なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
カート。
パイプのフレームにエンジンやハンドルを
決められたコースの中を、一番早く走りきった者の勝ち……という、シンプルかつわかりやすいルールが売りのアトラクションだ。
元々レーシングカーの設計者が考案したものとされるだけあって、簡素ながら意外と速度が出たりする。*1……まぁ、ちゃんとすれば公道を走れたりするのだからさもありなん。*2
「普通のゴーカートなら、解説はその程度でも構わないのデスが、ここは魔法のテーマパーク『ヘンダーランド』。ここにしかないものも、勿論あるのデスよ?」
「……うん、単純に風を切って走り回るのが良さそう、くらいの考えしかなかった私が言うのもなんだけど、それでも敢えて言うよ?……怒られるでしょこれ!?」
……はてさて。
速度が出せる、と言っても場所が遊園地の中である以上、提供できるスペースの関係で結果的に上限速度が決まる……みたいなことはあるだろう。──そう、安全基準である。
遊園地においてあるようなゴーカートなら、速度は出せても時速四十キロほど。秒速に直すと十メートルほどとなる。
公道を走る車両くらいのスピード、と言うと速いような気がしないでもないが、実際狭いコースをこの速度で走られたら堪ったものではないし、そもそも
スペック的にはもっと速度が出せたとしても、リミッターなりなんなりで実際に出せるのは二十から三十キロほどになる、ということもままあるはずだ。
……なにが言いたいのかというと。
要するに、速度に慣れているアルトリアとオグリの二人には、些か物足りないものであるかもしれない……ということだ。……提案したあとにその事に気付いたのは秘密。
ところで。『cc』という言葉に、聞き覚えはないだろうか?……
……話が逸れたけど、ここで言う『cc』とは排気量を示す単位、『
排気量が五十ccの
排気量を見ると、大体どれくらいの速度を出せるのか、というのはなんとなくわかるものなわけだ。*6
……遊園地のゴーカートは基本電動式だから、排気量は関係ないんじゃないか、ですって?
はっはっはっ、よく思い返したまえ。
私は一番最初に口に出したのは
ゴーカートにだってそんな車体のモノもあるだろうけど……、遊具としてのゴーカートは安全性を高めるために、剥き出しのフレームを外装で隠すし、速度も二十前後で留め置くし、そもそもガソリン式のエンジンなんて危ないから電動式にするし。
……ってな感じに、パイプフレームの車体の話を一番にしている時点で、話がずれているわけで。
まぁつまりなにが言いたいのかというと。
◯リオのゲームに出てくるカートが、今現在私達の前に置いてあるわけであります。*7
……任◯堂法務部に◯されるっ!!?
「おおっと、勘違いしないで頂きたいのデスが、これはあくまでも『ヘンダーカート』という別の存在!配管工のお髭な赤い人とは一切関係ございませんのデス!」
「嘘つけぇっ!!地面にダッシュパネルとかアイテムボックスとか置いてある時点で、確信犯やろがいっ!!」
「◯ィ◯ィーコングレーシングの方かも知れませんデスよ?」*8
「なおのこと悪いわぁっ!!!」
目の前に広がるコースは、見た目の上では狭い。
……所々トンネルになっているのだが、恐らく中で空間拡張が使われているはずである。
なので、全長としては一キロとか二キロとかあってもおかしくはない、そんな感じのコースだった。……レインボーロードかなにか?*9
というか、である。
そんな距離を走らされる以上、目の前のカートは、普通に排気量が多いものである可能性が高いわけで。
……これが排気量二百ccとかなら、出せる速度は時速二百キロ近いものになる可能性があるということになり、正直な話死亡フラグすら見えてくる感があるというか。*10
……よくそんな速度で甲羅ぶつけたりバナナ放ったりできるな、あの髭ファミリー。
まぁ、それらの安全面に関わる部分は、全部魔法で解決……という、ストロングかつスマート(?)な解決法が取られているわけなのだが。
……ついでに言うなら、地面のダッシュパネルとかアイテムボックスとかも、全て魔法による産物である。
魔法のテーマパークの面目躍如、というわけだな!……制作者はバカなのかな?!
