僧だ。

 むろん、せっかく良い気分になっていたボブは面白くない。

 

「いきなり何? 意味が分からないんだけど?」

「お前がヒトカゲをその腕輪でオレから引き離したせいで、野生を知らないあいつは、次の朝には死んじまったよ」

「それはキミが迷惑を掛けるような事をしたからだろう? 単なる管理不行届だよ。言い掛かりは止して欲しいね」

「……言い掛かりだと? 確かに、オレは調子に乗っていたさ。相手のポケモンを必要以上に痛め付けるような真似をしていたさ」

「やっぱりキミ自身のせいじゃないか」

「だからヒトカゲを殺しても良かったったのかよ!?」

「野垂れ死んだだけだよ。ボクは悪くない」

 

 短パン小僧が幾ら言っても、ボブが聞く耳を持つ事はなかった。

 確かに、彼の自業自得だろう。倒れた相手に追い討ちを掛けるような真似をしていたから、罰が当たったのだ。

 だが、その罰が相棒との死別だったとして、納得出来るだろうか?

 

「……そう言えば、私のヤミカラス、盗み癖があるからって、勝手に逃がされちゃったっけ」

 

 また1人、別の女性がポツリと呟く。どうやら彼女は、悪戯好きなのを迷惑だと判断され、ヤミカラスと引き離されてしまったらしい。

 これはかなりグレーである。迷惑と言えば迷惑だが、そこまでする必要はあったのだろうか。

 

「アタシのポチエナは、懐いてくれなくて噛み付いたからって、没収されたわ」

 

 今度はボブより1歳下くらいの少女。彼女の場合は、人から貰ったポケモンであるが故に懐いて貰えず、噛み付くのが危険だという事で、強制執行されたのだとか。

 これは……どうなのだろう?

 

「儂の友達は、ゴミ捨て場で争ったのが駄目だってんで、相手のヤミカラス共々殺され掛けたよ」

 

 そして、この世捨て人のお爺さん。彼の友達は今朝方、光る物を探そうとゴミ捨て場を漁っていたら、ヤミカラスと喧嘩をしてしまい、誰かの都合で殺されそうになったのだという。

 果たして、一体誰の事なんだろうね?

 

「知らないよ、そんなの。人間、社会に生きているなら、公共の迷惑にならないようにするのは当然の事だろう? それが出来ない癖に、いざ自分が迷惑を被った途端に掌を返すなんて、実に都合が良いね? 痛い目を見るのも当然さ。まったく、馬鹿馬鹿しい」

 

 当然、ボブは切って捨てる。ボブにとって、迷惑を掛けたポケモンは害獣や害鳥どころか、瓦礫同然なのだ。

 

「なら、どうして僕のギャラドス逃がしたの? せっかく頑張って育てたのに……」

「それは、町で暴れるから――――――」

「じゃあ、何で私からラッタを取ったの?」

「それは、店から食べ物を盗ませ――――――」

「それじゃあ、オレから相棒を奪い……」

 

 しかし、文句は延々と続く。光があれば影もある。多いのは救った人だけとは限らないのである。

 

「いい加減にしろよ、社会のゴミ共が! お前らはポケモン共々、居るだけで迷惑なんだよ! 生きる価値なんて無いんだから、さっさと死ねよ、社会の為に!」

「「「そうか……」」」

 

 ボブの暴言に、文句を言っていた人たちが静かになり、

 

『『『『『言われなくても、もう死んでるよぉ!』』』』』

 

 動き出した。最期の姿、そのままで。全身がずぶ濡れな者、ガリガリに痩せ細った者、身体中が捩じくれた者、バラバラの肉片になっている者――――――形は様々だが、皆一様に恨めしい、苦悶の表情を浮かべている。

 この世の全てに絶望し、ボブを呪って死んだ事が丸分かりだった。

 そう、彼らはボブの活動によって、相棒や友人を失い、自らを殺めてしまった者たち。関わった人間の中では少数派だろうが、確かにいたのだ。そう言った人々が。

 

「うわぁあああああっ!?」

 

 その悍ましい姿に、ボブが悲鳴を上げた。

 地獄はまだ、始まったばかり。

 

「えっ……!?」

 

 だが、一瞬だけ目の前が真っ暗になったかと思うと、悍ましき亡者共は消え、再び一人切りとなった。

 

「一体どう……なぁっ!?」

 

 さらに、今回は殆ど裸にされた。身に纏っているのは、汚らしい布が一枚だけ。

 

(この布は……!)

