なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ふぅ、危ないところだった。あそこであれがああなってああならなければ負けていたのは私達だった……」
「なんで前回の巻き展開を引き摺ってるの貴方?」
あまりの恐ろしさに、知らず知らずの内に額にかいた汗を拭っていると、騎馬から解放されたシャナに真顔でツッコミを入れられてしまった。
いや、だってねぇ?……描写してない以上、子細に語るのも……ねぇ?おお、メタいメタい。*1
ともあれ、初戦はゲストの面目躍如と言ったところか。
大差とまでは行かないものの、結構な大勝ちを決めたので、観衆からの評価は上々と言ったところである。ただ……。
「……結局、赤城さんとハーミーズさんの上に居たのは誰だったんだろうね?」
「フードを被ったままでいたけれど、それを脱ごうともしなかったわね」
「私の気のせいでないければ、以前のデュエル大会の参加者と同一人物、だと思われるのですが……あそこまで頑なに顔を隠すのには、よほど深い理由が存在するのでしょうか……?」
三人で先ほどまでの戦いを思いだし、首を捻る。
煙で隠れて見えなかった最後の一人。……煙が晴れた時に現れたその姿は、全身を黒いフード付きのマントで隠したものだった。
フードからチラリと覗くはずの顔も、わざわざ仮面を付けていたために確認はとれていない。
……覆面と仮面という違いこそあれ、その姿はかつてマシュが参加した、
そこまでして隠す素顔、というのが一体どういうものなのか、ちょっと気にならないでもない……という方が大きいわけである。
……激しく動いても外れたりしないように、わざわざなにかしらの技能──『魔法』やら『~程度の能力』のようなものを、フードに施していたようだったし。
まぁその謎の黒フードは、騎馬戦終了と同時に何処かへと消えてしまったわけなのだが。
この運動会もといヒト娘ダービー、参加者の確認とかを一々取っていないそうで。……参加したければ飛び入りだって可能、という割りと適当な運営形式なのだそうだ。
なので、出場者名簿と照らし合わせて追い掛ける……というのも難しいみたいだ。
そのため、相手の正体を暴く機会を失った私達としては、こうして好き勝手に中身を推察するくらいしか、現状ではできないのであった。
……謎の黒フード、一体何者なんだ……?*2
「……この台詞で中身が本当にわからないのって、わりと珍しくない?」
「まぁ、前フリみたいな使い方がほとんどだものね、それ」
……とまぁ、程よく脱線したところで。
いい加減、目を逸らしていたモノに、視線を向け直す。
『第二種目は玉入れ!こちらは大本営協力のもと用意された卵型の玉を、
「……わーお」
用意されているのは大きなかごと、その周囲にかごを囲むように設置された机の上にある、色取り取りな卵達。
……色取り取りというか、種類が選り取り見取りというか。
なんとも形容しがたいモノが混じっている、わりと魔境っぽい見た目の卵達なのだが。……
そんな風に若干引き気味の私達の前に用意された卵は、どこぞの配管工の髭なおじさまが上に乗る、
……なんか一つ、やけに煌びやかなやつが混じってるんだけど、あれ『インペリアル・イースター・エッグ』*6とかじゃないよね?大きさ違うし、レプリカとかだよね?
