なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「いやー、愉快愉快!大勝とは行かないけれど、こういう勝ち方もいいものだねぇ!」
「……まぁ、面白い戦い方ではあったけども」
左団扇で
……ふむ?何か気に障るようなことでもあったかいね?と思いながら彼女の様子を窺えば、シャナは再度ため息を吐いて、こちらに向き直った。
「ぶっつけ本番、みたいなことにするのはやめて。……対応はできるけど、少し疲れる」
「ああ、そっち?……いやー、口頭で説明してたら止められてたような気がしたからさー」
シャナからの抗議の言葉に、頬を掻きながら答えを述べる。
向こうだって案山子じゃないんだから、聞き耳を立てている人だっているだろう。
そもそも一戦目からして広域圧殺(※死んでません)を仕掛けていたのだから、勘の良い人なら「またエグいことしそう」という考えに至るだろう。
だから口からは出任せを言って、本当の作戦に関しては使える者の少ない念話に頼ったのである。
そもそもの話、本来私の戦い方というのは、周囲に
……なんか、いつの間にか『なりきり郷最強の勇士』みたいな扱いされてるけど、ちゃうねん。そーいうの貰うタイプのキャラとちゃうねん私。
「え?でもせんぱいは『魔王』を自称しているのですよね?」
「説明めんどいから省いてるけど、本来の正式な名乗りは『最小最弱の魔王』なんですよ私」
「最小最弱……?」
「おいこら、どこ見て言ってんのさシャナ」
それを口に出したら、マシュから常の名乗りに付いての疑問が飛んできたので、本来の名乗りからは省かれていることを告げると、怪訝そうな目でシャナがこちらを見てきたのだった。
……視線が私の頭の上と胸の辺りを往復している気がするけど、喧嘩売ってるんなら買うぞこのヤロー。
「そ、じゃあ丁度いいわね」
「……はい?」
「次の競技」
「……次の競技?って言うと……」
みたいなことをシャナに返したら、戻ってきたのは望むところ、とでもいわんばかりの表情だった。
……んんん?えっとつまり、私に喧嘩を売ってたってこと?実際に?……何故に?
困惑するこちらのことなどお構いなしに、シャナは私の手元のプログラムの用紙を指差して見せる。
……えーと、この次の種目は『ゲストによるダンス』……ダンス?ダンスは……苦手だな……。*1
「ってそうじゃなくて。ダンス?ダンスが何故ここに?自力でプログラムに追加を?」
「それ、ダンスって名目の模擬戦よ」
「……
「
「……勘弁してくれよ……」
ゲストが踊るって、一体なにを踊らせられるのだろう?……なんてことを考えていた私にとっては、かなり寝耳に水な話がシャナからの説明によって判明する。
……血の気の多い奴らが大好きなもの、あるやんけ。
しかも、なんだ?この流れで行くと、シャナは私に死のダンスを踊らせようとしていると?*2
…………………。
「えっと、マシュ?」
「すみませんせんぱい、私は盾を磨かなければいけないのです……」
「あ、ごめん……」
スーっと視線を動かし、マシュに助けを求める。
……が、彼女はどんよりとした表情で、自身の鎧の表面を眺めていた。
あ、うん、ごめん。……
ともすれば、
……引き下がって、逃げ場がないことに気付いた。
バッ、と振り返った先のシャナは、見たこともないような笑顔を浮かべていて。
「助けて貰ったことには、感謝してる。──でもね、負けっぱなしは性に合わないの」
「……シャナも割りと血の気が多かった件について」
苦し紛れに吐いた言葉は、フッと笑う彼女には通用しませんでしたとさ。……わーい身から出た錆ー。*3
『それでは皆様、大変長らくお待たせ致しました!これよりエキシビションマッチ・『炎髪灼眼の討ち手』ことシャナ選手と、『魔王』キーア選手の模擬戦を開始致します!激しい戦闘が予想されますので、観客の皆様は決して、席から乗り出したりしないようにご注意をお願い致しまーす!』
先ほどまでの競技と同じ様に、モニターからは榊君のアナウンスが聞こえてくる。
……さっきまでの
などと現実逃避をしてみるも、時間は止まってはくれない。
……いや、仮に止まったとしても、この状況を回避できるわけではないのだけれども。ここで逃げたとしても、彼女の気を変えない限りは、同じように絡まれるだけなのだから。
「……浮かない顔ね」
「そりゃそうでしょ。なにが悲しくて本格戦闘なぞせねばならんのですか」
「……貴方、結構戦ってるみたいだけど?」
「必要に駆られてやってるだけで、自分から望んでやってるわけじゃないっての!私は向かってくるトラブルを払ってるだけなの!バトルジャンキーじゃないんですー!」
「そっ。じゃあまぁ、いつものトラブルだと思って諦めなさい」
「ぐぬぬぬ、ああ言えばFOR YOU……」*4
「……いや、いきなりなに言ってるの貴方?」
対峙する相手──シャナは、特に気負った風もなく自然体でそこに立っている。
……マシュから聞いた話によれば、彼女は模擬戦を繰り返す内にめきめきとその腕前を上げていき、今では『いまは遥か理想の城』を発動中のマシュを、僅かにでも押し込むことができるまでの火力を得ているのだと言う。
たった僅か?と思うかもしれないが、マシュはそのスペック的には(足りない部分もあるとはいえ)ほぼ原作そのままの能力値に近い、レベル5の名に恥じぬ強者にして巧者である。
