なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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わからんとしか言えんのだが?

 これは……どっちだ?

 と目配せをする私だが、受け取ったクリスはわからんとばかりに肩を竦めるばかり。

 

 

「その、私の顔になにか……?」

 

 

 試合開始前になって向こうから話し掛けてきた仮称ロベルタさんに、私達は思わず困惑していたのでありました。

 

 

 

 

 

 

 話は数分前に遡る。

 説明も終わり、試合開始まで数十秒となったそのタイミングのこと。

 各々武器の様子を確かめたりしながら、試合開始を今か今かと待ち構えていたのだけれど……。

 

 

「その、すみません」

「はい?」

 

 

 突然掛けられた声に視線をそちらに向けてみれば、そこにいたのは先ほどまで話題にしていたメイドさんの姿。

 ……思わず声を出さなかった自分を褒めたくなった私である。

 なお、声を掛けてきた彼女の顔は能面のように変化がなく、『逆憑依』ではないんじゃないか?……という疑問を膨らませる結果になったことも合わせて記しておく。

 

 ともあれ、気になっていた相手からコンタクトを取ってきた以上、こちらとしても気を引き締めなければなるまい。

 ゆえに、彼女がなんのためにこちらへと声を掛けてきたのかを確認しようとしたんだけど……。

 

 

「すみません、その、それってどうやってるんですか?」

「……はい?」

 

 

 それとはどれ?

 ……とは聞かなかったのは、彼女の視線がこちらの手元を見ていたがため。

 そこでは、手癖で得物を弄って確認している私の手があったわけなのだけれど。

 それを認識した私は思わず「あっ」と小さく声を上げてしまったのであった。

 なんでかって?そりゃ勿論、

 

 

(……よくよく考えたら、()()()()()()()武器の様子を確認する必要とかないわね)

(あばばばばばばばばばばば)

 

 

 そう、秘匿チャットでクリスが告げてきたように、本来武器の様子を確認する必要とかないのだ。

 なにせ今現在私達がいるのは『tri-qualia』の中──すなわちゲームの中。

 あらゆるパラメーターはデータ的に管理されており、それゆえにどんなタイミングでも性能がぶれることはありえない。

 無論、ゲームバランス的にダメージがバラける……みたいなことはあるだろうけど、それは敢えてそうなっているもの。

 言い換えると、現実で武器を使う時のように突然不具合が起きる……みたいなことはありえないのである。

 

 

(わざわざ設定してあれば起きうる話だけど、基本的にゲーム内でジャムる*1こととかないもんな)

(熱による砲身の焼け付きみたいなのも、あくまで使用時間の制限とかでしかなくて銃そのものが使えなくなる、みたいなのは稀だもんね)

(耐久値が設定されてれば壊れることもあるけど、逆に言うと耐久値が残ってれば絶対壊れないのもゲーム特有よね。普通なら壊れる状況でも盾にできたりするし)

 

 

 ……はい、他の面子も今思い出したかのように語って下さってますけど。

 正しくその通り、銃の様子を確認するというのは、少なくともゲーム内においては単なるポーズ以外の何物でもないのだ。

 なので、そんな無駄行動をしている相手が気になってしまうのは仕方のない……仕方のない……?

 

 

「……ええとですね。このゲームでは個々人がゲーム内のモーションを公序良俗に反しない範囲で作ることができる、というシステムが用意されているんです」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。自然な動きを再現できると楽しいですからね。なので私達のこれもそういうモノなんです。後でダウンロードサイト教えましょうか?」

「え、あ、はい。是非よろしくお願いします」

 

 

 気持ちを落ち着かせ、丁寧な対応を心掛ける私。

 突然落ち着いた私に周囲の仲間達は怪訝そうな顔をしていたが、唯一シノちゃんだけは何事かを納得したように表情を変えたのち、こちらの対応に合わせるため会話に参加し始めたのだった。

 

 ……というのが先ほどの話。

 あれこれ話しているうちにもう間もなく試合開始のタイミングとなったため、会話を止めてゲートの方に視線を向けたんだけど……。

 横目でチラリと窺っていたのがバレたのか、不思議そうに首を傾げてくるメイドさんを前に、どうしたもんかなーと秘匿チャットで会話を繰り広げていた私達なのでありました。

 

 

(ええとつまり、少なくとも現状この人は『逆憑依』じゃない、と?)

(ついでに言うと、このゲームを始めたばかりの初心者って可能性がとっても高いわね)

(なるほどね、さっきキーアちゃんが露骨に反応を変えたのは、その辺りに気付いたからだったんだね)

(……まぁ、そうなるね)

 

 

 その内容は、先ほどから変わらず目の前のメイドさんについて。

 ……なんだけど、厳密には話している内容が変わっていた。

 

 というのも、先ほどのやり取りである程度彼女の正体が見えてきてしまったのだ。

 具体的には、ちょっと前までのシノちゃんに近い相手だと思われる……みたいな?

 

 

(確かにさっきの私達はおかしなことをしていたけど、それに対して彼女がしてきた質問もおかしなものだったのよね)

(確か、『それってどうやってるんですか?』だったっけ?)

(それのどこがおかしいのよ?私には当然の疑問にしか聞こえないんだけど?)

