東京都墨田区、夕暮れのスカイツリー。
『来たか……』
『こんにちは……いえ、もうこんばんはね、何処かの誰かさん』
ダース・マリアボラスは、空から降り立つ赫い凶星――――――フル装備状態の猫娘を見詰め、
『お疲れさん』
『……問答無用か!』
いきなり影の塊を撃ち出して来た。着弾と同時に空間が圧縮され、文字通り炸裂範囲内にあった物体を消滅させる。まるで小さなブラックホールである。あれが直撃したらと思うと、ぞっとする。
知る人が見れば、それはゴーストタイプ技の「シャドーボール」だと分かるのだが、威力があまりにも違い過ぎる。そこらのポケモンが出せるパワーではない。
それこそ、特攻に長けた伝説のポケモンでも無ければ。
『アンタは一体――――――』
「やっぱり、ポケモンなんですね、あなたは」『あぶぅぅぅ!』
と、壁をハイハイでよじ登って来た四つ目の巨大な赤ん坊と、その“母親”が颯爽と現れる。ボロボロの魔法使いのローブに調布市立中学校の制服という、異色な組み合わせをした魔法少女――――――犬山 真名の再登場である。その身に纏う闇は以前名無しの下へ訪れた頃よりも色濃く、ヘドロのように濁り渦巻いており、見ているだけで臭いまで伝わって来る。まさに吐き気を催す邪悪、悪に限界のない女だ。
「久しぶりです、ねこ姉さん」
『……アンタも一体どうしちゃったのよ』
「ねこ姉さんもあんまり他人の事は言えないと思いますよ?」
『そりゃそうだけど……』
あまりにもあんまりな変わり様に猫娘は狼狽するが、確かに真名の言う通り、彼女自身も大分様変わりしている。どう考えても藪蛇なので、今は目の前の敵に集中するとしよう。
「颯爽登場、銀河美少年!」「違いますよ!?」
『ホォグルドォ!』『ジュラァアアアアッ!』
さらに、アオイとボブのポケモン組も登場。現状、最も強いであろう戦力がスカイツリーに終結した。
『ウフフフ、いいねぇ。退屈してた所だし、丁度良いわよ、うんうんうん♪』
しかし、過剰戦力とも言える彼女たちを目の前にして、マリアボラスは慌てず騒がず、余裕たっぷりに嘲笑ってみせた。そののっぺりした笑みに、絶対の自信を感じさせる。とてもムカつくドヤ顔である。
『なら、それに相応しい舞台を用意しましょうか!』
その上、指パッチン1つでスカイツリーを青い結晶が覆い尽くし、まるで花開くように決戦の舞台を形成する。エンテイ(CV:竹中 直人)が根城にした、あの結晶塔そっくりの様相だ。
『ついでに、オーディエンスもねぇ!』
『コォォォォォ……!』『ガヴォオオッ!』『ヒュルァアアッ!』『バヴォォオオッ!』『バディルバディル……!』『フォフォフォフォ』『シュィイイン!』『カォオオオン!』『ギィガァヴヴヴッ!』『キシャアアヴォッ!』
しかも、もう1つのパッチンでウルトラホールを形成。空間をガラスのように叩き割り、マイナスエネルギーが形を成すように、ウツロイド、マッシブーン、フローチェ、デンジュモク、ツンデツンデ、ズガドーン、カミツルギ、テッカグヤ、アクジキング、アーゴヨンが次々と現れた。
ちなみに、全員色違いである。どうやらマリアボラスは色違いコレクターのようだ。
「……貴女は一体、何なんですか!? 何でこんな事をするんです!?」
そんな伝説をも凌駕する異常事態を前に、ボブが叫ぶ。
『何故かって? “暇潰し”に決まってるじゃない』
「なっ!?」
『人間だって同じような事をしてるでしょう? いや、人間だけじゃない。虫けらでさえ復讐するし、脊椎動物なら大体が“遊び”感覚で虐殺だってする。ほら、何もおかしい事じゃない。自分たちだけが理不尽な目に遭わないと思うのは大いなる間違いよ、人間さん? それとも、分かりやすい理由が無いと気が済まないのかしら? 全く以て、ブゥァカじゃねぇのぉ!? キャハハハハハハハ!』
そう、動物は生きる目的以外でも他の生物を害する。肉体的にではなく、精神面をケアする為に。知恵ある悪魔は誰の心にも存在する、謂わば生命体としての本能。それを殊更気にする人間が狂っているだけ。
結局、最後は誰しも自分さえ良ければ、それでいいのだから……。
『そもそも、私が誰かって? 言ったでしょ、私の名はダース・マリアボラス。だが、それは数ある顔の1つに過ぎない。ある時は美人受付嬢、ある時は人気の駅員さん、またある時はX獣を狩る夜襲部隊! しかして、その正体は――――――』
