鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 キュレムの専用技って名前の割りに使いにくいのが多いナァ……。


凍える世界

 俺の名前は桑原(くわばら) 保志(やすし)

 額と両頬に付いたX字の傷が特徴な、ペットショップの長男だ。

 とは言え、両親が離婚し、妹は親父に引き取られた為、実質的に一人息子である。だから何だって話だが。

 そんな事より、聞いて欲しい事があるんだよ。

 

 ――――――店で保護していた孤児のムクドリの雛が、何時の間にかムックルになってたんだ。

 

 何を言っているのか分からねぇと思うが、俺にもよく分からん。本当に朝起きて見てみたら、何故だかムックルになってたんだよ。

 

『ピキュピキュピピッ!』

 

 ほら、本人も鳴いてアピールしている。可愛いけど煩い。

 

「母ちゃん母ちゃん! あのムクドリがムックルになってる!」

「保志保志! 大変、ウチのハト次郎がマメパトになってる!」

「「えぇ……」」

 

 しかも、ムックルだけでなく、我が家の家禽であるカワラバトのハト次郎までもがポケモン化しているようだ。

 ちなみに、俺の母ちゃんは初代ポケモンが小学生の時に直撃した世代なので、案外とポケモンに詳しい。何なら俺よりもやり込んでいる。自称「最強の鳥使い」であり、主に序盤鳥+後半の鳥たちを使う。流石はペットショップの店長である。

 

「モ、モンスターボール、何処かに無いかしらねぇ?」

「……母ちゃん」

「な、何よ! ポケモンマスターに、私はなるのよ!」

 

 だからなのか、母ちゃんは慌てふためくどころか、マメパトをゲットしようとソワソワしていた。ブリーダーがトレーナーに転職するんじゃないよ。

 

「……って言うか、よく見ると、他の鳥たちもポケモンになってるぞ!?」

 

 一呼吸おいてから周囲を見渡してみれば、籠の中(ゲージ)の鳥たちが、1羽残らずポケモン化している。ポッポにオニスズメ、ホーホー、モクロー、ペラップ、ドデカバシなど、実に母ちゃん好みの物ばかり。何か1羽だけ最終進化形がいるけど、気にしたら負け。

 何なんだよ、これは。何がどうなってやがる!?

 

「えー、モンスターボール、モンスターボールはいかがですかー?」

 

 と、店先から物売りの声が。何で売ってるんだよ。

 

「お、丁度良いじゃん。保志、買って来てよ」

「状況に順応し過ぎだろ!? 少しは騒げよ!?」

「いいからいいから。ちゃんと10個単位で買いなさいよ。プレミアボールも欲しいから」

「ゲーム脳め……」

 

 環境適応能力の高い母ちゃんに金一封(1万円)を渡され、買い出しに行かされる俺。どうしてこうなった。

 

「……あいつがそうか」

 

 そして、店を出てみれば、さっそく売り子を発見。赤いレインコートにバスケットと、まるで童話の赤ずきんのように見える。中身は言うまでもなく、女の子だろう。

 

「あー、えっーと……すいません、ちょっとそれを買わせてもらいたいんですけど?」

「あ、ハイ! でも、試しも無しに買ってもらうのもアレなので、ちょっと今から実践して――――――」

「……お前、零余子か!?」

 

 その上、中の人は自分の見知った顔だった。

 そう、売り子の彼女は、俺の同級生だった(・・・・・・・・)零余子であった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「あらあら、零余子ちゃんじゃない。久し振りね。何か家庭の事情で引っ越してたようだけど、元気そうで良かったわ」

「いえ……」

 

 母ちゃんに勧められるまま、お茶と菓子を頬張る零余子。その隣に座るは、もちろんこの俺、保志だ。幾ら昔馴染みとは言え、こんなカップリングみたいな位置取りをするのはどうかと思うのだが。

 まぁ、実際に昔はかなり仲が良かったからな。

 

 あんな事(・・・・)さえなければ(・・・・・・)

 

「それじゃあ、後は若い二人でごゆっくり~♪ 私は店番してるからね~♪」

「あ、おい――――――」

「バイバイキ~ン♪」

「ば○きんまんか!」

 

 さらに、母ちゃんはしたり顔で店に戻ってしまった。チクショーメーッ! 

