なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
『……し、視線では追いきれませんでしたが、再度の爆発!先ほどとは反対に、今度はシャナ選手が爆炎に呑まれたー!!?』
「非殺傷だし、死んではないでしょうけど。……気絶にもほど遠いかも」
煌々と燃え盛る炎を眺めながら、一人ごちる。
……榊君の言う通り。先ほどとは反対に、今度はシャナが爆炎の向こうに居るわけなのだが……多分、普通に耐えていると思われる。
防御をするのが一手遅いようにも思えたのだけれど、
……
──賭けには勝ったけど、選択はミスったらしい。
「───なるほど、手加減ってわけね」
「……ははは。怒った?」
──宝具『アズュール』。
物理的な炎であれば、その全てを散らすという火避けの指輪。
原作においてそれを主に所有していたのは、"狩人"フリアグネと、彼女のパートナーである坂井悠二の二人。
本来ならば、彼女が持っているはずはないのだけれど。
……坂井悠二の不在が、彼女にそれを持っているという因果を呼んでいたらしい。
「……迂闊だったわ。そもそもに『
静かに、滔々と語るシャナの様子に、怒りに狂うような熱は見られない。
──ああ、
その背後に浮かぶ、
……めさくさキレとるやんけ!!
「ふふふ、でもいいの。だって───」
「ややや止めろシャナリー!落ち着けぇ!!」*1
「久々に、本気を出せそうなんだもの!!」
「ぬわーーっっ!!」*2
彼女が天に向かって握り拳を作ると、それに合わせるように顕現する巨大な炎の腕。……『真紅』はヤメロォッ!!
観客席の皆さんも、「え、これ席にいれば大丈夫って聞いたけど、ホント?」とか、「ひゃー!すっげぇパワーだ、オラも戦ってみてぇ!」とか、徐々にざわつき始めている。……
とはいえ、あんなものまともに食らったらペシャン公である。*4
かといって受け止めるのも無理があるよねぇ……いや、『真紅』……?*5
振り下ろされる鉄拳を見詰め、右手を翳す。
……いやはや、ホントになんというか。──負けず嫌いは、お互い様ってわけだ。
「──
『おおっとぉっ!?キーア選手、これは『
「む、むーっ!!せんぱい!盾、盾なら私ですよっ!!?」
「ここで敢えて受け止めることを狙うとは。……プロレスだねぇ、粋だねぇ」
「でも、投擲武器でもないのにアイアスで防げるのか?」
「というか『真紅』が防御無視しそうという問題がががが」
……外野がごちゃごちゃうるさいんですけど!?
それとマシュ、流石にその盾を投影はできんよ、無理言わないで下さい。……投影じゃなきゃいけるんじゃないかって?知らなーい。
ともあれ、受け止めるのを選んだのには理由がある。
シャナの背後の瞳──『審判』は、雑に言ってしまえば千里眼である。……単純に避けようとしても、
……存在の力しか見えないんじゃないかって?そもそもシャナとかの電撃文庫勢は格闘ゲームがあるから、そっちの理屈が混じってる可能性があるんだよね。*8
まぁ、ともかく。
予兆を見て攻撃を変える……なんてことをされたら、避けるに避けられない。
そもそもに今のシャナ、ちょっと頭に血が上ってるから、ここは素直に受けて溜飲を下げさせた方がいい。
……以上、受け止めることを選んだ理由を自分に納得させるの終わり!正直迫ってくる炎の拳が迫力満点過ぎて、凄く逃げたい!
でも受けるって決めたんだから受けてやるよちくしょーめ!*9
「ぶっ潰れろぉぉぉぉおぉっ!!!!」
「──やーだよ!