 

 それはボブが今よりもっと幼い頃――――――家族を失い、独りぼっちで生きていた時、身に付けていた物。

 ゴミ箱に捨てられていた、誰の物とも分からぬ布切れだったが、当時のボブは服さえ真面に揃えられなかったので、こんな物でも有難かった記憶がある。

 ……記憶がある(・・・・・)

 

(もしかして……)

 

 そういう事(・・・・・)なのか(・・・)

 おそらくだが、この列車の内部は、ボブの記憶を基に形作られている。よくよく見れば、この車両も家族が健在だった頃に乗せてもらった物とそっくりである。確か廃線前の最後の運行に乗り合わせたのだった。

 そして、今まで出遭った亡者はボブが過去に関わりのある者たち。これで記憶ではなく、偶然が重なっただけだとしたら逆に怖い。それこそ、本当に対処の仕様が無くなる。

 

(先ずは桜で盛り上げて、次に亡者の群れで不快にさせたとなると……)

 

 次は本格的に苦しめ、恐怖させに来るだろう。今までの傾向からして、己が無力であると思い知らせて絶望させる事が目的だと思われる。ここでほんのり優しくしてやる理由はない。

 では、今度は何で攻めて来るのか。

 一番可能性が高いのは、ボブにとってのトラウマ――――――、

 

『ゼニィ……』『カゲェ……』『ダネェ……』

「………………!」

 

 やはり、ポケモンで攻めて来たか。ボブにはこれ以上ない絶望となるだろう。何せ家族を奪った仇敵に、丸腰で襲われるのだから。

 さらに、この3匹はボブが今よりもっとずっと荒れていた頃に、八つ当たり同然にトレーナーから引き剥がした奴らだ。確実に恨まれている。殺意も一目見ただけで感じる程に高い。

 

「うぅぅ……っ!」

 

 ボブは逃げ出した。過去のトラウマから。己の罪から。是が非でも認めず、自分自身と向き合う気が一切無いのである。着の身着のままで挑むには荷が重いから、間違ってはいないが。

 しかし、そんな逃げの一手が認められる程、この電車は甘くなかった。

 

『ギャルァアアアッ!』『ニュァァ……!』『カァーッ!』『キィキィ!』『ガヴヴヴッ!』

 

 行く手を阻む、ボブがトレーナーとの絆を断ち切って来たポケモンたち。どいつもこいつも深手を負い、苦しみながら死んでいったのが分かる。ピクシーリングの力とはそれ程までに素晴らしく、どうしようもない代物なのだ。

 

「……認めないぞ! 絶対に! ボクが悪くないと言ったら悪くないんだ! お前らポケモンは、害虫以下のゴミ虫野郎だぁっ!」

 

 だが、追い詰められ過ぎて窮鼠猫を噛む状態となってしまったボブは、逃げるのを止めた。そこそこ高い身体能力でポケモンたちへ飛び掛かる。

 

『ギャヴォオオオッ!』「うぐぅ……っ!」

 

 しかし、所詮は負け犬の遠吠え、引かれ者の小唄、虚勢を張った潔くない空威張り。ただの子供が、ポケモン軍団に勝てる訳が無かった。一瞬で返り討ちに遭い、ボコボコのボロボロにされる。全身至る所に傷が付き、骨が何本か折れている。本来なら骨も残らず死ぬ所だが、出来るだけ長く苦しめたい彼らが手加減してくれているおかげで、何とか生き延びていた。虫の息である事に変わりはないが。

 

「う……ぁ……うぅぅ……助けて……セレンさん……皆ぁ……!」

 

 涙を流し、鼻水を垂らし、下を漏らし、弱音を吐いて、力なく這いずるボブ。手足が曲がってはいけない方向へ折れている為、本当にその場で蠢いているだけである。まるで芋虫ポケモンだ。

 もちろん、誰も助けてはくれない。ここは地獄。ボブを苛め倒し、息絶えさせる為だけに用意された、釜の底。希望など、ある筈も無かった。

 

「――――――まったく、だから言ったでしょう。そんなやり方じゃ潰れてしまうって」

「え……セレンさん?」

 

 だが、そんな惨めなボブに、柔らかな声が掛かる。それはここに居るはずのない、ネオ・ボランティアの中間管理職のお姉さん――――――セレンだった。

 

「セレンさん……!」

 

 最後の力を振り絞り、思わず縋り付くボブ。

 ボブにとって、セレンは育ての親だ。ネオ・ボランティアとしてのイロハを教え、一人前にしてくれた恩師である。彼女がいたから、ボブはここまでやって来れた。彼女がいなければ、生き延びる事さえ出来なかっただろう。

 むろん、車両の特性上、このセレンが本物である訳がない。単なる夢幻の影でしかないのだ。

 それでも、手を伸ばさずにはいられなかった。やはり、子供には親が必要なのである。

 