どっちにしろあれもあれで、別の意味で触りたくないタイプの卵だけども。
『なお、中身は普通に生卵ですので、汚れたくない方などは競技の棄権・および雨具の貸し出しも行っております!無論、どちらも必要ないという方はそのままでお待ちください!また、能力使用で卵をボイルなどした場合は、即座に失格となりますのでご注意を!』
「……一応聞くけど、これ中身は食べられるやつ?」
『おっと失礼をば!これらの卵は廃棄品の再利用となりますので、原則食べられないものになります!服などに付いた場合、匂いが気になることもありえますので、個人的には
「……誰得なんだこの競技……」
榊君の解説に、思わず鼻白む私達。
……いやまぁ、単純な玉入れだと面白くないとか、力加減の確認には割れやすいものがいいとか、色々理由はあるのだろうけれども。
カッパが推奨される運動競技、というのは如何なものなのだろうか?……そもそも動き辛い格好はなし、って言ってたやん。それだったらシャナは夜笠でよかった、ってなるやん。
「……流石に腐った卵を被りたくはないんだけど。『清めの炎』*7でさっぱりできるとは言え、気分的に嫌だし」
「私も、盾で防ぐのは恐れ多いと言いますか……」
「あー、うん。……素直にカッパを借りようか」
……なるほど。
浄化できるとか洗えば落ちるとか、正論ではあるけれど感情論が優先する、というやつだね、これは。
……私がやるんなら、気でも纏って飛んできたのを蒸発させる……みたいな感じになりそうだけど、それはボイル判定になりそうだから、実際には取れない手段だろうし。
そう考えてみると、この競技においてはカッパやら傘やらに頼るのは、寧ろ当たり前……ということになるみたいだ。
体操服の上に半透明のカッパを着るのは、なんか変な感じがするけども。
ともあれ、これもまた対抗戦。
ゲストと参加者を複数の組に分けたものでの、卵の入った数を競う形になっている。
無論、かごに入ったとしても卵が割れていたらカウント外、割れていないものだけを数える形だ。
一応、かごの底には衝撃緩和のためのシートが貼られているようだけれど、中に入っている卵の数が嵩んで来たら、卵同士の接触で割れたりしかねない。
玉入れという名目ではあるものの、予想よりも遥かに地味……もとい、静かな戦いになりそうな競技であった。
「……とりあえず、どうしましょうか?飛行は相変わらず禁止のようなので、地道に投げる形になるのでしょうか……?」
「んー、魔法で転移とかも考えたんだけど、あのかご自体に転移無効効果が付与されてるみたいだし、そもそも卵対象にしちゃダメっていわれたし。……やるんなら素直に投げるか、はたまた大きくジャンプしてかごの中に置いてくる形にするか……かな?」
マシュと競技開始後の動きについて話し合うが……うーむ、意外と難しいなこれ?
割れたらダメというのが曲者で、それを遵守しようとするのなら、投げ方には相当気を使わなければならないということになる。
上手いこと上昇の頂点部分で、かごに入るように工夫する……とかでもなければ、まず間違いなく中で割れてしまうだろうし。
ジャンプして置いてくるのが、一番現実的だろうけれども……。
「まぁ、間違いなくかごに攻撃してくるでしょうね、他の組が」
「だよねー」
シャナの言葉に、小さく項垂れる私。
ルール説明の際、禁止事項として伝えられたのは卵の加工の禁止と、飛行の禁止。それから、ルールとして明言はされていないけれど、転移系の技能の実質的な禁止である。
……逆に言うと、それ以外に関しては、なんにも注意されていないのである。──そう、余所のグループへの妨害行為、とかについての注意を。
伝え忘れ、なんてことはまずないだろう。ならば、他者への妨害は寧ろ
能力使用について、参加者側に制限はないのだから、直接ダメージを与えてくる以外のあらゆる妨害について、ある程度意識を割く必要があると言えるだろう。
……場合によっては、かごそのものに攻撃を仕掛けてくる、なんて無法も罷り通るのかもしれない。ゴールが無くなったら点数なんて取りようがないのだから、対策としては普通にあり得る方だと言えるだろう。
かといって、それらを警戒しすぎるのも宜しくない。
……私達がゲスト側なのもあって、仮に周囲から妨害が飛んでくるとすれば、それは私達以外の全てから……ということになりかねないからだ。
他のチームは四組。
配置は私達が中央、他が四方のいわゆるインペリアルクロス型*8となっている。……
こっちには三人しか居ないのだから、周囲を警戒するための人員を割いてしまうと、手数が足りないなんてことになりかねない。
……ふぅむ、はてさてどうしたものか。
『それでは、これより玉入れを開始します!選手の皆様、各自指定の位置にお進みください!』
「むぅ、時間切れか。……仕方ない、プランBで行こう」*9
「あの、せんぱい?そもそもプランAもろくに話し合えて居なかったような……?」
「大丈夫大丈夫、説明は
「……こめかみ?……ああ」
そうして悩んでいたら、無情にも時間切れである旨が榊君から伝えられる。……まぁ、こうして悩んでいる……
そんな思考はおくびに出さず、適当にプランBの発動を示唆する私。……マシュの言う通り、そもそも
そこはほれ、今回は物理的な手段以外で、卵やかごに影響を及ぼすのを禁止にされた私達だけども。
逆に言えば、それ以外の用途になら使えるわけで。……と、こめかみをトントンと指で叩く。
そんな私の様子に、シャナとマシュは互いに顔を見合わせるのでしたとさ。
『さて!身体能力以外のほとんどを封じられたキーア選手!彼女は次にどんな奇策を見せてくれるのでしょうか!では──スタート!』
モニターの榊君が声をあげ、スタート位置にいた選手達が、一斉に卵の方に走っていく。
スタート位置は十字の外側、私達は卵の設置されたテーブルを越えて行かなければ、中心にたどり着けないが。
他の選手達は、卵を取ったその足で、かごに向かうことができる。……そのまま机の前に陣取って、こちらの邪魔をするというのもありだろう。
「だからこうする!シャナ、行くよー!」
「全く、人使いの粗い!まぁ、任されたわ!」
『おおっとぉー!?これは砲丸投げのポーズ?!キーア選手がシャナ選手を肩に担いでいます!どーいう肩をしてるんですか貴方!?』
「自分に掛ける魔法は禁止されてなかったからね!──というわけで射出!」
『投げたーっ!!?』
ゆえに、妨害される前にこっちのやりたいことを全部やる!
