鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 無惨様の言う通りじゃないケド、縁壱さんって規格外の化け物ですヨネー。本人はシャイな良い人なノニ……。


鳴女さん、真剣勝負をする

「あっ、ちょ……零余子ちゃん、それ手に取ったら……あーあ、やっちゃったよー」

 

 チャラトミの制止も空しく、妖刀だという日本刀を手に取ってしまった零余子の目が裏返り、別人のような雰囲気を纏い始める。

 ……やぁやぁ、諸君。今日の配信を終えたばかりの、鳴女さんだ。

 用事も済んだし、前々から片付けたかった案件を皆でやろうとしたら、零余子が面倒事を起こしやがった。どう見ても妖刀に意識を乗っ取られてます、本当にありがとうございました。馬鹿なんじゃないかな。阿保可愛いのは魅力だけど、流石に今回のは無いわ。唐突にトラブルをメイクするんじゃないよ。

 

『うっしゃぁあああああああっ!』

 

 零余子(OS:妖刀)がガッツポーズを取った。割と大きな雪見大福が二つ、ブルンと揺れる。久々の肉体が喜ばしいようである。子供(ガキ)か。

 

『えーっと、ハイテンションな所を悪いが、えーっと……「ジャッカル松本」?』

《いや、誰だよそれ!? ワタシは「村正」! 由緒正しき妖刀だ!》

『村正で由緒正しきとか言われてもな……』

 

 村正は江戸初期で大流行した刀剣。大体皆持ってたし、斬殺事件が起きれば凶器は必然的に村正、というくらいには普及していた。

 だから、実際には妖刀でも何でもない。単にこの村正が人を斬り過ぎて自力で妖刀になっただけだろう。それはそれで凄いけどね。

 

《黙れ黙れ黙れぇい! せっかく便利な身体を手に入れたんだ、貴様で試し斬りしてくれるわぁっ!》

 

 と、零余子(村正)が構えを取った。零余子は剣技に関しては素人だった筈だが、中々どうして、様になっている。

 おそらく、刀自身の記憶を基に、身体をコントロールしているのだろう。どれ程辻斬りしているのかは知らないが、千人斬ってからが一人前と言うし、案外と万人斬りぐらいは達成しているかも。

 まぁいい、斬りに来るなら殺すまでだ。どうせ器は零余子である。どんなに殺しても死なないから、躊躇なくバラバラに出来る。

 

《てぃゃおおおおぅっ!》

 

 零余子(村正)が流転するように円を描きながら斬り掛かって来る。

 ……何か、どっかで見た事ある技だな。

 

『フン!』

 

 しかし、見切れぬ程ではないし、このまま脳天から一刀両断してやろう、チョップでな!

 

《「幻日虹(げんにちこう)」!》

『何っ、残像だと!?』

 

 だが、私がかち割ったのは質量を持った残像だったようで、見事にスカってしまった。

 

《「飛輪陽炎(ひりんかげろう)」!》

 

 さらに、陽炎の如く前後感覚が分かり難い斬撃を放って来る。凄いなこいつ。妖刀とは言え、ただの日本刀で私の手を斬り飛ばしたぞ。

 しかし、幾ら斬った所で鬼である私には無意味――――――、

 

『………………っ!?』

 

 再生、出来ない!?

 いや、何時もよりは遅いが、出来てはいる。切り口に掛かった力で再生が阻害されているのだ。おいおい、日輪刀でもないのに、鬼の身体を切り刻んだ上に再生力まで抑えるなんて、そんなの有りか。

 ……否、もしかして、これは!?

 

《ハッハッハッハッ! 気付いたようだなぁ! ワタシは純粋な隕鉄を使用した流星刀でもあるのだ! そして、この剣技が貴様ら鬼に特効なのは知れてるんだよぉ!》

『マジかぁ……』

 

 流星刀って、日輪刀よりヤバいじゃん。

 しかも、無惨様のトラウマ技である「日の呼吸」を使い熟しているだと!?

 零余子本人が知っている訳が無いので、前世の死に際に流れ込んだという無惨様の記憶を再現しているのか。そんな見稽古みたいな真似出来るのかよ。

 

『……裸で大立ち回りとか、恥ずかしくないのか!』

《いや、それはお前のせいだろうが!》

 

 失礼な、零余子だって喜んでいたぞ(たぶん)!

 

『ドラァッ!』

《馬鹿め! 本気で当たると思っているのかぁ!》

『フゥンッ!』

《ぬっ!?》

 

 私は猛烈な勢いで斬り掛かって来る零余子(村正)の足を払い、宙に浮かべた。空中なら逃げられまい。

 

《「斜陽転身(しゃようてんしん)」!》

『危なっ!?』

 

 だが、日の呼吸は怪物・縁壱の編み出した退魔の剣技。人としての常識を軽く超えて来た。そう言えば、この技で猗窩座(あかざ)も殺られたんだっけか(正確には負けを悟ったらしいが)。頭突きで動きを止めて無ければ、今頃は頚チョンパだな。

 それにしても、一刀毎に技の練度が上がっているような気がする。学習し、強くなっているのか。よく見ると、身体に痣が浮かんでるし。零余子は寿命とか無さそうだから、実質デメリット無しの完全強化状態じゃん。

 

《その通り! ワタシは一度戦った相手には、絶対に、絶対に、絶ぇ~~~~~~~~ッ対に、負けんのだァ!》

『ぬぉおおおおお!?』

 

 そして、再び繰り出される、日の呼吸による絶死の剣技。拾弐の型を連結させた無限ループ、「拾参ノ型」が襲い掛かって来た。流石にあの化け物の完全再現は無理らしく一巡りで終わったが、それだけで充分。

