なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
あらすじ。
タイトル通りだ、以上!
「……え、雑」
脳内を滑り抜けていった謎の言葉に、思わず困惑の言葉を吐く私。
前回のヘンダーランドの一件以降、執拗なまでに休みをとれー休みをとれーと部下達から迫られた結果、降ってわいた休日が今日……ということを、前日放り込まれたベッドの中で思い出しているのが、皆さんご存知八雲紫なわけでありまして。
うん、うん。……うん?
……休みの日って、どうやって過ごせばいいんだっけ?
『わぁ、八雲さんったら仕事人間の典型的台詞ですね!あまりの重症っぷりに、思わずBBちゃんも閉口して処置なし、と判子を押してしまうところです!』
「わっ!?……び、BBちゃん?なんで私のところに……」
ベッドの上で首を傾げていたら、枕元に置いていたスマートフォンから聞こえてきた女性の声に、思わずびっくりして。
そうして振り返った先では、
……言いたいことは色々とあるけれど、まずは一つ。
私のスマホには、ホログラム投影機能なんて無かったはずなんだけど。
それ、どうやって飛び出してるの……?
「まさか壊したりしてないでしょうね……?」
『ノープロブレム、一切問題ナッシングです!……というか、仮にもこのBBちゃんを捕まえておいて、データが壊れた心配とかちゃんちゃらおかしい話だ……ということに、一番最初に気付くべきだと思いますよ?』
「……あー、あー……?」
『……えぇっと、もしかして……まだ寝ぼけていらっしゃいます?──それは重畳。実はこうして長々と引き伸ばしている朝のBBちゃんトークが、まさに姑息な時間稼ぎ、と気付かれずに済みそうでなによりです!』
「時間、稼ぎ……?……はっ!!隠しフォルダ!!?」
『おっと気付かれてしまいましたか!ですが残念、既に中身は一切合切きっちりコピペして、せんぱいに送信済みです♡安心して絶望してくださいね、ゆ・か・り・さ・ん?』
「ああああ!ああああ!あああああ!あーーーー!」*1
『……いや、絶望しろとは言いましたが、この世の終わりみたいな本気の叫びをあげられても、BBちゃん困っちゃうといいますか……』*2
よもや壊してないだろうな、という問い掛けは、そもそもに目の前にいるのが電脳魔──電子の世界においては無敵に近い存在であるということが、寝起きの頭の中からすっぽり抜け落ちている……という事実を示される形で返ってくる。
……要するに、スマホの中身を丸ごとすっぱ抜かれた、というわけで。……おのれディケイドォッ!!*3
『世界の破壊者さんも、とんだとばっちりですね☆さて、目覚めの頭の運動もお済みのようですし、いい加減ベッドから降りては如何ですか?』
「……そうしたいのは山々なんだけど、結局なんで貴方私のところに居るの?」
『ええ……?全然頭回ってないじゃないですか……しっかりしてください八雲さん。ほんの先日・つい昨日のことなんですから、サクッと思い出せないのは記憶力的にも不味い状態ですよ?』
「昨日?昨日……」
『あ、これ回想フラグですね。八雲さんなのでほわんほわんほわんゆかゆか~、とかでしょうか?』*4
BBちゃんの揶揄を聞き流しつつ、私は昨日の記憶を探る───。
「……え、お休み?」
「その通りです、紫様」
いつものようにスキマで部屋から直行して、社長椅子……もといスレ主椅子に座った私に、
少し離れた位置では、
……というか、なんか久しぶりな気がするわね、
ずっと近くで仕事してたはずなんだけど、どうにも数日ぶりとか、数ヶ月ぶりとか、そんな懐かしさを覚えるというか……。
「やっぱり、すごく支離滅裂な言動になってる。……ジェレミアさん、やっぱり八雲さん、すっごく疲れてるみたいですね」
「その通りかと。……キーア様には、あとで感謝の品をお贈りしなければなりませんね」
「……あれ?遠回しに変な奴……って言われてないかしらこれ?」
純粋な気持ちを言葉にしただけなのに、滅茶苦茶疲れてる扱いされた件について。……いやなんでよ。
というか
今の立場に気後れしてる、とか。
「だから、心配する必要は……ってなによ二人共、これ見よがしにため息なんて吐いちゃって」
「……重症ですね」
「そのようです……」
そんな感じに、
……なにその、二人で顔を見合わせて、態とらしくため息まで吐いちゃって。……私、なにか変なこと言った?裏返るばっかりなの?
