なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「マーリンについては、もうどうしようもないとして……これからどうする?」
長々とした考察の結果、今の何処かに隠れてしまったマーリンを、こっちからどうにかしようと言うのは不可能……というのがわかったわけなのだけど。
……そうなると、これからどうすればいいのだろう?という疑問が浮かび上がってくる。
これから先、こっちがなにかしらの選択をする時、間違いを選ばないようにフォローとかをしてくれる……のは恐らく確かなのだろうけど。
逆にいうと、彼等はこちらが
……うん、端的に言うと判断とかの諸々の面倒臭い部分を、こちらに丸投げしやがったのである、あのマーリン共は。
というようなことを告げると、置いていかれた当人であるアルトリアからは、こんな反応が返ってきた。
「なんだ、それならいつも通りですね!」
「そっかーいつも通りかーはははー」
「せ、せんぱいのお顔が!まるで『嫌いなものを聞かれた時のオベロンさん』のように、禍々しい笑顔に変わってしまいました!?」
ははは、物語の消費者共めが、○すぞ。*1
……的な怒りにより、思わず笑みが浮かんで来てしまう今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?*2
私はまさに怒髪天を衝く、もしくは俺の怒りが有頂天、といった様相でございます。*3
……どうでもいいけど、三臨オベロンの影の掛かった笑み、あれこそ暗黒微笑のお手本……みたいなところあるよね。
とまぁ、冗談のような本気のような、そんな
なりきりの方のマーリンも、本家に負けず劣らずのグランドろくでなしである……というのは、彼と一番付き合いの長いアルトリアの言から、ほぼ間違いなさそうである。
なんなら種族が妖精になっているので、余計にろくでなし度が上がってそう……とか思ってしまうのは、あー、うん。……六章クリア勢なら仕方ない感想、だよね?*4
別に妖精について詳しいわけでもないので、
西欧の妖精は日本で言う妖怪……すなわち、
簡単に言ってしまえば、創作によくある『人を導くモノ』のような善い妖精というのは、あくまで
人にはよくある勘違いというか、一を知って十を知ったような気になっているというか、まぁ言い方はあれだけど
妖精の中でも特に有名なのが、ティンカーベル*5やナヴィ*6といった『善い妖精』ばかりなので、一般層には『妖精』という種族全体が、善性の生き物だと思われているような節がある。
……先述した通り、本来『妖精』というカテゴリーは日本で言う『妖怪』に相当し、近年殊更に嫌われている『ゴブリン』なんかも含まれているし、そもそも『悪戯』なんて可愛らしい言葉で片付けられるような所業で済んでいない、凶悪過ぎる妖精も存在している。*7
元々ゴブリンの中でも『ホブゴブリン』は、いわゆる『善い』ゴブリンだったりしたそうだし、印象だけで語ることほど恐ろしいこともない、という感じなわけだけども。
それでもまぁ、世の中の『妖精』というものに対しての無条件な信頼とかについて、改めるべきなんじゃないかなー、なんてことを思わなくもなかったりする私なのでありました。
……妖精云々はまぁ、これくらいにしておいて。
妖精マーリンが、例えグランドろくでなしの二乗だとしても、そもそもの『ハッピーエンドを好む』性質が、殊更に変わるわけでもない。
実は【複合憑依】だったり【継ぎ接ぎ】だったり……というようなことが起きない限り、そこは信頼してもいい部分と言えるだろう。
なので、マーリンについてはとりあえず、放置してしまうのが正解だと言えるだろう。
原則的にバッドエンドに繋がるような、ダメな行動をマーリンが進んで選ぶことはないはずなので、今の『居なくなった』という状況も、『そっちの方がいい』選択だから……と認識しておくのが、互いの精神衛生上宜しい。
「なので、話は振り出しに戻る……と」
「うーん、結局はアルトリアちゃんを私達に預けたかった、ということなのでしょうけど。……なに、もしかしてアルトリア育成計画始動、みたいな感じなのこれ?」*8
「うわ古いぞゆかりん」
「うるさいわね、古いとかなんだとか、貴方には言われたくないわよっ」
机に頬杖をついて、小さくため息を吐く。
ゆかりんの言う通り、マーリンが裏方に回ったということは、いわゆる主役──表に立つべきなのは、一緒に付いてきたアルトリア……もといアンリエッタということになる。
ではその彼女──主人公となるべき彼女は、生まれ故郷であるハルケギニアから遠く離れたこの地で、一体なにを思い、なにを為すべきなのか?*9
──それについては、マーリンが以前答えを口にしていた。そう、『あるべき姿に』成長せねばならない、という答えを。
数多のアルトリアの集合体とでも言うべき存在として、アンリエッタという少女を核に生まれ落ちた少女。
本来のあるべき姿をねじ曲げてまで、彼女が目指すべき最果て。それは恐らく、
「より完全な
「だよねぇ……」
最終的に悔恨を残してしまった、騎士王という存在のやり直し。それを答えと見るのが、現状では正しいと言えるのだろう。
そしてそれゆえに、
……なんというか、異聞帯の王の作成手順みたいな雰囲気があるんだけど、これこのまま続けて大丈夫なんだよね?
