なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ええと、待って頂戴一から説明して欲しいんだけど?」
「マシュ・キリエライト、承りました。ではまず、先ほどまで私たちがいたプールに関してですが。恐らく、あのプールは袋小路だったのだと思われます」
「袋小路?」
はてさて、引き続きマシュによる現状説明である。
さっきまで私たちがずーっと悩まされていたプール──酢酸プールは、その実戻ることしか出来ない場所だった、というのがこの話の肝なわけだけど。
それが意味することはただ一つ、あそこでループ構造を仕掛けてきた相手はゴールに辿り着くことを良しとしていなかった、である。
「……え?この聖女さまが?」
「いやいや私はなにもしてませんよ!?」
「ええ、その通りです。先ほどまでの状況はアクアさんが望んで作ったモノではありません。そもそも件の噂そのものがその事実を示していますしね」
「そりゃそうだ。自分でやって自分で噂の確認を頼む、みたいなマッチポンプをする意味も必要性もねーだろうしな」
その事から読み取れるのはさっきのループと噂のプール、共にアクア以外の第三者が仕掛けたものだろうということ。
恐らくはだが、アクアが噂を集めてプールを製作した際、なにか余計なものまで巻き込んでしまったのだろう。
「余計なものって?」
「予測されるのは【鏡像】ということになるでしょうか。そもそもなりきり郷自体がそう言った良くないものを集めて処理するための場所、という面が少なからず存在していますし」
「……個人的には止めて欲しいんだけど、そういう面があるからこそ他所での問題が起き辛い、って部分もあるわけだから反応に困るのよねぇ」
マシュの言葉にはぁ、とため息を吐くゆかりん。
なりきり郷の責任者としては、なにもしてなくても問題が転がり落ちてくる現状を良しとは言いたくないけど。
国の運営に僅かでも関わっている身としては、そうしてトラブルがこちらに集中してくれるお陰である程度外の世界に平和がもたらされている、みたいな面もあるので微妙に怒り辛い……みたいな感じだろうか?
実際、他所でビースト顕現とかされると後手後手になるってのは
まぁ、だからといってトラブルが頻発することを受け入れられるか、と言われるとそりゃ違うってなるんだろうけど。
……ともかく、今回もまたなりきり郷特有のトラブル誘引体質(?)によるトラブル発生の報である、というのは疑いようがあるまい。
気にすべきは、それが偶然引き寄せられたモノなのか、誰かが意図してのものなのかって方だろう。
「……なるほど、そこの聖女のせいじゃないのだからこれは誰かのせいで、ゆえにその誰かは自分の元まで辿り着いて欲しくなくてループを仕込んでた、と」
「そういうことになりますね。……このループの質の悪さは先ほども触れていましたが、なまじ他の連想される要素があった、ということ。……間違いを見付けて正しい対応を取ることで次に進める、というゲームを知っていたことで、ありもしない正解を探し時間を無為に経過させられていた……という風に解釈するのが正しいのではないかと思われます」
「……なんのためにそんなことをしたのか、というのはとても単純ですね」
「はい、
話を聞いてしばらく考え込んでいた桃香さんが、マシュに声を掛ける。
それを聞いたマシュもまた小さく頷き返し──結論として『これは相手の時間稼ぎだった』という情報が共有される。
そう、時間稼ぎ。
相手は恐らく、噂のプールでなにかをしていた。
していたので、それがなんなのかに気付かれないように、もしくは邪魔されないよう誰も寄り付かせないための小細工を仕掛けていた。
それが先ほどのループ構造、ということになるのだけれど……それだけだと足止めするには片手落ちであった。
何故か?それは、ここに居る面々の内の一部──【星の欠片】達の存在にあった。
「えーと、そこの聖女さま達と貴方、ってことよね?」
「そうそう、私とアクア達だね。ループ構造、すなわち繰り返しって、言ってしまえば『スタート地点に戻るという行動を無限に繰り返している』ってことでしょ?……いわば単位として無限を放り込んだ選択肢みたいなもの。まともな対処なら絶対に抜け出せないものだけど──」
