なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
消えた妖精、消えぬ理想郷
「マーリン?どこに行ったんですかマーリン?」
「……うーん、居ないねぇ、マーリン」
ゆかりんルームの中を、あっちもそっちもこっちも探してみたけれど、お騒がせな夢魔の姿はどこにもない。
……本来の彼と違って小さいから、どこか分かりにくい場所に隠れているのでは?
なんてことを思いながら、菓子箱の中とか観葉植物の裏側とか、色んなところを探してみたけれど見付からない。
これは……、幻術で隠れたとか?
「そこまでして隠れる理由がわからないのですが?」
「だよねぇ……。わざわざ幻術まで使っていなくなるとか、なんか
「……?キーアさん?どうされましたか?」
アルトリアの言葉に、マーリンが隠れる理由があるのかを少し考えて……うん、あるじゃんマーリンが逃げる理由、と思い至る。
そうだよあの男、今回の逆憑依に関しては、誰よりも真相に近いところに居る人じゃん!
すっごい最初の方から、こっちに干渉までしてた確信犯じゃん!!
徐々に強張り始めた私の顔を見て、アルトリアが小首を傾げている。……大変可愛らしいとは思うのだけれど、それに癒されている場合ではない。
「マーリンの馬鹿者はどこだー!!」
「理想郷への道を、開きっぱなしにしてるやつを探しに行きました!」*1
「え、え、え?」
思わず部長になる私と、それに合わせて返事をしてくれるゆかりん。
私達の染み付いたネタ根性によるやり取りを見ていたアルトリアは、大層困惑していたのでした。
「……ダメだ、あちこち探してみたけどどこにも居やしない」
「こういう時、気配を感じるなどの探知技能があれば良かったのですが……」
「シャナに『審判』で見て貰うにしても、大まかな位置もわかんないんじゃあねぇ……」
数時間後、一度解散して郷の内部を手分けして捜索した私達は、再びゆかりんルームに集合していた。……のだけど、結果は芳しくないというのは、集まってきたみんなの顔を見ればよくわかる。
マシュから気配察知持ちについての声が上がったので、知り合いの探知技能持ちを思い出してみたのだけれど……うーん、シャナは確かに凄い探知技能を持っているけど、全体俯瞰型ではなく隠蔽看破型というのが近いので、今回みたいに探索規模がとにかく広い場合には、あんまり役には立たないだろう。
……どこかから抗議の言葉が飛んできた気がする。
いやなフラグが立った感じがするけど、とりあえず今は放置。*2
というかそもそもの話、探知技能云々のことを言うならば、今探しているマーリンこそ、現状最高峰の探知技能持ちになる。
彼の持つ千里眼は、現在であればそれがどこであれ、その場に居るかのように見ることができるというもの。
世界を一枚の織物のように見ているとされる彼は、その言葉の通りに万象を見通しているとされ、それゆえに閉ざされた理想郷から、あれこれと干渉をしている……と。
……よくよく考えたら、口では大したことはできないと言いつつ、塔の中に居ながらあれこれやりすぎじゃないかマーリン?
本気で閉じ込められてた、百万人の方のマーリンとかと比べると、自由に動きすぎじゃないかこいつ?*3
いやまぁ、基本的にはハッピーエンドを求める性格をしているから、ある程度許されているんだろうけど。
……でも未来は見ることができないので、時期によっては今のマーリンより遥かにろくでなし、ということもあるのだろうが。
ソシャゲでの彼って、言ってしまえば反省後……というわけなのだし。
……話を戻すと、要するにかくれんぼをさせると、マーリンに勝つのは不可能に近い。
隠れているのなら、鬼の様子を千里眼で確認しながら見付からない位置に逃げられるし。
鬼になったのなら、同じ要領で隠れている者達を見付けていくだけで勝ててしまう。
それを見越して数で攻めるなどの策を弄しても、今度は彼の幻術の腕前が高過ぎる、という部分に引っ掛かる。
彼の幻術は、世界を騙すもの。
……要するに、世界に対して干渉できるレベルであるため、『騙されない』のは不可能に近いのである。
一応、あくまで幻術なので、それによって相手を打倒することはできない、という弱点はあるが。
……かくれんぼのような、相手を打倒することを目的としていない状況の場合、文字通り手の付けられない相手となるわけである。
「……うーん、人海戦術が実質無意味、というのがねぇ」
「そもそもこのなりきり郷、広すぎではないでしょうか?!」
「え、あー、うん。……地下千階とかあるしねぇ」
頭痛を抑えるように額に手を置いているゆかりんと、思わずといった風に声をあげるアルトリア。
あー、うん。確かに、このなりきり郷は、表に出ている部分は普通のオフィスビルである(中身はともかく)。
だがしかし、内部は現行科学の範疇から飛び出した、摩訶不思議な技術の結集せし魔境。
一つの階層に、一つの世界を内包しているかのごとき場所まで存在する……というのだから、なんというか感嘆の声を漏らす他ない。
……そのせいで現在苦しんでいる、とも言えるわけだけどね!
