なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
『レディース・アーンド・ジェントルメーン*1!本日はヒト娘ワイルドダービー女性の部にお越し頂き、誠にありがとうございまーす!』
競技場内に解説が発した声が響き渡り、観客席からは再度歓声の雨が降り注ぐ。
そんな音の洪水に放り込まれた私達は、思わず耳を手で塞いでいたのだった。……なんというか、スッゴいノリノリだね、集まっている人達。
大音響の只中に放り込まれた形になるこちらとしては、正直な話(物理的に)耳が痛いとしか言いようがないんだけれども。
単に娯楽に飢えている……というには、ちょっとばかり熱が籠りすぎている感じがある彼らの様子は、選手として期待されているから……ということだけで説明できるものなのか、ちょっと怪しく思わなくもないものであった。
『実況解説はこの私、榊遊矢めが執り行わせて頂きます!皆様、どうぞ楽しんでいって下さいね!』*2
「周央ちゃんの代わりは榊君かー……」
そんな私の疑問を他所に、モニターに表示されるのはトマトみたいな配色の髪色をした少年。
……ついこの間『我らを一つに』うんぬんしていたドラゴンの、分かたれた人格の一つである榊遊矢、その人だった。*3
……うん。あのドラゴンと、今ここにいる彼には、なんの繋がりもないのだろうけど。
なんというか、ちょっとばかり複雑な気持ちになるのは抑えられない……というか。……他の三人集まってたりしないよね?
それはそれとして、やっぱり美少年だよね榊君。
御姉様方に人気なのも、頷ける顔をしている。とても かおが いい。
『お褒め頂き、恐悦至極にございます。……ところで、話を進めさせて頂いても大丈夫でしょうか?』
「え?……あ、ああ。ごめんなさい、先をどうぞ?」
……おっと、どうやら考えていたことを、口に出してしまっていたらしい。
こちらからの褒め言葉?を受けて、困惑すら滲ませず、代わりに軽くウインクを飛ばしてくる榊君。
その軽い様子に、漫画版*4でも混じってるのだろうか?などと余計なことを考えつつ、姿勢を正して次の言葉を待つ私。……おいこら
『では、ゲスト様からのお許しも出ましたので、早速ルールの解説に移っていきましょう!──第一種目は騎馬戦!三人一組で行う競技となります!』
そんなこちらの様子には触れず、軽く咳払いをして合図をする榊君。
その途端、彼が映っていたモニターの画面が切り替わり、こことは別の場所──男性陣が集まっている、別の競技場が写し出される。
その映像の遠方に見える、男性達の集団をなんとなく眺めていると。カメラがスッと横に動いて、とある人物達を映し出した。
『ウィーッス、こちら解説役のローアイン以下二名っす。今日は宜しくオネシャース』
「oh……
画面に映ったのは、騎馬戦で戦う空のチャラ男、ローアイン(以下二名)。*5
三人一組一纏め、という印象が強いキャラクターであるため、なりきり郷には居ないものだと思っていたから、わりとびっくりな人選であった。*6
まぁ、騎馬戦と言われて思い付くキャラは?と聞かれたら、結構な人数が答えそうなキャラでもあるので、納得と言えば納得な人選なのだが。
なお、下の二人は元の二人ではなく、普通の一般人っぽい感じだった。……三人揃わなかったから、参加者ではなく解説役なのだろうか?
『現場のローアインさん、解説をお願いしまーす!』
『ウィーッス。今回のKBSNは、はちまきを取り合うオーソドックスなやつっす。殴るとか蹴るとか、俺達みたいに花火ブチ上げるとか。そーいう相手に傷付けるようなの、全部反則なんで。気ーつけてヨロシャース』
「あー、あくまでもはちまきの取り合いって
「罷り間違って殴りあいにでもなったら、収拾がつかなさそうだものね。特に男性側は」
そんなこちらの予想は他所に、榊君に促されて話し始めるローアイン君。そうして発せられた言葉に、ふむふむと一同は頷きを返す。
これから行われるのはあくまでも競技としての騎馬戦なので、騎馬に対して攻撃するとか、はたまた騎手を叩き落とすとかのような危険行為は御法度……ということらしい。
まぁ、確かに。単なる殴りあいで済めばまだマシで、キレて能力とか使い始めたら酷いことになる……というのは、素人頭ですら予測可能な事態だと言えるだろう。
『あ、ゲストに対してはなにしてもオッケーすよ。それが許されるだけの戦力差がある、ってことらしいんで』
「おいおいおい」
「死んだわね」
「どっちがですか!?」
……と、思っていたらローアイン君から追加ルールのお知らせ。
私達のグループに対しては、殴る・蹴る・花火などの攻撃行動もOK、ということになるらしい。
……いや、それはおかしくない?