初手は私とシャナ。強化した肩で、シャナを中心部に向けてぶん投げる!そしてそのまま、その背を追って前へと走り出す!走りだせー♪*10
投げ飛ばされたシャナは、高速で中心部へ向かっていく。
周囲の選手達はどうにかしようと視線を惑わせて、現状ただ飛んでいるだけのシャナにはなにもできないことに気付き、一瞬動きを止める。
その間に彼女は彼らの頭上を越え、陣地に到達し。
「まずは、一手!──せぇいっ!!」
『おおっとぉー!?これはどういうことだー!?シャナ選手、自陣のかごを固定するポールを叩き斬ったー!?これは痛恨のミスかーっ!?』
(マシュ、今っ!)
「はいっ!キャプテン・アメリカ直伝、などと言えるようになれれば幸い、ですっ!」*11
『今度はなんだぁーっ!!?マシュ選手が自身の大盾を、ブーメランのように投擲したぞーっ!!?』
その勢いのまま、かごの付け根部分──要するにポールの部分を袈裟斬りにして、かごを地面に叩き落とした。
落ちたかごは地面に鎮座し、動くことはない。
その突拍子もない行動に、さらに周囲が動きを止める中で、今度はマシュが、自分の持っていた盾を、横に回転させながら投擲する。……CMで以蔵さんが上に乗ってたあれ、である。
回転しながら飛んでいく盾は、そのまま唸りをあげながら中心部に向かっていく。進路上にいた選手達が慌てて避ける中、それは
『……これはっ、卵です!机の上の卵が、全て盾に巻き込まれて割れていきます!これはつまり、防衛は不可能と判断し、引き分けを狙いに行ったのかぁーっ!!?』
そのまま、台の上の卵達を無慈悲に割り砕いていく。
……実況役を任されているだけあって、榊君の実況は熱が籠っている。とはいえ、作戦を見誤っているのはらしくない。
君はエンタメデュエリストでしょう?走り回るのが本分なんだから、全体をもっと俯瞰しないと。
『──これは!盾の影です、盾の影になるように、キーア選手が追走しています!体の小ささを生かした動きと言えるでしょう!そしてその手には──』
「へいインペリアル・エッグ~!ってことでほい」
回転する盾の下に隠れていた私が、そのまま盾を掴んで台を飛び越え、地面に落ちたかごの中に唯一隠し持っていた卵──緑色の煌びやかな卵をそっと放り込み、そのまま盾でかごに蓋をする。
……ん、私の仕事終了。あとは二人にお任せだっ。
こちらの行動が終わったあとに、周囲がフリーズ状態から脱する。
玉である卵はほとんど割れてしまっているが、個数は幾つか残っている。
それを集めるために、選手達が動こうとして。──ようやく、完全にフリーになっている二人に気が付いた。
『こ、これは!なんということでしょう、他の選手達が卵を掴むよりも先に、遊撃部隊となったマシュ選手とシャナ選手により、卵が砕かれて行きます!』
「答えはとてもシンプルだ。──例え一つでも、他より多いなら勝ちは勝ち。直接戦闘を禁じたのが裏目に出たな。……なんてね?」
かごの上に蓋のように乗せられている盾と、その上に座る私。
……この状態の私をどうにかすることは、
素直にかごに卵を投げ入れようにも、そもそもに卵を掴ませないし、掴んだとしても悠長に投げる暇を与えない。
その辺りの作戦を
……速攻って、気付かれる前に終わらせるのが最良、だからね。
周囲を嵐のように駆け回る二人を見物しながら、けけけと笑みを溢す私なのであった。