なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
──それは空から落ちる審判の如く。
雨霰のように降ってくるその裁きに人々は慌てふためき、なす術もなく右往左往している。
それもそのはず、その裁き──もとい銃撃は、彼等の視認できる範囲を大きく上回る場所から降り注いでいるのだから。
対処のできないものなど、それがどういう由来であれ唯人からしてみれば大差なし。
神の怒りかはたまた人外の一撃か、なんにせよ右往左往しながら逃げ惑う他ない。
たまに、なんとかできないかとかどうにかしてみせるとか、そういう気概を持って空に銃撃を見舞う者も何人かはいたものの──その反撃を許さぬとばかりに撃ち抜かれて、彼等はポリゴンの海へと消えていった。
「まぁ、こっちにも事情があるからありがたく使わせて貰ったけども」
「……滅茶苦茶痛そうにしてなかったか牧瀬さん」
「そりゃまぁ、ねぇ?私達は何度かやってるからその辺の調整はさっくりできてるけど、クリスは今日始めてだったから」
「ああ……ペインアブソーバーの調整ができてなかったんだね……」
なお、天罰めいた攻撃をしているのは別に神でも化外でもなく、普通に私達なんですけどね。
……ってなわけで、情け容赦なく地上の人間が狙い打てないアウトレンジから狙撃しまくってる私達である。
なお、一二を争う形で無茶苦茶やってるのは私とシノちゃんだけど、他の面々も可能な限り弾をばら蒔いたりはしています。
下から上に撃つ時は届かなくても、上から下に撃つ分には普通に届くからね、重力も加算されるし。
まぁ、たまーにこっちにも届くような射程距離を持っているプレイヤーもいたみたいだけど、それに関してはクリスがいい感じのタイミングで離脱するために利用させて頂いた。
……光線銃の射程は確かに長いんだけど、まだまだその辺の扱いに慣れてないクリスだと変なことやらかしかねないしね、素直に元々の予定を優先して貰った、というわけである。
ところで、実は私達が空に放り出されてから結構な時間が経過していたりする。
具体的には二分か三分程度。……本来なら普通に地面に到達しているはずの時間である。
にも関わらず、私達はさっきまでと同じく普通に空中にいるわけなんだけど……その理由というのが中々に酷かった。
「……まさか、バートリさんの武器をこんな風に使うとはなぁ」
「それから私の銃もね。……本来のヘカートならこんなことはできないんだけど、今はビィ君も一緒だし」
「オイラは翼!」
端的にやったことだけを説明すると、エリちゃんの『チェイテライフル』で衝撃を伴う音波を
……これなら、あくまで彼女達の特殊な武器が影響しているだけなので、あとから変なルールを生やされる心配も無いというわけだ。
なんなら、相手の攻撃にクリスをいい感じにぶち当てるための細かい位置調整にも使われてたし?
「クリスの話に戻ったから話題も戻すけど、ペインアブソーバーの設定って地味に面倒なのよねー」
「そうね。私達は擬似的に感じてるだけの普通のプレイヤーと違って、二重に感じるようになっているわけだから」
で、話を戻してペインアブソーバーについてだけど。
同名のシステムが存在するソードアート・オンラインと同じく、これは体感型のネットゲームをする際にプレイヤーに付与される様々な感覚に紐付くものである。
正確には『ペインジェネレータ&アブソーバー』とでも言うべきこれは、攻撃などによって傷を受けた際にその傷を体感させるもの、並びに脳が勝手に発生させる痛みを軽減するためのシステム、ということになる。
なんでそんなものがいるのか、というと実のところ痛覚とは触覚の延長線上にあるものだから、というところが大きい。
……いやまぁ、正確にはそれらを感じるための器官とか経路とか神経とかも違うんだけど、触れることと痛むことはセットでないと非常に困るというか。
皮膚が感じる感覚の中には痛覚や触覚、圧覚や温覚というものがある。
これらは通常複数の感覚をまとめて感じていることが多い。
例えば圧覚は皮膚に掛かる圧力を感じるためのものだが、基本的に圧力を感じる場合は物に触れているために触覚も同時に刺激されていることが大半だ。
他、温度に関してもその熱を感じる空気に触れている、ということなので触覚が多少なりとも刺激されているわけだし、また場合によっては痛みを感じるような冷たさの時もあるので同時に痛覚も刺激されている、という風に見なすこともできるだろう。
