なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、短めの朝食が終わっていよいよ仕事再開の時間となったわけだけれど。
二日目にずれ込んだこともあってか、メンバーのやる気は微妙にダウンしていたのであった。
まぁうん、可能なら一日で終わらせたかったし、その気持ちはわからないでもない。
「でもほら、あくまでこっちの世界での一日だから。向こうはまだ一日過ぎてないからさ」
「そういう問題じゃないんですよねぇ……」
なので、とりあえずやる気を出させるためにちょっと発破を掛けてみるのだけれど……あーうん、やり方ミスったかも()
時間経過についてはまだなんとかなる、巻き返せる……的な意味合いのつもりだったんだけど、どうも逆効果だったようだ。
こうなっては仕方ないので、とりあえず仕事場に向かうことを優先しようと思い、病原菌達が纏まっている部屋への扉に手を掛けた私は。
「…………!」
「おっと、どうされましたかキーアさん?なにやらすごい顔をしていますが」
「うん?……うぉっ、なんだその顔は!?」
「冷や汗もすごいわね……」
ドアノブ越しに伝わってくる気配に、思わず冷や汗を流す羽目になったのであった。
周囲の反応を見るに、どうやら本人の知らぬ間に顔の方もヤバいことになっているらしい。
多分、苦笑いのすごいやつだと思うんだけど……こうなったのには勿論理由がある。
「って言っても、この状況を見れば誰だって予測は付くわよ」
「つまり、扉の向こうになにかいる……ってこと?」
それを説明する前に、クリス達が予想を口にする。
……そう、ドアノブを握った途端にこうなったのだから、その向こうに思わず冷や汗を流したくなるような『なにか』がある、と思うのが普通だろう。
ゆえに、それを前提とした上で私は答えを述べていく。
「……この部屋には病原菌がいっぱいいたよね?」
「そうですねー。サンプルを取るためにこの世界全ての菌類を集めていたわけですし」
「本来そういう菌類は目に見えないよね?」
「そうですねぇ。目に見えないほどに小さいからこそ、私たちは彼らへの対処に苦慮するわけですし」
「そんな菌類が、目に見えるほど──
「……そのために使った技能、『虚渦』についてのデメリットとかも語ったよね?」
「時間停止じゃなくて動きのキャンセルだから、調整をミスると相手に経験値を与える可能性がある……だっけ?」
「ってまさか、中の菌類が育って……?!」
「ああうん、そうだったらまだマシだったんだけどね……」
「マシ?!」
……この中にいたウイルスや菌類達は、『虚渦』によって
しかし、本来ならそれはおかしいのである。
単純に考えて、百万や十億集めて一メートルなのだ、この部屋の中にあった山のレベルで集まっているとなると、総数は兆とか行っててもおかしくはない。
……言い換えると、無数の菌類が【虚無】の──【星の欠片】の影響を受けた状態で集まっていた、ということになるわけである。
そうするとどうなるのか?……【星の欠片】の影響を受けた菌類が兆ほどにあるとなると、だ。
「……他の【星の欠片】の発生パターンに引っかかる確率が上がる……」
「は?」
「より正確に言うと、【星の欠片】が出てくるためのゲートになりうる菌類が発生する可能性が上がる、ってことになる。なにせ一兆回サイコロを振れるってことだからね、そりゃまぁ偶然だって起きるさ」
「……ってことは、」
「そう、この前ちょっとだけ触れたウイルスの【星の欠片】……それがこの扉の向こうに居るんだよ!」
「えー!?」
──気配を察知した【星の欠片】が、物珍しさに覗きに来ることもありえるんだよ!!
そんな風に述べた私に、周りのみんなは驚いたように声をあげたのであった……。
「 」
「……ねぇ、なに言ってるのこの人……人?」
「わからん……」
中になにがいるのか判明したあと、大事を取って私一人が中に入って確認する……という予定でいたのだけれど。
あとでまたマシュに怒られたいの、と言われてしまったためクリスをお供に突入する羽目になった私です。
……いやまぁ、中に入ったからといっていきなり襲われるわけじゃないだろう、というある種の確信があったからこそ連れてきたわけだけども。
それにしたって【星の欠片】相手に剛毅だなぁ、などと思わないでもない。
ともかく、意を決して中に入った私たちを待っていたのは、空中に浮く巨大な丸いなにか。
……辺りを見回すとそこにあったはずの菌類の山がなくなってしまっているため、どうやら全部目の前の塊に取り込まれてしまったようである。
ある意味良かった、と言えばいいのだろうか?変に変異する可能性はもうなくなった、ということになるわけだし。
とはいえ、詳しいことをなにも知らないクリスは、そうして部屋の中心に浮いている丸いなにか──巨大なウイルスを前にして、滅茶苦茶に腰が引けている。*1
まさにウイルスの化け物、というべき見た目をしているので、それに対して感じる恐怖も一入、ということだろうか?
