なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、先生が誘拐なり神隠しなりにあったのでは、という話だったけど。
単純に考えた場合、彼が誘拐されたと考えるのが普通だと思う。
なにせ彼は人類最高峰の医師、その人的価値は計り知れないものだからだ。
「まぁ本人も言ってるように、本来の彼からするとごりっとレベルは下がってるわけだけど……そもそもが神域、ならば下がったところで名医であることに変わりはないんだよね」
「なにせ天下のブラック・ジャック様だからな」
普通に学校にも置いてあるレベルの作品である以上、全く本を読まないというような少数人を除けば、大抵の人間が知っている……と言っても過言ではないと思われるほどの知名度を持つのが彼。
となれば、その力量に肖りたい……色んな意味で彼を頼りたい、と考える人がいてもおかしくはないだろう。
「そういう人達に無闇矢鱈に絡まれないように、って意味合いもあるからね。彼がこの階に居る理由」
「地下千階──それも単純に
「実質的に誘拐は不可能、ってことだね」
とはいえ、それほど有名な彼であるが、だからこそ彼に助力を頼むのは不可能に近い。
基本的に
──その位置、地下千階。
単純に計算しただけでも地下一キロよりも深い場所にあることになり、さらにはここがなりきり郷である以上単純に地下一キロ付近を掘り返しても彼に会うことはできないどころか、そもそも郷内に侵入することからして難しいだろう。
かといって、正攻法で郷に入り、地道に下っていくにしても……。
「階段なんてないからね。そもそもが隔離用途に使われてる階だから、基本直通のエレベーターしか通ってないし」
「それはまた、面倒というかよく考えられているというべきか……といった感じですねぇ」
そもそもの話、仮想座標に仮止めされている関係上、次元境界面が不安定な地下千階において、そこにたどり着くためには直通通路を改良した──物理的に繋がっている扱いのエレベーターを利用するしかない。
そのエレベーターにしても阿呆みたいな速度で落下するタイプで、しかもそれが科学によって作られたモノである以上、外から変化を加えたり隠れて侵入することも難しい。
つまり、地下千階に降りたいのであれば、素直にゆかりんから許可をもぎ取る他ないのである。
そしてその許可に関しても、そもそもに禁域でもあるこの場所に対してそれが降りることは早々ない。
私なんかは気軽に降りているように見えるけど、その実端っからゆかりんの許可が降りているという話でしかないのだから。
「そんなわけで、先生を誘拐するのは不可能、ってことになるわけ。というかそもそもの話、仮に誘拐できても言うことを聞かせられるかは別の話だしね。先生ってばわりと頑固だし」
「殺すと脅しても言うことを聞くかは微妙、というやつだな」
その辺の性格の難しさも、広く知られた原作ゆえに知っているという人は多いだろう。
それらを総合するに、彼を誘拐するのは不可能だし仮にできても問題山積みだ、ということになるわけだ。
それでもなお、それを選択肢に入れたのは何故かというと。
「唯一、神隠しが
「お前はなにを言っているんだ???」
おおっと、再びアンデルセン氏が宇宙猫になってしまった。
とはいえそれも無理のない話。
これに関してはさっきも触れた『地下千階は次元境界面が不安定である』ことを前提にするモノであるため、そこを知らないと話がわからないようになっているのだから。
「次元境界面が不安定っていうのは、その世界と他の世界を隔てる壁が
「さっきとは打って変わって、ここにモノを隠すのは得策ではないという結論に至りそうな話ですねぇ」
「結果的にそうなってしまった、って話だからねぇ」
そもそもハルケギニアと繋げる予定も繋げやすくする予定も無かった、というべきか。
まず前者に今しては単純に『次元境界面なるものに考えが及んでいなかった』という話になる。
「ほう?」
「元々地下千階は最初から地下千階にあったんじゃなくて、元々保管庫のように使っていた場所を改良したりそこに含むものの対象を増やしたことによって、結果的に地下千階に位置することになった……というのが正解らしいからね。言い換えると、今まで注ぎ込んできたあらゆる対策が変な噛み合い方をした結果、みたいな?」
そもそもの話、次元の境界というのはそう簡単に薄くなるものではない。
