なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「キーアさんは、随分といろいろな冒険を乗り越えてきたのですね……!」
「ああいや、これはゲームでの話でね?……いや、
目をキラキラ輝かせながら、こちらに詰め寄ってくるアルトリアに、思わず口元が引き攣る私。……む、無垢な信頼が!アルトリアからの無垢すぎる信頼が痛い!
それと、マシュがソファーの上で、体育座りしながらすっごい不貞腐れてる!おもちがぷーっ、ってなってる感じの膨れっ面だ!
こっちに詰め寄ってきてる、アルトリアに対しての嫉妬も少なからずあるのかも知れないけれど。
どっちかと言うと、
でもごめんねマシュ!レベル5に分類されるような人を、このゲームにログインさせていいものやら、正直なところ微妙に迷うところがあるから、君は留守番しかできないんだ!本当に済まぬ!*1
「……別に、拗ねてなんかいませんよ。ええ、せんぱいが私以外のシールダー
(……どうするのよ貴方、今のマシュちゃん、完全に焼きマシュマロ状態だけど)
(……あとでなんか埋め合わせしとくよ……)
ツンツンしているマシュの様子に、思わずとばかりに念話をしてきたゆかりん。
会話の末に返ってきたそうしなさい、という念話に小さく苦笑を溢して、改めて外していたVRゴーグルを被り直す。
そうして目の前に再び戻って来た侑子は、ぶん殴りたくなるようなにやにやとした笑みを浮かべていた。
「……なによ」
「いーえ?貴方って毎度毎度、そんな感じに周囲に振り回されてるわよね、ってちょっと思い返していただけよ」
「…………いやまぁ、否定はせんけども」
侑子からのからかいの言葉に、小さく頬を掻く私。
……いやまぁ、面倒事は(それが放置しても解決しないものなら)自分でやった方がいい、そっちの方が面倒は少ない……みたいな感じに、小中高と学級委員とか書記とかやってたりしたし、わりと自分から渦中に飛び込むタイプだとは、常々理解しているわけだけども。
そこらへんはまぁ、結局面倒臭がりの延長線上だから、正直なんも言えん感が凄いと言うかですね?
……それがなりきりにも影響して、元々スレ主じゃ無かったのにスレ主になったりもしてたわけだけども。
面倒事誘引体質なのは昔からなので、放っておいて欲しいというか……。
「ふふ、本当に貴方は変わらないわね。……そう言えば、貴方の娘さんも、貴方を振り回す方……だったわね」
「ああ、うん。……押し掛け娘とかどうなんだ、とは思わなくもないけどね」
くすくす笑う侑子に、小さくため息を返す。
……板での話の流れで、キャラハンの一人を娘として養子に貰う、なんてことになったことがあるのだが。
その子がまたトラブルメイカーというか、なんというか。……まぁ、はっちゃけた子だったわけで。
……まぁ、元の場所で元気にやってくれてればいいな、と思う程度には、親類の情があると言えなくもないというか。
……スレの名無し共は「親子百合だ!」とか、すさまじくふざけたことを抜かしていたんだがねっ。
なお、のちの裏付けにより、それらの流れを扇動していた名無しの中身が、そこで笑っている侑子とゆかりんの中の人だったために、別のところで一騒動起きたりもしたんだけど……それはまぁ、割愛。
「そんなこともあったわねぇ……」
「しみじみと呟いてんじゃない、っての。……暫くスレの中が百合コールで埋め尽くされて、こちらとら大迷惑したんだぞ?」
「義理の親子なんだから、百合だって余裕余裕……みたいなノリだったわねぇ。まぁ、中の人が恋愛クソザコだったから、文章の上でもろくに絡めてなかったー、ってのには笑ったけど」
「うっせー、ほっとけ」
娘役の方はわりとノリノリだったので、基本的に私だけ弄られてた……みたいな話は、墓まで持っていけばいいのである。
そんな風に和気藹々……和気藹々?と話していると、視界の上の方に、突然お知らせが帯のように流れ始める。
……ふむ?メンテナンス?暫くの間?