「……時速百五十キロ越えでも、プロテクターとかヘルメットとか必要ない辺りは、さすが魔法って感じだけど……」
「へーい、キーアさん!いつまでも細かいことに拘ってると、ハゲちゃいますデスよ?」
「ハゲるかぁっ!!貴様の髪の毛毟ってやろうかぁっ!?」
「お、落ち着いてくださいせんぱい!」
カートに乗り込み、スタートの合図を今か今かと待ち続ける私達。……出せる速度的な意味で、アルトリアとオグリも満足したらしい。まぁ、小さかろうと車は車、だしねぇ。
でも、幾ら魔法による保護(+郷内でのダメージ保護)が働くとはいえ、肘とか膝とか頭とかを守るプロテクターの類いを、一切付けずにカートに乗る……という体験は、正直困惑しかないわけで。
いやまぁ、軽量化とか風を感じやすくするとかの観点から、付けないでいいのなら付けないでいい……みたいな結論になったのはわからないでもないけども。
それでもこうなんというか、気分的な問題であった方がいいんじゃないかな?……的な感覚がなくもなくてね?
……マ◯オカート的なアトラクションであるため、他者にぶつかるのが
……なんて風にあれこれと考え込んでいたら、ガイドのはずなのに何故か一緒に開始位置に並ぶアンナさんに煽られた(?)ため、さっきの会話に繋がるわけである。……『天罰』で墓地に送るぞ貴様。*11
「はいはい、場外乱闘はそれくらいにしときなさいな。……それで?能力使用は直接攻撃じゃなければあり・アイテムもありで妨害もありありってのが、今回のレースのルールなのよね?」
「デスデス。競うのなら、狂気の沙汰ほど面白い……ということデスね」*12
「きょうきがうんぬんというのはよくわからないが、レースと聞いては負けるわけにはいかないな。……惜しむべくは、流石に自身の足では勝負にならない、ということだが……」
ゆかりんの仲裁により、小さく舌打ちをして姿勢を正す私。……ガラが悪い?うるせー喧嘩売ってきたのはあっちじゃい。
などとハンドルに頬杖をつきながら呟きつつ、ゆかりんとアンナさんが会話するのを素直に聞く。
……ふむ、能力で直接吹っ飛ばすのはダメ、と。
出てくるアイテムによっては能力のがマシ、みたいなのもありそうだけど、それはいいのだろうか?
いやほら、さっき◯◯ディーコングレーシングかも、みたいなこと言ってたでしょう?あのゲーム、甲羅の互換アイテムがミサイルだからさ。*13……甲羅をぶつけられるのも大概だけど、ミサイルはもっと大概だよね、というか?*14
まぁ、別に怪我とかもしないからいいのだろうけど、絵面のインパクトが凄いなぁ、なんて他人事のように思ってしまうわけである。
それと、レースという言葉にやる気満々なオグリ。
ウマ娘自体がわりと好戦的、みたいなところがあるとかないとか聞くし、競うとなれば手を抜かないのは確かだろう。*15
……本音を言うのなら、自らの足でもって最強を証明したいのだろうけど。現状ウマ娘の最高速度は七十キロ前後、公道ならいざ知らず、こういう競技用の車両に追い付くには、まだまだ鍛練が足りないところがあるわけで。
……『
別にアンナさんとかマカオとジョマとかを信用してないわけでもないけど、変に話題にされても困るので、一応の処置……という奴である。
……個人的な経験として、どっかで使わざるを得ない場面に立ち会いそうなことが一番の懸念だけれども。
ともあれ。
オグリの闘争本能に火が着く横で、もう一人熱くなっている人がいる。それが、
「……頑張りましょうね、オグリちゃん!」
「ん?ああ、頑張ろう。……なぁマシュ、なんでアルトリアは張り切ってるんだ?」
「アルトリアさんと言えば、負けず嫌いが特徴の一つとしてあげられるようなお方ですので……」
「……なるほど」
張り切るオグリを見て、自分も同じくらいに張り切っているアルトリア、その人である。
……うん、競走だとか勝負だとか、競いあうということに関して意地を張る面があるのが、アルトリア族の特徴である。
彼女はその根幹がアンリエッタなので、元のアルトリアほど熱しやすい、というわけでもないだろうけども。……まぁ、熱気にあてられる程度には、彼女もまた熱の入りやすい性格をしているというのは、今までの言動からわかっていた。
……つまり、現状は想定内というわけである。名付けて、
「吊り橋効果ならぬ、『競走して仲良くなろう』作戦……!」
「……貴方って、時々びっくりするくらいバカになるわよね」
「なにをー?!昔っから喧嘩っプルと言えば一大勢力の一つだろーっ!!?」
「ああもう、静かにしなさいなっ」
こちらに呆れ顔を向けてくるゆかりんに突っ掛かりつつ、私は勝利を確信する。
二人とも競走に関しては真剣に向き合うタイプである、勝ったなガハハ!
……何故かマシュにまでかわいそうなモノを見る目で見られた、解せぬ。