 

 私は身体をバラバラに焼き切られ、頚を撥ね飛ばされた。

 

「鳴女さん!?」『鳴女ぇ!?』

 

 驚き叫ぶチャラトミと丸子。

 

《取ったぞ!》

 

 勝利を確信する零余子(村正)。

 

『……いいや、取られたんだ』

 

 だが、それは甘い。甘い甘い。何故なら今からとっておきの新技というのを見せてやるのだから。

 

《ま、まさか、頚の弱点を克服しているだとォ!?》

 

 空中でビシャリと元通りになった私に、零余子(村正)が目を見開いた。お前の記憶では信じ難い光景だわな。

 

『当然だ。私が何時までも鬼の常識に囚われていると思うな』

 

 私がどれだけ零余子を食って来たと思う。気合いを入れれば、お茶の子さいさいよ。

 それに、これくらいで驚いて貰っては困る。

 

 ――――――べべん!

 

《にゃにぃ~!?》

 

 琵琶の音が響き、零余子(村正)の手首を切り離した。刃の切れ味を持った(・・・・・・・・・)襖に断ち切られて(・・・・・・・・)。衝撃で握っていた右手も吹っ飛んだし、刀だけになっては最早どうしようもあるまい。

 

《び、琵琶を持ってもいないのに、どうして……!?》

『何時から手に持っていないと弾けないと言った?』

 

 私の玄上ちゃん(琵琶の名前)には、私の血肉が染み込んでいる。普段はきちんと弾いているが、別に触れて無くとも勝手に動いてくれるのよ。つまりは気分次第である。

 

《そ、それに、この切れ味は!?》

『私の好きな漫画に、物体を刃物に変える能力を持った妖怪が出て来てな。それを参考にさせて貰ったよ』

 

 前々から、私の血鬼術は殺傷力が低い事を自覚していた。ならば、持たせてやればいい。無限城は私の思うがままなのだから。その発想が無かったというだけの事よ。

 

『さてと……』

《ヒィッ! ま、待て、話せば分かる!》

 

 操る身体を失い、いよいよ詰んでしまった村正が、典型的な命乞いを抜かし始める。

 しかし、この鳴女、容赦しない。そもそも、命を取りに来たのだから、殺されても文句は言えんだろうに。

 

『よーし、折るかー』

《待て待て待ってぇ! ワタシはこれでも長生きしているし、貴女の欲しい物の怪の情報もタンマリ渡せますよぉ!》

『フム、確かにそれは魅力的だな』

《そ、それじゃあ――――――》

『だが断る』

《何故ゆえにぃ!?》

『助かると思った所を叩き落してこそ、絶望は深まるだろう?』

 

 と言うか、妖怪の知識ならチャラトミwikiで事足りるしな。ロートルの自慢話なんぞ、何の役にも立たん。

 

『それに、私は私を傷付ける者を絶対に、絶対に、絶ぇ~~~~~~~~ッ対に、許さない。お前は億死に値する』

《万の万倍許されないの!?》

『当たり前だ』

《当たり前なんだ!?》

 

 それじゃあ、そろそろ行きますかー。

 

《よ、弱い者苛め、良くない》

『私の身体をバラバラにしておいて何を言う。命乞いなど……無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!』

《ギアッチョォオオオオオオオオオオオオオオオオァッ!》

 

 こうして、自称妖刀である村正は、私の無駄無駄ラッシュを左右の側面から受け、塵と消えた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「……はにゃん!?」

 

 わ、私は一体何を……!?

 えっと、ここは無限城、私は零余子。間違いない。

 

『………………』

 

 だが、鳴女が滅茶苦茶怒っているのは何でだ?

 

『零余子、バイバーイ♪』

「えっ、どういう事!?」

「……一応、やり過ぎないようには言っといたスから」

『私は何をされるの!?』

 

 さらに、丸子ちゃんには何故か六本腕でバイバイされ、チャラ男先生には可哀想な物を見る目で肩を叩かれた。

 

『さぁ、覚悟の用意は出来ているか?』

 

 そして、指先から刀を爪のように生やし、キリキリと研ぎ合わせながら歩み寄る鳴女。一体、何時の間にそんな技を――――――というか、ま、待って……ちょっと待って!

 

「な、何だか知らないけど、話せば分かる! 弱い者苛め、良くない!」

『痣者が何を言うか。話し合いなど無意味だ。私は最初から、お前の失敗(ヘマ)を許す気は、無いのさ。……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』

「ペッシィイイイイイイイイイイッ!」

 

 こうして、私は千の肉になった。

 ちなみに、今日の晩御飯は自家製サイコロステーキである。それ私ィイイイッ!




◆日の呼吸

 無惨決戦兵器として時代が生み出した人外魔境「継国 縁壱」の編み出した、鬼滅の剣技。「透き通る世界」への入り口であり、鬼殺隊の使う「呼吸」の始祖。太陽の力を宿した呼吸によって繰り出される十二の技を、君が死ぬまで無限ループさせるという恐ろしい必殺技だが、負荷が凄過ぎて常人どころか鬼にも不可能な、実質的に縁壱の専用技である。後世には「ヒノカミ神楽」という形で伝わっていた。ただし、こちらは十二の技を個別に覚える初心者向けの伝え方で、最高でも一巡するのみであり、延々と繰り返したりはしない。それでもやり過ぎると死ぬ。
 今作では無惨が存在しない為に影も形も無いが、大正末期に同じような技を使う剣士が鬼退治をした逸話が残っている。

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