 それもまた、この悪魔(・・・・)の思い通りでしかなくとも。

 

「そんな悪い子は、きちんと叱ってあげないとねぇ!」「ぎゃあああああっ!」

 

 必死に伸ばしたボブの手を、セレンが踏み付ける。とても楽しそうな笑顔で。

 

「やっぱり、偽物なのかよ……!」

 

 分かってはいたが、やはり悲しく、悔しい。こんな物を見せる為に、わざわざ恩師の姿を借りたというのか。

 

「偽物? 何を言っているのかなぁ?」

 

 しかし、現実はもっと残酷かつ非情で、悪意に満ちていた。

 

「君の知ってるセレンという女は、数ある私の顔の一つでしかないよ。何せ、私は“千の貌”を持つ女だからねぇ」

 

 セレンの美しい顔が、メタモンみたいに素朴で間抜けな可愛らしい顔に変わる。顔の次は体形と服装までも変わり、ちょっと小さめの道化師風の女性になった。

 

「え……え……?」

 

 これは一体、何だ?

 

「お、お前、一体何なんだ……!?」

「私ぃ? 私はトゥハーデ鉄道の駅員、モルフォード・タメリスク。だが、それは世を忍ぶ仮の姿。時には花屋、時には受付嬢、あるいはとある地方のチャンピオン。しかして、その正体は――――――」

 

 そして、顔を半分だけ仮面を隠し、高らかに宣言する。

 

「スマイル団の団長、ダース・マリアボラスだよ!」

 

「ダース・マリアボラス……?」

 

 それはスマイル団の首領。団員の特徴である“ピエロ風の恰好”という事以外は、顔も体形も年齢も何もかもが釈然としない、謎だらけの人物。

 だが、これなら納得だ。こんなにも簡単に容姿を変えられるなら、素性不明なのも頷けるし、捕まらないのも当たり前である。

 しかし、それが分かった所で、ボブにとっては凶報でしかなかった。何せ死神が大鎌を持って目の前にいるようなものなのだから。

 

「何で……?」

「それは、私がどうしてセレンとしてアナタに接していたのか、という事かしら? それとも、どうして今更になって正体を表してまで、アナタを閉じ込めた事について気になった? 言ったでしょ、最後のチャンスだって」

「………………!」

 

 マリアボラスの言葉に、ボブはハッとする。

 そう、それは旅に出る直前に送られた言葉。

 

「――――――アナタはよく頑張ってるわ。でもね、流石に遣り過ぎよ。結構な苦情が来ているし。だから、少し気持ちを切り替えると思って、あの子たちと一緒に旅をして来なさい。これはある意味、最後のチャンスよ」

 

 あれは“ネオ・ボランティアをクビにする”なんて生易しい物ではなく、“お前を殺す”という意味だったのだ。それを可愛い子には旅をさせよみたいなノリと表情で告げるなんて、頭がイカレている。

 

「止めてよ……助けてよ……」

「アナタはそう訴えたトレーナーやポケモンたちを助けてあげたのかしら?」

「………………!」

 

 ぐうの音も出ない。

 結局、ボブは社会の為だ正義の執行だのと言って、過去のトラウマに対する憂さ晴らしをしていただけなのである。それをわざわざ映像と演出で分からされた(・・・・・・)のだから、最早ボブの心は粉砕骨折だ。

 

「悲しい? 苦しい? ごめんねぇ、知ってたわ~♪ だからこそ、待ちに待って(・・・・・・)、この日を迎えた訳よ~♪」

『オオォォ……』『ああぁぁ……』『憎い……ニクイ……』『グゥゥゥ……』

 

 さらに、マリアボラスの合図でポケモンや亡者が再びボブを痛め付けようと――――――否、止めを刺そうと、寄って集って来る。手加減をしてくれそうな様子はもう無い。遠慮容赦なく殺しに掛かって来るだろう。

 

「ジェライジン、「オーバーブースト」!」『ジェラァアアアトォッ!』

 

 だが、悪意タップリの袋叩きが敢行される前に、車両の屋根と壁の一部が吹き飛んだ。驚いて上を見上げれば、ウルファングの進化形であるジェライジン(おうがのすがた)と、それに跨るアマレの姿が。

 王牙の姿のジェライジンは、はがね/ほのおタイプの「えんらいポケモン」で、ダイアウルフに鋼の鎧を着こませたような姿をしており、素早さこそウルファングと大して変わらないが、それ以外の能力が大幅に上昇している。その上、「オーバーブースト」という専用技で浮遊状態となって、フィールドを焼き尽くして「マグマフィールド」を展開する能力まである。まさに王の牙と呼ぶに相応しい貫禄と言えるだろう。