そして、ボブの質問に応えるかの如く、ダース・マリアボラスが遂にその正体を顕わにする。
正中線を境に左右で白と黒に分かれた、ダークヒーロー染みた甲殻に身を包む、人型知的生命体。各所に配された宝玉や触手状の髪の毛が、音を奏でるように輝き、見る者を圧倒する。
「お前、あの時夢に出て来た……」
美しくも不気味で、邪悪の権化とでも言うべきその姿に、アオイは見覚えがあった。
見た者を永遠の闇に捉え、最終的にダークライへ変えてしまう、覚める事の無い悪夢の登場人物にそっくりだったのである。
『へぇ……“マガツキの悪夢”から生還出来るなんて、君も化け物だねぇ。……そう、その通り! 私は這い寄る混沌、悪の権化! 邪神「ナイラーア」よ! ギャハハハハハ、ヴフハハハハハハハハハッ!》
そう、それはティアーザ地方の闇を統べる一族の一柱、外なる神ニャルラトホテプと似たような性質を持つポケモン、邪神「ナイラーア」だ。
◆ナイラーア
・分類:げどうポケモン
・タイプ:あく/じめん
・レベル:不明
・性別:不明
・種族値: HP:113 A:97 B:103 C:151 D:103 S:113 合計:680
・図鑑説明
外宇宙から来たと言われる邪悪なポケモン。最強最悪の邪神「アザスト」の忠実な僕と嘯きつつも全てを見下すエゴイストで、誰かが苦しみのたうつ姿を見るのが趣味という、正真正銘の外道。
その実、中身は空っぽ同然であり、“その時代で最も邪悪な人間の魂”を基本人格として取り込み、行動する習性を持つ。
何時だって、本当の悪魔は人間なのだ。
《ギャヒャハハハハハハッ!》
『来るわよ!』
ダース・マリアボラス改めナイラーアの指示で、ウルトラビーストたちが一斉に動き出す。
マッシブーン、フェローチェ、アーゴヨンの虫型組はアオイとその相棒へ。
ツンデツンデ、ウツロイドの鉱物組はボブとユルングルムへ。
デンジュモク、カミツルギ、テッカグヤの植物組は真名と四つ目の赤ん坊へ。
アクジキング、ズガドーンの悪霊組は、
「――――――くっ、バレたか!」
亜空間から奇襲を仕掛けようとしていた、抜刀状態の大空 つばめへ、それぞれ攻撃を仕掛ける。
《イヒャハハハハハハハハハハハ!》
『掛かって来なさい、この悪魔め!』
では、肝心要のナイラーアの相手はと言うと……モチのロン、猫娘である。たった一人で天地を統べる戦闘能力に身を包んだ、最強のワンマンアーミーたる彼女を“面白い玩具”として認識し、襲い掛かったのだ。
所詮、ナイラーアにとって、この諍いは単なる暇潰しにしてお遊び。大した意味も無い、理不尽極まるレクリエーションである。
《ギヒハハ、アヒャハハハッ!》
『日本妖怪を舐めないでよね!』
だが、理不尽に抗ってこそ生物。降り掛かって来る火の粉は、例えそれが隕石だろうと撥ね除けてこその人間だ。猫娘の身体には、その血が半分は流れている。
だからこそ、全力で戦う。今も何処かで鬼太郎が見てくれていると信じて。
(アタシはアナタに守られたい訳でも、守りたい訳でもない! 一緒に肩を並べて戦いたいのよ!)
それが猫娘にとっての全てだから。
何故こんな異常事態に鬼太郎がやって来ないのかなど、この際どうでも良い。
むしろ、彼の手を借りずに戦果を持ち帰って、認めてもらいたいとすら思っている。決して正義感だけで戦っている訳ではないのである。
その為にも、
『死ねぇえええええっ!』
今ここに、東京最後の日を飾る夜戦が始まる……!
◆ナイラーア
・分類:げどうポケモン
・タイプ:あく/じめん
・性別:不明
・種族値
HP:113
こうげき:97
ぼうぎょ:103
とくこう:151
とくぼう:103
すばやさ:113
・図鑑説明
外宇宙から来た、最強最悪の邪神「アザスト」の忠実な僕と嘯く、邪悪なポケモン。誰かの生涯を破滅させ藻掻き苦しむ様を至上の喜びとする正真正銘の外道で、大地の力を巧みに操り悪逆非道の限りを尽くす。必殺技は「せんのむぼう」と「はいずるこんとん」。
姿を自由自在に変える能力があり、幾つもの顔を持って社会の闇に紛れて人を嘲笑う存在と言われているが、実際の中身は完全なる虚無で、“最も邪悪な人間の魂”を基本人格として取り込み行動する。
そう、本当の悪魔はナイラーアではなく、それを操る人間なのである。