ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

93 / 113
11話

 ヴァーリたちの協力もあり、アーシア共々無事に帰ってきた俺が目にしたのは、赤い怪物と悪魔が争う戦場だった。

「あらら。宿敵くんってば『覇龍』になっちゃってるね」

 ヴァーリが関心したように言う。

 宿敵くんと呼ばれた赤い怪物。ヴァーリが宿敵くんと呼ぶのはイッセーただ一人。

 赤い怪物の正体はイッセーなのか? 

「あれが『覇龍』か。止める方法は?」

「何か宿敵くんの深層心理を大きく揺さぶる現象が起きれば戻れるかもね……」

 ふむ。イッセーを大きく揺さぶるもの……。ああ、胸だな。

 しかし誰かに見せて来いなどとは言えない。

「物理的に倒したら元に戻ったりしないかな」

「それは難しいと思うよ」

「難しいか……」

 そもそもイッセーがああなった理由はなんだ? わからないことだらけじゃないか。

 眼前ではイッセーが悪魔と戦っているが、その悪魔の右腕を切断する。ついでと言わんばかりに肩の肉も食いちぎる。

「や、野性的だねぇ……」

 ヴァーリが若干引きつった笑みをこぼした。

 あれ、どうしたらいんだろう。

 少し離れた位置に祐斗たちが見える。あいつならこれまでの経過も知ってるはずだ。

「悪いヴァーリ。少しみんなのところに行って現状を聞いてくる」

「あたしも聞く!」

 祐斗のもとに向かうさい、ヴァーリもついて来る。かまわないさ。きっと力になってくれるだろ。

「祐斗! みんな!」

「え――?」

 声をかけたら不思議な顔をされた。なんで!?

「カイトくん、無事だったのかい?」

 ああ、そういうことか。多分、俺たちがどこに跳ばされたか知っているんだ。だから驚いていたんだな。

「俺もアーシアも無事だ。アーシアは気を失ってはいるけど」

 アーシアを祐斗に渡す。

「そうか、よかった。でもどうやって次元の狭間からこっちに?」

「運良くヴァーリたちと出会ってな。事を話したらここまで送ってくれたってわけだ」

 後ろにいるヴァーリが手を振る。警戒する祐斗だが、すぐに敵意がないことを察する。こういうところの理解が早いのは祐斗の美点だな。

「それで、この状況はなんだ? イッセーになにがあった?」

「それは――」

 

 

 なるほど。俺とアーシアがいなくなって、死んだと思ったイッセーが『覇龍』にねぇ。そんで襲撃してきたのはアザゼルが言っていた今回の首謀者の悪魔……。シャルバと言ったか。