(まぁ、エリちゃんとかクリスにはわかり辛いよね、今日が初めての『tri-qualia』だし。でもさっき私が触れたように、このゲームの中では『変な動き』って寧ろ推奨されてるのよ)

(はぁ?)

 

 

 なに言ってるのこいつ、みたいな顔をするエリちゃんに対して解説を続ける私。

 

 ──そう、それはいつぞやかのバレンタインにおいて、ゲーム内で見掛けた『ちさたき』達の正体を解き明かす時にも出てきたもの。

 その名を『CES』、『クリエイト・エモーション・システム』と呼ばれるもの。

 元を辿ればソードアート・オンライン作中のゲームの一つである『ALO』にて実装されていたシステムである『オリジナル・ソードスキル・システム』に端を発することとなる画期的なシステムである。

 

 

(しーいーえすぅ?)

(そ、CES。ゲーム内で使うエモートをプレイヤーが独自に作れる、っていうシステムだね。まぁ、基本的にはMMD*2的なもんだから、素人が簡単ち扱えるシステムってわけでもないんだけど)

(ほへー)

 

 

 自分で動きを手打ちしてそれをゲーム内で使えるようにする、みたいな感じというか。

 なお、モーションを導入するには運営の審査をパスする必要があり、そこで公序良俗に反するようなものは弾かれているのだとか。

 ……まぁ、もっぱら弾かれてるのは成人向け(R-18)の動きばかりみたいだけど。

 

 ともかく、このシステムのお陰でプレイヤー達は自然な動きを可能な限り再現できるようになっているのである。

 ……実は『逆憑依』の動きと比べると若干動きにぎこちなさが残っている、っていうのは内緒。

 残っている、といってもダウンロードサイトのダウンロードランキング上位のモーションは普通に滑らかな動きばっかりなんだけども。

 ……でも一位が『ゲッダン☆』なのはいいのかなーというか。あれって元々バグった動きじゃなかったっけ?*3

 

 話がずれてきたので軌道修正すると。

 本来、私達が変な動きをしているのは多少目に付きはすれど、そこまでおかしな話しでもないはずなのである。

 特に待機状態で繰り出す待機モーションなんて職人の腕の見せ所、キャラクターらしい動きを再現しようとするのは職人の心意気ですらあるわけで。

 

 

(……ああなるほど、その辺に対して『どこでダウンロードしたのか』『貴方のオリジナルなのか』と聞くんじゃなくて、『どうやればいいんですか』って聞いてくるのは少なくとも私達みたいにこのゲームに慣れてない人、ってことになるのね)

(そーいうことー)

 

 

 つまりはそういうこと。

 質問の内容が本来想定されるものとずれていたため、そこから彼女がこのゲームの初心者であると気付いた、というわけである。

 シノちゃんが私の次にその事実に気付いたのも、以前の彼女と今のメイドさんがよく似ていたがため、ってわけだ。

 

 

(……まぁ、似てるっていうのはそこだけじゃないかもしれないけれど)

(あー……)

 

 

 それと同時。

 もしかしたら彼女もまた、シノちゃんと同じ様に『逆憑依』になり掛けているのかもしれない……という気付きも、彼女がメイドさんの事情に気付いた理由なんだけど……その辺は確信も持てないので今は言及に留めておこう、という話になったのであった。

 

 

*1
主に自動装填方式の銃で起きる弾詰まり・装填不良のこと。これが起きるとその原因を取り除かない限りその銃は仕様不可能に陥る。語源は英語の『jam』で、これは詰まる・押し込む・つっかえるなどの意味を持つ。また、その様子から何かしらの物体が連続で出てくるような機械でそれが詰まって止まってしまうことも『ジャムる』と呼ぶことがあるようだ。なお、ゲームにおいては単なる不快要素としてしか受け取られない為、原則的に発生することはない

*2
『MikuMikuDance』の頭文字を取った名称。基本無料で3Dモデルを自由に動かせるプログラムで、名前からわかる通り元々は初音ミクを自由に動かす為に作られたもの。今では様々な関連ソフトが登場したこともあり、これを使ってCGアニメを作ることも(頑張れば)できたりする

*3
広瀬香美氏の楽曲『promise』のサビにあるフレーズ『get down』と、それをBGMにしたNINTENDO64ソフト『ゴールデンアイ007』のバグ動画を由来とする単語。バグによって座標は変わらないのに軸の向きがおかしくなった結果、三百六十度あらゆる方向にその場で高速回転するキャラクター、という珍妙な絵面を発生させることとなった。その場面に前述の楽曲を組み合わせたところこれが大ブレイク、結果『promise』の別名?に『ゲッダン☆』が定着する理由にもなった。また、この無茶苦茶な回転動作そのものを『ゲッダン☆』と呼ぶようになり、また『バグによって明らかにおかしな動きをしている』ことも(それが軸のぶれまくった動きであれば特に)『ゲッダン☆』と呼ぶようになったとか。なおゲームの制作者的には(それが通常利用の範囲内で起きうるものであれば)わりと笑えないバグだったりする(前述の元となった動画は故意にバグを起こしている・起こせる環境にしているので制作者的には問題なし。その他の類似動画ではデバッグ不足の可能性がある為笑えなくなる)

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