「おいィ!?お前それでいいのかっ!!?」
「せんぱーいぃっ!?」
叫ぶシャナ、叫ぶ天子ちゃん、叫ぶマシュ。
三者三様の叫び声を聞きながら、私は落ちてきた隕石のごときその巨腕を、紫色の美しい盾で受け止め、そのまま爆煙に呑まれたのだった。
『本日三度目の爆発です!私、そろそろこの光景にも慣れてきたかと思いましたが、全然です!至近距離で爆発されると、大丈夫だと分かっていても心臓に悪い!今日の夜は魘されそうです!』
拳を振り切り、目の前の惨状を確認したシャナが一番始めに思ったのは「やりすぎたかも」と「いやまだだ」という、相反した感情だった。
『審判』には、明確な弱点がある。……自身の視界が狭まるという弱点が。
それゆえ、自身が『視ている』場所から離れた位置で起きた『なにか』を、『審判』を使っている彼女は見落としやすいのだ。
それの対策についてはあれこれと考えているが、果たして原作の
……という点から、どうにも進みは宜しくない。まぁ、だからと言って手を抜いているわけではない、というのは理解して欲しいところだ。
さて、今行ったのは『審判』で相手の動きを注視しつつ、『真紅』で生み出した巨腕で粉砕する……という、シンプルながら隙のない動きである。
しかしながら、
……そのことを安堵するべきか、はたまた口惜しく思うべきか、未だにシャナの中では気持ちが定まっていない。
そもそもに、自在式とは本来『存在の力』を持って行われるある種の
己が『炎髪灼眼の討ち手』という、こと『存在の力』が枯渇する心配をする必要もない者であるからこそ、特になんの疑問も抱いてはいなかったが。
……今、自身が使っているのは、果たして本当に『存在の力』なのか?そしてそれは、湯水のように使っていても大丈夫なものなのか?
……という、ある種
つまり、なにが言いたいのかと言うと。
「……全力のつもりだったけど、知らず知らずの内に手加減してた、ってことかしら」
地上に燃え盛っていた炎が、突風によって払われる。
……騎士の盾一つと相討った自身の炎腕は、周囲に悪戯に炎を撒き散らしただけに終わったのだと、そう悟る。
騎士の盾一つとは言ったが、恐らく彼女の今までの攻撃方法を見るに、アレには様々な概念などが内包されていたというのは間違いないはずだ。
数多を知り、幾多を奮うのが【極有式】の真髄だと思われる。……コピー能力者を考える時、『能力同士を組み合わせる』ことについて考えるのは、創作者の癖みたいなものだ。
それは恐らく
先の『吸血鬼』にしても、『
その事実からして、彼女が『能力を混ぜる』ことを戦法の一つにしているのは確定的であった。
……彼女の言を信じるのなら、この戦い方はあくまで前座らしいと言うのだから、思わず苦笑が漏れてしまう。
「ここにかの英雄王が居たのなら、蛇蝎の如く忌み嫌われるでしょうね、貴方」*11
「ははは止めてくんない?そういうのフラグって言うんだよ?」
「そ。……まぁ、いいわ。次で、決めるから」
「うへー、お手柔らかにお願いしたいんですけどー」
大きな怪我はないものの、煤にまみれて仄かに黒くなっている彼女は、心底疲れたと言うように声を漏らすが。……その瞳には、油断の色はない。
……そんな目をしているのに、自身を弱者と自称するのはどうなのだろう、とシャナは思うが。……自分と同じく、単に負けず嫌いなだけだと思い至り、呆れより先に笑いが込み上げてきた。
じゃあ、まぁ。……無様に地面に倒れ伏して貰おう。
「
「……薮蛇ってこういうこと言うんだろうナー。……ああはいはい。
こちらの言葉に、彼女は頭を振り手を上空に翳す。
一体なにをするつもりなのかと『審判』を上に向け。
──歪む空を、その視界に捉えた。
「……ははっ」
思わず笑みが漏れてしまう。
空が歪み、雲が崩れ、空気が軋みを上げている。──天が、落ちようとしている。
蟻を一匹潰すのに象の脚を持ち出すかのような、あまりにも無体な攻撃。
……魔力の流れが見て取れる以上、恐らくは魔法なのだろうが。競技場を丸々潰しかねないほどの大気の塊を、そのまま地に落とそうとするこの魔法は、一体どれほどの魔力を必要とするものなのだろうか?
