なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「な、なんでNのへやがここに……!?」
「っていうかBGMまで彼処のなんだけどこわっ!?」
音程の外れた曲というか、背筋に直接冷や水垂らしてくるような感じというか。
……ともかく、立っているだけでなにやら悪寒を感じてしまうような部屋が私達の目の前にあるわけでして。
いや、なんでここにNのへやがあるのよマジで。
あんまりにも唐突すぎて心構えができてなかったから余計にビビったんだけど?
……流石にそれがなんなのかを理解してしまえば、それほど恐ろしいモノでもないけれど。
別に一般的なホラーゲームみたいに、なにかが飛び出してきたりするわけでもないし。
「だとしてもここを探すの嫌なんだけど……空気感があまりにも嫌すぎるわよ……」
「とは言ってもねぇ、はるかさん以外の面々が見当たらない以上、中に入らないわけにもいかないんだよねぇ」
「え、あ、そっかそういえばそうだった!はるかちゃん以外誰もいないじゃないの!?」
なお、ゆかりんの方はそもそもこの部屋の雰囲気がいや、と腰が引け気味である。
まぁうん、雰囲気で色々訴え掛けてくるのがNのへやなわけだから、仮になにも起きなくても入りたくない、ってなる人がいてもおかしくはない。
……ないんだけど、生憎今回に関してはそういうわがままも言っていられない。
思い出して欲しいのだが、私たちがこっちに来たきっかけははるかさん
そう、はるかさんは入り口で相変わらず腰を抜かしているけれど、もう一つ──誰のものかわからない男性の悲鳴に関しては、その発声者が何処にも見当たらないという形で終わっているのである。
となれば、だ。
その悲鳴の持ち主を探す必要性がある、ということも、同時に理解できるはず。
……で、最初はるかさんを見付けた時、彼女は部屋の中を指差していたわけで。
「……部屋の中でなにかがあって、そのせいで今他の人たちが見当たらない、と?」
「その可能性が大だねぇ。……その辺ははるかさんに詳しく聞きたいところなんだけど」
「……あ、泡を吹いて気絶してる……」
その辺、一部始終を見ていたはずのはるかさんに詳しく尋ねたいところだったのだけれど。
私たちが来た時にはまだ意識を保っていた彼女は、現在目を回して気絶中。
……つまり、この中でなにが起こったのか確認することもできないまま、部屋に入って他の面々を探す必要がある、ということになるわけで。
「……いや、嫌なんだけど!?絶対中に入ったらなにか起きるヤツじゃないのこれ!!はるかちゃんだけ無事、って辺り諸にそれよね!?」
「まぁ、現場証拠的にはそうなるね。同時に、中の様子はこうして目で確認できるから、入り口から見える範囲にはなにもない、とも言えてしまうかもしれないわけだけど」
「なにその含みのある言い方!?もしかして入り口を潜ると別の景色が見えるとか、そういうこと言ってたりする!?」
「もしくは、入り口自体がワープゲートになっててどこかに転移させられるか、かな?……まぁはるかさんの反応を見るに、ワープだの景色が違うだのはちょっと微妙かなーとも思うけど」
そもそもの話、人の居ない隔離塔でそんなものを仕掛ける理由が見当たらないわけだが。
となると、これに関しては後者の可能性が高い、ということになるか。
「……ん、後者?」
「さっき言ってたでしょ、ここにいる人間なんて云々って。……たまたま戻ってきてた元住民じゃなく、たまたまここに迷い込んだか目的があって侵入してきたか、その二つが後者に相当するってわけだけど」
「なるほど?この中に居る、もしくは居たのはそのどれかだと?」
「今のところそれが一番可能性が高いね」
入ってきた人間に危害なり攻撃なりを加える理由がありそうなのが、その二つしかないだろうという意味合いもなくはない。
忘れ物を取りに来たのだとしても、よっぽど危ないモノでも置いてきたとかじゃない限り早々問題になることはないわけだから、余計のことここの住人が罠を仕掛ける理由がない。
ならば、この罠……罠?を仕掛けたのはその理由があるもの、すなわち侵入者か闖入者かということになる。
個人的には闖入者を押すけど……ともかく。
「入ってみないことには始まんないし、ゆかりんは嫌だって言うから……仕方がないし、私が入るよ、文句はないよね?」
「いやまぁ、確かに嫌だとは言ったけど……」
「言ったけど?」
「……貴方に独断専行させると後で私もマシュちゃんに怒られそうだから、一緒に行くわよもう!」
「……やっべ私も怒られそうこれ」
見える位置になにもない以上、確認のためには中に足を踏み入れるしかあるまい。
再三述べているその意見を元に、部屋の中へと足を踏み入れようとした私だったんだけど。
その様子を見てゆかりんが述べた言葉に、思わず足を止める羽目になったのであった。
……うーん、後で色々言われそうだよなぁ、これ。
