なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、デンライナーの手伝いをした次の日のこと。
……え?昨日やってた他の手伝いについての言及はないのかって?恙無く終わったから特にはないよ?
まぁ、強いて言うなら銀ちゃんが大変そうだった、みたいなことになるんだけど。
とはいえそれは想定通りなので、気にせず回想送りにして終わりである。
……銀ちゃんの抗議の声もスルーだ。
「ってなわけで、噂の調理センターを手伝いに来たわけなんですけど、皆さんこちらが地獄です」
「……君はわざわざ喧嘩を売りに来たのかね?」
「まさか、寧ろこっちが売られてる側ですよ(白目)」
そんなわけで(?)今日の手伝いは昨日主張していた通り調理センターでの仕事、ってことになるんだけど……うん、思わずこう言っちゃうわよね、なんだぁ、ここは地獄かぁ……?ってね。*1
それもそのはず、まず室内気温がとても高い。
こういう大量生産をする場所の温度ってある程度調整されてるイメージなんだけど、ここではそんなことはなかった。
なんでそんなことに?……と思われるかもしれないが答えは単純、トップシェフの小松君がヤバいからである。
より正確に言うのであれば、
「そうだな……確かに、特殊調理食材を扱う機会が巡ってくるとは思っていなかったな。彼──トリコの侵食力を甘く見ていた、とも言えるかもしれないが」
「まぁ、甘く見てたのはみんな同じなんだけど……同時に不幸中の幸いにも程があるというか」
「ああ……確か君だと聞いたな、『彼に一フロア丸々貸し出すべきだ』と提案したのは」
……うん、なんとなく予想は付くかもしれないけど、全てはトリコ君の影響である。
正しくは、『トリコというキャラクターが
まず、彼は美食屋という職業に就いている人物である。
この美食屋というのは物凄く大雑把に言うと
今のご時世、純粋に食のためだけに狩りをする人がどれだけいるのか、ということを。
無論、場所によっては未だにそういう狩りをしている場所もあるかもしれないが……大抵は食べるためというより
もしくは釣りのような小規模・かつ趣味の範囲に収まるようなものとか。
……まぁ、釣りもモノによっては大規模になるけどそういうことではなく。
要するに、勝った方が食い、負けた方が食われる……みたいな、単純な命のやり取りに終始するような狩りはほとんどないだろう、というのがここでの争点なわけだ。
そういう意味で、大自然の中で命の危機を感じたりしつつ獲物を手に入れる……みたいなことが日常茶飯事の『美食屋』という職業は、現代ではまず成立し得ない職であることは間違いあるまい。
ついで問題となるのが『逆憑依』という現象そのもの性質。
何度か述べているように、『逆憑依』とは核となった人物を守るために被せられた鎧のようなものである。
ある意味ではストレスに対して発生する多重人格のようなもの、という風に解釈することも可能なわけだが……。
「ストレス解消のための存在がストレスを貯めてしまっていては元も子もない、と言いたいのだな?」
「そういうことだねー。より正確に言うと、核に悪影響を及ぼすようなストレスだけがダメ、って感じだけど」
要するに、
人によってはストレス耐性高めなので余裕、みたいなこともあればちょっとしたことですぐにダウンすることになる、みたいな場合もあると。
ともあれ、個人の許容量以上のストレスを弾かなければならない、ということは間違いあるまい。
「そのための機能が『逆憑依』には備わっている。それが、」
「『
エミヤんの言葉に然り、と頷く私。
一般的な『逆憑依』や【顕象】であれば必ず持っている能力、それが『侵食設定』である。
人間が一番ストレスを感じる状況がなにかと言えば、それは『自身の思い通りにならない』時である。
自分が世界の中心ではないと、主役ではないと突き付けられるそれは多少の程度の差こそあれ、ほぼ全ての人が不快であると感じるものだろう。
無論、その不快に文句を投げるばかりではなく、ある程度受け入れて不満を押し隠すのが大人と言うものだが……話がずれるのでここでは割愛。
重要なのは、『逆憑依』にとってのそれは、普通の人が思う以上の苦痛であるということ。
「主役という言葉は誰にでも当てはまるものではないが……少なくとも私達という存在が
「そもそもが『なりきり』だ、ってのも考慮しないといけない部分だよねー」
創作のキャラクターというのは、『そうあれかし』と願われて生まれるものである。
言い換えると彼等はキャラクターであるがゆえに『誰しもが主役』なのだ。
そのため、『お前は主役ではない』と突き付ける現実のテスクチャは彼等にとって猛毒なのである。
……まぁ、裏を返すと『想像上の存在が存在できないようにするセーフティ』とも言えるため、現実という脆く儚いものを守るためには致し方ない機能、という風に解釈することもできるわけだが。
ともあれ、単純にこの世界に創作のキャラクターが現れたとして、それは現実が持つ強固な共通認識によって絶え間のない攻撃に晒され消え去るが道理。
……その道理をこじ開けるのが『侵食設定』である。
まぁ、大層なネーミングをしているが単純に言えば『周囲に自分が存在しても問題ないと誤認させるもの』、くらいのノリなのだが。
「一と全、全と一。人間という『個』はそれそのものが一つの世界──『全』である、ということだな」
「そうそう、固有結界とかみたいな大層なモノじゃなくて、ATフィールド──他者と自身をわける壁とかに近いというか?」
まぁ、純粋なATフィールドに比べると、他者への干渉力がちょっとだけ上がっているのも事実だけど。
多少の異端を『それもありだよね』と周囲や世界に認めさせるもの。
それが多少なりとも他者を侵食しているように見えるため、『侵食設定』と呼ぶわけだ。
……んで、本来この能力?現象?の効果というのはさほど大きくはない。
元来備わっている
「……うん、普通はそうなんだけどね」
「彼の場合はそうではなかった、と」
「残念がるべきか喜ぶべきかは微妙な感じで、ね」
本来はそうだというのなら、
今回の場合それに該当するのがトリコ君である。
彼の場合、通常の現実から受けるダメージが大きすぎるのがその理由。
美食屋という職業は現代では成立し辛く、また仮に成立したとしても本来の彼が戦っているような相手、というのは求めるべくもない。
規模だけならクジラとかもいるけど……今の時代に彼等を狩猟するのは色んな意味で無理があるだろう。
個人的には少数でも認めるべきだと思うんだけどね、人間が関わったあとの自然なのに関わる前の基準で保持しようとしても無理があるだろうし。*2
結果、彼がストレスなく存在できる環境というのは通常の範囲では用意できないものとなり……『侵食設定』の出力も上がってしまった、と。
「まぁ、トリコ君だけが理由かといえば、そういうわけでもないんだけどね。みんなの『一狩りしたい』って欲が──【兆し】が集まるのにちょうどよかった、みたいな部分もあるし」
「素材欲や未知の食料への欲などのあらゆる欲の集約点となった、ということか。……笑っていいものか困る話だな、これは」
まぁそんなわけでして。
トリコ君の活動しているフロアはグルメ界染みた場所となり、今ここに運ばれて来ている食材にもそこ発のものが紛れるようになった、ということなのでした。