なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「マーリンが、二人?」
「あ、それは流石にアルトリアも嫌なんだね」
「……えと、もしかして顔に出ていましたか?」
私が発した言葉が、皆に浸透しただろうなー、と確信できるくらいの時間……三分ほどが経過して。
ちょっと眉根の寄ったアルトリアの様子に、わりと懐いている感じのある彼女でも、マーリンが二人居る……というのはちょっとダメなのだなーということを感じ取る私。
……そうなると、本来のアルトリアとここの彼女、どっちがマーリンに対して優しいのだろう?
一応、原作の彼女は「マーリンに恋をしていたのかもしれない」なんてことを言ったことがあるらしいけど。*1……んなわけあるか、って感じにマーリンの方が傷付いたみたいなので、あれはあれで酷い対応なのかもしれない。*2
ともあれ、親しき仲にも礼儀あり。
その辺りわりと雑な雰囲気のあるマーリンなので、そんな彼と一番長く付き合っているアルトリアとしては、色々と鬱憤とかを抱えている……ということなのかもしれない。
……まぁ、アルトリアがマーリンをどう思っているか、というのは今はちょっと置いておいて、マーリンが二人居る発言について、幾つか深掘りをしていこう。
マーリンがソシャゲ──『fate/grand_order』では召喚されたふりをしている、というのは彼のことを調べればすぐに行き当たる情報である。
本来の彼は理想郷に閉じ込められた……もとい、自分から閉じ籠っている。それは彼が、自分がしたことに対して、深く反省したからなのだが……。
それはそれとして、彼は悲しい終わりを嫌う者でもある。
ハッピーエンドを求める彼は、
「──『単独顕現』*3。本来
「……?私は私の知るマーリンのことしか知りませんので、よくわからないのですが……その、たんどく、けんげん?があることが、先のあなたの言葉とどう繋がるのでしょう?」
よくわからない、とばかりに首を傾げるアルトリア。
まぁ待って頂戴な、順に説明していくから……と声を返して、皆をテーブルの方に誘導する。……それなりに長い話になりそうなので、ジェレミアさんに飲み物の準備を頼みつつ。
「さて、『単独顕現』って言うのは、
「……既にどの時空にも存在している……という因果を持つがゆえに、タイムパラドックス──発生要因を潰すと言うようなやり方や即死攻撃は受け付けず、特異点や異聞帯のような条理の外にある場所ですら、条件さえ揃えば顕現しうる……そういう、とても恐ろしい技能だと耳にした覚えがあります」
私の言葉に、恐らくはこの中では一番
彼女の言う通り、『単独行動』のウルトラ上位版……などと説明される『単独顕現』は、その実『単独行動』とは比べ物にならない厄物であることを感じさせる、実にやばげなスキルである。
既にどこの時空にも存在している……というのを聞いて、TRPGプレイヤーならあるトリックスター……水着のBBちゃんと意気投合したという邪神、ナイアルラトホテップを思い出したかもしれない。*5
かの邪神……もとい旧支配者・ないし外なる神は、矛盾にまみれた無貌の神、千の顔持つ暗躍者としてよく知られている。
そんな彼?の特徴の一つに、あらゆる次元、空間に同時に存在する、というものがある。
……『単独顕現』の説明文に、よく似ていると思わないだろうか?
