なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
寧ろ途中のお札プールはなんだったんだよ……とばかりに消沈した様子の銀ちゃん。
だがしかし、別に消沈しているのは彼だけに限った話ではなかったりする。と、言うのも。
「……さっきから泳げないんだが!?折角水着を着たのにその意味は?」
「んー、周囲の視線を一人占めにするため、とか?」
「いやなにガラでもないこと言ってるのご主人様……こいつ本気だと……!?」
それがおぜうさま、並びにパチュリーである。
……いや、パチュリーの方はそうでもないかも?
そのスレンダーな姿を周囲に晒すことで「え、パチュリーなのにムチムチじゃない!?」みたいな視線を集めることに成功しているわけだし。……いやそれ成功なん?*1
まぁともかく、おぜうさまが泳げなくて不満を溢している、ということには間違いない。
となればここらで一つ、久しぶりに泳いでもいいプールを用意して貰えればよいのだけど。
「お次は酢酸のたまったプールです」
「生憎そうは問屋が卸さない、ってね☆」
「なにそのノリ!?」
「ってかまた酸系かよ!?ってか酢酸ってなに?!」
「酢酸とは簡単なカルボン酸──最低でも一つのカルボキシ基を持つ有機酸の一つですね。なお酢酸というのは許容慣用名であり、正式にはエタン酸と呼ぶそうです」
「詳細な解説ドーモォー!!でも多分それ俺が今知りたい情報じゃねーかなぁー!!?」
「もう、坂田さんはわがままですね」
「これ俺が悪いのかなぁー!?」
ああうん、銀ちゃんは強く生きて……。
一先ずマシュの説明を引き継ぐと、酢酸というのはその名の通り食品のお酢などに含まれる弱酸の一種なのだが、実のところお酢の中身は全て酢酸、というわけでもない。*2
そのため、「酢酸」として目立つ用途というのは、基本的に工業用の試薬などになるそうだ。
「ただまぁ、それだとなんのこっちゃって話なので……ほい」
「あん?なんだそのカード……」
とはいえ、それだと何故いきなり酢酸のたまったプールなのか、ってのがわからないと思うので、恐らくその理由の一つとなったのであろう、とあるカードをみんなに見せる私である。
──ラッシュデュエル、と呼ばれるカードがある。
高速化し過ぎた結果脚本家に異様なまでの負担を強いるようになったOCG。
それについて行けずに脱落したもの、もしくは往年の殴りあい環境を懐かしむもの。
遊戯王は好きだけど『今の遊戯王はちょっと……』みたいな思いを持つ人達向け(?)に作られた、今までとは別物のカードゲーム。
それこそがラッシュデュエル、子供向けを歌いつつ性癖を歪めそうなカードの多いゲーム()である。
で、このラッシュデュエル。
本家OCGとは別物であることを主張するためか、初期の方はパロディカードが多かった。
著名なドラゴン達が猫になったり、はたまた希望皇がバッターになったりなどなど、まぁ色々と出していたのである。
最近はパロディ路線は止め、普通にOCGのカードを調整して登場させることも多くなったのだが……今回関係があるのは前者、パロディカードの方なのでこっちの解説はなし。
というわけで、私の持っているカードについての解説に移ると。
これは、さっきも微妙に話題に上がったトラップカード、『硫酸のたまった落とし穴』のパロディカードに当たるものである。
効果は『レベル3以下のモンスターを相手が召喚した時、それを破壊する』というもの。
……弱体化甚だしいが、それはラッシュデュエル全体がそんな感じなので置いておくとして。
このカードの絵柄がどんなものかと言うと、基本的な構図は『硫酸のたまった落とし穴』に準ずる形となっている。
そこにたまった酸に向けて、犠牲者となるモンスターが落ちていく、というモノになるわけだ。
……わけなのだが。
ここで、注目する点が幾つか発生する。
まずは犠牲者と一緒に落ちているもの、何故かしゃもじ。
ついで、落ちているモンスター。見た目はオークのようなそいつは、なんとこのカード以外のカードにも登場していたりする。
そしてそのカードというのも、微妙に関連性のあるものなのだ。
関連性と言っても、カードの効果ではない。関わっているのはその絵の内容。
──そう、そのオークは
「……『酢酸のたまった落とし穴』、ってことは……」*4
「ええ、その通り。──そろそろ寿司を食わないと死ぬぜ!」*5
「俺らはシャリでもネタでもねぇぇぇぇぇっ!!!」
なお、銀ちゃんはキレた。仕方ないね()
酢酸のプールなら泳いでも問題ないよ、と提案してみたところ、
「いや、別に寿司のネタになりたいわけじゃないし……」
と丁重にお断りされてしまった私である。しょんぼり。
……いやまぁ、私もこれからしばらくお酢の匂いをさせながら歩けと言われたらイヤだって答えるから、そりゃそうだとしか言えんのだけども。
ともあれ、デザートから外れて主食へと移行した(?)プールの内容に、これならここから流れが変わるかもしれない、と密かに期待を持たざるを得ないことは間違いあるまい。
「なあ、それ本気で言ってんのか?」
「全然?」
「ですよねー……」
ここからも料理系プールの可能性大、というか?
