鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 地獄への信頼度の低さヨ……。


悪と正義の会談

 地獄の裂け目、「奈落の谷」の最南端――――――「奈落村」。かつては盗賊村とも呼ばれた悪人たちが住まう小さな集落だったが、自ら復活させたヤトノカミによって滅亡した場所。

 一時は鳴女のお遊びにより蠅声為邪神(ハバエナス)とその眷属が大繁殖した危険地帯と化していたが、今は元の命亡き村落に戻りつつある。

 だが、今この村には、大変似付かわしくない立派な屋敷がある。ぬらりひょんが召喚した迷い家だ。ぬらりひょんと迷い家はリンクしており、割と好きなタイミングで出し知れする事が可能で、場合によっては自分がそこに転移して逃げ込んだりも出来る。それがぬらりひょんの持つ「ぬらりくらりな捉えどころの無さ」に拍車を掛けていて、両者を捕捉するのは容易な事ではない。

 だからこそ、鬼太郎が正確な居場所を把握していた事に、ぬらりひょんは驚きを隠せなかったので、こうして誘いに乗って来た次第である。鬼太郎の使わした、一反木綿に乗って。

 さらに、到着と同時に座標を合わせ、迷い家を呼び寄せた。流石に敵陣で腰を据える気にはならなかったのだろう。どんな話になるか、まだ分からないしね。

 ちなみに、今回は腹心の朱の盆に加えて、蛇骨婆とかまいたちも連れて来ている。最悪の場合、彼らの手を借りた実力行使も厭わないつもりらしい。

 

『やぁ、ぬらりひょん。久し振り』

 

 と、迷い家で茶を立てていたぬらりひょんたちの前に、鬼太郎がひょっこり現れた。玄関からきちんと入り、下駄も脱いでいる。礼儀正しくてよろしい。

 しかし、その姿はあまりにも酷い有様だった。

 

『き、鬼太郎さん、ですか……?』

 

 ぬらりひょんも思わず聞き返してしまう。

 口元をマスクで、左目を包帯で隠し、全身の至る所に機械仕掛けの義体を組み込んだ、ゾンビと言うか、フランケンシュタインの怪物を失敗したような、悍ましい外見になっているのだから当然だ。

 しかも、地獄童子や蒼坊主の肩を借りないと、立っている事さえ難しい状態である。何がどうしてそうなったのかは、言うまでもない。

 

『それが、“地獄を見た”代償ですか』

 

 ぬらりひょんがゴクリ、と生唾を呑む。

 彼は様々な密偵を全国各地に放ち、恒常的に情報をかき集めており、鬼太郎が地獄で修行を積んでいる事は知っていた。それが、もうすぐ終わるであろう事も。

 だが、奈落の谷の特性により口伝えでしか聞いていなかったので、鬼太郎の“惨状”を直視するのはこれが始めただった。

 衝撃的だった。明確に悪を掲げるぬらりひょんたちから見ても、今の鬼太郎は恐ろしく、気持ちが悪かった。何故そんな状態で生きていられるのか、不思議でならない。目玉のおやじもそうだが、幽霊族の生命力と精神力は大概にして理不尽だ。

 

『ああ、昨日ようやっと試練が終わってね。解放されたって感じだよ。それより、お前に話があるんだ、ぬらりひょん』

 

 しかし、当の鬼太郎は、そんな事より話し合いだと言わんばかりだった。言い方が完全に「やっと追試が終わったからカラオケ行こうぜ」って感じである。そんな軽い話題じゃなかろうに。

 

『……猫娘さんに泣かれますよ』

『もう泣かれたよ。号泣だった』

『いやいやいやいや……それは』

 

 そりゃそうだろ、と言いたい。大丈夫なのか、この男は。敵だ悪だ云々の前に、年長者として心配になって来る。

 

『お前、少女漫画だったら、猫娘が闇落ちしちゃうぞ?』

『というか、その姿を見ただけで卒倒しそうじゃがの。猫娘が可哀想だわい』

『男として、それはどうなんですかねぇ、鬼太郎よぉ?』

『そうだな、もっと言ってやってくれ。こいつは、ちょっと自分の命に頓着しなさ過ぎなんだよ』

『ノーコメントで……』

 

 ついでに、かまいたち、蛇骨婆、朱の盆、果ては地獄童子や蒼坊主にまで総スカンを食らっている。無理もないが。

 

『うーん……』

 

 こんな女を笑顔で泣かせるような奴なんかと、本当に話し合いが成立するんだろうか。急に不安になってきた、ぬらりひょんであった。

 

