なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「そういうわけで、ささらさんの我が儘を叶えに来ましたよー」
「言い方ぁ」
はてさて、アンデルセン氏による解説が終わったのち、そのまま琥珀さんの後を追い掛け彼女の研究室へと向かった私達。
そのまま中に入る際に、冒頭の台詞を言いながらババーン、と扉を開けたわけなのだけれど……返ってきたのは呆れたような束さんの言葉なのであった。
……いやだって、我が儘であることは事実だし……。
それはともかく。
研究員三人という、人数的に見ると小規模にも程があるこの研究室。
……実際のところはその少人数に見合わぬ機密情報の塊みたいな場所である。そのため、
「もし中でなにか見てしまっても、決してそれを外に漏らさないでくださいね~☆」
「ええと……つかぬことをお伺いしますが、
「ふふふふ~☆」
「あ、これ本気でヤバイやつですねキーアさん?」
「ノーコメントでお願いしまーす」
こうして、他人に見せてもいい領域の先に進む前に、琥珀さんから警告めいた言葉が飛んできたりもしたけど……うん、ノーコメントでお願いします()
……いやまぁ、冗談めかして言ってる部分はあると思うんだけどね?
ただほら、相手が琥珀さんなので一定量本気で言ってる可能性があるというか。
なので、ジェイドさんらしからぬ態度で微妙にビビる姿に関しては言及せず、ささらさん達が隔離……もとい滞在している区画へと、私達は琥珀さんを先導にして進み始めたわけなのです。
道中?聞くな(真顔)
「……とんだマッドサイエンティストだ、とでも言っておけばいいのかこの場合?」
「いやですねぇアンデルセンさん、人体実験の一つもしてないうちからマッド扱いは心外ですよぉ~?」
(この人確か自分を実験台にしてなかったっけ……?)
他人に強いらなきゃオッケーなのか、はたまた自分であれ人間相手にやれるのならその時点でアウトなのか。
……その辺りの倫理の話は私には難しい()のでスルーし、改めて目の前にそびえる扉を見やる私である。
扉と言っても、別に厳重な封印が施されたもの、とかではない。
あくまでも普通の、ごく一般的な扉──分かりやすく言えば応接室へ繋がる扉である。
……なんで地下に応接室があるのかって?知ら管()
ともあれ、中に入るのに特別な許可とか鍵とかも必要ないのは確かなので、そのまま普通に扉を開いて中に入る私達。
「お久しぶりですぅ~。またぁ~お会いできてぇ~光栄ですぅ~」
「右に同じ、だ。いや、その前に来てくれてありがとう、というべきだろうか?」
「その辺りはお任せしまーす」
「そうか」
で、中で待ってたのは特に捻りもなく、ささらさんとジーク君の二人。
琥珀さんのことだから他の人を待たせたうえで『こっちが本命です☆』とかやりかねないと思ってたのだけれど……まぁ流石にそんな邪悪なサプライズには及ばなかったらしい。
え?本人が『私のことなんだと思ってるんです?』とか言ってる?
そりゃもちろん、マッドサイエンティスト以外の何者でもなくない?
まぁその辺はともかく。
改めてささらさん達と再会した私は、先ほどの予測が合っているかを確認。
結果、予測が的中したことが判明し、胸を撫で下ろし……もとい、新たなる厄介ごとの気配に白目を剥き直したのだった。
「厄介ごととはぁ~酷いですねぇ~。こうして会いにぃ~来てくれているとぉ~言うことはぁ~。こちらの主張をぉ~理解してぇ~貰えたのだとぉ~思うのですがぁ~」
「まぁうん、それはそうなんだけどさ?実際に確定しちゃうとそれはそれで違うよねっていうか?」
「そういうもの、なのか?」
「……いや、私に振られても困るのですが」
というか、機密とかだったりしないんですか?……と言外に聞いてくるジェイドさんに、いやだなぁここまで聞いたんだからもう離反なんて許さないんだからね☆……ってだけの話ですよ、とアイコンタクトで返す私である。
……なんか『はっはっはっ、とんだブラック組織ですねここ』みたいな主張をされてる気がするね?
あとなんだか何処からかジェラシーの波動を感じるというか……え、なになにはるかさん?多分それマシュさんの放つもの?あー……。*1
いやでもほら、マシュ相手なら念話とかもやってるし……。
「……彼女は突然、なにをぶつぶつ言い始めたんだ?」
「お気になさらず~☆キーアさんが突然自分の世界に埋没する、というのは頻繁に行われるルーチンワークのようなものなので~☆」
「そ、そうか……変わった人なんだな、彼女は」
……なんか、私があれこれ考えてる間に、ジーク君からの評価が明後日の方向に吹っ飛んでない?