下手な動画投稿者のネタみたいなのが大量に押し寄せてくる可能性の方が大概高そうだなー、というか。
……ともあれ、酢酸のプールにも特に用はないため、さっさと次に行こうとしたのだけれど。
「……あれ?戻ってきてる?」
「あん?」
数分後、進んだ私たちの目の前に現れたのは、またしても酢酸のたまったプール。
しかも、別のプールではなくさっき私たちが通りすぎたプールで間違いない様子。
なんでかって?さっきプールのほとりにいた外国人っぽい人がまた居たんだもの。
「は?なにそれそんなの居たっけ……めっちゃこっち見てる!!?」
「あーうん、寿司ゲーの主人公っぽいねあの人。……寿司食わせてくれ、って言ってるのかも?」
「まさかとは思うけど、ここでこいつに寿司を食わさないといつまでもループするとかそういうやつなんじゃねーのこれ?」
「そんなことは……ないとは言いきれんなぁ」
少なくとも普通の『逆憑依』ではないっぽいからね、この人。
ってことは、だ。彼はこのプールと紐付いた存在である、と考えるのが自然だろう。
となれば、彼の存在がなにかしら意味を持っている可能性も、同時に高いと言えてくるわけで。
そんなわけで、一先ず彼に近付き、プールサイドにご丁寧に並べられたシャリやら具材から何種類か選んで握ってみることに。
あからさまな外国人──原作だとそれでも日本語で叫ぶ──な彼は、こちらの作業をなにも言わずにじっ、と眺めているのだけれど……。
「……なんか、おかしくね?」
「もっと騒がしいはずってこと?」
「いや、話を聞いた限りだと子の状況下で叫ばねぇ方が不気味というか……」
その様子を見た銀ちゃんが、微妙に引いたような顔で彼を見ながら呟いた。
それでもなお、目の前の彼はなにも言わないわけだけど……。
「でもよかったんじゃない?」
「あ?なにが?」
「その距離で叫ばれてたらまず間違いなく、銀ちゃんの鼓膜やられてたよ?」
「それは……確かに……」
とはいえ、この近距離で原作そのままの大声を発せられた日には、まず間違いなくみんなの鼓膜が破れることだろう。
そういう意味では、少なくとも近くにいる間は静かにしてくれている方がありがたい、というのは間違いあるまい。
銀ちゃんもその辺異論は無いようで、大人しく寿司作りに戻ったのだけれど……。
「いややっぱりおかしいって!!これでもなおなにも言わないとか流石に色々おかしいってぇ!!」
「うーむ、これは確かに……」
出来上がった寿司を食べさせたところ、彼は無言でそれを咀嚼していたため、その疑念は再炎することとなる。
……彼がその姿通りの存在であるならば、少なくとも受け取った時くらいは叫んでいるはず。
イメージ的には食べてる時も叫んでておかしくないくらいなのだ、確かにこの静かさは異常だろう。
となると、ここでの正解は彼に寿司を食べさせることではない、ということになるわけだが……。
「じゃあ、答えは?」
「……そもそも彼をどうにかしないといけない、っていうのが勘違いだったとか?」
「まさかのちゃぶ台返し!?」
現状、私たちがこのプールにやって来たのはまだ二回目。
試行回数としてはあてにならないどころの話ではなく、ゆえに勝手に先走った可能性も否定はできない。
というわけで、手を振る寿司男に別れを告げ、とりあえず次の場所に向かってみたのだけれど……。
「……うん、変わらず手を振ってるね」
「なーんーでーだー!!?」
再度たどり着いたのは、さっきの彼が手を振るプールなのであった。
……うん、やっぱりここでなにかしないといけないみたいだね……。