なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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お仕事見学はまだまだ続くよ

「圧巻の光景でしたね」

「うーん、あれで外からの補助がないと無理が祟る……ってんだからなんとも」

 

 

 映画の動く城ばりの大迫力稼働を見せ付けられた結果、その感想を言い合う形となった私達。

 

 今は既に他の猫妖精達の姿もなく、近くに居るのはホワイト君くらいという状況……。

 となれば、(やることも終わったのだし)いい加減オベロンが戻ってきてもよさそうなものだけれど。

 

 

そのけはいはありませんにゃ。たぶんとっととかえれとかおもってますにゃー

「ですよねー」

 

 

 ……ホワイト君の言う通り、このままフケるつもりだなアイツ、と確信した私である。

 

 変にあれこれ追及されるのも御免というわけで、『そもそも君達お仕事見学なんだろう?終わったんだからとっとと次行け次』的なことを言いたいんじゃないかなー、みたいな?

 ……今はまぁそれでもいいが、今度ここに来るとなったらそれ(事情聴取)だけで済むとは思えんのだが、その辺りはいいのだろうか?

 

 

じつは、このふろあはゆうするねつりょうのかんけいじょう、げんそくかんりしゃであれどむやみにたちいることがきんじられていますのですにゃ

「その文言でゴリ押すつもり、ってこと?……いや流石にそれだけだとあれだから、本気で誰も入ってこれないような環境に変えておこうとかそういう……?」

 

 

 なんてことを口にすれば、ホワイト君から返ってきたのは『徹底抗戦の構え(意固地オベロン)』的な内容の言葉。

 ……発言がねじ曲がりにくくなった代わりに、すさまじく頑固なオベロンである。

 

 というか、仮にこのフロアを地獄の環境にして対抗するのが本当だとして。

 その場合、ここに再び派遣されてくるのはまたもや(オベロンが嫌いな)私、ということになるのだが……その辺り、彼は分かってやってるのだろうか?

 案外その辺のことに気付いてないとか?いやでもなー。

 

 

「……その辺にしておけ。実際今日はまだ回る先があるのだろう?高々一部門の責任者の事情程度、お前の舌先三寸でなんとでもなるだろう?」

「……アンデルセン氏は私のことなんだと思ってらっしゃる?まぁ、そろそろはるかさんもヤバそうだし、とっとと外に出るべきというのは分からないでもないですけど」

「……うぇ!?そこでわたしですか?!」

 

 

 考え込む私に、下手の考え休むに似たり……とばかりに声を掛けてきたのはアンデルセン氏。

 予定はまだまだ詰まってるのだから、考えるのは全部終わったあとにしろ、というような意味合いの言葉であったが……それはそれとして、そろそろはるかさんがヤバそうなのも事実。

 

 なにせ彼女、現在この場にいる面々の中では唯一の一般(?)人。

 琥珀さん謹製アイテムによる補助も、予期せぬ【継ぎ接ぎ】の可能性を思えば限定的になる……ということで、現状彼女の暑さ対策は『腕クーラー』と『ヒートロック』による基礎的な保護、及び私の掛ける環境対応魔法くらいのもの。

 分かりやすく言い換えると『そろそろクーラードリンク切れる(じりじり暑さが復活してきている)』状態であり、この場に留まるのは無理がある……ということになる。

 

 本人はまぁ、その辺感じさせないように立ち回っている(恐らく自身への心配によって仕事が滞らないようにするため)けど、ほんのり顔が赤くなり始めているのはこちらでも観測できているわけで。

 

 

「ふむ……見たところ熱中症などの兆候はまだ確認できませんが、それでも補助効果が切れたのならそれも時間の問題。この場での用事は切り上げるのがよい、というのは間違いないでしょうね」

「……ええと、お手数をお掛けします」

「お気になさらず。そもそもこの場にこれだけ時間を掛けることになった原因は、今ここにいない(オベロン)ですからね」

 

 

 ジェイドさんがはるかさんにそう告げるのを横目に、私はここからの離脱を決めたのであった。

 ……逃げ切れたと思うなよオベロン!次会った時が貴様の最後だからな!!

 

 

(……さて、程度が低いとはいえ、見えすぎというのも困り者だな、これは)

 

 

 

 

 

 

 何故か人の背を押して、とっとと外に出るよう促すアンデルセン氏。

 俺もいい加減この場は暑すぎると思っていたところだ、とかなんとか喚いていらっしゃるのだけれど……うーん、なんか違和感があるような?

