なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
ゲスト同士の対戦、などという一大イベントを終え、加熱していく民衆達の熱は、遂に危険な領域に突入……はしなかった。
そーいうのいいから、の
まぁともあれ、そこからは消化試合……というと怒られるかもだけど、こっちとしては似たようなもの、というか。
基本的には「ゲストだー!ぶっ倒せーっ!!」→「やれるもんならやってみぃやー!!」→「グワーッ!!」の繰り返し、というか。
……まぁ、うん。
わりと練度というか精度というか、そういうものが高い人との付き合いが多かったから感覚がずれてたけども、
いやまぁ、正確には元の人とも違うんだろうけど、かといって原作の彼等かと言われれば、それもまた違うだろうというか。
一応、能力的には元の彼等と言うよりは、原作の彼等寄りになっているのは確かなのだけれど、だからといって原作の彼等と同じように動けるのか、と問われると微妙というか。
……見た目と実際の実力とが伴っていない、と言うべきか。
まぁ、それでも本人達は楽しそうになりきりしているのだけれども。……さっきから『というか』って感じのこと言いすぎじゃない?
ともあれ、予定されていたプログラムは順調に消化されていき、残すはこの運動会が『ヒト娘』などという名前をつけられたのだろう最大の理由、フルマラソンのみとなっていた。
「……フルマラソンってことは」
「どこかの丸一日テレビで走らされる距離からすれば、半分くらいだけど。……一般の人が走るにはわりと
シャナと話しつつ、改めてフルマラソンというものに関して考えてみる。
元々は、紀元前のギリシャ軍兵士がマラトンからアテネまで、勝利の報告をするために走り抜けたことを起源とする、わりと由緒正しい?競技である。
……その時の兵士は、走り抜けたあとに絶命した……と言うのだから、現在の(男子)世界記録が二時間を切っていることを思うと、なんとも不思議な気分になる……けれどそれはおいといて。
マラトンからアテネまでの距離は、おおよそ四十キロほど。
現在の
……そこから律儀に中途半端な距離を守り続けているのは、特に変える理由もないから、なのだろうか?
なお、ハーフマラソンだとその中途半端な数字が、更に
まぁ、距離の中途半端さについてはそれくらいにして。
フルマラソンという競技が、
長距離走は基本的に人間の独壇場、という話を聞いたことがあるだろうか?
速く走る生き物として有名な馬は、短距離走ならば人間が決して追い付くことのできない生き物だが、こと長距離走に関しては、馬は人間に勝つことができないのである。
……詳しく語ると長いので、掻い摘まんで説明すると。
馬の全速力は、時速六十から七十キロほど。
以前、ハルケギニアで『馬で二時間』がどれくらいの距離なのか?みたいなことを話したことがあるが、もし仮に
丸一日テレビで走らされるのが大体同じくらい*1で、この距離を走る場合はウルトラマラソン……などと呼ぶそうだが。*2
男子の百キロ走の記録は、およそ
どっこい、この説明には大きな嘘が紛れている。馬は全速力で二時間も走れないのだ。*3
馬が全速力で走れるのはおよそ五分ほどで、それを距離に直すと五キロ前後。
それ以上走ると肺から出血したり、はたまた脚の筋肉が回復不可能な断裂を起こしたりなど、冗談抜きに死ぬことすらあるのである。*4
ついでに言うと、この全速力を出した場合には、その日の内にはもう走るのは無理だと思っていた方が良い。
仮に二時間ほど、出せる限りの速度で後遺症などなく走らせようとすると、馬の時速は十キロ前後となる。
……二時間だと二十キロ、ハーフマラソンの距離だ。
一般人はともかく、フルマラソンの世界記録保持者には、確実に突き放されてしまう速度だと言えるだろう。*5
人間は、熱に強い生き物である。
二足歩行や肺の機能、はたまた全身の汗腺など、人と言うのは体に貯まった熱を、効率良く排出するのに優れた身体構造をしている。
それだけが理由ではないが、そういった諸々の理由から、人間は特に長距離移動に強い生き物なのである。
……なんか、教育番組みたいな語りになってしまったけれども、なんとなーく『ヒト娘』なんて名前が付けられた理由、わかって貰えたのではないだろうか?
え、わからない?つまりは、マラソン競技が一番時間をとってあるから、そこを主体にすると『ヒト』であることを強調するのがいいよね、ってことだよ!
なお、この辺りの『人間スゲー』論は、亜人とか人外とかが混じると無意味と化すのはご愛敬。
さっきまでの『馬に長距離は無理』というのも、ウマ娘とかなら行けるかも知れないしね。
「えっと、よくわかりませんが。……とりあえず走ればいい、ということでしょうか?」
「身体能力一般人と大差無い勢は、ある程度走る速度のセーブとかいるだろうけど。……私とかマシュとかシャナとか、他にもわりと大半の人は、それなりの速度で走ってもバテることもないんじゃない?」
マシュからの問いに、体を解しながら答える私。
因みに、とある科学者?がアニメの描写とかから大真面目に速度を算出したことがあるそうだが、皆よく知るランサーの兄貴ことクランの猛犬・クーフーリンは時速二百キロくらいで走ってたとかなんとか。*6
人間は全速力で何時間も走れないだろうとか、はたまた英雄だからいけるんじゃねとか。
そこら辺を諸々考えると……まぁ三十分もあれば、フルマラソンを走りきることも可能なんじゃないかなー、というか。
……改めて考えてみると、なに言ってんだこいつ感凄いな?