「そもそもに隠れられる場所多過ぎ問題……」
「聞き分けのいい人ならいいけど、ここって聞き分けの悪い人もいるしねぇ。……
ゆかりんの言葉に、ため息を吐く。
……いつかどこかで話した気がするけれど、ここには一つの
逆憑依の仕様上、再現力は無いに等しいのだから、大したことにはならないはずなのだけれど。……ラスボスとか裏ボスとか、そういうものに関しては話が別。
元々の最大値が高いせいで、再現度が一割にも満たずとも、戦力的にはわりと無茶苦茶な域になっている……みたいなモノが、それなりに存在するのである。
ちょっと前にあさひになってた、ミラさんことミラルーツなんかが良い例。
さすがにあの白いドレスの少女状態が強い……なんてことはないようだが、本体であるルーツの龍体の方は、そもそもでかくて凄いのである。
マシュに任せれば対処はできるだろうけど、逆に言うと
……再現度による戦力低下がなければ、わりと真面目になりきり郷は滅んでいただろう。
救いがあるとすれば、再現度的に元の人間の意識が強く残り、結果として穏やかな気性の者が多いということだが……。
それでもまぁ、龍やら鬼やら神やらだと、そもそもの気位の高さもあまり変わらないので、結果として階層一つを縄張りにしておかないと、他の者との不要なトラブルを起こしかねない……という問題があったりして、付き合いやすさはあんまり変わらない、というのが一般的ななりきり組からの感想だったりするのであった。
……なお、こういう『単体戦力がそもそもに高すぎる』類いのなりきりは、原則郷の中に突然現れるタイプのものがほとんどである。
昔の戦闘組は主にその探索を行っていたらしく、その当時ならダンまちみたいな空気ゆえに、ヘスティア様もベル君ないし代わりになるような冒険者を見付けられたんじゃないか、なんて話もあったのだが。
当のヘスティア様は「いや、まぁ。……今の生活も別に嫌いなわけじゃないし、さ」なんて風に言っていた、とライネスから聞いたことがあったりする。
……なんというか、ままならないものだねぇ。
で、話を戻して。
いわゆるモンスター系のなりきりは、色々な問題から自分の縄張りを持ち合わせていることがほとんどであり。
そして、それが
前回のミラさんなんかは、こっちの成したことによる特例……みたいなものだ。
なので、基本的に私達は、彼等彼女等の縄張りには立ち入ることはできない。
対してマーリンは、その技能ゆえに相手に見付からずにこっそりと、縄張り内に侵入することができるのである。……なんなら幻術無し、千里眼のみの状態で。
その一番の理由が、今のマーリンが妖精になっている……ということにある。
妖精とは、自然の化身である。
……要するに、龍などの超越者の目から見ると、そこらに生えている草木なのか、はたまた息を潜めているマーリンなのか。
その区別が、パッと見では付けられなくなっているのである。
超越者とは、文字通り
……小さいもの、どこにでもあるもの───即ち自然そのものでもある妖精を、彼等は意識して見なければ気付けないのだ。
……まぁ雑に言ってしまえば、ドラゴンにはフェアリーがばつぐん、ということである。*4
なので、彼等のお膝元に逃げ込まれると、そもそもに彼等を説き伏せるのに一つ、更にマーリンが居ることを確認させるために一つと言った感じに、確認すべきこと・及びその難易度が跳ね上がるのである。
……なにがあれって、そこまでやっても逃げられる可能性が高い、というのがね。
そもそも本当にそこにいるのかもわからないので、端から探索自体が無意味な場合もあり得るわけで。
「……今度見つけたら、なんか目印とか付けとこう。外せないやつ」
「うーん、マーリンはそんなに凄いことはできない、と自分で言っていたはずなのですが……?」
どうにかして見付け出したのなら、今度はこんな手間をかけさせないように、どうにかして外せないものを付けてやる……。
と、決心する私の横で、腕を組んでむむむ、と唸るアルトリア。……そういえば、そんなこと言ってたような?
とはいえマーリンの言である。……信憑性とか地の底なのでは?と思わなくもないのだが、アルトリア的には違う様子。
「今を見通す目はあるけれど、そこに伸ばせる手段がない……というようなことを、彼はよく口走っていましたから」
「ふぅむ?……でもなぁ、
「……つい先程似たような場面を見たような気がするのですが……どうしましたか、キーアさん?」
あー、なるほど。……なるほど?
微妙な既視感は無視しつつ、改めて考えてみる。
……マーリンは、理想郷に閉じ込められたがゆえに、そこから出ること叶わず、死という因果に追い付かれない身となった。
だったら外に出たら死ぬのでは?というような感が無くもないけど……そもそもの話、原作のマーリンは召喚された
……つまり、もしかして。
「……マーリン、二人居るんじゃ?」
「…………は?」
あり得る可能性に思い至り呟かれた私の言葉に、皆が困惑の声をあげるのだった。