 まぁ、どこが?……と聞かれると、私としても首を捻ってしまうのだが。

 

 ともあれ、現状でははるかさんのタイムリミットを気にしたほうがよい、というのも確かな話。

 ゆえに可能限り急いで出入り口に向かった私達は、現在ヒートロック内において入る時とは逆の行程を踏んでいる最中なのであった。

 

 ……え?なんで逆の行程が必要なのかって?

 

 

「ここで使われている温度対策系技術の大半が、マイナス処理タイプだからですね……」

「特定の温度になるように調節する、というタイプでないからこその弊害ですね」

 

 

 今しがた述べた通り、現在私達に使われている温度対策技術の原理に、その理由があった。

 分かりやすくいうと、基本的にクーラーを掛け続けているようなものなのである、今の私達。

 

 高温下から常温になるよう冷房を効かせ続けている状態、ということになるわけだが……そこで問題となるのが、これらの技術の原理。

 

 基本的に、冷やすという行為は難しいものである。

 何故ならば、基本的に熱を外に捨てる、というやり方でしか温度を下げられないから。

 熱力学第二法則──特に『クラウジウスの原理』*1と呼ばれるものがその理由となるわけだが……この原理を簡単に説明すると、『なにもしてないのに物が勝手に高温になることはない』となる。

 ……いやまぁ、より正確にいうと『勝手に周囲の熱を奪うことはない』、ないし『物が勝手に低温になることはない』となるわけだが。

 

 

「物が自然と冷めるのとは話が違うのですか?」

「温かいコーヒーが冷めるとか、そういう話です?ありゃ熱が高い方から低い方へ移動した、ってことなのでちょっと違いますね。ここでいう変化は()()()()()()()()()()()()()()()()()()、って意味ですから」

 

 

 言葉の上だとわかりつらいので、実際に物を使うとよいだろう。

 例えば氷水を常温放置したとして、起こりうる変化は基本『氷が溶けてただの水になる』である。

 この場合、起きているのは『周辺の空気や水からの熱の移動』、すなわち物を暖める効果ということになるわけだ。

 

 同じようにホットコーヒーを常温放置すると、起きる変化は『ホットコーヒーが冷める』となる。

 勝手にコーヒーが冷えたように見えるこの変化だが、それはコーヒーを主体に置いているから。

 なので、さっきの氷水も含めて正確なところを文章にすると、

 

 

○周囲の暖かい空気や水から熱が与えられ、冷えた氷の温度が上昇した

○暖かいコーヒーから熱が与えられ、冷えた空気の温度が上昇した

 

 

 ……ということになる。

 起こったことははあくまで『熱が高い方から低い方に移動した』であり、その逆である『熱が低い方から高い方へ移動した』ではないのだ。

 

 それがどう違うのか、と思うかも知れないが……次の文章を見れば、なんとなくその違いも見えてくるだろう。

 

 

○氷水はそのまま・もしくは全て凍ったが、代わりに室内の温度が上昇した

○空気が冷えていき、結果コーヒーが沸騰した

 

 

 これは、さっきの説明が逆になった場合に起きうる変化である。

 どちらのパターンでも、主体は冷たい方・かつそれによって周囲の温度が上がる、という変化となっている。

 

 これらのおかしなところは、()()()()()()()()()温度が上がった、という部分。

 それを発生させうる原因が(普通に考えた場合に)存在しないのにその変化が起きた、という部分にある。

 もう少しわかりやすくいうと、『物を冷やして周囲が暑くなる』という現象が意味不明、となるだろうか?

 いやまぁ、この説明だと色々と誤解を生むのだけど。

 

 

「冷媒を使った冷却はまさにそれですからね。物が冷える過程で熱を奪い、それを外に捨てる……細かいところを見なければ、文字通り『片方の温度が下がってもう片方は熱せられる』ですから」

「他者の介在があるか、が一番重要なところですからねぇ……」

 

 

 ジェイドさんも言っているように、一般的な冷却システムというのは『物を冷ます過程で熱が一方に移動する』という現象を利用したもの。

 ……とはいえこれは、色々と視点を省いた結果のもの、さっきの文章の内容とは微妙に違うものでもある。

 ではなにが違うのか、というとそれは第三者の手があるか否か、ということになるわけで。

 