ここまでやっておいて弱者を僭称する彼女の厚かましさに、もはや笑うしかない。
『……え、は?ちょっ、これ観客席巻き込まれるやつでは!?』
「こらーっ!!?貴方なに考えてるのよー!!?」
「ごめーんゆかりん、手加減すると怒られるから仕方ないんだー!頑張って防いでー!」
「ふざけんなーっ!!」
「……はっ!?つまりこれは、せんぱいからの試練、ということですね?!この程度のモノも防げないようでは、せんぱいの後輩足り得ないと、そういうことなのですねっ!?」
「うわーっ!?マシュが暴走したーっ!?」
「やらせとけやらせとけ、今一番防御力高いのあの子なんだからやらせとけ!」
「精神的にかなりやる気みたいだし、どうにかなるんじゃない?」
周囲の人々は、皆が泣いたり笑ったり怒ったり、はたまた慌てふためいたりと。……各々が、好き勝手に騒いでいる。
ある意味で、
彼女は、ふっと体から力を抜いて。──正眼に、己が大太刀を構えた。浅く深呼吸をし、己の中から力を汲み上げる。
その背後に、彼女と同じ様に大太刀を構える、巨大な炎の神が顕現する。
それは、中身の伴わぬ、形だけの天罰神。
されど彼女が今、持ち出せる全力全霊の形であった。
その相貌に浮かぶモノを見て、対面の
「───天よ、我が手のままに地に堕せ!」
──そうして、
「『破天』ッ!!」
「『断罪』ッ!!」
それに合わせるように、放たれた渾身の一閃は。
堕ちる空を、文字通りに両断した。
『た、断ち切られた大気が荒れ狂い、会場が見るも無惨なことになっていますが、負傷者はゼロです!協力頂いたマシュさん・八雲さん・五条さんに盛大な拍手を!』
「……居たのね、貴方」
「ははは、いやさー。どんくらい
「や、やりました!せんぱい、マシュ・キリエライトはやりましたよーっ!!」
落ちてきた空をより大きな紅蓮の太刀で叩き割る、という割りと頭の悪い感じの対処により、空を落とす魔法『破天』は破られた。
……破ってなお、こうして周囲に突風による被害をもたらす辺り、こんなところで使うものではない、というのは明らかな話ではあるが。
同時に、
えっとつまり、なにが言いたいのかと言うとね?
「……私の負」
「──引き分け。でしょ?」
首元に突き付けられた贄殿遮那に、
ふぅ、と小さくため息を吐いたシャナが、刀を私の首から離し、鞘に納めながら引き分け、と声を出したのだった。
……いや、今の状況、どう考えても私の負けでしたよね?
というこちらの抗議の視線を受けたシャナは、反対にこちらにジト目を寄越しながら、こう続ける。
「貴方、自分で
「あ、あー。そういえば言ったねそんなこと……いやでも第二形態はクソ雑魚なので……」
「
「……さいですか」
……ああ、うん。……見抜かれてやんの。
あれこれと言葉を弄してみたものの、結局私がしたかったことは『本気を出したくなかった』ということに尽きる。
弱い方が本気、というのは変な話だが、実際そういう風に生み出したキャラクターがキーアである。
……今の
……なんというか、うん。……恥っず。
それと、もう一つ誤算。
「オラ、今すっげぇ戦いてぇ気分だぞ!飛び入りってありかぁ?!」
『すみませんがこちらは女性のみの大会ですので、孫さんには我慢して頂ければと……』
「かーっ!!神龍に頼んで、今からでもてぃーえす?させて貰えねぇかなぁ!?」
『止めてくださいねっ!?今度こそ競技場ぶっ壊れますよ!?』
「……思った以上にバトルジャンキーが居る件について」
「諦めなさい。そんなものよ、なりきりなんて」
さっきから騒いでいる悟空さを筆頭に、観客席のあちこちから「戦いたい」という声が漏れている。
……魔王らしく力で支配(訳:雑魚って言い張って戦闘を避けるのはミスったので、圧倒的パワーで挑む気をなくさせる作戦)しようかとしたのだけれど。……完全に裏目である。
この運動会が終わったら、暫く外のお仕事回して貰おうかなー、なんて現実逃避をしながら、榊君が引き分けになったことを皆に伝えるのを聞く私。
……完全に戦い損じゃないかなこれ?!
という私の言葉には、誰も頷いてくれないのだった。