 あいつのおかげでアーシアは死に掛けたってことだな。

「どうするよ」

「どうしようねぇ」

「白龍皇の力でどうにかならないのかい?」

 祐斗以外のみんなは全員イッセーに気がいっていて、俺とアーシアの生還に喜ぶのもつかの間。暴れるイッセーをじっと見つめ続けている。

「あたしの力も使うに越したことはないんだけど、いまの宿敵くんに近づいたら殺されちゃうよ」

「そこまでの強さなのかい?」

「もちろん。あたしと宿敵くんが扱える力の中でも飛び抜けて強力だからね。代わりに、理性がないみたいだけど」

 元に戻す方法が浮かんでこない。

 どうする? 相手はイッセー。殺すのはダメ。倒しても無駄。放っておいても命が尽きる可能性がある。

「打つ手無しか?」

「いや……」

 祐斗が考え込む。そして、難しい顔をする。

「相手はイッセーくんだ。手がないこともない」

「本当か?」

「カイトくん、イッセーくんが好きなものがなにか、考えてみてほしい。いまその可能性を持っているのは、部長だけだ」

 ――っ。祐斗、言いたいことは伝わったぜ。

 イッセーがなみなみならぬ情熱を燃やすもの。それはひとつ。やっぱりこの答えにたどり着くのか……。

「部長に協力してもらう他あるまい。結局イッセーを救うのは胸なんだな……」

「酷い作戦だね……」

「あたしが初めて見たときもおっぱいおっぱい言ってたもんね……」

 三人してため息がもれる。

「部長たちに話してくるよ」

「ああ、頼む」

 祐斗が部長たちに向かっていく。なんて言うんだろうな。想像もつかん。これ、本来なら完全に女子の敵になる行為だよね。胸を見せてあげてくださいだなんて。

 がんばれ、祐斗。――おまえが正義だ。

「それで、動揺したところをあたしの力で半減すればいいの?」

「そうなるな。悪いな」

「いいよいいよー。それに、危なくなったら助けてくれるでしょ?」

「もちろん」

「そんな状況にはならないけどね!」

 言ってくれる。まあ、確かにそうならないのが一番だ。

 視界の端では説明を終えた祐斗が疲れきった顔をしていた。だが、様子を見るに説得できたようだ。部長が仕方ないとばかりに構えていた。

「にしてもイッセーは大分強いな」

「だね。圧倒してる」

 すでにシャルバの顔は恐怖に包まれていた。その瞳には怯えの色が強い。

「終わりだな。ドラゴンに恐怖を抱いたら、もうそれは負けだ」

 俺の声が聞こえたわけではないだろう。

 だが、俺の発声と同時にイッセーの鎧の胸元と腹部が開き、何かの発射口が姿を現した。

 ドゥゥゥゥゥ……。

 静かな鳴動のあと、赤いオーラがその発射口に集まっていく。

「くっ! 私はこんなところで死ぬわけには!」

 シャルバが残った足で転移用魔方陣を描こうとする。すでに手は残っていないのか。が、その足が動きを停める。

「停めたのか! 私の足を!」

 鎧の眼が赤くきらめいていた。ギャスパーの神器と同じ能力を発動したのか。赤龍帝にそんな力は無かったはずだが……。

『BoostBoostBoostBoostBostBoostBoostBostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBost!!!!!!』

『Longinus Smasher!!!!!!』

 神殿内に幾重にも鳴り響く、赤龍帝の神器は発する声。

 そして、チャージされた発射口から、膨大な量の赤いオーラが照射される!

「これはダメだ! 祐斗、部長たちを連れてここから離れろ!」

「わ、わかった!」

 急いで部長を抱きかかえる祐斗。それに続くように朱乃さんたちも動き始める。

「ヴァーリ、俺たちも避難するぞ」

「うん」

 ヴァーリの仲間である二人も連れ、祐斗たちの後を追うように駆け抜ける。

「バ、バカな……ッ! 真なる魔王の血筋である私が! ヴァーリに一泡も噴かせてないのだぞ!? ベルゼブブはルシファーよりも偉大なのだ! おのれ! ドラゴンごときが! 赤い龍め! 白い龍めぇぇぇぇっ!」

 ズバァァァァァァァァァァンッ! 

 放射された赤い閃光nシャルバは包まれ、神殿と共に光の中へ消え去っていった――。

 

 

 

 

 

「間一髪ってとこか」

 神殿を出たあと、『光輝』の力で光の防壁を創りだし、ヴァーリとその仲間を守っていた。

「カイトってそんな力も使えたんだ?」

「まあな。燃費悪いからあまり乱用したくはないけど」

「聖剣よりも強い光ですね」

 ヴァーリの仲間が話しかけてくる。

「そうかもな。でも、あんたの持つ剣も相当のものだと思うが?」

「ええ、いずれお見せする機会もあるでしょう」

 ならそのときを待つか。楽しみではないけど。 

 神殿の崩壊する音がなくなり、様子を確認する。

 神殿は完全に崩壊していた。

「おおおおおおおん……」

 瓦礫と化した神殿の上に立ち、天に向かって悲哀に包まれた咆哮をしているイッセー。

 ここからが本番か。

 どうやってあいつに近づくかなんだが。

「祐斗、無事か?」

「だいじょうぶだよ、みんな無事だ!」

 どうやら祐斗たちは祐斗たちで、どうにかしたらしい。

「部長の胸を見せるにしても、イッセーが少し大人しくならないと無理な話だよな」

「このまま近づけば真っ先に殺されるね」

「……あいつと戦って体力を奪うってのは?」

「だから、殺されるって」

 ヴァーリに呆れられた。

 他に案はあるかと考えていると、部長たちがこっちにやって来た。

 部長はヴァーリたちを一瞥すると、俺に視線を向ける。

「カイト、無事でよかったわ。アーシアのこと、助けてくれてありがとう」

「礼なら、ヴァーリたちにも言ってあげてください。彼女たちの助けがなければ戻って来れませんでした」

「そう……。敵対してるのに言うのは変な気分だけど、今回はありがとうと言っておくわ」

「素直じゃないなぁ。デレてもいいのに」

 ヴァーリが軽口を叩くが、反応する声はない。シュンとするヴァーリ。

「それで、祐斗から聞いた方法以外にはないのね?」

「……多分、それが一番効果があるかと」

 すいません部長!