『酷いなぁ、皆』

『『『『『『いや、お前が悪い』』』』』』

『声を揃えなくても。それよりほら、話し合いをしようよ。正直、座ってるのも辛いから。出来ればもう、何時までも横になり続けていたいくらいだし』

『『『『『『………………』』』』』

 

 ここまで弱ってしまって、修行をした意味はあるのだろうか、とは誰も言わないし、言えない。それこそ、パッキリと折れて粉々になってしまいそうだったから。

 まぁ、こんな有様では戦えない事くらい、本人が一番理解しているだろうから、ここは何も言わずに見なかった事にしてあげるのが優しさという物だろう。何らかの目途くらい立っていると信じたい。あと、ちゃんと立てるようになって。猫娘に「鬼太郎が立った!」って言わせてあげなさい。可哀想でしょ。

 それより、起き上がる事さえ辛い男が、一体全体何を話したいのか、ぬらりひょんは気になって仕方なかった。手紙には詳細は書かれていなかったので、余計に気になる。

 そして、死に体の鬼太郎は、目だけをギラギラと輝かせながら、ぬらりひょんの長い妖生の中で最も衝撃的な、爆弾をぶちかました。

 

『ぬらりひょん、僕たちと同盟を結ばないか? そこに隠れ潜んでる、天狗の使いっ走りもね』

 

 そう、あの時に鬼太郎が下した決断とは、ぬらりひょんとの同盟関係だったのだ。

 

『……驚きました』

 

 これには、ぬらりひょんも素直に驚いた。

 というか、さっきから驚いてばかりだが、これが一番ビックリした。まさか、鬼太郎が“同盟を結ぼう”などと提案してくるとは。

 普段であれば正気を疑う所だが、今の鬼太郎はとっくに正気を失っているので、疑う余地すらない。罠の可能性も有るが、それなら招き入れた時点で嵌めればいい話であり、これ以上は切りが無いだろう。

 ならば、本当の事だと思えばいい。少なくとも、目の前で死に掛けているこの男は、紛れもなく自分と手を組むつもりなのだと。

 

『しかし、それで私に何のメリットがあるのですか?』

 

 だが、受け入れるかどうかは別問題だ。

 ただでさえ相反する思想の持ち主なのに、身も心もトチ狂った今の鬼太郎を信用出来るかと問われれば、否と言うしかないだろう。

 最低でも、こちらにメリットが無ければ、聞くに値しない話である。

 

『――――――まず、お前は「来訪者」について、どこまで把握している?』

 

 しかし、鬼太郎の返答は質問文だった。学校のテストだったら0点だが、こういう話し合いの場では、その限りではない。

 むしろ、上手い切り返し方だ。何せ、ぬらりひょんもまた、世界最後の日を間近で見た一人なのだから。

 

『さてね、もうすぐ復活間近である、としか……』

 

 ここで、ぬらりひょんは嘘を吐いた(・・・・・)。本当はそれ以上の事を知っているし、“対抗策”も用意している。

 だが、この場で話すつもりは毛頭無かった。

 

『充分だよ』

 

 何故なら、鬼太郎もまた(・・・・・・)嘘を吐いている(・・・・・・・)。地獄で何を見て、どんな事を知り得たのかは不明だが……本っっっっっ当にこっそりと、“サイン”を送ってきた事からも、それが分かる。

 つまり、そういう前提で(・・・・・・・)話し合いをしよう(・・・・・・・・)、という事である。

 さぁ、ここからは“騙し合い”の時間だ。

 

『なら、鳴女については?』

『当然、知っていますとも。本格的な話し合いはまだですが、既に接触を(・・・・・)持っていますよ(・・・・・・・)

『じゃあ話は早い。あいつとも話し合いの場を持ちたいんだ。掛け合ってくれるかな?』

『――――――それはつまり、私に裏切れ(・・・・・)という事ですか?』

『そうは言っていない。今の状況が、僕たちだけじゃ手に余るってだけの事さ。ただでさえ「来訪者」が復活しそうなのに、大逆の四将が地獄から逃げ出すわ、よく分からない名無しの男がうろついてるわで、てんやわんやなんだよ。初めは鳴女を倒す為だけだったのに、どうしてこうなったのかなぁ……』

 

 淡々と、静かに進む話し合い。誰も口出しせずに、二人の会話に耳を傾けている。当人たち以外(・・・・・・)は、嘘か誠か全く分からないからである。

 しかし、この会談は最初から嘘八百。真実を織り交ぜた嘘しか語っていないので、誰も何も分からなくて当然だ。

 