 

「どうやら、お母さんは知らないみたいね」

 

 

 すると、総統閣下していた俺に、零余子の方から話し掛けて来た。

 意外だ。てっきり、話すのも嫌だと思ったのに。

 

「いや、あんたの事は未だに許してないわよ?」

 

 ナチュラルに心を読むのは止めて下さい。

 そう言えば、こいつは昔から勘が鋭いと言うか、やたらと大人びてた所があったな。普段はおちゃらけてるけど、本心では色々と分かってます的な感じ。まるで転生系のラノベ主人公である。

 だが、彼女の持つチート能力は、どちらかというと敵寄りだった。しでの鳥もビックリな、とんでもない再生力持ちだったのだ。

 しかし、ラノベ主人公と違い、零余子の場合は都合があまりにも悪過ぎた。

 まず、シチュエーションが最悪だった。交差点のど真ん中という、嫌でも目に付く場所で、本人の否やもなく勝手に発現してしまったのである。

 見るも無残なハンバーグとなった少女が、巻き戻しの如く元の姿になったのを目の当たりにすれば、周囲の人々が彼女に対してどう思うのかなど、想像に難くない。

 何せ、俺がそうだったからな。

 

 ……そう、その現場に俺も居合わせていたのだ。

 

 俺はその日、零余子と一緒に帰路に着いていた。

 家の方向が違うので完全な遠回りだったのだが、零余子とはそれなりに仲が良かった事と、当時の俺たち一家がかなりの不和を抱えていたのもあり、なるべく家に居たくなかったのである。

 そして、彼女に家庭内事情を愚痴りながら歩いていた時、“それ”は来た。

 

「保志、危ない!」「えっ!?」

 

 飲酒運転の末、暴走して突っ込んで来たのは、10トン級の大型トラック。零余子に突き飛ばされていなければ、俺がハンバーグになっていただろう。

 

「うぅぅ……っ!」

「と、父ちゃん!?」

 

 さらに、運転手はまさかの親父だった。

 陶芸家になる夢を叶えられず、知り合いの口利きで入社した物流の仕事で何とか生計を立てられてはいたものの、実質母ちゃんに寄生しているも同然だった親父は、随分と鬱憤を溜め込んでいた。それは少し前から家庭にも表れていて、夫婦喧嘩の要因になっていた。

 そして、職場の同僚から忠告されたのが止めとなり、完全に自棄酒をかっ食らい、ヤンキー気取りで暴走させた――――――と、後に出所した親父と偶然出会った時に語られた。

 本来なら過失運転致死+飲酒運転でしばらくは出られない筈だが、母ちゃんが文字通り最後の情けで罰金を肩代わりしてくれたのと、犠牲者である零余子が居なくなってしまった事、事件の内容があまりに奇怪過ぎて犠牲者扱いになったのが俺だけだったのが重なり、“致死傷”にならなかったおかげで、思ったよりも早く出られたのだ。あいつが子持ちで、その子供である妹が懇願したのも大きい。あいつ、かなりの親父っ子だったからな。今では二人共東北の方に引っ越して、夢にまで見た陶芸家としての道を歩み始めているらしい。

 ともかく、零余子は咄嗟の正義感で俺を助けたのにも関わらず、他ならぬ俺のせいで社会的に追い詰められ、あっという間に蒸発してしまった。

 母ちゃんが知らなかったのは、全力で俺が黙っていたのと、周囲の人が気を遣ってくれたからだ。流石にロクデナシの親父を庇ってポンと数百万円を払える漢気を見せた母ちゃんに、嫌な思いをさせるのは気が咎めたのだろう。

 その優しさを、少しは零余子に向けても良かったのでは、とはとても言えない。

 

「く、来るな、化け物!」

 

 ……あの時、思わず言ってしまった一言は、今でも俺の脳裏に残っている。言われた零余子の絶望し切った顔も。

 しかし、全ては手遅れ。俺は母ちゃんに隠し事をしたまま、零余子に謝る事も出来ないまま、今日まで生きて来た。

 

「言っとくけど、謝らないでよ。ムカつくだけだから」

「………………」

 

 だが、謝罪の機会は永遠に来ないようである。

 ま、今更謝られても困るだけだし、俺が罪悪感を薄れさせるのを快く思わないのもよく分かる。俺だったら顔見た瞬間にぶっ殺すだろうからな。

 犯人が謝罪し反省しているからと言って、被害者や遺族が許してくれるとは限らないのだ。

 

