『おーい、ジンガ。餌の時間だぞー』『ガヴガヴガヴ!』
厳つい尻尾をブンブン振りながら、心底嬉しそうにガーグァの丸焼きを貪る、ジンオウガのジンガ。
『ほーら、毛繕いの時間だぞー、マガド』『グルル~♪』
髪を使って毛繕いをしてやると、気持ち良さ気に喉を鳴らす、マガイマガドのマガド。
……こいつら、完全に犬と猫だな。それで良いのか、牙竜種筆頭。
やぁやぁ、皆の衆。ハンター改め、ウーチューバ―に復帰した鳴女さんだよ。
とは言え、こちらとあちらでは相対時間のズレがあるから、数日しか経ってないんだけどね。配信にも余裕で間に合ってるし。
さて、さっそくだが経過報告と行こう。
先ずはこの状況についてだが……まぁ、見ての通り、無限城を模様替えして、礼拝堂跡や鍾乳岩窟など向こうの環境を再現しつつ、放し飼いにしている。
面子は私のジンガとマガド、チャラトミのグランガァ(グラガグァ)、零余子のシェレオス(シェルレウス)、姑獲鳥のセレン(セルレギオス)、丸子のぐらびぃ(グラビモス)、六部のクズハ(タマミツネ)。他にも餌になる小型モンスターや現地生物をエリア毎に繁殖させている。追々造設して種類も増やす予定だ。
アデルのディーノ(ディノバルド)とランラン(ラージャン)、ベア子のモモカ(リオレイア亜種)とヴィクターのブルー(リオレウス)はブリガドーンの方で飼うらしい。何でも“丁度良い場所”があるんだとか。私程じゃないけど拡張性あるよね、あそこ。
そんな感じで、生態調査も兼ねたモンスターの飼育が、両陣営で行われている。ポケモンたちも同様で、各々の好む環境で、偶にバトルをしたりしながら、伸び伸びと暮らしている。常識外れではあるけど、彼らも生物だってはっきり分かんだね、うん。
これら全てを戦力化出来たら、最早言う事はあるまい。武器や防具の素材にもなるし。
「ところでさぁ、鳴女」
ふと、近くでボケーっと見ていた零余子が尋ねてくる。
「……最近、太った?」
『ほほぅ、ハンバーグになりたいようだな』
「なりたくないよ!? いや、デレカシーに欠けるのは重々承知だけど、確実にポッコリしてるよ、お腹が」
私のお腹を指差しながら。何だ、そんな事か。
『そりゃあ、妊娠してるんだから当然だろうに』
「サラッと重大発言したね!?」
そこまで重大かぁ~?
『ほぼ毎日ハッスルしてれば、自然とこうなると思うけど?』
「そうだけどそうじゃないでしょ!? ……いや、まぁ、確かに連日連夜大運動会だけれども! 一体何時から妊娠してたのよ!?」
『うーんと、着床したのは三日前かなぁ』
「三日三晩で臨月なの!? 嘘でしょ!?」
そう言われましても、鬼だからとしか言い様がないです。
「えっと、妊娠期間の長さは置いておくとして――――――何で今更?」
うん、最もな質問だね。
『約束したからな』
「誰と?」
『無惨様と』
「ぶぼしゃあっ!?」
私の無惨様発言に、零余子が盛大に吹き出した。
「どどど、どういう事なのよ、それは!?」
『明日になってからのお楽しみ~♪』
「何よそれ!? 滅茶苦茶気になるぅーっ!」
その後、私は零余子の質問を曖昧に濁しつつ、寝床へ向かった。胎教は大事だからね。
◆◆◆◆◆◆
つぎのひ!
『ほぉ~ら、元気な男の子ですよ~♪』
「嘘だぁん!?」
つい今朝方に生まれた我が子を見せたら、零余子が信じられない物を見る目で叫んだ。大げさな奴だな。
「ギャオスかお前は!」
『当然だ』
「当然なんだ!?」
怪獣ではないが、超遺伝子は持ってるからね。
そして、この子はそのDNAを色濃く受け継いだ、超神童という訳である。
「あっ、でも可愛い顔してるかも……」
おくるみに包まれた赤ちゃんを見て、零余子が顔をにへらっと綻ばせながら、触りたそうに手をわきわきしている。白髪に赤目というアルビノ系の雪見大福がそこに居るんだから、撫でたくて仕方ないよねぇ。
だが、残念だったな、零余子よ。たぶん、お触りなんてしたら大変な事になるぞ?
