なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「わーい、オラ達の勝ち~」
『うーん、相変わらず勝率悪いわねぇ』
『最後に悪が負けるってお約束とはいえ、たまには勝ちたいわよねぇ』
「……ボロ雑巾になっている私には言及なし、デスか」
アンナさんと『マカオとジョマMark.2』の対戦が白熱する最中、ちゃっかりステンドグラスまで進んでいたしんちゃんが、ジョーカーのトランプを掲げたところでタイマーストップ。
完走した感想ですが(激ウマギャグ)、周りが無茶苦茶やってる中で堅実に自分のやるべきことをこなして見せたしんちゃんは、中々に渋いと思います。……非の打ち所のない感想文ですね、ありがとうございます。*1
「いや~それほどでも~」
「ここのしんちゃんは大体褒められてるよね」
「そうですね、しんちゃんさんは立派な方だと思います」
「お?……おー、マシュちゃんにまでそういわれてしまうと、ちょっと照れますなぁ~」
……うん、中の人成分のおかげなのか、はたまた最近のしんちゃんが基礎となっているからなのか。*2
ここのしんちゃんは、基本的に原作みたいに「褒めてない」というような、お決まりの流れになることが少ないように思う。
原作の彼がダメ、というわけではないが……まぁ、少なくとも私達の前では『良い子』らしくしてくれている、というのは確かなようだ。……ゆかりさんとか、原作しんちゃん節で口説かれてたみたいだし。
「キーアおねいさんが、鋭いところをついてくる……そこはびんかんだからダメぇん~」
「……照れ隠しだってバレバレだよー」
「おおぅ、子供相手に容赦ないゾ……」
こっちではあまり見ないげんなり顔のしんちゃんに、思わず笑みが溢れる。
うーん、頑張ってくれたようだし、時間的にもいい感じだし。
だったらまぁ、ごほうびをあげなきゃね。
「……お?なになに?」
「もう三時だし、おやつにしよう。さっきのレストラン、おっきなパフェとかあったみたいだし」
「おー、ふともも~!」
「それを言うなら太っ腹、でしょ」
「おお、そーともゆー」
ボロ雑巾と化していたアンナさんに手を貸して立ち上がらせつつ、他のみんなにも確認を取る。
……お昼を取ってから、ほぼずっと動き続けていたのだからお腹もいい感じに空いていることだろう。……まぁそもそも、甘いものは別腹……なんて言葉もあるので、いつでも食べには行けるだろうし。
「逆憑依してよかった、って思うことが一つあるのよね」
「ん?なになにゆかりん?いきなりカミングアウト?」
「ちゃうわいっ」
そんなことを思いながら、Mark.2達が魔法で砕けた瓦礫やらなにやらを元に戻していくのを眺めていると、隣に立ったゆかりんから声が掛かる。
このタイミングで話、とな?……雰囲気的にあんまり重要な話ではなさそうだけど、それはそれでなにを話に来たのか、という感じにもなるわけで。
なので、場所的にも結構高い位置だし、なりきり郷住民達に向けてカミングアウト……もとい妖怪の主張でもするのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。*3
……いやまぁ、氷の妖精とか傘のお化けとかでもないのだから、彼女に殊更に主張すべきものなんてないとは思っていたのだけれども。*4
被せ気味に違うことを主張してくるのは、ちょっと予想外である。……さっきのジェレミアさん云々の話、まだ根に持ってたりする?
「ちーがーうーっていうかそれは置いとけー!!」
「ええー?友人に春が来そうだ、とか盛大に祝わにゃ損じゃん?画面越しに侑子も呼ぶ?」
「ええいこの口かっ、この口かこのっ、このっ!!」
「
そうしてちょっと調子に乗ってからかってたら、ゆかりんに両頬を引っ張られることになってしまった。……古典的かつ定番なやり返し方である。
お互い見た目が幼女だから、なんというか絵面はほんわか、って感じだろうけど。……マシュ、後でその写真は没収。
そんなぁ、と泣き崩れるマシュを横目に、こちらから手を離したゆかりんへ、改めてなにを言おうとしていたのかを問いかける。
「……え?……あー、そうそう。逆憑依になって良かったこと、よね?」
「ジェレミアさんと出会えたこと……」
「それ以上ふざけたことを宣ってみなさい?幾ら貴方とは言え後が怖いわよ」
「……ちょっとしたおふざけなのに」
「ふざけ倒すでしょうが、ほっとくと」
「そりゃお互い様だ」
「んんっ、ごほんごほん」
(ごまかしたな……)
(ごまかしましたね……)
(憑依前はさぞ、デス……)*5
……
いや、うん。問題児云々なら、私だけじゃなくゆかりんだってその区分に入る……ってのは本当の話だし。そりゃまぁ、ここではスレ主として頑張ってるみたいだけども。
そもそもの話、このゆかりんは酒呑みぐーたらスキマ妖怪……という風に呼ばれることが多いタイプの、わりとテキトーな性格の人物だったのである。