やめてよ?いきなり『実は貴方達の世界は行き止まりなのです』とか言い出さないでよ?
……みたいなこちらの心配を余所に、話は進んでいく。
「……よくわかりませんが、正しい道を選びたいとは思います」
「ええ。貴方がそう願うのなら、私達はそれを尊重致しますわ」
胸元に手を置き、静かに告げる
こうして、私達の新たなる日常が始まるのであった。
「とまぁ、ちょっと大仰に語ってみたけれど……」
テーブルの上に置かれていた紅茶に手を伸ばしつつ、一つ息を吐く。
そうして大まかな方針が決まったところで、特になにか変化があるわけでもない。
騎士王として成長を……とか言われても、そんなにすぐにすぐ成長できるわけでもないのだから、今できることなんて鍛練とか学習とか、そういう基礎的なものばかりなのである。
なので、成長すべき当人ではない私としては、今すぐできるようなこともなく、所在なさげに紅茶に口を付けるほかないのであった。……紅茶
「んー、確かアルトリア・リリィって、世直しの旅的なものをしていた……って話だったわよね?」
「水戸黄門みたいな感じで諸国漫遊してた、とかどっかで言ってたね」
そんな中、ゆかりんが聞いてきたのは、原作でのリリィの設定の話。
本来の正史のアルトリア──いわゆる青王とは違い、リリィはマーリンとケイ卿をお供に、世直しの旅のようなものをしていたのだという。
元々のアルトリアよりも、更にお人好し度の上がったリリィが、自らの未来予知レベルの直感によって人々の困り事を感知し。
マーリンがあれこれと囃し立てて事態を大事にして、最後にケイ卿が問題児二人の尻拭いに奔走する羽目になる──。
というような感じの珍道中が、彼等三人によって繰り広げられていたのだと言う。
……ここでその話がでてくるということは、つまり?という意味を込めて視線を向けると、ゆかりんは小さく頷いて二の句を告げた。
「そ。暫くはアルトリアちゃんと一緒に、郷の中での問題やら事件やらを解決していく……っていうのが、現状取れる選択肢としてはいい感じなんじゃないかしら?」
「ここに来てまさかのおつかいクエストとな?」
告げられた言葉に、思わず真顔で返してしまう私。
RPGとか小説とかの冒険者達のように、大小様々なクエストをこなしていき、実力を磨いていく……そんなファンタジックな日々が、ついに来てしまったというわけですな?
……え?今までもそういうのと似たようなことを、散々してきただろうですって?
例え事実だとしても、言って良いことと悪いことがあるんやで……(震え声)
「……ん?だとすると、私は最終的に倒されなければならなかったりする?魔王的に」
「勇者の育成に協力的な魔王……みたいな役柄も、最近の創作には結構いるけど?」
「……あの、マシュさん?お二人はなにを仰っているのでしょう?」
「気にしないで下さいアルトリアさん、せんぱいと紫さんは、いつもこんな感じですので……」
そうして欺瞞まみれの言い訳を脳内で繰り返す中、唐突に自分の役割が魔王であることを思いだす私。
……ふむ。この流れで行くと、最終的にアルトリアの前に立ち塞がって「世界を救いたくば儂の屍を越えて行けぇっ!!」とかなんとか、微妙に芝居染みた台詞を言わなければいけないのかなー、なんて心配する私と。
最近の勇者と魔王は、単純な善悪じゃ括れないでしょ……というような言葉を返してくるゆかりん。
……一般区分的にはゆかりんも魔王側に振り分けられるキャラクターなので、なんとなーく必死さが見て取れなくもない感じである。
罷り間違って討伐対象になりたくない、みたいな?
まぁでも、さもありなん。
ここのアルトリア、前回の居酒屋での騒動でも分かる通り、通常とオルタ、どちらの聖剣をも使うことができる素養を、既に示しているのである。
本人の記憶がないみたいなので、実際に平時に使えるかはまた別の話なのであろうけども、最終的にはロンゴミニアド三本にエクスカリバー二本、エックスとクロスも更にドン……みたいな、やばばのやばみたいな存在が終着点……で済めばいいのだが。
そもそも元ネタの元ネタであるアーサー王自体が、宝具として選ばれる可能性のある武具・防具を大量に持っているタイプの英雄なのである。
……真・究極完全態・アルトリア*10になることを願われている彼女が、単に水鉄砲二刀流みたいな感じに収まるわけがない、という妙な確信がある、というか。
……願わくば、優しい王さまになって欲しいなー、などと思ってしまう私なのであった。*11
「なるほど、これが『人バ一体』……私が目指すべき進化の形か」
「見てくださいキーアさん!私にも部下が一人できました!」
「……は?」
そんな私の願いも空しく、ちょっと目を離した隙にアルトリアは新たなる可能性?に手を伸ばしていたのでした。
…………なんでや!