『結局の所、目的は何です?』

『単純な話、「来訪者」を倒す為にも一時で良いから僕と一緒に戦ってよ、って所かな。実際、四の五の言ってられないだろ?』

『話になりませんね。今の貴方と(・・・・・)情報を共有する(・・・・・・・)メリットが何もない(・・・・・・・・・)。せっかくのお誘いですが、帰らせてもらいますよ』

 

 さらに、分かり易い形で同盟は決裂。両者共に退散する運びとなった。

 

 ――――――そう、鬼太郎とぬらりひょんの思惑通りに。

 

『……ぬらりひょん様、よろしかったのですかぁ? 鬼太郎を袖にして。まぁ、あんな条件で承諾してもらおうってのは、何かの冗談だと思いましたが』

『ええ、あれは彼のジョークですよ。何から何まで、嘘っ八百です』

 

 そして、奈落村を離れ、別の拠点で迷い家を展開した所で、ぬらりひょんが種明かしをする。

 

『同盟は、成立しました』

『『『はぁ?』』』

 

 さらに、今知られる衝撃の真相。何とあの冗談みたいな話し合いで、同盟が成立したというのだ。

 

『あの、ぬらりひょん様、まるで意味が分からないのですが?』

 

 流石に話に付いていけない朱の盆が、困惑タップリに質問する。蛇骨婆やかまいたちは黙っているが、気持ちは同じだった。

 

『まずはこれを見て下さい』

 

 すると、ぬらりひょんは右の小指をピンと立てて見せる。そこには、鬼太郎の毛髪と(・・・・・・・)霊毛ちゃんちゃんこ(・・・・・・・)の融合した糸が一筋(・・・・・・・・・)巻き付いていた(・・・・・・・)

 

『それは、鬼太郎の……』

『そうです。彼は誰にも見られぬよう、私の小指にこっそりとこれを巻き付け、あるサインを送って来ました。“監視されている。だから、お前が裏で動いてくれ。代わりに僕が“囮”になるから。それが今回の同盟の内容だ”とね』

『どういう意味です?』

『朱の盆さん。私の能力、覚えていますか?』

『ぬらりひょん様の能力? それはもちろん――――――』

 

 と、そこまで言った所で朱の盆も、蛇骨婆やかまいたちも気付く。陰に引っ込みっぱなしの黒坊主も同様である。

 ぬらりひょんの能力。それは不可視と幻惑。ぬらりと現れ、ひょんと消える。その実態は雲を掴むよりも難しく、どんな目も誤魔化せる(・・・・・・・・・・)。だからこそ、大逆の四将を逃がす事が出来たのだ。

 

『本当に、彼には驚かされますねぇ。流石は慎吾さんの息子と言った所でしょうか』

 

 鬼太郎の悪い成長振り(・・・・・・)に、ぬらりひょんが心底嬉しそうに嗤う。これは面白い事になった、と。

 

『さぁ、これから忙しくなりますよ、皆さん。我々の当面の仕事は“舞台の裏方”です。先ずはつばめさんとの協力関係を密にしつつ、ぬらりくらりと事を進めましょう。“浄玻璃(かがみ)”に映らないように、ね……』

『合点です』『あい分かった』『へいへい、了解ですよ』『………………』

 

 そして、闇は蠢き出す。陰の意志を汲み取り、成す為に。それはぬらりひょんにとっても、重要な事だから。




◆ぬらりひょん

 日本妖怪の総大将を自称する爺。夕暮れ時に忽然と現れたと思ったら、ぬらりくらりと糾弾を躱してご相伴を分捕り、知らぬ間に消えている傍迷惑な妖怪。その正体は蛸と言われているが、詳細は不明。むしろ、正体不明が正体かもしれない。
 鬼太郎の世界でも総大将を自称。時期による性格やカリスマ性が段違いで、3期や5期は悪の帝王に相応しい事をやってのけているが、4期の彼は憎めない悪役であり、6期は政治犯みたいな奴になった。1期はちょい役で2期には登場しない。意外な事だが、原作での彼はライバルでも何でもなかったりする。
 今作では6期の彼がほぼそのまま登場。目標も変わっていないが、来訪者の事も勘定に入れており、様々な暗躍を繰り広げている。大逆の四将を逃がしたのも、もちろん彼。黒坊主とは一応の協力関係を築いている。目玉おやじとはライバル関係だが、息子の鬼太郎に関しては、若干孫を見る目が入っている。その為、ゲゲゲの人造人間になった彼を見て、割と本気で驚いていた。
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