ともあれ、ここで言いたかったのは二つほど。
『単独顕現』は、
かの邪神のように、複数同時に存在する可能性がある……ということだ。
『単独顕現』は、いわば種である。
これを持つものは、あらゆる世界に自身が存在するという可能性をばら蒔く。……発芽条件が整えば、
これは、実際に
二つの世界の殺生院キアラや、魔神柱として覚醒しなかったレフ教授や臓硯などが良い例だろう。
そしてそれがそのまま、彼等の存在が複数同時に存在する、という可能性を示している。
……正確には、
回りくどかったけど結論。
「……?言っていることが、よくわからないのですが……」
「『単独顕現』は、既にどの時空にも存在していることを示すもの。……
マーリンが『単独顕現』を使ってまで召喚されたふりをしているのは、極論を言えば
要するに、彼は『理想郷の自分』を座のように扱って、そこから『単独顕現』で自分の分身を送り込んでいるのである。
その事実と、『単独顕現』のスキル説明を結び付けると、ある事実が見えてくる。
……要するに、マーリンは
それはつまり、逆説的に言えばどこにも繋がっていない理想郷は、
それこそ座と同じである。
どの世界に対しても触れていないというのは、ある種全ての世界に触れているのと等しく、ゆえに理想郷は一つきりでも、それを観測しようとする世界の目は無数となる。
大雑把に言ってしまえば、マーリンを知っているのなら、その世界にマーリンは居ると
どこで観測しても同じマーリンしか見えないけれど、それを他の世界に伝えることは叶わない以上、『自分の世界に彼が居る』ということしか確定しないのだから。
「つまり、本来マーリンは並行世界を含めたとしても一人きりしか居ないんだけど、彼がいる場所がどこでもない場所・アヴァロンであるせいで、マーリンに触れるのなら『理想郷のマーリン』が自動的に選ばれてしまう。結果として、どの世界に置いてもマーリンと言えば『理想郷のマーリン』になり、『理想郷のマーリンはどこからでも観測できる』、即ち『マーリンはどこにでもいる』ということになるってわけ」
「……????」
「……アルトリアちゃん、完全に混乱してるけど?」
「あっるぇー?!」
……うーむ、渾身の説明だと思ったのだけれど、返ってきたのは困惑しきった表情のアルトリアの様子。
いやでも、マーリンが『単独顕現』を獲得できた理由、多分そんなに間違ってないと思うんだよ。
無論、
表層の歴史に寄り添いながら、その実それらと関わりのない異郷。……『視る』という行為が、間接的ながら『関わりを持つ』モノである以上、そこから世界を見守るマーリンというのは、矛盾してしまう存在となりうる。
それが矛盾していないというのなら、そこにはやはり『過ぎたるは猶及ばざるが如し』、即ち極値の逆転を疑うしかない。*6
全てを愛しているものは、
極端な状況・値というものは、時として反対の結果を示すことがある……というものだ。
それを先の状況に当てはめると、なににも繋がっていないということは、即ち『どこからも繋がっていない』という結果が、
あとは簡単、どこも繋がっていないのが普通なのだから、
実際がどうであれ、言い張れてしまうのならどうにかなる……というのは、創作の基本みたいなものだ。
こうして、『繋がっていない』という繋がりを全ての世界に持つ理想郷は、『そこから全ての場所を見通せる』場所となる。
……マーリンの解説において、実は『現在の全てを見通す』としか書かれていないことを知っていると、彼が『並行世界』のことを知っていることを疑問に思うことがあるかもしれないが。
それが『理想郷が並行世界に繋がっている』せいだとするなら、ある程度説得力がでなくもない、かもしれない。
閑話休題。
要するに、理想郷の性質が座に近いもの──時間と空間の縛りに囚われないものだとするなら、『理想郷に居るマーリン』は死なず、
長くなったけど、マーリン二人説はつまりそういうこと。
一人目が常に
「……よくわかんないなら、あのマーリンには親が居る、とでも思っとけばいいよ」
「お、親?お父さんということでしょうか?」
「すっごい結論に着陸した感」
……ゆかりんうるさい。
ちょっと私の語彙力では、これ以上簡潔に纏められないから、あとでマシュに手伝って貰って纏め直すからいいの。
……それとは別に、親マーリン子マーリン概念は確かに草生えそう。
「……それで、マーリン殿が二人居ると、なにが起きるのでしょう?」
「胡散臭さが二倍……というのは置いといて。要するに、
ジェレミアさんからの質問に返した、私の言葉。
……みんなまださっきの説明が頭に残っているのか、ちょっと困惑しているけれど、そんなに難しい話ではない。
マーリンの千里眼は、『現在を見通すもの』である。
どこでもなく何時でもない理想郷は、さっきの理論を持ち出すなら『現在だと言い張れる』。つまり……。
「子マーリンが『理想郷』を
「……マジで言ってる?」
「大真面目よ大真面目。……『理想郷』のあやふやさが、第四の壁を越えるものなら、って言う注釈はつくけど……今のこの世界の不安定さなら、普通にあり得る話でしょうね」
ゆかりんの言葉に、深く頷く私。
……最高位の千里眼を持つ者同士は、お互いの存在を関知することができるという。
視られているということが、即ち繋がりを作るものであるというのなら。親マーリンが子マーリンを視たことは、恐らく伝わるはず。
あとはその視線をたどれば、自ずと理想郷は見えてくるだろう。……親子マーリンタッグの完成である。
恐らくはハッピーエンドのための行動なのだろうが、その言葉から想像されるビジュアルに、思わず渋い顔をしてしまう私達なのであった。