……前にも言ったとおり、原則ウイルスは細胞に侵入できる大きさでないと危険はほぼない。
目の前のそれはどう考えても人間に感染できる大きさではないので、そういう意味ではビビる必要性まったくないのだが。
まぁ、だからといって気軽に声を掛けても大丈夫か、と言われると「それは別」と言うしかない私である。
「 」
「なんなの!?なんも喋らないし浮いてるだけだし?!」
「いやー、多分
「はぁ?」
その理由は、目の前の巨大ウイルスの挙動にこそあった。
これは現状単に浮いているように見えるが、その実彼(?)自身はなにかしらのコミュニケーションを取っているのである。
そしてこの【星の欠片】、数ある【星の欠片】の中でも特に原始的な存在であり、その言語(と思わしきもの)を理解することがとにかく難しいのだ。
ゆえに、今現在彼がなにを主張しているのかが不明なため、ともすれば彼の機嫌を損ねる可能性が常に存在している……と。
「貴方ナンバースリーでしょう!?なんかこう、意志疎通の手段とかないの!?」
「生憎これに関してはそういう類いの話じゃないんだよねぇ……言語というコミュニケーション手段を持つ前に使われていたもの──言い換えると『バベルの言語』よりさらに古いモノを掘り返せ、って言ってるようなもんだから一朝一夕でどうにかなるような話じゃないんだよ」
「そんなー!!?」
意志疎通できないのが問題なら、【星の欠片】として三番目の小ささである自身の能力を活かせばいいのでは?
……もとい、相手に伝わる言語を作ればいいのでは、みたいなことをクリスが言ってくるけど、それも中々難しい。
コミュニケーション手段が無い、というのは相手に伝わらないということだが、これは見方を変えると『共通の認識がない』ということになる。
どこかで話したような気がするが、
それを現すためのツールがないので、例え自身の脳内に答えがあったとしても他者に伝えられないのである。
そしてこれは、相手側にその答えを認識するための常識がない場合もあてはまる。
分かりやすくいうと、『リンゴは食べられる』という認識がない相手にリンゴを渡したところで、それを相手が口にするとは限らないのだ。
その時点でもあれだが、今回の相手の場合だとそもそも『食べる』という概念を持たないようなもの。
ゆえに、相手に伝わる言語を作る……みたいなこともできない。
辛うじて、認識できない相手の言語をこちら側がどうにかして認識する……くらいならできる目もあるだろうけど。
「それはそれで、相手の思考に合わせる必要がある。……言い方を変えると、一旦人としての知能を全部捨てる必要が出てくるんだよね」
「……無理では!?」
「『星女神』様が相手するなら、まだなんとかなるんだけどねぇ」
あれだ、【偽界包括】で自分の中にいる
まぁその場合でも、あくまで『星女神』様の不利益にならないことを確約できるというだけで、『星女神』様自身が彼の言語を理解できているのかというと、微妙に疑問符が浮かんでしまうわけなのだけど。
ともかく、目の前で静かに浮いている巨大な彼は、恐らくなにかを私たちに告げている。
告げているのだけれど、それは言語や認識の違いのせいで通じない。
このまま膠着状態であり続けるならまだマシな方で、もし仮に彼が許せないと思うようなことをこっちがしてしまった場合、最悪の場合彼の能力が牙を剥くことになるだろう。
そうならないためにも、早急になにか対策を取る必要があるのだけれど……いやー、ちょっと思い付かないなー……。
このまま時間が過ぎていくのか、はたまた彼がなにかアクションを起こすのか。
──その答えは後者であったようで。
『あー、
「体を」
「変化させた!?」
彼はもっとも原始的な言語──
……いや、ボディランゲージってそういう意味だったかな!?