鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 今回からは日本妖怪サイドデス。


影に潜む者たち

 鳴女たちが一夜の夢で一喜一憂していた頃、日本のとある屋敷にて。

 

『それでは、後程に……』

「分かりましたわ。次はもっと面白くなるかと思いますので、お楽しみに」

 

 2つの人影が、蝋燭揺らめく奥座敷にて、密談をしていた。

 1人は頭の大きな老人、もう1人は白いスーツの若々しい女性(・・・・・・)。2人共かなり悪い顔をしている。一体、何を話し合っていたのだろう。

 しかし、答えが出る前に、女性は退出してしまった。赤毛混じりの黒髪と真紅の瞳を持つ、容姿端麗かつ逞しい姿の少年を侍らせながら。

 

『またお会いしましょう、大空 つばめさん』

 

 そんな彼女――――――内閣総理大臣・大空 つばめを見送った老人が、ポツリと呟く。

 

『結果は上々のようですねぇ?』

 

 すると、老人の後ろに控えていた、赤ら顔で馬鹿デカい頭の鬼がヒソヒソと尋ねた。彼の名は朱の盆。その恐ろしい顔で人を恐怖に陥れ、最期はショック死させてしまう、案外と怖い妖怪だ。

 

『はい。まさか、あの腑抜けた彼女がここまで盛り返すとは思いませんでしたが、これで面白くなってきましたよ』

 

 そして、朱の盆に答える、この蛸頭な老人こそ、日本妖怪の総大将――――――ぬらりひょんである。と言っても所詮は自称であり、直接的な戦闘よりも交渉事に長けている、見た目通りのお人なのだが。

 さて、この悪玉系妖怪の2人だが、今日はつばめと法案に関する密談を交わしていた。

 ここ最近、日本中で様々な怪奇現象が頻発している。やれ狐につままれただの、鬼を見ただの、魔物に襲われただの、直接・間接を問わず被害が続出しているのだ。逃げ出した大逆の四将が各地で好き勝手な事をしているのだろう。

 さらに、過去の刑部狸による侵略行為や、つい最近巻き起こった内閣総辞職ビーム事件なども相俟って、国民は妖怪に対する認識を改め、“確かに存在し害を為す存在”としてのイメージが浸透し始めていた。ようするに“害獣は駆逐しよう”と考え出したのである。

 そして、何故だか若返ったつばめは、それらを上手く利用し、とある法案と実働部隊を設立する事にしたのだ。

 

 そう、瘟鬼(人に害を為す正体不明の化け物の事)を抹殺する、退魔師の集団――――――「鬼殺隊」の誕生である。

 

 だが、その為には人気と任期が足りない。

 そこで、政財界に根深く関わっている人物……というか、ぬらりひょんに接触したのだ。既に何回か密談を交わし、鬼殺隊の創立もほぼ確定となっている。当のぬらりひょんは刑部狸よりもよっぽど狸爺だった。

 しかし、滅ぼされる側である妖怪のぬらりひょんが、何故につばめの意見に賛同を示したのか。それは彼の最終目標――――――「妖怪の復権」を成す為である。人間の生み出した文明の光を消し去り、闇の世界を取り戻す事こそ、ぬらりひょんの目的なのだ。

 その為には、妖怪と人間は完全に対立せねばならず、いずれはド派手な戦争を巻き起こして貰わねばならない。だからこそ、妖怪憎しなつばめを煽り立てたのである。

 とは言え、そこはつばめ側も織り込み済みのようで、目下熾烈な腹の探り合いと裏工作が勃発している。鬼太郎や鳴女ではあり得ない、“大人の時間”と言えるだろう。

 

『ガァ! ガァ!』

『ぬっ!?』『これは……鬼太郎の物ですね』

 

 だが、今日も今日とて悪巧みをしていたぬらりひょんの下へ、1羽の化け鴉が現れる。ここが知らせた者にしか辿り着けない「迷い家(マヨイガ)」の大屋敷であるにも関わらず、だ。

 さらに、その嘴には1通の“招待状”が。差出人は、もちろん鬼太郎。明日の夜に奈落村へ来て欲しい、使いも出す、と書かれている。

 

『どうしますかぁ、ぬらりひょん様? どう考えても罠っぽいですが』

『そうですねぇ……』

 

 これは悩ましい。良い意味でも、悪い意味でも。

 朱の盆の言う通り、地獄の裂け目に呼び出すなど罠としか思えないが、これまで潔癖症かと言わんばかりの正義厨だった鬼太郎がこんな真似をするとなると、それはそれで面白くもある。本当にどうすべきか、悩ましい限りである。

 

『如何致しましょうか、黒坊主さん?』

 

 そこでぬらりひょんは、この場に潜むもう1人の“影”に尋ねた。

 

『良いんじゃないですかね~? 妖怪は妖怪同士、仲良くすれば……』

 

 鼠とも虎とも付かない顔をした、墨汁を懲り固めたような人型の妖怪が、一種独特の声色で答える。何か性分でアドリブ入れそう。

 彼の名は「黒坊主」。大逆の四将の1人だ。

 

『なるほど、それが“ご主人様”の意向ですか』

『その通りです』

 

 しかし、それは世を欺く仮の姿。本来の彼は、とある人物に仕える腹心でしかない。

 

『つまり、“黒雲坊”様も参加為されるという事で?』

『ええ、影ながらに(・・・・・)

 

 その人物とは、遥か太古の昔に大天狗・赤嵐坊との争いに敗れ封印された筈の天狗王・黒雲坊である。黒坊主の役目はただ一つ。主たる黒雲坊を復活させる事。彼もまた、ぬらりひょんを利用する為に接触したに過ぎない。むろん、お互いにそれは分かり切っている。

 

『なるほどなるほど。それでは、ショータイムと行きましょうか』

 

 そして、黒坊主及び黒雲坊の意見を取り入れたぬらりひょんは、鬼太郎の誘いに乗る事を決意するのだった。

 さぁ、君の後ろに黒い影……。




◆黒坊主

 明治時代という、妖怪にしては新し過ぎる時期に登場した変態妖怪。夜な夜な美女の口にディープキスをかますという、もう言い訳の仕様がないくらいの好き者である。その姿は名前通り黒くて生臭い坊主みたいなシルエットをしている以外、よく分かっていない。見るに堪えない奴という事だけは分かる。
 鬼太郎の世界では美人画に封印されていた凶悪な妖怪として登場。やたらと強い能力を与えられる事が多く、火を吹いたり、水を毒に変えたり、ボディーランゲージを始めたりする。水が共通の弱点。6期では大逆の四将の1人に数えられた。残りの面子が由緒正しき大妖怪なのに対して、こいつだけ明治の変態妖怪なので、明らかに浮いている。
 今作では悪の天狗王・黒雲坊の配下として登場。主復活の為、ぬらりひょんを利用しつつ暗躍している。こいつもまた、ぬらりひょんと同じ策略タイプである。
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