「ちなみに、名前は?」
『無惨』
「嘘だぁああああっ!?」
嘘じゃないんだなぁ、これが。
『あぶぅ!』
「………………っ!」
我が子……もとい、無惨が一泣きすると、零余子は自然と平伏した。
うーん、この光景を再び目にする日が来ようとは、感慨深いねぇ。後は
「な、鳴女、もしかして、この子って――――――」
『その通り。中身は理想の上司様だよ』
「嘘ぉーん……」
『そして、これが約束でもある。現世での肉体を用意するってな』
ちなみに、産声はちゃんと上げました。それも元気溌剌に。良かったねぇ、今回は荼毘に付され掛けなくて。日に弱いのは相変わらずのようだけど(笑)。
《笑い事ではないわ! 陽光で焼け死ぬ事は無くなったとは言え、結局は日の下を歩めぬではないか!》
無惨がテレパシーで文句を言っている。
……何かやっぱり呼び捨ては慣れんな。様付けしとこう。
《歯が無いから肉は無理として……零余子の血でも吸ってて下さい。そうすれば、その内耐性が出来ますから》
実際に私がそうだったしね。もう
《むっ、そうなのか? その万年サボり魔が?》
《はい。とりあえず、零余子のおっぱいでも飲みましょうか。あれも血液から作られますからね》
《妊娠してないのに出る訳ないだろ!》
《出るんだなぁ、これが》
今世の零余子は何でも有りな状態だからな。何だったら、私のでもええのよ?
《……どうしても飲まなきゃならんのか?》
《肉体的には人間に近いですからね。赤ん坊の仕事は飲んで眠る事ですよ》
今の無惨様は“半鬼人”とでも言うべき状態で、成長するにつれて完全体となり、様々な能力や耐性を得る事になる。それまでは見た目通りの赤ん坊だ。
まぁ、仕方ないよね。かの幽霊族でさえ、生まれたばかりの時は非力なのだから。
《それに無惨様、オギャるの大好きでしょ? 身体はバブみを求めてるんでしょう?》
《誰がオギャるか! 人聞きの悪い事を言うな! まるで私が変態みたいだろうが!》
《最期はあーんなにバブバブの赤ん坊になってたのに~?》
《それはそれだ! 私にも大人としてのプライドがある!》
うーむ、相変わらず面倒臭い人だな。
『無惨様はおっぱいをご所望だぞー』「はいぃっ、ただ今ぁっ!」
《あっ、おいコラ、貴様……それは卑怯――――――おふぅっ!?》
という事で、有無もバブも言わさずに、ダブルぱふぱふの刑に処した。どうだ、嬉しかろう!?
「……それはそうと、結局の所、無惨様を今になって生まれ変わらせたのはどうして?」
無惨様を胸に埋めながら、零余子が尋ねる。締まらねぇなぁ。私も丸出しだけどさ。
『決まってるだろ』
それはもちろん、
『最後が近いからだよ……世界のな』
カウントダウンが始まったからさ。
◆パワハラ会議
ある意味で伝説となったトンデモ会議。
推しキャラの累が水柱に殺された腹癒せに、意外と骨の有りそうな魘夢以外の下弦の鬼を全員処刑した。殆ど八つ当たりに近いが、下弦の鬼はどいつもこいつもサボり魔(特に零余子)ばかりなので、余計な部署の解体する意味も、一応はあった……が、正直デメリットの方が多かった気がする。
この一件により無惨は読者より「鬼柱」の称号を贈られ、「鬼殺隊筆頭」「パワハラの呼吸」「頭無惨」「女装趣味」「あっ、ペイズリーだバーカバーカ」などと賞賛されるようになった。