「……お前、今はどうしてるんだ?」

 

 なので、俺は話題を変える事にした。幸い話もしたくない程に怒ってはいないようだし、せっかく久しぶりに会えたのだから、少しくらいは話したい。

 

「とある女の庇護下で、ウーチューバーをやってるわ」

「思ったより充実してるじゃん」

 

 さっきの売り子姿から、てっきり人には言えないようなバイトをさせられてばかりだと思っていたが、それは杞憂だったようである。

 

「……後でチャンネル登録しておくよ」

「そりゃどうも。ついでにスパチャもしておいてね」

「はいはい……」

 

 こうして話していると、やっぱり昔を思い出しちまうなぁ。

 でも、今更縁りを戻すというのは都合は良過ぎるし、このまま少し話したらお別れか。こいつも、俺なんかと関わるより、今の生活を楽しむ方が幸せだろう。

 

「それはそうと、そのモンスターボール……本物なのか?」

 

 と、話が一段落した所で、俺はずっと気になっている事を尋ねた。何せモンスターボールだ。幾らポケモンが現れたからって、捕獲用具までぽっと出するなんて都合が良過ぎる。

 

「本物よ。ほら」

「おお……!」

 

 それは零余子も思っていたのか、部屋まで付いて来たムックルに向けてボールをポイっと投げた。

 すると、ムックルはアニメやゲームよろしく光となって吸い込まれ、ボールがカタカタと揺れ出す。

 

『ピキュピキュピキキッ!』「あら、出ちゃったわ」

 

 しかし、零余子に掴まるのは嫌だったようで、全力でボールから出て来た。それでも2回は揺れてたから、やっぱり捕まり易いんだろうな。序盤鳥だしね。

 だが、このボールが本物だとして、今度はそれを多量に持ち歩いているこいつが何だって話になる。

 

「あんたがお気に入りみたいね。ボールは売ってあげるから、まぁ、上手くやんなさいな」

「もう行くのか?」

「昔みたいで嫌だからね」

「………………」

 

 ただ、零余子はこれ以上話していたくはないようなので、追及は止めておこう。俺にそんな資格はない。

 こうして、俺たちは何の和解も理解も出来ないまま、再び分かれる……筈だった。

 

「きゃあああああっ!?」

 

 母ちゃんの悲鳴が、聞こえて来るまでは。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「母ちゃん、何が――――――寒っ!?」

 

 慌てて店の方へ出た俺と零余子が見たのは、一面の銀世界。雪と氷で全てが閉ざされた、氷結世界だった。

 

「あ……」「……砕けてる」

 

 さらに、氷漬けにされた上で、粉々に砕かれた母ちゃんだった物体。

 

『クォルルルゥッ!』

 

 そして、一連の出来事を引き起こしたであろう犯人――――――、

 

「「フリーザー!」」

 

 それは、伝説の冷凍ポケモン「フリーザー」だった。見る者を圧倒する冷酷な美しさは、間違いなくこの種族の特徴である。

 しかし、今はそんなのはどうでもいい。

 いや、良くない。

 

「よくも母ちゃんを!」「よしなさい!」

『コォオオオオッ!』

 

 零余子が制止したが、そんなの知った事じゃない。こいつは、母ちゃんを殺したんだ。絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛!

 

『カォオオオッ!』

「あっ……!」

 

 しかし、伝説のポケモン相手に、スーパーマサラ人でもない俺が敵う訳も無く、あっと言う前に冷凍ビームに呑み込まれた。

 

「「円舞一閃」!」『コォルルッ!?』

 

 ……かに思われた時、零余子の炎煌めく一閃によって、ビームは中断される。

 

『ギャォオオッ!』

「「輝輝恩光」!」

『コァアアアッ!?』

 

 さらに、怒れるフリーザーのエアスラッシュを、零余子は螺旋を描くように駆け上がりながら、火柱を伴う一撃で以て叩き落した。お前何時から化け物以上の存在になっちゃったの!?