ではなんでそんなことになっているのかと言うと、それらの刺激が痛みに関わるかどうか、というのが個人の生き死にに深く関わるものだからである。
例えば高温の物体に触れた際、そこからすぐに手を離さないと火傷を負うことになるだろう。
これが例えば温覚が無い・もしくは消えているような場合、人はその物から手を離すという行為を取り辛くなってしまう。
その行為が自身にとって不利益であることを察知できずに対処が遅れるわけだ。
また、仮に痛みがあったとして、その場所が特定できないと痛みから逃れることもできないだろう。
そういう意味では単に痛みだけではなく、どこにそれが触れているのかと判断するための機能も欠かせまい。
さらに、もし仮に温度を感じる機能が無かったとしても、触れ続けた結果怪我をするのであれば同時に痛みが襲い、それによって対象から離れる……という対処をとることもできる。
それらの事実により、痛覚と触覚というのは特に重要なものであり、それがないと非常に困るということも同時に把握できるわけである。
……痛覚がないので病気に気付けない臓器とかあるわけだから、その辺の問題は普通の人にも理解しやすいはずだ。*1
ともかく、痛みが重要であるというのは確かな話。
じゃあなぜそれが触覚にも関わってくるのかというと、こういうゲームにおいて触覚というのは案外失われやすいものだから、というところも大きい。
「腕や足が切り飛ばされる、とかね。このパターンの場合触覚が失われるのと同時に痛覚による継続的な行動阻害が発生するわけだけど、だからって痛みを完全に消してしまってもいいのかと言うと別の話ってことになるわけ」
例えば、切り飛ばされるまで行かずとも敵の武器がめり込んでいる、みたいな場合。
痛みを感じるので可能ならそれを排除したいが、めり込んでいるということは相手の武器を一時的に使用不可能にしている、という風に解釈することもできる。
なのでこの場合、痛みだけを消すことができれば有利に立ち回ることができる……なんて風にも言えてしまうわけなのだ。
「……まぁ、実際にそれができるかと言うと難しいんでしょうけど」
「幻肢痛ってやつだな」
どっこい、話はそう簡単には進まない。
その理由となるのが、先ほどちょっとだけ話題に出した『脳が勝手に作り出す痛み』。
無くなった腕が何故か痛む、みたいな現象を起こす『幻肢痛』*2などが該当するが、これはそれと反対のことも容易に引き起こしてしまうのである。
具体的には、ペインアブソーバー全開の状態で腕などを切り飛ばされた場合。
あくまでゲームの中、かつ痛みを感じる機能も切っているので本来痛みなど一ミリも感じることはないのだが。
脳はその映像を受け取って自身の状態を補正してしまう。
……要するに、腕はちゃんとあるのに腕がないように感じでしまう、などということが起きる可能性があるのである。
この脳の錯覚、というのが曲者なのだ。
幻肢痛とは真逆のこれは、痛みを消すタイプの対処では補正しきれないもの。
ゆえに、解消しようとすると
結果、こういうゲームではよほどのことがない限り、ペインアブソーバーは全くない状態にも効きすぎる状態にもするべきではない、ということになるのだ。
……なるんだけど、これがこと『逆憑依』相手だとややこしいことになる。
そもそもペインアブソーバーみたいな機能が『逆憑依』には最初から備わっていること、およびゲーム中私達はあらゆる感覚を二重に感じることもあり、それらの感覚に対しての反応が過敏になりすぎるきらいがあるのだ。
先ほども述べた通り、ペインアブソーバーを完全に機能させない状態にするのは望ましくない。
かといって下手な調整だと異様なまでに痛い、みたいな状態になることもある……。
「それに痛みの受容率って人によって違うから、他人の調整を聞いて真似てもダメだった、みたいなパターンも普通にある。……だから自分で体験して調節するしかないんだけど、クリスはその辺ミスったみたいだね」
「まぁ、俺達もその辺は当たって砕けろみたいな感じだったからなー」
死ぬほど痛いんだけど!?
……などと宣いながらポリゴンとなって消えていったクリスにあとから怒られるのかなー、なんて風に意気消沈する私達である。
こんなことなら早々に脱落なんてしなかったわよ、とか殴られそうというか?
まぁ甘んじて受けるけどさー。
……あ、メイドさんはいい加減慣れたのか叫ぶのは収まりました。
なんか死んだような目をしている気もするけど気のせいだよ気のせい()