「ああなるほど、貴方達も無限を扱えるから、結果的にループを破壊できてしまうのね。
そう、ループ構造とはある種の無限であるため、
本来無限を無限で割っても無限にしかならないが、【星の欠片】の場合は濃度を持つので実質的に相手を割り切れてしまうし。*1
なので、相手はその手段を取られないようにする小細工を弄する必要があった。
そのうちの一つが、
「【星の欠片】としての力なんて早々発揮するもんじゃない、ってのはご存じの通り。もし他に正規ルートがあるなら基本はそっちを選ぶから、そうなるように誘導するのはそう難しい話じゃないよね」
「ふむふむ。じゃあ今使えばいいんじゃないの?」
「話はそう簡単じゃない、ってのはさっきも触れてたよ私?」
「……あー、聖女さまはともかく、あなたがやるのは良くない、って話だっけ?」
じゃあ、相手が妨害工作をしていたことがわかった今、別に自重しなくてもいいんじゃないの?……と言いたくなるかもしれないが、そうは問屋が卸さないのは先述した通り。
……アクアに気付かれずに小細工を弄している以上、相手は彼女より
となると、そこで彼女が無限性を発揮しても相殺どころか押し切られる、なんてパターンもありえるわけで。
アクアの対であるオルタもその辺は同じなので、二人になんとかして貰うというのはほぼ不可能。
じゃあ私がやれば?……というのは、寧ろやりすぎる可能性があるため却下である。
いやまぁ、確かにね?全【星の欠片】中三位なんて立ち位置の私が相手に干渉しようとすれば、ほぼ確実に相手に反抗の手段はないけれど。
同時に、相手の力量がわからないこの状況下だと、文字通り加減なんてしてらんないって話にもなるわけでね?
……必要な量を必要なだけ使ったならともかく、相手と相殺せず
「拮抗作用*2を使っているようなもんだからね。そりゃまぁ、仮にどっちかが相殺しきれずに残るなら、それが別の問題の発生源になるのは自明の理なんだよ」
「なるほど……下手に凄い力を持っていると迂闊なことができなくなる、ってやつね」
現状の相手は深いところに引きこもっており、それがなんなのかをまったく悟らせていない。
結果、そんな相手に対処しようとすると私も加減できず、やり過ぎな量を注ぎ込むしかなくなるのである。
……え?最初は少なめあとは多め、みたいな投入は出来ないのかって?
生憎無限を扱っている関係上、多め少なめってのも最低単位が無限な状態での話なんですわ。
だから、濃度の上では一とか二とかしか変わらなくても、実際の数値としては無限が一つ無限が二つ……みたいなスケールのおかしい話になってるんです。
雑に言うと、少なめって言っても無限一つ、多めって言っても無限一つ……みたいなことになってるってわけでして。
そりゃまぁ、限度をミスると酷いことになるのはわかりやすいよねっていうか?
「なんなら、仮に誰も例外を無しに……みたいな基準で私が対処する場合、無限の無限倍量が多すぎた……なんてことになる可能性もあるよ?そっちのが私としては楽だけど」
「や め て」
まぁはい、そんなわけでして。
確かにループに無限をぶつけるのは有効だけど、その濃度如何によっては返ってくる反応がヤバイことになる可能性も高いわけで。
そりゃまぁ、私はあんまり積極的に動くべきじゃあないな、なんて結論にも落ち着くんだと言いますか。
……相手がわかってりゃ、その辺はなんとかなるんですけどね。
「でもまぁ今んとこその辺はまったく不明なんだよねー」
「なんか言ったか?」
「いいえなにもー」
おっと危ねぇ(棒)
……まぁともかく、現状私がなんとかする、というのは良くないのは確かな話。
じゃあどうするかって話なんだけど──偶然別の答えを出してしまった、というのが今回の話である。
「はい?別の答え?」
「ここがバグワールドみたいなもん、って話はさっきしたでしょ?──要するに、正規じゃない方法で相手のところに行こうとしてるってわけ」
「ええ……?」
無限をぶつけてなんとかしようというのではなく、
……そんなわけで、たまたま?バグ世界に到達してしまい、恐らく相手方は焦っているだろうな、なんて話に繋がるのでありましたとさ。