 

『キィィ……!』

「逃がすかっ!」

『カッ――――――!』

 

 そして、形勢不利と見たフリーザーは逃げようとしたが、零余子の放ったマスターボールによって、あっさりと掴まってしまった。

 

「………………」

 

 開いた口が塞がらない。絶句するとはこの事だ。

 

「………………」

 

 零余子も何も語らない。一言も喋らないまま、何故だか自分の手首を切り、母ちゃんだった肉片に掛けていく。

 

「……うぅっ』

 

 すると、まるであの日の零余子の如く、凄まじい速度で再生し、母ちゃんは元の姿に戻った。

 

『ガァアアアッ!』「うわっ!?」

 

 さらに、鬼の形相を浮かべたかと思うと、獣のような動きで俺に襲い掛かって来た。

 

「せい!」『ガッ……!』

 

 しかし、俺の肩口に噛み付き、血を啜り始めた所で、零余子が入れた当て身によって意識を刈り取られてしまった。

 

「……これで、お母さんはあんた無しじゃ生きられなくなった。生かすも殺すも見捨てるも、あんた次第。これは、私なりの復讐……仕返しみたいな物」

「そ、それってどう言う――――――」

「ボールもサービスしておくわ。それじゃあ、さようなら」

 

 そして、零余子は薄ら寒くも、何処か寂しそうな笑みを浮かべながら、今度こそ立ち去って行った。残されたのは、氷から解き放たれたポケモンたちと俺、それから意識の無い母ちゃん。

 

「母ちゃん……」

 

 よくは分からないが、俺の母ちゃんは命拾いした代わりに化け物にされてしまったらしい。その上、俺の……おそらくは血を吸わなければ、死んでしまうようだ。

 

「“私なりの復讐”か……」

 

 つまり、同じ目に遭えと言っているのだ、零余子は。やはり、壊れた関係は二度と修復出来ないんだな……。

 

「――――――これは、大変な事になったな」

「………………!」

 

 と、そこへ現れる、見知らぬ男。

 だが、黒い詰襟に「滅」の一文字が刻まれた羽織を纏っている事を鑑みるに、こいつは大空総理大臣が結成したとかいう、「鬼殺隊」の一員か。

 だとすると、マズい。ポケモンは言うまでもなくモンスターだし、さっきのをチラッとでも見られたとしたら、母ちゃんも妖怪扱いされてしまう。

 

「仕方ない……」

 

 案の定、鬼殺隊の男は「日輪刀」を抜き、母ちゃんへ切っ先を向けた。

 

「ま、待ってくれ! ……いや、させない! 母ちゃんは狩らせないぞ!」

 

 そう、俺は試されている。目の前の鬼殺隊の男にだけではない。零余子の用意した悪意に、己の覚悟を試されている。

 

「分かっているのか? そいつも、そいつらも、もう普通の生き物じゃないんだぞ。お前の都合なんて、聞き入れやしない」

「分かってるよ、そんな事は!」

「頼むだけで許されるなら、鬼殺隊は存在しないぞ。そもそも、そいつらが他の人間を傷付けたとして、どう責任を取るつもりだ?」

「責任とか知るか! 俺は俺たち以外の事なんてどうでも良いんだよ!」

 

 母ちゃんが殺されるつもりはないし、変化したとは言え店の鳥たちを狩られるのは嫌だ。あの日、零余子の心を殺した俺が、今更責任なんて取れるか!

 

「行くぞ、ムックル、マメパト、他の皆も!」

『ピキュピピ!』『パットーッ!』『ホォオクゥン!』『ポッポォッ!』『ペラップゥー!』『デカァアアハシッ!』

「………………!」

 

 “俺たち”は、必ず勝ってみせるぞ!




◆フリーザー

・分類:れいとうポケモン
・タイプ:こおり/ひこう
・性別:ふめい
・特性:プレッシャー/ゆきがくれ
・種族値
 HP:90
 こうげき:85
 ぼうぎょ:100
 とくこう:95
 とくぼう:125
 すばやさ:85
・図鑑説明
 雪山で寒くて死にそうな時に目の前に現れるとされる、伝説の鳥ポケモンの1つ。周りの空気を冷やして雪を降らせ、尻尾をたなびかせながら空を飛ぶ姿は素晴らしく美しいが、実態は命を氷結させる恐ろしい冷凍ポケモン。
 ガラル地方に亜種が確認されているが、現在では収斂進化を遂げただけの完全な別種であると言われている。
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