鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 今作では不遇な“彼”の命運や如何ニ……。


我は訴え求めたり

 とある日、とある場所で。

 

《ううぅぅ……》

 

 1人の子供が泣いていた。見た目は黒いローブに帽子を被り、不気味な仮面を被った怪し過ぎる大男だが、中身は子供――――――どころか、生まれてすら(・・・・・・)いない赤子である(・・・・・・・・)

 彼は名無し。文字通り、名前すらない鬼子。

 遥か昔、人と妖怪が共存出来ていたが、結ばれる事は禁忌とされていた時代。人間の母親と鬼の父親を持つ存在として、彼は生まれようとしていた。

 だが、彼は名無しのままで終わった。誕生する前に、両親共々殺されてしまったからだ。ようは水子である。

 しかし、名無しの魂は成仏出来ず、この世の悪意を吸収し凝り固まった末に、“本当の化け物”として再誕した。妖怪でも人間でもない、現世を呪う者だ。

 

《ぐぅぅぅ……》

 

 そんな彼が膝と手を着き、(精神の)歳相応に泣いている。大の男が嗚咽を漏らしているのは、シュール極まりないが、この場には誰もいないから問題は無かろう。

 むしろ、彼の今現在の状況の方が、よっぽど大問題だった。

 名無しは世界を悪意と絶望に染める為、様々な事を計画していた。母方の子孫である真名に呪印を施し、彼女の周りにいる人や妖怪と対立するように仕向け、溜りに溜まったストレスを餌に、己の存在を確かな物とする為に。

 

 ――――――この世に生まれる事すら許さず殺したのだから、仕返しされても文句は言えないだろう?

 

 それが名無しの基本的な思考回路。

 だからこそ、文字通り影となって暗躍していたのだが……ある日突然、その遠大な計画は破綻し始めた。

 

 そう、鳴女という本当の悪魔が降臨したのである。

 

 初めは特に問題は無かった。やる事と言えば配信活動と妖怪狩りだけだし、むしろ人の悪意を助長させる事に一役買っていた。“人気者”という存在は、良くも悪くも“目立つ”からだ。嫉妬や憧れ、僻みや羨望を集める広告塔として。

 だが、彼女はあまりに目立ち過ぎた。演奏技術は冗談抜きで上手いし、何ならゲームの技術も高いし、そもそもトークがかなり面白い。

 もちろん、ある程度のヘイトは仕方ないが、それを抜きにしても絶大な人気を誇り、誰よりも暗黒的な存在の癖に、夜の大都市に聳えるブルジュ・ハリファの如く輝き、人々を熱狂させていた。

 まるで、誘蛾灯に群がる羽虫のように人間たちは光に踊らされていたのである。それは名無しの求める悪意ではない。

 さらに、もう1つの趣味である妖怪狩りの方も問題だった。ある時を境に全く遠慮節操が無くなり、妖怪たちがゴッソリ減ってしまったのだ。脅威の根源が1つに纏まっただけとも言えるが、鳴女自体は視聴者には優しい上に基本的に引き籠りなので、結果的に人々は夜の闇に潜む影を恐れなくなり始めた。これでは仕込みをする前に逆戻りである。

 真名と鬼太郎たちだけなら、こんな事にはならなかった。彼らには明確な隔たりがあり、仲良しなのは表面的な物だけだったからだ。

 しかし、スーパー悪目立ち野郎の鳴女と接触してしまった事により、妙な連帯感と“強い意志”を持ち始めてしまい、“弱い心を利用する”名無しの付け入る隙がどんどん減っていった。特にヒロイン勢の想いは半端ではなく、見ているだけで胸焼けするような勢いだった。

 そんな事ばかりが続き、いよいよ以て焦り出した名無しは、遂に鬼太郎たちの前へ明確に姿を現し、計画を推し進めようとした――――――のだが。

 

『邪魔だ、どけ』

《うぁあああ!》

 

 まさかの鳴女が乱入。理由も「ゴムをお届け」という意味不明な物。禁忌を犯して生まれた存在である名無しからすれば、酷いジョークである。

 しかも、妖怪の喰い過ぎで洒落にならないレベルでパワーアップしており、とても名無しの手に負える存在ではなくなっていた。

 自分は悪意を上手く吸収出来ずに伸び悩んでいるのに、向こうはチーターとか、あまりにもあんまりである。

 そして、鳴女の妖気が混じった火砕流で火達磨にされ、文字通り泣く泣く退く事になった。

 その後は大逆の四将が逃げ出した事により、多少は持ち直したものの、鳴女どころか鬼太郎まで覚悟完了してしまい、何より肝心要の真名が行方知れずになってしまった。これでは“彼女を媒体に存在を確立させる”という、最終目標が成し得ない。むろん、手伝ってくれる者は皆無だ。

 もう泣きたくなって来たし、今現在は本当に泣いている。こんなのってないよ。神も仏も信じちゃいないが、これは酷い。

 何だ、最初から生まれて来るなってか。じゃあゴム付けろよ(←無い)!

 ……嗚呼、誰か助けて。

 

「――――――エコエコアザラク、我は呪い怨みたり」

《………………!》

 

 すると、名無しの慟哭に世界が答えたのか、はたまたただの偶然か。彼の前に堂々と現れた。行方不明になっている筈の、真名が。

 しかし、今の真名は、最後に見掛けた彼女とはかけ離れた、凄みのある“魔女”になっていた。本場本元の魔女であるアデルやアニエスとは一味違う、日本の呪術師に西洋文化がハイブリットした、より恐ろしい存在に。

恐ろしい存在に。

 偶然ではない。真名は自分の隠れ潜むこの場所を正確に把握し、魔術を用いて(・・・・・・)現れたのだ(・・・・・)

 

「ねぇ、アナタでしょ? 私に呪いを掛けてくれたのは(・・・・・・・・・・・・・)? 凄いよねぇ、これ。東洋と西洋の占星術をここまで完璧に融合させるなんてさ。“この道”を進んでみたから実感出来るけど、本当に感心するわ。私には“師匠”がいるけど、アナタは独学でここまでに至ったんだよね? うんうん、偉い偉い」

 

 さらに、名無しの仕掛けた施しも完全に見抜かれた上で、“組み直されて”いる。もはや、真名()彼の手に負える存在では無くなったようだ。

 そして、大魔女の真名は持ちかけて来る。

 

「そんな偉い子のアナタに尋ねたいんだけど……君、私の子供になる気は無い(・・・・・・・・・・・)?」

 

 悪魔の取引を。




◆エコエコアザラク

 ある意味魔法少女なダークヒロイン系主人公、黒井 ミサの織りなす、ホラーオムニバス……というか、ミサのグロテスクな日常物語である。
 “残酷な魔女だが女子中学生でもある”彼女が織りなす物語は、はっきり言ってサイコであり、普段は容赦がない筈の悪人を気紛れで見逃したかと思えば、善人としか思えない奴をレクター博士形式で処刑してみたりと、その情緒不安定振りが垣間見える。
 一方で女の子としての一面もちゃんとあり、イケメンに現を抜かしたり、少年誌でやる事かと言わんばかりに剥かれたりもする。対象年齢を考えろ。
 この世界での彼女と「エコエコアザラク」の扱いは、“漫画は無いけどキャラクターが実在している”といった感じ。
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