なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……つまり、カトレア嬢の容態になにか異常が起き、それを解決しようとしたビジュー嬢が世界扉を使ってブラックジャック氏を実質的に誘拐した、と?」
「まぁ、状況証拠から察するに、多分そんな感じかと」
……うん、最近向こうに顔を見せていなかったから、現在どういう状態になっているのかは不明だけど……現状を冷静に分析すると、カトレアさんが危篤である可能性が一番高いように思える。
まぁ、だとすると『向こうから地下千階にピンポイントで世界扉を開いたのか?』という、別種の疑問も湧いてくるのだが。
「……なにかおかしなことが?そのビジューとやらはお前の記憶を持っているのだろう?」
「一部だけ、ね。……ブラックジャックっていう高名な医者が居るってことは知ってると思うけど、それが何処に居るのかとかまでは知識にない可能性が高いんだよね」
「ふむ?」
確かに、ビジューちゃんは私と同位体となっていたため、ある程度知識の共有が発生している。
……いるのだが、それはなにも全ての記憶についてそうである、というわけではない。
わかりやすく言うと、『ビジューとしてより良くあるために必要な知識』が優先されているため、それ以外の知識に関しては普通に歯抜けがあるのだ。
それは何故かといえば、【星の欠片】である私の知識は基本的に毒にしかならないため。
「応用的に使えもするけど、基本的にはムダ知識だからね。変な癖が付いても困るというか」
双方が同じ名前を持つために応用できているが、基本的に私の【虚無】とビジューちゃんの【虚無】は別物。
特に、【星の欠片】はそれが無限にあることを前提とした運用が主であるため、それの扱い方を普通の技能に応用するのは基本ムダなのである。
……まぁ、私と同位体になってたせい……おかげ?で、彼女の【虚無】の許容量は遥かに上がっているため、ある程度【星の欠片】のやり方を踏襲してもなんとかなったりするわけだが……。
「どっちにしろ本人への負担を強いるモノであることに間違いはない……ってことで、【星の欠片】の扱い方はもちろん、必要ない知識に関しては時間経過で薄れるようにしておいたんだよね。特に私の自意識が混ざるような記憶に関しては、そのまま残しておくと彼女の人格に悪影響を与える可能性もあったし」
「なるほど……つまりそのビジューとやらにとって、お前の存在は暫く同居していた幽霊のようなもの、ということか」
「まぁ、そんな感じ」
とはいえ、いつまでも私のやり方や記憶に捕らわれていたら彼女の成長に悪影響を与える、というのも間違いない。
そのため、参考にできそうな一部の記憶を除き、私が一緒だったからこそ参照できた記憶などについては徐々に薄れるように細工しておいたのである。
……彼女の人生を彼女に返すための処置、みたいな感じだろうか?
ともかく、その中で残さない記憶に含まれていたのが、こっちにおける私の活動記録。
特に人の所在なんかは覚えていても意味がないので、真っ先に消えるようになっていたわけである。
……本来知識が人の脳を圧迫するなんてことはほぼあり得ないのだが、生憎そこに【星の欠片】が絡むと良くないので……。
そんなわけで、彼女の独力では『ブラックジャックという高名な医者』が居ることは思い出せても、そこから彼の細かな所在についてはもはや思い出せるわけがないところまで記憶の風化が進んでいたはず、ということになるのだ。
……まぁ、これに関しては簡単な答えが一つあったりするのだが。
「それは?」
「マーリンに聞いた」
「あー……」
バッドエンドはノーセンキューなのがマーリン。
……ゆえに、そういう気配があるなら助力してる可能性が高いのも彼、ということになるのだ。
特に、元々向こう出身の(『逆憑依』の)マーリンなら、その辺気にしないわけがないだろうし。
なお、それが本当だとすると、見失っていたマーリンはいつの間にか向こうに帰っていた、ということが合わせて判明することになってしまったり。