「わかったわ……。イッセーのためだものね」

 すげぇ。恋する乙女の決意すげぇ……。そのためならいいとでも言うのか!

「それで、どうやってイッセーに近づくの?」

「ドラゴンを鎮めるのはいつだって歌声なんだけど……そんなのないし、赤龍帝と白龍皇の歌なんて知らない」

 ヴァーリがそう言う。

 歌か……。確かに二天龍の歌なんて存在しないだろうな。

 けど、時間がないのも事実。はやく『覇龍』を停めないとイッセーが危ない。

「こうなったら、俺がイッセーと戦って動きを停めるしか――」

「そんな必要は無いわ!」

「お、遅くなっちゃった!?」

「二人ともありがとう! おかげでイッセーくんのところまで簡単に来れたわ!」

 俺を静止する声。と、続いて二人分の声が響く。

 見上げると、このフィールドに俺を送ってくれたイリヤとクロ。そして、白い翼で飛んでくるイリナの姿がそこにはあった。

 

 

「はー、着いたー。って、あれがいまのイッセーくん!? ミカエルさまやアザゼルさまに聞いてはいたけど、すごいことになっているわね!」

「イリナ、どうしてここに?」

 ゼノヴィアが訊くと、イリナは手に持った立体映像機器を突き出した。

「イッセーくんが危険な状態になったのは観戦ルームやこのフィールドで戦っていたお偉い方々にも把握されているの。で、このままではいけないと魔王ルシファーさまとアザゼルさまが秘密兵器を私に持たせてくれたわけです! なんでも現在進行中のあるプロジェクトで使うもので、お披露目になるのは本当はもっと後だったんだって! ちなみに私を転送してくれたのはこの可愛らしい二人ですよ! すごいわよね、こんな小さいのにかなり強いのよ!」

「誰なのかしら、この子たち」

 部長が当然の問いを口にする。

「私も知らないんですけど、アザゼルさまにはカイトくんの協力者だと聞きました」

 全員の目が俺に向けられる。

 はいはい、後で話しますよ。後で。ここ重要。

「とりあえず、俺を転移してくれた子たちだ。あまり警戒はしないであげてほしい」

「いまは訊かないでおくわ」

 よし、いいですよ部長。そのまま訊くのは忘れてくださいね。

「わたしたち、ここに居ていいんだよね?」

「知らないわよ。なるようになるでしょ」

 イリヤとクロの会話。ごめんね、二人とも。こんな空気の中で。しかも危ない状況なのに。

「さて、よくわからないけど、お兄さまとアザゼルが用意したのなら、効果が見込めるかもしれないわね」

 その矢先、イッセーが動き出した。

 目標は、俺たち!?

「な、なんでいまになって!」

 誰かが叫ぶ。

「祐斗、ヴァーリ。みんなを頼む!」

「カイトくん!?」

「カイト、待って!」

 二人の制止も聞かずに前へ出る。

「もう限界近いってのに! 『光輝』!」

 消耗の激しい力だけど、これしかない! 神器を使えないのが嫌になるな。けど、いま使える力のみでイッセーを食い止める。

「部長、俺が時間を稼ぎます。はやくその装置を使ってください!」

「カイト……。ええ、任せて!」

 それだけ聞くと、俺は脚を前へと進める。

 やがて、イッセーとの距離が詰まる。

「ぐぎゃごがああああああああああああっ!!」

「イッセーェェェェッッ! おまえいい加減にしろよ!」

 夏休み以来だろうか。俺とイッセーは再び拳を交えた――。

 赤いオーラと希望の光が、擬似的な天を二つに割った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。