だって、わりと雑に見積もって時速八十キロくらいってことだからね。
さっき言った通り、馬の全速力が六十から七十ってことだから、要するに余裕を持って走っても、普通に追い付けるってことだし。
……あれ?ウマ娘って確か人型で馬の速度が出せる、みたいな感じだったような?
つまりは……ウマ娘って、そんなに速くない……?
「……いかん、なんか常識がバグってる気がする」
「さっきから一人でなにをぶつぶつ言ってるの貴方?」
シャナから呆れ顔を向けられてしまうが、仕方ないのである。
現実的で無いものを現実的な尺度で考えようとすると、大体どっかで狂いが出るものなのだから。……え、違う?*7
ともあれ、まさかウマ娘が遅い、などというどっかから顰蹙を買いそうな結論に至るのは宜しくない。
なので、ちょっと考え方を変えてみようと思う。
競走馬というのは、基本的に年間五回から十回ほどしかレースには出馬しない。
それは何故かと言うと、さっきも言った通り全速力を出せる時間が決まっていること、そうして全速力を出したなら休ませる必要があること、などの理由がある。
要するに、本来の『馬』と言うものは、そんなに長く・多く走ることができない生き物なのである。
無論、全速力じゃないのならその限りではないが。
対し、人間はどうか。
全速力で走ったとしても、次の日ならまだしも、次の月にまで疲れが響く……というようなことはないはずだ。
場合によっては、次の日からまた走るための練習に戻る……というような人も少なくないはず。
要するに、長距離を走る持久力とは、短距離を多く走るためのものとしても機能している、ということだ。
で、ウマ娘について。
アニメなどで彼女達の走る速度が実際の馬と同じくらい、というのは既に描写されている。
それと、走り終わったあとのウイニングライブについても、同じように描写がある。*8
このウイニングライブ、なんとレース終了後の夕方から行われている。
本来の馬なら、そんなことしてる間があったら帰って休ませろ、と言われそうな感じの、わりととんでもない行為だ。
何故って?ライブの消費カロリーが、場合によってはレースそのものの消費カロリーと同じか、上回る可能性があるからである。
これは成人男性での話だけれど、三十分のジョギングで消費するカロリーが二百キロ前後、それと二分間の全力疾走が同じくらいの消費カロリーだとされている。
競走馬が走る時間は、一レースにつき一分から三分の間ほど。ウマ娘も大体同じくらい走っているので、低く見積もると同じ二百キロくらい消費していることになる。
それで、ライブでの消費カロリーについてだけど。
単純に計算し辛いのだが、歌って踊る必要のあるライブは、その動きの激しさ・歌唱の仕方によっては、一曲で二百キロを越えることもある、らしい。
まぁ、この辺りの計算はかなりガバっているので、もう少し真面目に計算すると違う結果になるかもしれないが。
ここで重要なのは、全体の消費カロリーではない。『ウマ娘が、普通の人間と同じように持久力を得ている』ということが、一番重要なのだ。
走った後に間を置かず、更に走るのに等しい運動を行える余裕があるということは、即ち彼女達が人間と同じように、長距離走に耐えうるだけの持久力を得ている、と言うことに相違ないと言えるわけで。
それは翻って、短距離走を多数行えるだけの余裕がある、という風にも言い換えられるわけである。
──つまり、現在我々が見ている彼女達の全力疾走は序の口、更に鍛え上げることによって、クーフーリンの時速二百キロを優に越す速力を得られる可能性は、十分にあるということなのだよ!*9
……自分で言っておいてなんだけど、これってウマ娘の話だったっけ?
なんでこんなに真面目にウマ娘の考察してるんだっけ?
「それは、私のトレーナーをやってくれる……という意思表示なのではないか?」
「……いきなり近寄ってくるの止めない?」
まぁ、こうしてなりきり郷現状唯一のウマ娘、オグリキャップが寂しくないように、みたいなものもなくはないのかもしれない。
……というか、居たのね貴方。
この前一緒にいた孫君が観客席にいる以上、あり得ない話ではないのだろうけども。
え、知ってて語ってたんじゃないのかって?……どうだろうねぇ?
「とりあえず、あれだ。──私が勝ったらトレーナーになって欲しい」
「なんでこの子までバトルジャンキーみたいなこと言ってるの?!やだよ師匠とかガラじゃないもん!」
『おっとキーア選手、早速の先行です!これはまたもや一位確定かーっ!?』
「なるほど。───負けない」
「……火が着いたわね、私達はほどほどに走りましょ、マシュ。……マシュ?」
「せ、せんぱいは、渡しませーんっ!!」
なし崩し的に始まったフルマラソンは、結局皆が皆全力で走るはめになり、結果としてトップ組は二十分代とかいうわけのわからない記録を出していたそうな。
トップ?……聞かないで頂きたい。