なりきり郷内での戦闘行動は自動的に非殺傷になる……とはいえ、相手側である他の参加者はやりたい放題で、ゲストであるこちら側はダメ……って、そりゃ無茶苦茶が過ぎるんでないかい?
『ゲスト組から不満の声が上がっておりますが、運営側としてはその抗議は却下させて頂きます!何故なら、ゲスト側にはまだまだ枷があるからです!』
「そんな横暴な話があるかー!!」
かと思えば、「こっちに対する枷はまだまだあるぞ」の言葉と共に出るわ出るわ、更なる禁止事項!
大きい縛りは、飛行禁止(正確には『一定時間地面に足が着いていない状態』であることの禁止。ジャンプとかはできる)と能力禁止、だろうか?
それ以外はまぁ、ちまちまとした禁止事項が並べられているだけで、言うほどキツい縛りというわけでも無さそうだった。
……他の参加者に、その辺りの縛りが一切無い、ということを除けば……の話なわけだけど。……なんだこれイジメかね?
『イジメではありません!それくらいの戦力差があるのです!特にそうやって文句を言ってる|キーアさん!これくらい縛っておかないと、一人で全部ひっくり返せるスペックだ……っていうのは、既に調べがついてるんですよ!』
「……~♪」
「せんぱいが、口笛を吹いてごまかしています!」
「そんな典型的なごまかし方とか、久しぶりに見たんだけど……」
おおっと、私がなんでもできる系魔王なことは、既に周知の事実だったようだ!
こいつはいけねぇ、自重してなんもできないように振る舞ってないと。……ホントに自重する気があるのか、だって?さてねぇ……(暗黒微笑)*7
「……目元に影が出来てて、口元笑ってれば暗黒微笑……ってことでいいのかな?」
「それを私に聞かれても、知らないとしか答えようがないんだけど?」
特に疑問も持たずにやった暗黒微笑だけれど、やり方ってこれであってるんだろうか?
……みたいなことをシャナに聞いたのだけれど、彼女からはにべもない返事しか返ってこないのでした。
「さっきゲスト側は能力禁止、って言ってたね?」
『……ええ。正確には、キーアさんには能力禁止、マシュさんには宝具の禁止、シャナさんには自在法の禁止、という形ですが』
開始の合図を待つ中、改めて榊君に今回の大まかな縛りについて確認を取る。
私が能力禁止……正確には『虚無』の使用禁止。これが一番大きいので、そこを縛るのは分からないでもない。
マシュに関しては、宝具の展開禁止。……ようするに、『
まぁ、これをやられると、あとは相手の根が折れるのを待つだけ、というワンサイドゲームと化すのでさもありなん。
代わりに、盾そのものは使ってもいいらしい。
……騎馬の体制的に片手で保持する形になるので、どこまで頼りになるものやら……ということから認められた形である。
そしてシャナは、自在法の禁止。……彼女は自在師ではないものの、存在の力を使って行われるものは須く自在法であるため、現状の彼女ができるのは刀を振ることくらいのものである。
一応、刀を出すだけなら許されたので、本当に丸腰という訳ではないのが救いか。
うーむ、なにこのクソゲー。
向かってくる数十組は、こんな制限とか無しに突っ込んでくるんでしょう?