 ちなみに、条件を変えるとルガルガンの如く「がろうのすがた」という分岐進化をするポケモンでもあり、そちらはいわ/ほのおの速攻型である。どちらを選ぶかは持ち主の好み次第だ。

 しかし、今はそんな事はどうでもいい。彼女がジェライジンに跨って馳せ参じたという事は、ボブにもまだ希望がある事を意味している。

 

「ウルファング、あの子を掻っ攫え! 「れんごく」!」『ウルファアアアッ!』

 

 そして、後ろに控えていたと思われるアデルとウルファングが、煉獄で周囲の亡者やポケモンたちを薙ぎ払いつつ素早くボブを回収し、即座に離脱した。

 

「……どうして?」

「アンタが必要だからよ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 息も絶え絶えに疑問を口にするボブに、アデルが素っ気無く答える。おそらく、過去の所業を知っているのだろう。同情も憐憫も向けず、ただ使い道があるから、利用する為に手を差し伸べる。実に人間らしい手前勝手な理由である。

 

「それでも……ありがとう……」

 

 だが、善意に見せ掛けた悪意に晒され、文字通り地獄を見せられたボブにとって、その冷たさが逆に心地よかった。見返りの無い優しさなど、所詮は薄っぺらなのだ。

 

「……ッ、お礼を言うのはまだ早いみたいよ!」「うぁっ!?」

「逃がすとでも思っているのかしらぁ~ん?」

 

 すると、大脱出で大団円など認めない、マリアボラスが炎の中から飛び出して来た。キッチリ煉獄に巻き込んだ筈なのに、掠り傷一つ付いていないとは驚きだが、今更屋根に出て来てどうしようと言うのか。

 

「そぉい♪」

『ウルゥッ!』「くっ……煉獄さん!」「アデル……!」

 

 と思ったら、マリアボラスは一瞬で大鎌を装備し(どっから出した!?)、それを投擲して空を駆けるウルファングに命中させた。ウルファングが苦悶の表情を浮かべ、衝撃でアデルが落下する。ボブは当たる直前にアデルが煉獄さん……ではなく、アマレに投げ渡したので無事だった。怪我のせいでこっちも苦痛の顔だったが。

 

「ウフフフ、私はダース・マリアボラス。聖母様だろうと食らい尽くす、闇黒の支配者なのよ」

 

 車両の上に落下したアデルに、マリアボラスが凄惨な笑みを浮かべて襲い掛かる。おおきく鎌を振りかぶって。

 

「悪いけど、私はアンタより怖い奴を知ってるのよ!」「なっ……白刃取りだと!?」

 

 しかし、脳天目掛けて振り下ろされたそれを、アデルは白刃取ってみせた。

 

「竜巻旋風脚!」「ズワォッ!?」

 

 さらに、刃を掴んだまま二連続で回転蹴りをして、一発目で刃を根元から叩き折り、二発目でそれをマリアボラスの眉間に突き立てた。この間0.1秒の神業である。叩き上げでベアード軍最高司令官になった実力は伊達ではない。子供の頃からアデルはやる時はやる奴なのだ。

 

「ビックリした……面白いわねぇ、アナタ」

 

 だが、そこまでやっても、マリアボラスは笑って済ませた。まるで新しい玩具を見付けた子供のようで、心底楽しそうである。

 

「アデルくん!」「………………!」

 

 ただし、素直に突っ立っている筋合いは無いので、アマレの手を借り、今度こそアデルたちは地獄の幽霊電車から離脱した。

 

「今回はアナタに免じて見逃してあげるわ。ジェフリルにも撤退させるように言っておく。あの時も言ったけど、ボブの事、よろしく頼むわね~♪ ……次は無いから」

 

 セレンの顔をチラ見せしながら、手を振るマリアボラスを背にして。

 そして――――――、




◆ハービィ

・ティアーザ図鑑№025
・分類:はちどりポケモン
・タイプ:フェアリー/ひこう
・性別:あり
・特性:みつあつめ/ハミングボイス(隠れ特性)
・種族値
 HP:45
 こうげき:49
 ぼうぎょ:42
 とくこう:49
 とくぼう:42
 すばやさ:92
・図鑑説明
 奇麗な森の奥で、美しい声で鳴く。発達した胸筋と翼の力でホバリングする事ができ、その状態で花の蜜を吸う。吸収した糖分を100パーセントエネルギーに変える事で、驚異的な飛翔能力を得たのだ。
 花の蜜なら何でも好きだが、吸い付く花の種類によっては身体に毒を溜め込み、それを武器として扱う事もあるという。体色が紫に染まる程に毒を吸収したハービィは、進化の時が近い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。