特に相手が侵入者か闖入者かとなれば、もっと安全マージンを取って動いて欲しい、とかなんとか怒られそうというか……。
まぁ、もし仮に闖入者であるという予測が正しいのなら、それほど大袈裟なことにはならないでしょう……と、ある意味楽観視するような結論を無理矢理出して、再び足を動かす私。
そうして入り口を跨いだ私の目に飛び込んできたのは、薄暗い部屋の内部の様子。
まず、入り口からも見ることのできた一番大きなもの──スケートボードのスロープだが、これは特に違和感はない。
いやまぁ、室内にスロープがあるということ自体が違和感だと言われればそうなのだが、逆に言うとおかしいのは設置位置くらいのものであり、それ以外におかしな部分はない。
向かって右側には、鉄道模型とそれが走るためのコース、それからおもちゃの入った箱が見える。
こちらも元ネタと同じく、無造作に箱に放り込まれたおもちゃや、途中でレールが途切れているため同じところをずっと往復している鉄道模型などが存在するが、逆に言うと元ネタに忠実過ぎるためにおかしなところは(逆に)ない、というありさま。
他、天井の飛行機や壁際のダーツの的、床の模様に青空などのNのへやの特徴は押さえており、ゆえにこそ部屋そのものはおかしいが『Nのへや』としてはおかしくない、という奇妙な状況に陥っていた。
……さて、ここまで語ったことで、勘のいい人はなにかに気付いたことだろう。
そう、部屋の右側については語っているのにも関わらず、左側については不自然なほど触れていないということに。
それが何故なのか?
理由は単純で、そっち側が明らかにおかしなものがあったから、というのが答え。
ではそこになにがあったのか、というと。
「……助けてくれ」
「oh……」
本来、Nのへやの左側にはバスケットゴールが設置されている。
それだけなら特におかしなこともないのだが、Nのへやにおいてはゴールに模型が突っ込まれていて、ボールの方はその辺に無造作に転がされているという、
……なのだが、この部屋においてはそうではなかった。
バスケットボールでもなく、鉄道模型でもなく、そこに突っ込まれていたのはアンデルセン氏。
頭からゴールにすっぽりとはまった状態──腰の辺りでゴールに引っ掛かった状態で、彼はそこに放置されていたのであった。
……いや、真面目になにがあったし?!
「まったく、散々な目にあった……」
「ええと、お疲れ様です……それと、なんであんなことになってたのかお窺いしても?」
「わからん!」
「……はぁ?」
「気付いたらゴールに突っ込まれていた、本当にあっという間だったから情けのない声をあげるくらいしかできなかったというわけだな!我ながらお笑い草というやつだ!」
「えー……」
わりと高い位置にあるゴールだったため、そのままでは彼を外に出すこともできない……。
というわけで、仕方なく飛行して彼を上に引っ張り出した私は、助け出したアンデルセン氏から詳しい話を聞いていたのだけれど……。
うん、なーんもわかんねーでやんの。
いやまぁ、状況的には背後からいきなり抱えあげられた挙げ句そのまま頭からゴールにシュー!!超エキサイティン!……したんだろうなー、って感じではあるのだが。
ただまぁ、それが事実だとするとアンデルセン氏本人は下手人の顔なんて見てるわけがないよなー、って感じで話が終わってしまうわけで。
仮に顔見てたとしてもこの薄暗さなので正確には判別できない、なんて可能性も高そうなのがあれだが。
……となると、やっぱりここは気絶しているはるかさんを起こして、なにが起こったのか第三者視点で見てるはずの彼女に話を聞くしかない、となったのだけれど。
「……あれ?ゆかりん?」
「む?八雲のもこっちに来てたのか?」
「そのはずなんだけど……あれ?」
背後を振り返った私は、そこにいるはずのゆかりんの姿がないことに気付く。
……というか、なんなら入り口にいたはずの、気絶していたはるかさんの姿さえもなくなっている。
私がこの部屋に入る際に移動してしまったのかと一瞬疑ったが、そういう転移系の罠があったのなら普通に気付くのでその線は薄い、ということになってしまうわけで。
……ということは、だ。私がアンデルセン氏を救出するためにあれこれしている内に、二人は何処かへと連れ去られたということになるわけで……。
「……なるほどなるほど。つまりこれはあれね、私に喧嘩売ってるってことね?」
「……お、おいキーア?一旦落ち着け、冷静に状況を把握するんだ。……そう、素数、素数を数えるんだ。素数は一と自身でしか割りきれない孤独な数字、お前に勇気を与えてくれる……」*1
「シャラップ!私は冷静敵は優勢、このまま放置は大劣勢、オーケー!?」
「なんで微妙にラップ調なんだ貴様!?」
売られた喧嘩は買わねばなるまいよ!
そんなわけで、私の目の前で舐めたまねをしてくれた下手人を捕まえるため、張り切る私とため息を吐くアンデルセン氏なのでありましたとさ。