なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、炎と氷の食材がそれぞれ危険であるならば、それらをまとめて使えば良い感じの料理になるのでは?
……というのが今回の話の肝になるのだけれど。
「思い付いてやってみて、それでも中々うまく行かなかったってんだから難儀な話だよねぇ」
「そうだな。組み合わせるまでは誰にでも思い付くが、それを成立させるまでに時間がかかることも想定して然るべきだったのだろう」
思い付いたからといって、それがうまく行くかはまた別の話。
というのもこの二つ、組み合わせるのがとても難しいのである。
まず先ほども行った通り、ヒートミントは燃えているからこそ美味しいモノであるので、その火が消えることは好ましくはない。
……のだけど、これを単純にアイシングバードと組み合わせるとあっという間に火が消えてしまうのである。
正確には、アイシングバードの冷却能力にヒートミントの燃える力が追い付いていない、というべきか。
「空気中の水分も随時凍らせていくレベルの冷却力だから、単に燃えてるだけだとあっという間に鎮火するんだよね……」
「水蒸気がその場で凍るレベルだからな。凍結と燃焼の本質が微粒子達の振動──エントロピーの増減であると解釈するのであれば、単に燃えているだけの火ではアイシングバードの
詳しい話は今しがたエミヤんが語った通り。
原子や分子が自由に動き回るのが燃焼であるならば、冷却とはその反対。
あらゆる微粒子が運動を止め完全に停止してしまうそれは、ゆえに意図して作り出すことが難しい。
なぜならば、基本的に人が作り出せるものというのは『仕事をした結果』であるため。
仕事というのは
ゆえに、通常の作業内での『冷やす』という行為はとても非効率というか、無駄の多いやり方にしかならない*2のだが……その辺は面倒くさいので割愛。
話を戻すと、本来難しいことである『単に冷やす』という行為を自然とできてしまうアイシングバードは、ゆえに一般的な現象からは想像できないような結果を生み出すわけだ。
具体的には、炎を凍らせるとか。
……まぁ、凍るといってもその瞬間を目視するのは不可能に近いんだけど。
とはいえヒートミントが凍ればそれを溶かすために燃え上がり、その結果として自身のエネルギーを無駄遣いしてしまうのは変えようのない事実。
最終的に、単に組み合わせただけだとヒートミントが凍ったミントになって終わる、と。
「これのなにが問題って、しまいにはアイシングバードの方も食べられなくなるってのがね……」
「特殊調理食材であるあの肉は、扱い方を間違えると完全に凍りついてしまうからな……」
普通にやってても食べ辛いのに、扱いを間違えるとそもそも食べられなくなるってんだから困ったものである。
そう、ほぼ永久的に冷気を吐き出し続けるアイシングバードの肉は、扱い方を間違えなければ永久に保存できる食料となりうる。
……のだけど、そこから食事として調理しようとすると、途端に扱いの難しいものになってしまうのだ。
具体的には熱を加える時。
永遠に凍り続けるこの鳥の肉は、例え常温放置だろうが自身が凍てついているため菌類などの汚染をほぼ受け付けない。
……まぁ、菌の中にはある程度の低温ならば普通に活動できるものもいるため、流石に生……生?で食べるのはおすすめしない。
鳥って時点でその辺り嫌がる人も多いだろうし。*3
なので、他の鳥類や食肉と同じように加熱調理しようとするわけなのだが……そこからが問題であった。
なんとこの肉、単に熱を加えただけだとまったく焼けないのである。
それも、単に焼けないのならともかく、一定の熱量に晒されると……。
「冷却機構が暴走、結果ヒートミントと同じように熱源ごと凍てつく羽目になる、と」
「そこで済めばいいけど、最悪周囲の熱反応を全て零下にするまで止まらない……なんてことになったりするからねぇ」
そう、半永久的に周囲を冷やし続ける、という特徴が牙を剥いてくるのだ。
結果、やり方をミスると調理ができないどころか死人がでかねない事態になる、と。
……これはトリコ君に聞いた話なのだが、アイシングバードは山火事が起きた時などにそれを鎮火する姿が頻繁に目撃される生き物であるらしい。