酒を呑んでも愚痴を溢すことこそなかったものの、呑んで歌って呑んで騒いで……みたいな、とにかく賑やかなタイプの人物……というのが、本来の彼女なわけである。
ほぼオリジナルなこのゆかりんも、その大本部分に付いては受け継いでいるはずだから、こうして生真面目に頑張っているのは、相当に重荷になっているのではないか?……と私は愚考するわけだ。
なので、彼女の負担を減らすように、色んなお願い事を聞いたりしている……というわけなのである。
そう、つまりは、だ。
「こうしてゆかりんを弄るのも、肩肘張った貴方の心を解すために、というわけでですね?」
「よーし言いたいことはそれだけー?じゃあ私ちょっと本気だすから避けないでねー?」
「うるせー!うちの名無しやってる時の所業、忘れたとは言わせねーぞテメェー!!」
「うるさーい!!それはそれ、これはこれ、なのーっ!!」
「んなもん許されるかーっ!!」
『……ねぇちょっと、怪獣大決戦みたいなことになってるんだけど?』
『これ、後で経費で落ちるのよね?というか賠償?』
「ああはい、こちらで受け持ちますのでご安心を」
『あらやだ、クールでイケメンなのね』
『嫌いじゃないわ!嫌いじゃな、げふぅっ!!?』
『マ………マカオッッッなっ……なんで…………』
「なんでもなにも、他人がすでに唾付けてるものに更に唾付けようとしたら、そりゃ戦争にしかならないデスよ。忌憚のない意見ってやつデスね」
「あの、アンナさん?」
「……はい?……そう言えばアルトリアさんから話し掛けられるの、実は初じゃないデスか?」
「そ、そうでしたか?……いえ、そうじゃなくてですね?」
「……?……はい、なんデス?」
「その、先程の言葉で、アンナさんも巻き込まれるフラグが立ったのではないかと……」
「……こういうの、口は災いの元って言うんデス
「あ、アンナダイーン!」*6
つい本気になって喧嘩し始めてしまう私達と、次第に巻き込まれる周囲の人々。
……この無意味な闘争は、しんちゃんの「もー!!二人ともいい大人がみっともないゾー!!」という言葉が聞こえてくるまで続いたのだった……。
「はい、親しき仲にも礼儀あり。以後気を付けます……」
「なりきり郷の長として、恥じぬ態度を心掛けます……」
「はいマシュちゃん録音は?」
「バッチリです、しんちゃんさん」
「んもー、さん付けはいらないんだゾ?マシュちゃんの方が年上なんだから、気軽にしんちゃん、でいいんだゾ!」
「え?……あ、はい。しん、ちゃん?」
「なぁ~にぃ~?」
目の前で行われるお約束を、ゆかりんと揃って正座で眺める私。
……お互いに能力まで使って行われた大人げない喧嘩は、結果として用意されていたセット……もとい、ヘンダーランドの城部分の大半を崩壊させる大惨事となっていた。
幾ら郷の内部では人死に至るような怪我は発生しないとはいえ、あんまりにも暴れすぎだったため、能力で修繕を行ったあと、自然と反省タイムが設けられたわけである。
……うん、まあ、なんというか。
つい先日の運動会といい、その前のハロウィンといい。
……能力を使う機会が多くなったせいか、どうにも喧嘩っ
「元はと言えば貴方が挑発してくるからでしょうが……」
「心配してたのはホントだよ?ゆかりんあんまり上に立ちたがる人じゃないし」
「……いやまぁ、そりゃそうなんだけども」
責任感はあれど、出来うるなら背負いたくない……みたいなのが、彼女の中の人の性格であった。
ここのゆかりんが、『東方project』の八雲紫でありつつも、『なりきり板のゆかりん』でもある以上、今は押し込められているその人格は、今のゆかりんを構成するものとして確かにあるはずなわけで。
……まぁ、無理してるんじゃないかなー、とは思っていたのだ。八雲紫分のが強いから、こうして真面目に長というか社長というかをやっている……というところもなくはない、というか。
お酒飲みたいとか遊びたいとか、ストレス解消を願う言葉が漏れていたのが良い例。
なのでまぁ、今回のおでかけには彼女のリフレッシュを目論む面もなくはなかったわけである。
……その辺の誘導が下手くそな私のせいで、結局ただ暴れまわるだけになったわけだけども。
「あーもう、いいのよ私八雲紫なんだから、暗躍して隠し事してってのは必然みたいなもんなんだから」
「……五条さんに未だに謝りに行けてないって、この前酒飲んで愚痴ってたのに?」
「グワーッ!!?」
「おおっ、断末魔ー」
「それは喜ばしげに聞くものなのでしょうか……?」
……私も大概だけど、ゆかりんも大概。
べろんべろんに酔っぱらったら泣き上戸と化して、本音をぶちまけちゃうようなキャラなのだから、意地なんぞ張るもんじゃないのである。
そういうわけで、こちらの言葉に撃沈したゆかりんをジェレミアさんにお任せしつつ、待たせに待たせてしまったしんちゃん達を連れてレストランに向かった私は。
……さっきのお昼、オグリが遠慮していたことに気付かなかったために酷いことになるのだが……まぁ、これも必要経費ということで……。
八章終わりでございます、いつものが始まります