はーやだやだ。結末が決まりきってるのって、やぁねぇ。
「───私が『虚無』しか能のない女だって思われてたってのが、なんとも哀しい話ですよ。……ま、オリジナルなんで知らなくても仕方ないんだけどね!」
『……?能力が使えない以上、今の貴方はただの幼女みたいなものなのでは?』
榊君が、訝しげに声を掛けてくる。
うむ、わざわざゆかりんが禁止事項に抵触した場合に知らせてくれる腕輪、なるものまで作ってくれたのだから、私達にそれらの禁止事項を越える術はない。
……使った時点で失格になるようになっているので、周りが見過ごすということもないだろう。
その点においては確かに、私達は羽を
「──そう。私達はまさに、絶体絶命の崖っぷちに追い込まれている……だがそこから必ず立ち上がる、そして最後には敵を圧倒し……殲滅する!」*9
『……ん?いやちょっと待って、その台詞黒咲の……』
「
「
『あっちょっ、誰今の!?って言うか答えてキーアさん?!嫌な予感しかしないんだけど!?』
開始の合図を今か今かと待ち続けていた選手達は、誰の声だか分からない開始宣言を聞いて、なし崩し的に飛び出してくる。
そう、闘いのゴングは既に鳴らされたのだ!もはやこの流れを止めることなどできんよ!これだけの業、重ねてきたのは誰だ!?君とてその一つだろうが!!*11……いやこれは違うわ。
ともあれ、動き出した以上、あとは野となれ山となれ、である。ってなわけで……。
「能力禁止、と言ったな!じゃあこう返してやる!──リバースカード発動!『魔法は能力区分じゃない、技術扱いだ』!」
『あ゛っ』
やらかした、みたいな声をあげる榊君だが、もう遅いわ!
我はキルフィッシュ・アーティレイヤー!『
その大層ご立派な異名に見合った、魔法の腕だってあるんじゃい!
大挙する群衆に向けて魔法を発動する準備は、既に整っている!
「やば、総員退避ーっ!!」
「させるかぁっ!!『対象指定・人間』で魔法発動!大地に縛り付けられろ、【
「どわぁぁあぁあっ!!?」
こちらの行動をいち早く察知し、退避しようとした者達も居たけれど──遅すぎてあくびが出るわ!
今回使用した魔法【重感染圧】は、指定した対象に『感染する』重力魔法である。……一応、オリジナル魔法になるのかねぇ?
感染対象が増えると強度が増す、という割りとえげつない効果の魔法だが、対象が一人だと強度が全然上がらないという、集団戦にしか使えない魔法である。……代わりに、消費魔力とかは滅茶苦茶少ないのだが。
「ふふふ、まさかこうしてみんなで突っ込んできてくれるとはねぇ……一網打尽とはこういうことを言うんだろうねぇ……」
「滅茶苦茶悪い顔してるぞこいつー!?」
「魔王じゃ、魔王の降臨じゃ……」
「ふははは、なんとでも言えいっ!!」
魔法の干渉範囲に入ってしまった者達は、皆一様に足を止めている。……止めているというか、止まらざるを得ないというか。
立ってるのは流石だけど、感覚的には二倍から六倍くらいの過重が掛かっているはずである。
そりゃまぁ、動くに動けないよねぇ?ただでさえ、
ともあれ、動かない相手のはちまきを取るのとかよゆーよゆー、この圧倒的優位下で負けるとかナイナイ。
──って、そんな風に思っていたら足を掬われるんだよねぇ?
「───!読まれていた?!」
「くっ、そこまで楽な話でも無かったか!」
「ふははは読めていたよ『
両サイドから飛んできた砲撃を、マシュが盾で逸らし、シャナが剣で斬って防ぐ。
そうして発生した爆炎の向こうに居るのは、さっきの魔法の対象外となる、人間ではない者達。……いわゆる擬人化組である。
上に居る人物が誰なのかはまだ(煙に隠れていて)見えないけれど、下の二人は声的に赤城さんとハーミーズさんの二人だろう。
どちらも船の擬人化キャラクターであるため、さっきの魔法の対象からは外れている。
……まぁ、
ともあれ、これで一方的な展開……というのも阻止された。
あとはまぁ、盛大に暴れまくって、観客達の無聊を慰めることとしよう。
「うおー!私ははちまきを取られたら負けるぞー!」*12
「……さっきから典型的な負け魔王の台詞しか吐いてないんだけど、これって止めるべきなの?」
「……せ、せんぱいが楽しそうなら、べ、別に良いのではないでしょうか……?」
「……良くないって顔に出てるわよ、マシュ」
「!?」
……下の二人がうるさいのはスルーでお願いします。