自然災害の内、高熱による被害を最小限に食い止めるために生み出された自然界の浄化機構の一つなのかも、みたいな話だったが……これがこの鳥の持つ異様なまでの冷却能力の高さに繋がっているのかもしれない。
「火山の噴火すら静めてみせるのだったか。……本来、たかが鳥一匹程度の能力で自然に抗う、というのは無理があるだろう。そういう意味では、この鳥も人々のイメージに強く左右された生き物、ということになるのかもしれないな」
「最早古龍級だもんね、ここまでくると」
げに恐ろしきは人のイメージとそれを現実の出力する【兆し】の強度か。
……とまぁ、自然のロマン?的なものに想いを馳せるのはこれくらいにして、だ。
「普通にやっていてはどちらもまともに調理なんてできない。かといって互いに組み合わせてみても、それぞれの特性がうまく噛み合わないもんだから結局うまく行かない」
「そこで一種の閃きに頼った小松君が見つけたのが、先の竜の骨を使うことだった、というわけか」
「そうなるねー」
で、困り果てた小松君が最後に思い付いたのが、自身の持つ食運に頼ってみる、というもの。
あくまでも単なる【顕象】の一人でしかない小松君は、それゆえに原作の彼ほど食運が強いわけではなかった。
一般的な『逆憑依』と比べれば再現度は高くなるのが【顕象】の普通であるが、それを以てしても小松君の食運は再現しきれなかったのである。
……まぁ、これは彼を再現する上で重要とされたのが料理の腕だったというだけの話で、【顕象】が全て食運を再現するのに向いてない、という意味ではないのだが。
ともかく、本人に比べれば遥かに劣る食運に頼るくらいしか打開案の見付からなかった彼であるが、しかしその苦し紛れじみた動きに反して食運は正しく機能。
この状況を打開する案を見事に示してみせたのである。
その方法と言うのが、さらに別の食材を加えるというもの。
本来ならばそんなことをしても無意味どころか、下手すると更なる混沌に落ちていくのが関の山なのだが……。
そこは食運、それから見初めた素材が強かった。
そう、ここで必要だと食運が指し示したのは、最初の方に話題にあげていた『ガーリックボーンドラゴン』の骨だったのである。
より正確には、その骨から取れた
「竜骨をじっくりことこと煮込んで作っただしを元に両者をスープにすると、それぞれの個性を消すことなく料理として成立させることができる……。無論、料理人の腕前も必要とするが、その辺りは彼ならばクリアできて当然、というわけだな」
「まぁ、そこにたどり着くまでにも一苦労だったわけだけど……出来上がったものを見たらその辺の文句も消えてなくなるってもんだよね」
あれだ、下ごしらえの部分でまた微妙に面倒なことになってたみたいだけど、その辺は色々やってクリアしたみたいだ、というか。
……ともかく、色々と複雑かつ面倒な行程を経て出来上がった渾身の料理は、その苦労に見合った出来映えとなったことは間違いない。
料理の名前は『竜骨出汁の氷炎スープ』。
竜の骨から取れる奥深いコクのある出汁と、その出汁に調和しながら個性を失わぬ二つの素材。
片方は熱いスープなのにも関わらずそれだけが冷たく、しゃりしゃりとした食感と淡白なようでいてその実噛めば噛むだけ味を増す一口大の鳥肉。
もう片方は、スープの中にありながらまだ燃えていて、されど口に入れても火傷しないという不思議な香草。
こちらは香草とは思えないほどに濃い味をしており、先の鶏肉と交互に食べると口の中を毎度綺麗に塗り替えるかの如き驚きをもたらす……。
一つのスープという世界の中で、冷と温を完全に両立させたこの料理は、今回の調理センターが自信を持って送り出すナンバーワンメニューとして、連日『一番頼まれるメニュー』として好評を博している、とのことなのであった。
「お陰さまで当初の予定は大幅に狂ったみたいだがね。本来であれば、小松君も他の調理の手伝いなどを行っているはずだったが」
「ほぼそっちにかかりきりになっちゃった、と。……まぁうん、初日にトリコ君が食べに来て『めっちゃうめぇ!』って宣伝しちゃったのも理由だと思うけど」
……まぁ、好評を博しすぎて業務に支障がでてるのは、正直どうかと思うわけなんだけど。
私、あくまで自分のやることやったら終わるつもりだったんだけどなー?