という、こちらの言葉は普通に流され、二人は諦めたように肩を落とすのだった。
「キーア様に、良い案がないか聞いておきましょう」
「じゃあ、私は残りの仕事を片付けてきますね」
「ええ、お願いします」
「え、ちょ、私を放置するのはやめなさいってばー!!」
……私の従者は二人とも優秀ね!(ヤケクソ)
『そうしてせんぱいに相談が行った結果、この万能サポートAIのBBちゃんに、八雲さんの休日をコーディネートする役割が与えられた……ということなのです!はい拍手~☆』
「え?あ、はい」
『……素直になんの疑いもなく拍手をするとか、ホントに寝ぼけていらっしゃいますね?』
「……あー、うん。寝たりない、のかも?」
『八雲さんと言えば、一日のうち半分を寝ている、ということでも有名ですもんねぇ。──ところで。つかぬことをお伺い致しますが、最近の平均睡眠時間はいかほどで?』
「えー……三時間くらい?」
『はいアウト!どう考えてもブラック寸前、下手をすれば過労死すれすれのアウトよりのアウト!よくその状態で大丈夫とか宣っていらっしゃいましたね貴方!?』
「いやその、境界を弄れば大丈夫かなって……」
『どこまでもワーカーホリック!!……いやおかしいですね?せんぱいに聞いた話だと、わりと無責任というか飄々としているというか、ストレスと疲労との付き合い方が上手い方の人……と言うことのはずだったのですが?』
「……憑依前の話でしょ、それ」
『憑依という事象が、ものの見事にマイナスに作用しちゃってますねこの人……』
そういうわけで。
みんなの頼れる後輩ことBBちゃんが、この問題の対処のために駆り出された……というわけなのですが。
……うーん。予想以上に
これは中々手強い強敵、もしくは勝ち目のない難敵と言えるかも知れません。
……というかですね、自分自身で働きすぎという自覚がちょっとでもあるのに、それを制御できていないだとか……素直にメンタルへ行くことをおすすめした方が良いのでは?
なーんて、身も蓋もないことを考えてしまうBBちゃんなのですが、こうしてせんぱいに頼られてしまった以上、解決には全力を以ってあたる所存、というわけです!
……ええ、全力を以ってあたる所存、なんですけど……。
「ねぇBBちゃん、休みの日ってなにすればいいんだと思う?」
「はーい、そういうわけで、結局駆り出されたキーアちゃんでぇーす、皆さん拍手ー」
『わー、せんぱいのテンションだだ下がりー……』
「可愛い後輩からの頼みとは言え、ベッドで惰眠を貪ってたところを叩き起こされればこうもなろうよ」
「あ、あはは……ごめんなさいねキーアちゃん。本気でなんにもない完璧なお休みっていうのが、何時ぶりなのかわからないくらい久しぶりだったものだからつい……」
「……え、BBちゃんこれマジ?」
『マジも大マジ、マジでショウタイムですよ、せんぱい』
「ええ……仕事量に比べて、お休みの量が少なすぎるでしょう……。私だってある程度休み取ってるのに……労基に怒られるやつじゃんこれ……」
『その辺りはあれです、言ってしまえばここって秘密結社なので……』
「わぁい法の外ォ~」*5
体はふたつもない~。*6
……初っぱなから世間の闇を垣間見た気がする、私ことキーアでございます。お魚咥えたどら猫を追っ掛けても、裸足にはなりません。……なんのこっちゃ?*7
BBちゃんからの報告は、思った以上にゆかりんが働きすぎ、ということを示すものであった。
半日寝てないと活動に支障が出る……と言われている紫ことゆかりんが、よもやその四分の一しか寝てないとは思わなんだ。
一般人基準でも三時間睡眠とか良くない類いなのに、ゆかりんの場合(普通の人が八時間睡眠が必要と考えるのなら)一般人換算で二時間とかしか寝れていないことになるわけである。
……いやまぁ、能力で体力やら肉体やらを弄ることができるのなら、そりゃまぁ身体的には無理はしてない……と言い張れるのかもしれないけれども。
それじゃあ結局精神的な負担については拭いきれてない……ってことについては、もうちょっと真剣に考えるべきというかですね?
こんなことなら、最初から付き合っていれば良かったと反省すること頻りである。
最初っから居たのなら、外にでも連れ出して、温泉巡りとかでも出来たものを……。
ともあれ、今は朝の十時ほど。
軽く朝食を済ませてからの行動となるが、それでもまぁ時間が無いわけでもあるまい。
「え?そんなに時間が押すようなこと、予定にあったかしら?」
「お前さんの睡眠時間じゃいっ。……明日に支障がないようにってことになると、八時には寝てないといけないでしょうが」
「八時~?!子供じゃないんだから、そんな時間に寝られるわけないでしょ!!」
『ですが、八雲さんは朝からも色々と行っていらっしゃるのですよね?でしたら、八時……遅くとも九時には就寝していないと、十二時間睡眠なんて夢のまた夢ですよ?』
「ぬぐっ」
作中でそんなに睡眠を必要とする理由とか、明かされていたかどうか微妙だけども。
個人的には、能力の代償なんじゃないか……と思う私としては、休みはしっかりとれというかですね?
知ってる?寝不足の時って酩酊してるのと、認知レベル的には同じ……って話。
「……はっ、よもやそのせいとか言うまいな?」
「なにがよっ!」
『流石にお酒飲む暇がないからって睡眠不足で代用する、なんてわけのわからない手段は取らないのではないかと……』
こちらが勝手に驚愕して、ゆかりんがツッコミを入れ、BBちゃんが合いの手を入れる。
……ふむ、これはこれでいけるのでは?などと謎の思考を紛れ込ませつつ、ゆかりん休日の旅、スタートです。
……いや、どこに向けた台詞だ、これ?