鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 この世界の鬼退治は全然哀しくないから困ル。


鬼殺隊

 ――――――地の獄、底の底。

 元は皇族を避難させる為の避難シェルターとして作られた、この地下施設は今、全く別の目的を持つ場所として使われている。

 

「ハッ!」「てぁっ!」

 

 バトルコートのような所で、激しくぶつかり合う2人の男女。女の方が幾分か若い。おそらくはデキているのだろうが、ただのカップルという訳でもない。

 何故なら、拳で大地を割り、蹴りで大岩を切断しているような、超人だからだ。

 2人の名は石動(いするぎ) (れい)(♂)とサヤ(♀)。かつて源頼光と共に各地の邪悪な妖怪を封じていた、退魔師一族「鬼道衆」の末裔である。

 本来は彼らだけでなく、そこそこの規模を持つ集団だったのだが、過去に鬼太郎ファミリーと交戦した末に、戦闘の要であった鬼巫女率いる不老不死たる“伝説の七人”を失い大きく弱体化し、その後も細々と山奥で生き延びていたものの、大逆の四将が解き放たれた事により壊滅的な被害を受け、今の状態となった。零とサヤは鬼道衆の数少ない生き残りなのだ。

 

「頑張っているようね」

「「つばめさん!」」

 

 そして、そんな2人の窮地を救ったのが、他ならぬ若返った大空 つばめである。

 彼女としては自らに施した“改造”の程度を知る為の、謂わば「ついで」だったのだが、結果として2人の命を救う事となり、こうして己の庇護下に置いている。

 

「……そんな貴方たちには、ご褒美の稽古を付けてあげましょう」

 

 さらに、つばめは2人の戦いの師でもあり、元より高かった零とサヤの戦闘能力を更に昇華させたグランドマスターなのだ。別にジェ○イではないけど。

 

「さぁ、“扉”を開くわ……」

「「はい!」」

 

 だが、その能力は偉大と言っていい、凄まじい物である。

 彼女の能力――――――それは“時空間の形成”。この世界とは時間の流れが異なる、まるで時が(・・・・・)止まってしまった(・・・・・・・・)かのような異世界(・・・・・・・・)へのゲートを開く、という物。

 小難しい事を抜きにして表現するなら、簡易的な「精神と時の部屋」を生み出す能力だ。

 正しくは、それっぽい場所に(・・・・・・・・)チャネリングする力(・・・・・・・・・)なのだが、結論は大して変わらないので、気にしなくてもいい。

 ともかく、つばめはその能力を使い、たった数十日で数十年分の修行を積み、自らを高めた。

 そして、地力を上げた後は、零やサヤを含む“妖怪に憎しみを持つ子供たち”を集め共に修練し、やがては「鬼殺隊」の基幹となる面子を取り揃えた。その数、隠密や医療班などの後方支援も含めて72人。非戦闘員ですら並みの妖怪であれば自力で倒す事が出来る、恐るべき戦闘集団である。

 しかし、内閣総理大臣とは言え、ただのおばちゃんでしかなかったつばめが、一体どうやってこんな能力と若さを手に入れられたのだろうか?

 その秘密は、物理的に内閣が総辞職した日に手に入れた“とある細胞”……「鬼」の血に汚染された幽霊族の肉片にある。

 焼野原の中で立ち尽くしていた時、それが空から落ちてきた。呆けて口を開けていたせいか、つばめは偶然にも摂取してしまったのだ。

 すると、身体が急速に若返り、奥底から力が漲って来た。それが全ての始まりだった。

 初めの数日は単に身体が全盛期になっただけだったが、やがて“妖気”や“霊気”に近いエネルギーが体内で生成されだし、それにより身体能力にバフを掛ける事が出来るようになった。

 さらに、しばらくすると時空ゲートの前身となる、亜空間への入り口を開く能力が開花し、中にいる間は外と時間の流れが僅かに異なる事に気が付いた。

 そして、つばめはその力を積極的に利用し始める。時間に縛られないのなら、好きなだけ趣味に時間を使えばいい。

 先ずは勉強から始めた。“妖怪(てき)”を知る為に。空間の出入り口は同時に2つまで展開でき、ある程度の距離を瞬時に移動する事も可能なのも相俟って、つばめは各地の資料を読み漁った。中には一般公開出来ない物や、読む事自体が間違いな“禁書”も含まれており、急速に知識を蓄えて行った。

 さらに、何時からか知らない誰かが夢枕に立ち始め、様々な言葉を囁くようになった。それは“別世界”の情報であり、“技の型”や“呼吸法”について知る事が出来た。

 “彼”曰く、その呼吸は「鬼」を退治する為の技術で、身体能力を高めるだけでなく、「鬼」への特効力を得られるのだという。無数に存在する“技の型”は、それを活かす為の兵法らしい。

 ……何と言うか、ジョ○ョの波紋みたいな設定である。あちらも特殊な呼吸法により、太陽の力を得る事で吸血鬼を滅せられるようになる技術だ。

 というか、波紋にしろチャクラにしろ氣にしろ、何らかの特殊能力の根幹には呼吸が深く関わっている。ならば、彼の教えてくれた呼吸法にも応用が利く筈である。

 幸い時間ならタップリある。亜空間形成の能力は使えば使う程に効能が上がり、時を置き去りにし続けるので、やろうと思えば何時までだって、外の時間を気にせず引き籠っていられる。

 こうして、つばめは新たな力を得て、ある決意をするに至った。

 

 そう、妖怪退治の専門家集団「鬼殺隊」の結成だ。

 

 ここ最近の妖怪による被害は目に見えて異常な数値であり、それだけ化け物に対する憎悪を抱く人間も多い。人員集めには苦労しなかった。

 その目的は、人々に害成す妖怪を退治し、“人間主導の国家”を確立させる事。

 だが、それはある意味建前で、本質的にはつばめを含む隊員たちの復讐であり――――――“彼”が囁く、「来訪者」の討伐が最終目標である。

 その結果、日本から悪の妖怪は駆逐され、人間主導の国家になる、という訳だ。ようはついでである。

 しかし、零やサヤたちはそれでも良いと思っている。つばめにどんな思惑があろうと、自分たちの命を救い、敵討ちの機会を設けてくれた事に変わりは無い。

 

「今回はいよいよ“月の呼吸”の最終奥義を伝授するわ。覚悟なさい」

「「はい!」」

 

 そして、鬼殺隊は今日も修練を積み、前へ進み続ける。数多な妖怪の屍道を築きながら……。




◆鬼殺隊

 1000年以上前に産屋敷一族が中心となって結成した戦闘集団であり、文字通り「鬼を殺す私設部隊」。規模は数百人程で、主に関東圏で活動する。隊士は「呼吸」をする事で自らの身体能力を上げ、「鬼」に特効力を持つ「日輪刀」を振るい、頚を斬り飛ばして殺害する。
 過激な「鬼」被害者の会とでも言うべき組織であり、上から下まで「鬼」が憎くて仕方ない、ちょっと異常な人間たちが揃い踏みだが、中でも「柱」と呼ばれる者たちは、どっちが化け物か分からなくなる力を有している。
 しかし、人知を超えた怪物である「鬼」を相手取る以上、殉職率も半端ではなく、そもそも最終選別試験を乗り越えるまでに大多数が死ぬ、超絶ブラックな組織である。
 しかも、あくまで私設部隊なので政府非公認であり、その上帯刀までしている為、「鬼」だけでなく人の目まで気にしなくてはいけなかったりする。

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