その彼女を後退させた……しかも通常時ではなく、宝具使用中の彼女に対してそれを成功させたというのだから、驚異的としか言いようがない。
一応、『いまは遥か理想の城』の効果的に、マシュの心構えが足りていなかった……などの要素はあるだろうけど、それを差し引いたとしても、流石は
──そんな相手と、今から戦わせられる可哀想な生け贄が、ここにいる最弱クソ雑魚魔王、キーアなのである。
「……さっきから、最弱だのクソ雑魚だの最小だの、なに言ってるの貴方?」
「いやー、ホントなのよ?……あ、板で最強だって名乗ってたのも間違いじゃないんだけどね」
「はぁ?」
おおっと、シャナからなに言ってんだコイツ、みたいな視線が飛んでくる。
私にマゾっ気はないので、そういうのはやめてほしい。……あ、いや。マゾじゃないんだけど、
……いやまぁ、今現在主張してるのは『戦いたくない』っていう理由からの、あんまり真面目な理由じゃない方の奴だから、ふざけてると言えばふざけてるとも言えるんだけども。
「……煙に巻こうとしてる?」
「ああいや、そういうわけじゃなく。……えっと、よくある魔王キャラみたく二形態持ちで、
「お兄様……ああ、司波の兄の方ってこと?」
「そうそう」
あんまり子細に解説するような時間もないので、簡単に概要的なものだけ触れる。
……まぁ、こうやって『なんでもできるラスボス系魔王』を自称している私は第一形態。RPGなどでよくある第二形態が、さっきから主張している『クソ雑魚魔王』なわけである。
……第二形態の方を詳しく語ることは多分無いので、とりあえず『司波達也みたいなもの』とでも思って貰えれば宜しい。……いや、正確には違うけども、流石にこんな短時間で語れるようなものでもないので、なんとなく理解して貰えればいいのである。
「……第二形態ってことは、そっちが本気?」
「おっとぉー!どうしたのかな榊君ー!?早く開始の合図をして欲しいなー!」
(……露骨に話を逸らしたわね)
シャナから疑問が飛んできたけど……ははは、皆まで言うな!
と言うことで、榊君に催促コール。……さっきまでと言ってること違うじゃねぇかって?うっせぇさっさと終わらしたいんだよこっちは!
『熱烈アピール、有り難うございます!なお、サレンダーは認められてませんのでご了承を!』*6
「……!?ちょっ、」
『デュエリストに後退はありません!頑張って前のめりに倒れてください!』
「ふざっ、ふざけんなー!!?」
『ははは。では、決闘開始ィィィ』
「あ、このっ、根に持ってやがる!!?あっちょっ、タンマ!シャナタンマ!……ギャー!?」
開始と同時に降参しよう、と思っていた出鼻を榊君に挫かれている内に、第一種目での勝手な開始宣言の報復が飛んできて。
それに困惑する内に、いつの間にやら出現させていた『贄殿遮那』を振りかぶったシャナに接近された私は、無様に宙に吹っ飛び───。
『先制はシャナ選手!鋭い剣閃が爆炎を産み、キーア選手吹っ飛ばされたー!』
(───浅い)
振り抜いた刀に残る衝撃は、軽い。
人一人を弾き飛ばしたにしては、あまりにも軽いその反動に、シャナは「当たる前に後ろに跳んで避けられた」事を知る。
跳んで避けると簡単に言うものの、その難度はかなりのものである。
鞭の先端の速度は音を越える、という話を聞いたことが無いだろうか?*7
あれは鞭の形状などからくるごく限定的なものではあるが、そうでなくとも『高校生のバッティング速度』ですら、時速百キロを越えるのである。
ともなれば、達人の振る剣の速度……如何程となろうものか。
対し、人が跳び退く速度と言うものは、通常の跳躍の初速が秒速三メートル……時速にしておよそ十キロであるため、よほど鍛えたとしてもその速度から大きく逸脱する、ということは無いだろう。
……そもそもに人は身体構造上、後ろに跳び退くのは不得手である。
つまり『後ろに跳んで衝撃を殺す』というのは、言葉から受ける印象よりも遥かに高度な技術なのである。
空中に居るために衝撃は確かに分散するだろうが、それでも速度差からくる衝撃と言うものは、簡単に抑えられるものでもない。
その衝撃が、あまりにも軽いというのは。……単に跳んで避けただけ、というには無理がある状態だった。
(当て損なったと思って爆発させたけど……短慮、だったかな)
相手に刀が触れた瞬間、抵抗が無さすぎたがゆえに咄嗟に爆発を追加したが。……寧ろその爆発を
恐らく──自身の体重の変化。それで、爆風に乗って後方に
振り抜いた刀を手の内で持ち替え、刺突の形にする。それと同時、
「ちぇっ、ちょっとは油断しなさいっ、ての!!」
煙に隠れていたキーアが姿を見せ、その手に持っていたモノをこちらに投げ付けてくる。──あれは……黄色に輝く、槍?
「ちぃっ!」
「あ、くそ避けられた!」
迎撃しようとするのを止め、そのまま姿勢を低くしつつ前へ走る。
自身の背後に突き立った大槍は、轟音と閃光をあげ四散する。……飛んできた雷撃を夜笠で弾きながら、更に前へ。
逆さまに地面に落ちようとしていた相手は、器用に宙で体を翻し、その手の内に大きなハリセンを顕現させていた。
「そのハリセン、よく覚えてるわよ!」
「でしょうね!」
自身の知識から、『
相手の手の内から得物を弾くつもりで放ったその剣撃は、あまりに容易くその用を成し。
──驚く自身の前で薄く微笑む相手の姿に、これが罠だと悟る。
「──
「───っ!!」
相手の
「───疑装『
突き出された彼女の手の動きに連動するように、自身の視界が赤い光で爆ぜた。