なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、軒先での駄弁りもほどほどに、店内の席へと歩を進めた私たち。
意外としっかりとしたメニュー(先ほども言ってた通り日本語に翻訳済み)にちょっと驚いたりしつつ、頼んだものがやってくるのを待ってたんだけど……。
「……気のせいかな、いわゆる
「気のせいじゃないと思いますよ?チーズも納豆も味噌もザワークラウトも、基本的には発酵食品の仲間ですし」
そうして料理を待つ中、手持ち無沙汰になったため再度メニューを確かめる私。
……結果、
なんなら、それらのメニューは
先の例で言うならペペロンチーノは存在しないし、単純なカレーのみというのも存在しない。
サラダだってメニュー名には書かれていないが、サンプルとして添えられた写真には
……つまり、出される料理の全てになんらかの形で
「……まさかとは思うけど、ゾンビなのはそういう?」
「彼女は外見にあまり変化がないだろう?血色が悪かったりするがそれだけ、というか。……彼女のそれは腐食というより発酵に近いのだそうだ」
「えぇ……」
どうやらそれらの特徴は、全てここのオーナーがゾンビである、ということに端を発するものらしい。
ジーク君に詳しく聞いたところ、ゾンビちゃんはそういう食品の扱いに慣れているだけではなく、そういった食品を作ることにも長けているのだとか。
店の裏手には酒蔵などの発酵食品を作るための工房が並んでいるというのだから、その辺は筋金入りというべきか。
つまり、彼女はなにかしらの細菌などに感染してゾンビ化したのではなく、世にも珍しい
「……いやなんじゃそりゃ???」
「キーアさんが宇宙猫顔に!?」
「まぁ、気持ちはわかる。俺としても単なる言葉遊びにしか聞こえん」
「本来ウイルスなどが成立させるモノを、彼女の場合自身の能力が受け持っているというだけの話なのですが……それが寧ろ話の珍妙さを押し上げているような気がしますねぇ」
いや、それは【星の欠片】となにが違うので???
というか調べてないだけで多分【星の欠片】だよこの子???
だってゾンビなんでしょう?他者に感染させるモノはないけど彼女自身は
なんというかこう、ゾンビという存在の根底から覆すの止めない?……って気分になるというか。
いやだって、ねぇ?発酵食品の扱いに長ける、とは言うけども。
普通、自身の発酵と同じ様にそれらを扱う、なんてことはできない。
何故ならば、それらは原則
「納豆なら納豆菌、チーズならカビや乳酸菌。原則毒素を発生させないタイプの菌類によって
「原理的には
基本的に、発酵食品と呼ばれるものに使われる微生物というのは、乳酸菌がそのほとんどを締める。
見方を変えればそれ以外の微生物が原則人にとって有益ではない、ということになるわけだが……それはともかくとして。
ここでポイントなのは、食品を発酵させる乳酸菌が
死体を乳酸菌に晒せばその限りではないかもしれないが、基本的に体内に入ってきた乳酸菌は腸内に止まり、そこの環境を改善するのに役立つくらいのモノでしかない。*6
つまり、人の腐食と物の発酵は原理が違うのである。
にも関わらず、ゾンビちゃんは物の発酵にも長けているのだという……。
それはつまり、『発酵』という概念によって括られているものの、その実彼女の作る食品は私たちが知っているそれらとは
「なるほど、大抵の発酵食品には乳酸菌が使われますが、逆に人間をそれでゾンビにするのは難しい。つまり、彼女がゾンビとなった原理がそのまま食材の発酵にも用いられているのであれば、そこには乳酸菌が関わっていない可能性が高い……ということですね?」
「究極的には人に有益ならなんでもいいんだから、それらのモノを作るのに必ず乳酸菌を使う必要もないってことだね」
言い換えると、世にも珍しい『菌類を用いない発酵食品』である可能性が高い、というか?
……いやまぁ、おかしな話なんだけどね、それ。
腐食にしろ発酵にしろ、分解者である微生物の働きにより物体が分解されていく過程のことを本来指すわけだし。
その過程で微生物が生産する物体が人間にとって有益か否かが呼び方を分けるというのに、彼女のそれは現象のみが先行したもの。
わかりやすく言えば、勝手にモノが分解されているようなもの。
……微生物による作り替えの行程が挟まらない以上、本来『腐る』という言葉は当てはまらない現象のはずなのである。
まだ『ゾンビちゃん菌』みたいな未知の菌類が関わっている、とか言われた方が納得が行くというか?
「酸味がない、なんて可能性もありえそうですね」
「あー確かに。それも分解時の分泌物の性質ゆえのものだから、微生物が関わらないなら酸性になることもないかも?」
うーん、考えれば考えるだけ予想が付かなくなるぞぅ?
これはあれだな、余計なことを考えずに出されたものを楽しむべき、とかそういうやつだなきっと。
そんな感じでようやく結論を得たくらいのタイミングで、キッチンの方からゾンビちゃんが出てくるのが見えた。
その両手には、私たちが頼んだものがお盆に乗った状態で掲げられていて。
「お゛待゛だぜじまじだだ。ごぢら゛注゛文゛の゛品゛に゛な゛り゛ま゛ずだ」
「おお、これが……」
それから私たちは、新感覚発酵食品の味を各々楽しんだのだった。
……基本的に酸味はあったけど、それは彼女の能力で付与されたもので分泌物的な要素によるものではないとかなんとか。
「……うん、不思議味だな!不味くはないってのは確かだけど!」
「名状しがたい、というのは同意しよう。しっかりチーズはチーズなのだが、こう癖がないというか取っ掛かりがないというか……」
「美味しいから大丈夫、ってことじゃないですかねぇ?」
……うん、また来るかは微妙だな!
食べてると思わず宇宙猫になるのは食事してて疲れるし!
決して不味くはないんだけどね!なんか不思議な気分になるってだけで!