文字通り次元を分かつ壁であるそれは、それが脆くなることにより他世界との衝突──融合になるのか淘汰になるのかは不明だが、ともかく『ここではない世界』との接触をもたらすもの。
それが与える影響は過大であり、ともすれば
そんなもの、大抵の人間がお断りのはずだ。
そういう共通認識が境界面を強固に補強する……というのは、いわゆる集合無意識的な話になってくるのでここでは割愛。
注目すべきなのはそれが『世界を分かつもの』である、という部分の方。
……『逆憑依』において、私たちの上に
「……つまりはこういうことか?『逆憑依』という他世界からの侵略者が既に居たからこそ、それらが起こすことは次元境界面を破砕するのに等しい行為であった……と?」
「そういう面が一切無かった、とは言えないね。そうじゃなくても周囲からの侵入を拒む──
人の視点で見えるのは三次元の空間であり、四次元方向の変化を認識することは叶わない。
それを前提にすると、この世界から離れるというのは、視点を変えれば
ともかく、今まで行ってきたあらゆる対策の結果、この階層における境界面が限りなく薄くなってしまったのは事実。
結果、余所の世界に繋がる『穴』が空きやすくなってしまった……と。
「で、前例があれば他にも波及しやすくなる。結果、この世界そのものが余所と繋がりやすくなってしまったわけだけど……その辺は今回の話とは関係ないから割愛。とりあえずなりきり郷が『重い』からそういう問題は大抵
「一種の霊地・特異点のようなものということですね」
「……あってるけど『特異点』だとカルデア来そうで嫌だなぁ」
まぁ、まず間違いなくうちはトンチキ特異点扱いだろうが。
……ともかく、前者に関してはそんな感じ。
必要な要素を纏めていったら必然的にそうなった、みたいなものであるためそれを事前予測して回避しろ、というのは不可能に近いわけである。
「じゃあ後者は?……って話なんだけど」
「繋げやすくする予定、だったか。……阿呆なことを聞くかもしれんがよーく聞け。違いがわからん」
「あーうん、だよねー」
前者が繋げる予定、後者は繋げやすくする予定。
言葉の上では似たようなモノであるそれらの違いは、ずばり
「……相手からのリアクション、ということか?」
「端的に言うとね。仮に境界面が薄くなっても、すぐさま世界が繋がるわけじゃあない。なんでかっていうと、そもそも世界には
「……なにをわけのわからんことを……いや待て、物理的距離が意味を為さないのだから、一つの世界だけが隣り合う、などということの方が奇異ということか?」
「ご明察ー」
そう、今しがたアンデルセン氏が理解したように、本来世界に壁を空けたところでその世界が固定、などということはありえない。
物理的な座標関係を持つのであれば、わざわざオカルトに頼らずとも他の世界に行けてしまうということになるからである。
……いやまぁ、極まった科学とかなら可能なのだけれど、ここで言いたいのはそういうことではなく。
「壁を壊せばすぐそこに他の世界が、みたいな単純な位置関係じゃないってこと。他の世界に行きたいのなら相手の座標を知ってないとダメってことだね」
そう、極端なことを言えば、単に世界に穴を空けても何処にも繋がらないのが普通なのだ。
三次元的な視点で世界を捉えている私たちは、そもそも他の世界の座標というものを認識することができない。
ゆえに、その状態で壁に穴を空けても『壁に穴が空いた』というだけで終わってしまうのである。
分かりやすく言うのであれば、目的地の部屋がわからない状態で適当に壁をぶち破っているようなもの、というか。
無論、偶然目的の部屋に繋がることはあるだろう。
とはいえそれは閉じられた屋敷の中ではなく、無限に広がった世界という部屋の中での話。
偶然に繋がる、などという確率は文字通り天文学的な数値を叩き出すことだろう。
これを前提に考える時、現在この世界に『穴』が空いた時に原則ハルケギニアに繋がる、というのはおかしいということになるのだ。
「もっとランダム、もしくは何処にも繋がらないパターンが頻発するはずってことだね。どっこい、こっちから開く分には基本ハルケギニアになるわけ。──『逆憑依』として送られてくる人達は、色んな世界から来ている可能性が高いのにね」
「つまり、先ほどの言葉は──」
「前者が部屋を自分で脆くしてる、って話ならこっちは
もしくは灯台か。
……ともかく、この世界が現状
その理由が、恐らくここに多数集った『逆憑依』達、ということになるのであった。