今『今更な話では?』とか考えた奴、あとで校舎裏な。
それはともかく。
ささらさんの実家……実家?を【虚無】で繋ぐというのが今回の目的。
その結果得られるのは、実質的にいつでも使える『精神と時の部屋』ということになるのだろう。
「まぁ一応、図書館とかで試作品が使われてたりするけど……あれも以前の事件で類似例が発生したことから派生した、いわゆる複製品でしかないからねぇ」
「ビーストⅡiのお話ですね~。内と外の世界を『境界を操る程度の能力』によって擬似的に切り離すというのが再現の際の基礎的な原理ですが、なにぶん切り離しただけだと時間軸のズレが発生しないみたいなんですよね~」
「あの図書館、八雲さんが関わっていらっしゃったんですね……」
「現状ここにある技術を使ってどうこうという話になりますと、高確率で八雲さんに協力を仰がないといけませんからね~」
なお、今しがた話題になった『精神と時の部屋』。
なりきり郷にはその模造品というか類似品というか、そういうものが幾つかあるのだが……実のところ、本来のそれとは比べ物にならないほどに劣化している、というのも事実なのである。
何故かといえば、それらはごく限定された場所でしか機能せず、そもそも再現できている機能も僅かであるため。
具体的には開発に必ずゆかりんの協力が必要であり、かつそれはあくまで場所取りの面が強いため、他の手段によって時の停滞を生み出す必要があるのだ。
具体的には、あれらの空間は概念的には
「いわゆる相対性理論ですね~。速く動くモノは時間的に遅くなるという。……先ほども仰ってましたが、郷において使われている技術は基本科学の延長線上。無論八雲さんの能力やピカチュウさんたちの様な例もありますが、少なくともこの研究室で扱っているのは『可能な限り科学で再現できるもの』ですからねぇ」
「可能な限り、ってところがポイントだよね」
科学を用いて時間の停滞を生み出そうとする場合、使えるのは相対性理論──高速で移動する物体は周囲と比較して時の流れが遅くなる、という事実の応用になるだろう。
時の流れにのみ着目すればよい、というのはゆかりん様々ということになるだろうが*2、それでも速度の方を別の手段で賄わなければならないため、まさに言うは易し行うは難しの代表例というか……。
まぁともかく、そんな涙ぐましい努力の結果あの図書館のような時間停滞が生み出されているわけだけど。
……ぶっちゃけた話をしてしまうと、維持費がヤバイのだとか。
「維持費、ですか?」
「主に時間が停滞しているとはっきり認識できるほどの速度を維持するための燃料費、ということになりますかね。ゆかりんがもっと八雲紫してたらなんとかなったんでしょうが……今のゆかりんですと、同一対象に対して施せる『程度の能力』は三つくらいが限度。結果として、『
「それはまたなんとも……」
科学技術を組み合わせる必要がある関係上、手を付けられる境界にも限度があった、というのも理由の一つだろうが*3……ともあれ、現状の時間停滞が燃料費と切っても切れない関係になっているのは事実。
結果、幾らなりきり郷がアーコロジーとして独自に成立しているといっても無視できない費用が嵩み続けている……ということになってしまったのだった。
その点、ささらさんのところはそもそもの前提条件からして時間が他と比べて停滞しているわけで。
流石にそれを応用するのは(【星の欠片】を理解することに繋がるので)無理だろうが、単純に停滞した空間として利用する分にはなんの問題もないだろう。
迂闊に突っ込むと二つの世界に同期を引き起こす云々の話も、移動に【虚無】を使うのなら問題なし。
……裏を返すと、ささらさん本人すら元の世界に行くのに私(かキリア)の手助けが必要となる、ということになるのだが……。
「どちらにせよぉ~いつまでも放置と言うわけにも行きませんのでぇ~。運営を彼に移管するかも決めないとですしぃ~」
「ああ、一応『祝祭』の付属品、って扱いになるんだっけ?」
その辺りはあの世界が単なる停滞した世界ではなく、取り残された人々の安住の地でもあるという時点で、いつかは対応を考えないといけなかった……という点で必要な処置だった、ということになるのでありましたとさ。