東京都、葛飾区。
『ギャヴォオオオッ!』
突如進化したギャラドスが大暴れしている。
「水の呼吸、捌ノ型「滝壺」!」
そんな暴れん坊に、崩れた足場を利用して大ジャンプした詰襟姿(羽織は無い)の少女が、刃を叩き付ける様に斬り掛かる。その剣圧は女の子どころか人間とは思えない程に重く激しい。
『グヴヴヴ……ギャラァッ!』
「きゃあっ!?」
しかし、ギャラドスは一瞬怯みはしたものの、即座に体勢を立て直し、詰襟の少女へ襲い掛かった。理性をかなぐり捨てた攻撃技「暴れる」だ。少女も頑張って避けているが、攻撃が激し過ぎて、何れは直撃してしまうだろう。
「泉の呼吸、弐ノ型「鉄砲水」!」「わっ!?」
だが、止めを刺される寸前で別の詰襟が割り込み、少女を助けた。
彼の名は
しかし、彼はモブだが雑魚ではない。もうすぐ羽織を纏わせて貰える程の実力者である。
『ギャヴォォオオオッ!』
「引っ込んでろ! 泉の呼吸、捌ノ型「間欠泉」!」
『グギェェッ!?』
追撃しようと突っ込んで来たギャラドスに対して、下から打ち上げるようにカウンターを決め、今度こそスタンを取った。その間に少女を安全圏に逃がし、
「馬鹿野郎! みずタイプに水の呼吸使ってどうすんだ! 素直に雷の呼吸の使い手に任せろ!」
「す、すいません……」
思い切り叱り付けた。その勢いは、まさしく瀑水の如しだ。
だが、何時までもお袋さんをしている場合ではない。己の変化に付いていけず暴れ回るポケモンは、まだまだ居るのだから。
『……ギャラァアアアッ!』
「しつこいな、こいつも!」
と、気絶から回復したギャラドスが、再び襲い掛かって来た。無傷という訳ではないが、瀕死状態には程遠い。もっと手数を稼げば結果は違ってくるかもしれないが、その前にこちらが被弾して大ダメージを受けてしまうだろう。
(やはり、今までの傾向からして、呼吸の変化がそのままタイプ相性になっている。水系統の呼吸じゃ、精々怯ませる程度か……)
駆け付けるまでの戦いと、ギャラドスの立ち直りの早さから、村田は呼吸の種類がポケモンのタイプの相性に対応している事を確信していた。さっきの発言も半ば以上冗談では無かったが、予測は正しかったらしい。
(ならば!)
――――――キンッ!
「おっ、いきなり“呼ばれた”と思ったら、丁度良い相手がいるじゃねぇか。こんな四倍弱点野郎なら俺でもやれるぜ!」
納刀を合図に、村田は雷の呼吸の使い手を呼び寄せた。隊士は全員つばめから「武器納めが救難信号になる」と言われていて、自分が不利な相手が現れた時は無理をしないよう厳命されている。転移能力を持つ彼女であれば、状況に応じた人員を即座に送り込める。
「何だ、お前かよ……」
「失礼な奴だな! せっかく呼び出しに応じてやったのに、その言い草はねぇだろ!?」
まぁ、時と場合によるので、人選までは思い通りにいかないのだが。
事実、召喚された隊士は、村田があんまり好きではない少女だった。
彼女は
呼び出された理由からも分かる通り、斗賽子は雷の呼吸の使い手で、実力で言えば村田と同レベルの隊士である。
だから召喚されたんだろうが、村田としては遠慮したかった。それは斗賽子の性格と、出会いが関係している。
二人は初任務でツーマンセルを組んだのだが、彼女は当初からイキりまくっており、村田の忠告を無視して単独で突っ込み、返り討ちになりそうになった所を後から追い付いた彼に救われ、それ以来、斗賽子は何かと村田に突っ掛かるようになったのである。
その為、女性――――――というか、グイグイ系にそこまで免疫が無い村田は、斗賽子が若干の苦手意識を持っているのだ。
余談だが、初任務の討伐対象は、火と鉄糸を操る絡新婦という妖怪だったりする。
『ギャォオオオッ!』
「うるせぇなぁ! とりあえず倒されとけや!