 自然と物が冷えることがない、というのはすなわち熱を()()()捨てることはできないということ。

 言い換えれば、誰かに捨てて貰うことはできるわけである。

 

 自然な状態において、奪われる(与える)熱量というものには限度がある。

 具体的には両者の温度が平均化されるまで、ということになるわけだが……それを意図的に奪わせ続けることで温度を下げる、というのが一般的な冷却システムになるわけだ。

 

 このシステムのポイントは、温度を下げられるのは限られた場所に限る、という部分。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を用意することで、そこから外に熱を捨てる、という方式で冷やしているのである。

 さっきの文章のおかしなところは、この『熱の平均化が起きないように隔離した場所』という部分。

 常温放置した氷水にしろ冷めたコーヒーにしろ、他の熱源と隔離されていないのでその状況下で物が必要以上に冷たくなる、という現象が起きるはずがないのである。

 

 

「物が勝手に冷える状態を言い換えると、自身の熱を勝手に捨てられる状態ということになる。もっとわかりやすく言うと、周囲の物を際限なく暖められる状態、ってことになるね」

「絶対零度という下限値はありますが、言い換えるとそこに至るまで好き勝手に冷えられる、ということになりますからね。そのために自身の熱を好き勝手捨てられるとなれば、その存在の周りにあるものは勝手に熱せられてしまう。いい迷惑、などという言葉では片付けられませんね」

 

 

 熱源によって暖められるのではなく、冷媒によって加熱されるということになるか。

 起きる結果は似ていても、直感に反した現象が起きていることは間違いあるまい。

 

 ともあれ、そうじゃないのが一般的な冷却システムということになるわけだが……基本的な原理は、ここで使われている温度対策も同じ。

 違うのは、冷媒(第三者)を必要としない(ように見える)ため、結果さっきの『おかしな文章』こそが正解、みたいなことになっているという部分にある。

 

 わかりやすくいうと、今の私達は()()()()()()()()のだ。

 周辺の温度が高すぎるがゆえに、それを打ち消すように冷え続けている……みたいな?

 

 冷媒を用いた冷却は、熱を捨てるための外の空間が暑すぎると機能が落ちる……みたいな話を以前『腕クーラー』が初登場した時辺りにしたと思う。

 この場所の気温というのは、まさにその『機能が落ちる』レベルの高温。

 そのため、一般的な冷却システムでは対処が足りていないのだ。

 ゆえに、ここで使われる温度対策は熱の捨て先が通常のそれとは違う。

 その結果、見た目だけだと勝手に冷え続けているように見えるのである。

 

 見えるだけ、というのであれば問題はなかったのだが。

 周囲に熱を捨てるという形でない以上、その冷却システムには限度がない。

 以前『腕クーラー』はやり過ぎると凍る、みたいなことを言ったが、この温度対策も同じ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という形で制御しているため、結果として外気温が下がると同時に調整後の温度も余計に下がってしまうのだ。

 

 ……特定の温度に固定する、みたいな方式だったら気にする必要のない話だったんだけど、ねぇ?

 

 

「なにぶん温度対策系の技能はまだまだ発展途中。すぐさま利用できるのが直接的な温度の低下だけだったせいで、普通の環境ならともかくここみたいな高温の場所だと……ね?」

「その辺りも改善の余地がある、ということになるんでしょうね」

 

 

 まぁ、その辺の改善をオベロンが認めてくれるか、みたいな話もありそうだが。

 余計な見学者はノーセンキュー、みたいな?

 

 そんな感じで駄弁っているうちに、ヒートロックの逆順処理も終了。

 大手を振って元の階層に戻れるようになったため、私達は意気揚々と次の見学先へと移動を開始したのであったとさ。

 

 

*1
『クラウジウスの定理』とも。ドイツの物理学者ルドルフ・ユリウス・エマヌエル・クラウジウスが提唱したもので、『低温物体から高温物体に熱を移し、その上で他に何の変化も残さない過程は実現できない』というもの。冷媒を用いた冷却は可能だが、それらを用いずに勝手に物が冷えること・及び周囲の熱が勝手に移動して物が暖まる(≒熱移動を起こしている両者の温度以上に熱せられる)ことはあり得ない、というような意味合いとなる。熱力学第二法則を説明する為に使われる法則のうちの一つ

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