「珍しー、こんなに長時間のメンテナンスとか、初めてじゃない?」
「長いと言っても、四時間だけれどね。……でも変ね?ここに書いてある通りなら始まるのが六時からだから、終わったら十時だなんて中途半端な時刻になってしまうけれど」
お知らせの内容を、侑子と一緒に話し合う。
表示されたお知らせには、六時から十時までの間、メンテナンスのためにゲームにログインできなくなる……ということが書かれていた。
ゲーム自体がゲームを作っていく、というかなり高度な自己増設・自己メンテ型MMOと化している『tri-qualia』は、こうしてメンテナンスをする時でもごく短期間のものがほとんど、かつ迅速丁寧に行われるのが普通……という、プレイヤー側からすればなんでこんなに早いんだろう、というようなメンテナンス時間と、その精度がわりと有名なゲームだったりする。
……いやまぁ、一般人はこのゲームがAIによって運営・管理されていることなんて知らないので、その疑問も仕方のないことではあるのだけれども。
そんな、大体のメンテナンス時間が五分前後、長くても十分ほど……というこのゲームにおいて、四時間のメンテナンス時間というのは、かなり長いものだと言うことができるだろう。
実際、『tri-qualia』の公式掲示板では、この四時間のメンテナンスでなにが起きるのか、という考察などで大盛り上がりを見せていた。
……というようなことを、ゲーム内で開いたウインドウを閉じながら、侑子へと告げる。
「ふぅん?……まぁ、私にはあまり関係ないのだけれど」
「侑子の家って、本サーバーからは切り離されてるんだっけ?」
「そうそう。移動にちょっとだけ時間が掛かるのが難点、なのよね」
ともあれ、今の私達にはそろそろお別れの時間、ということの方が重要だろう。
マイルームに基本籠る生活を初めてから、早何日。
彼女の生活場所であるその家は、いつの間にかメインの『tri-qualia』のサーバーからは切り離された、別の場所に移管されていたのだという。
……まぁ、メンテナンスでログイン不可になった時に、内部に残り続けることになる彼女がどうなるか、わかったものではないからAIが自己判断で切り離した……のだろうけれども。
その辺りはBBちゃんのお墨付きもあり、かつ彼女による防壁の強化も進められたために、ネットの世界における彼女の家は、何人足りとも侵すことの叶わぬ、無敵の城塞のようなものになっているのだそうな。
仮にリアルデジタライズ*2とかが起きても、ここに逃げ込めばひと安心、ということである。
……だが悲しいかな。
メインから切り離されているとは言うものの、そのサブサーバーとでも言うべき場所は、『tri-qualia』以外の場所とは繋がっていない、いわゆるスタンドアローン*3に近い構成になっているらしく。
入り口である『tri-qualia』が接続できない状況下では、こっちからお邪魔し続けることもできないのである。
──端からそこに居ることしかない、彼女とアグモンを除いては。
なので、今日はここでのお話は、残念ながら終わりにせざるを得ないのだった。
「さて、これくらいで満足できたかしら、お姫様?」
「はい、たくさんお話して頂いて、本当にありがとうございました、侑子さん!……えっと、お礼とかはどうしたら……?」
「ああ、それは大丈夫よ。──貴方との邂逅、それ自体が対価になり得るものだから」
「……はぁ、そうなんですか?」
「いや私に振られてもわからんとしか」
この集まりを解散する前に、侑子がアルトリアに声を掛ける。
返ってきた声は喜色に富み、この集まりで聞きたいことを十二分に聞けた……という彼女の思いが、顔を見ずとも伝わってくるようだった。
そんな声に侑子は微笑み、対価についての答えを返す。
……曲がりなりにも『次元の魔女』である彼女は、得るものと与えるもの、そのバランスを尊ぶ者である。
それゆえに、彼女が大丈夫と言う以上、私の話とアルトリアとの出会い、その二つは釣り合いの取れるもの……ということになるらしい。
……私の話が、現状唯一の会話できる【顕象】であるアルトリアとの出会いと釣り合うだなんて、微妙に納得できないところが無くもないが。
契約とかバランスとかに煩い侑子が、大丈夫だと言うのだから、こちらの感覚がどうあれ、これで良いのだろう……多分。
にしても、ふむ。
「なーんか、久しぶりに長々と語っちゃったわねぇ」
「そりゃぁ、ね。なりきりなんてやってるんですもの、語りたがりの話したがり……というのが、私達でしょう?」
「……それもそっか」
単に話をしていただけだと言うのに、真上にあったはずの太陽は、いつの間にやら水平線の向こうに沈んでしまっている。
私達なりきり組は、そもそもがなりきりの前に『会話をしたい』欲に餓えているとも言えるけれど……それにしたって、時間を忘れて会話をする……だなんて、まるで小学生のような時間の使い方である。
……まぁ、それが楽しいから、こうして集まっている訳なのだから。
それを悪いことだとは、別に思わないのだけれども。
「さて、そうこう言っている内にメンテまであと二分ほど。そろそろログアウトしときなさい、なりきり組がメンテナンスできちんと強制ログアウトできるかどうか、実際わからないんだから」
「怖いこと言わないでくれる侑子?……でもまぁ、余計な冷や汗とか掻きたくないし、忠告には従っておくけど」
「はいはい。じゃ、また今度」
ひらひらと手を振る侑子に、こちらもひらひらと手を振り返して。
反対の手でログアウトボタンに触れれば、ゲームの終了表示と共に、いつものホーム画面に表示が戻ってくる。
ここまでくると感覚も元に完全に戻るので、そのままゴーグルを持ち上げて外す。……ゲーム終了していない時に外すと、微妙に
デスゲームとか起きたら、ホントにヤバそうだなぁ、なんてため息を吐いて、ふと部屋の中に視線を向けたら。
「……あれ?マーリンは?」
「え?……あ、居ない!?どこに行ったのですかマーリン!」
いつの間にかいなくなっているマーリンに、皆が気付くことになるのだった。
七章終わりで八章に続く……前にいつも通り幕間です。