「先生探しのついでにマーリンをしばくことも目的に入れておきたくなる、というか?」
「違いない」
よくもまぁ、こっちを謀ってくれたな?……みたいな気持ちはなくもないので、自動的にその辺の思いを叩き込むことが決定したけど私は謝らない。
「ってなわけで、ちょっくら先生とマーリン探しに行こうかと思うんだけど、ゆかりんも来る?」
「はい?」
隔離塔の見学の予定を急遽後回しにし、ハルケギニアへと向かうことを決めた私達。
そうと決まればやることは一つ、責任者であるゆかりんへの確認である。
具体的には行動の許可と彼女も一緒に来るかどうか、という話なのだけれど。
それに対してゆかりんは、許可はともかく同行云々はどういうこと?……とばかりに首を捻っていたのだった。
「いや、ゆかりんってスキマを開けるの基本
「……あーなるほど。こういう突発的な事態にすぐ動けるように、みたいな意味ね?」
「そういうことー」
ご存じの通り、ゆかりんのスキマは本来のそれより幾ばくか制約が厳しくなっている。
特に、自分が行ったことのある場所・ないし自分の知っている人・モノのあるところにしか開けない、というのは中々に難儀な制約だろう。
一応、ビーコン代わりに人を向かわせればなんとかなるけど、それだって言い換えると
……人が立ち入れないような場所にはスキマを開けない、ということになってしまうため、その辺を解消するのにも本人が現場に向かうのが効果的、ということになるのであった。
ゆかりん単体なら、本人への能力の適用によりある程度好き勝手動けるし?
「……うん、自分に能力を使えば宇宙でも普通に息ができる、というのは中々に目から鱗だったわ……」
「流石は汎用性の塊って感じだよね」
宇宙だけではなく、深海の底とか極熱のマグマの中とか。
本来生き物が行動することのできない環境であっても、彼女の『境界を操る程度の能力』はその踏破を強く後押しする。
……言い換えると『現場で使わないのが大分勿体ない』類いの能力ということでもあり、そういった面も含めて積極的に色々見て回るのがいいんじゃないかなー、なんてキーアん思うわけ。
「まぁ、やり過ぎると目を合わせちゃいけない類いの相手に遭遇する可能性も出てくるわけだけど」
「その辺は程度を見て、ってことね。……んー、確かに今は急ぎの用事もないし、ご一緒しちゃおうかしら?」
「よっしゃあ帰りの足ゲットぉ!」
「おいこら???」
……まぁここまでのあれこれ、全部直接ここまで帰ってくるための準備だったりするんだけど。
え?お前スキマ擬き開けるやろって?あくまで擬きなのと、ゆかりんのスキマが世界を越えられるかどうかの実験の意味もあるから仕方ないね。
その後、あれこれと文句を述べてくるゆかりんを宥めつつ……、自宅に戻ってハルケギニアに繋がる世界扉の固定されたクローゼットに足を踏み入れた私達は。
「……あれ?!なんか暗くない?!」
「あらホント。昼間のはずなのに薄暗い……いや待って確かハルケギニアって月が二つあるのよね?おかしくない?なんか
魔法学院のビジューちゃんの部屋に到着し、その窓から見える景色に思わず困惑することになったのであった。
そう、壁に掛けられた時計が示す時刻は真昼なのに、外はまるで日が沈んだかの如く薄暗い。
さらには本来二つの──赤と青の月が浮かんでいるはずの空には、その二つより大きな赤い月一つだけがポツンと浮かんでいた。
その月にしても、薄いピンクのような明かりではなく、
「……まさかとは思うけど」
「あーうん。そういえばこっちの世界って居るんだっけ……
昼を奪う暗さ、空に輝く不気味な赤い月。
それから、隣に居るのは八雲紫──『東方プロジェクト』のキャラクター。
となれば、今の状況から連想してしまうのも一つ。
──紅霧異変。東方という作品が世に広く知られるきっかけとなった、記念碑的作品である『東方紅魔郷』において起きた異変。*1
吸血鬼の少女が起こしたそれを想起してしまう状況が、今私達の目の前に広がっているのであった──。