『ヴゴァッ!?』
しかし、先の通り斗賽子の実力は確かな物。襲い来るギャラドスを、タックルで逆に強襲し、雷を纏った殴打を酸連続で食らわせ、瀕死状態へ追い込んだ。
斗賽子の武器は、刀からかなりかけ離れた形をしており、中央に持ち手の付いた三日月型になっている。それを万力のような握力で握り締め、ぶん殴るように斬り付けるのである。
元々は普通に雷の呼吸の型を使っていたのだが、何故か壱ノ型が上手く出せず、密かな悩みとしていた時に、村田の“殴るような剣技”に救われた事で、自らも同じような道を突き進み、その結果こうなった。
ケモノであって、ケダモノに非ず。それが斗賽子の「獣の呼吸」だ。
「相変わらずヤバいな」
「そうか?」
「少なくとも女の子のする事ではない」
「何でだよ!? 暴力は全てを解決するだろうが!」
「その考え方がヤバいって言ってんの!」
……恩人である当の村田には引かれている事には気付いていない模様。
『ガァアアギィイイン!』
「チッ、今度はニドキングか……!」
と、今度は地面を突き破って、野生のニドキングが現れた。こいつもまた興奮状態であり、目に見える相手を攻撃しようとしている。
「――――――俺が行く! 斗賽子はその子を頼んだぞ!」
ニドキングはどく/じめんタイプ。雷の呼吸から派生した獣の呼吸では相性が悪い。なので、村田は自らが前に出た。
『グガァッ!』
ニドキングが毒突きを繰り出して来た。毒を纏ったド突きが村田に迫る。
「泉の呼吸、壱ノ型「湧き水」!」
それに対して、村田は水面が揺れるように攻撃を躱し、ニドキングの顎を打ち上げる。
『ガァ……!?』
すると、ニドキングの視界が湧き水の如く歪み、たたらを踏んだ。
「泉の呼吸、肆ノ型「海嘯」!」『グギャッ!?』
さらに、そこへ村田の追撃が叩き込まれる。まるで河を逆流する津波のような荒々しい連撃がニドキングの手足を捉え、完全に運動機能を奪い去った。
『グッ……!』
「させるか! 泉の呼吸、伍ノ型「土砂降り」!」
『グガァァァ……』
そして、破れかぶれにヘドロ爆弾をぶちかまそうとしたニドキングに、打ち下ろすような凄まじい居合切りが炸裂し、瀕死状態へ追い込んだ。
「……カッコいい」
そんな彼の様子を、少し離れた位置から斗賽子が見つめていた。頬を少し赤らめながら。
「あ、あの、ちょっと良いですか?」
と、呆けていた斗賽子に、少女の隊士が質問する。
「ん、どうした?」
「河原さんの武器は分かるけど、村田さんの日輪刀は何で“鉈”なんですかね? それに、どうして斬ってるのに、打撲みたいな傷ばかり出来るんでしょう?」
「ああ、そういう事か」
少女の疑問に、斗賽子は納得した。村田の使う泉の呼吸は、初見だとかなり型破りに見えるからである。
「あいつ、「棟」で殴ってるんだよ。つまり、骨を砕いたり、衝撃で神経を乱すのが主な攻撃方法なのさ」
「えぇ……」
そう、泉の呼吸は割とえげつない。
水の呼吸が流れるように、どちらかと言えば上から攻撃するのに対し、泉の呼吸は逆手持ちで下から殴打を食らわせるのが特徴である。斗賽子の言う通り、殴打によりスタンを取るのが得意な呼吸だ。これが結構有用で、先に動きを鈍らせてしまう事で、確実に止めを刺す事が出来る。実際ニドキングはまず脳震盪でバランスを崩された上で、手足の運動能力を奪われた為、ロクに反撃出来ないまま狩られてしまった。
「な、何でそんな暴力的な技を?」
「暴力的って……いや、確かに暴力的だけど。何か、出身が関係してるらしいよ。詳しくは教えてくれないけど」
「は、はぁ……」
村田の実家はマタギでもやってたんだろうか。
ともかく、これで周囲の安全は確保された――――――かに思われたのだが。
『バヴォォオオオオオッ!』
3人を覆い隠す、巨大な影が差す。空を見上げれば、頭でっかちな
「「「バ、バゼルギウス!?」」」
間違いない。あれは爆鱗竜「バゼルギウス」である。3人共、ポケモンもモンハンもやってるから、すぐに分かった。
「くっ、何がどうなってやがる!」
「そんな事より、お館様に連絡だ!」
「は、はい!」
だが、呆けている場合ではない。“趣味が爆撃”という危険生物を野放しにしては、ポケモン以上の被害を齎してしまう。
『グギャアアアアアアァヴォッ!』
「「「今度はディアブロス!?」」」
さらに、瀕死で動けないギャラドスやニドキングをご自慢の二本角で吹き飛ばしつつ、地下から砂漠の暴君「ディアブロス」まで現れた。こんな真似をやらかす奴は、1人しかいない。
「くそっ、一先ず足止めだけでもするぞ!」
「「了解!」」
『ヴェァアアアアアアヴォッ!』
「「「滅茶苦茶うるせぇ!」」」
そして、バゼルギウスは他の隊士に任せ、村田たちは咆哮を上げるディアブロスへ立ち向かうのであった。
◆村田
「鬼滅の刃」に登場する一般隊士。特徴が無いのが特徴という、ザ・モブって感じの人だが、女子も羨むキューティクルヘアーは彼のアイデンティティー。
一応、最終選別は突破したし、何ならあの冨岡 義勇と同期だったりするが、才能はあまりなかったらしく、どちらかと言うとサポートとして活躍した。その一般人から抜け切れていない、人柄の良さから割と人気はあるようだ。
今作では勝手に熱海出身にされた。
今世でも水の呼吸が上手く行かず、八つ当たりでその辺の岩に斬り掛かったら、折れた刀身の棟が頭に直撃し、その時偶然視界に入った間欠泉を見て、泉の呼吸を編み出した。奇麗に斬るのは苦手だが、力仕事をしていたおかげで“持ち上げるように殴る”のは得意だったので、逆手持ちの鉈でスタンを取る戦法を思い付いた模様。
初任務の際にサイコロステーキ後輩を助けたせいで、彼女に熱く絡まれているが、本人としてはちょっと迷惑に思っている。
ちなみに、今回助けた後輩少女の名前は「後藤 珠代(ごとう たまよ)」。